プロローグ
『それは人でありながら人にあらず。それは世界であり、もっとも神に近き存在。それを人は、想霊と呼んだ』

        ~幻界の書より抜粋~






 それは、あまりに幻想的な光景だった。

 木々はうっすらと淡い青色に光り、ほのかに甘い香りが鼻孔を刺激する。

 澄みきった大空では竜が舞い、その空域まで届きそうなほどの大樹が存在感を示す。


 あまりにも非現実的な光景。理解不能な領域。

 だけど。霧雨当夜の視界はそんな光景を朧気にしか見ていなかった。


 否、見れなかったんだ。目の前に、居たのだから。

 その凛とした少女が、双眸を見開く。

 紅く輝く瞳。当夜は見つめられ、それだけで動けなくなる。

 その瞳は、すべてを知ってそうで。何もかもが見透かされていそうで。


 怖い、と当夜は思った。だけど、それ以上の感情に心は埋め尽くされてしまう。

 美しさに対する感動と、なぜか訴えてくる懐かしいという想いに。




 そして。

 唐突に、少女は口を開く。


「――ありがとう」

 呆然と。

 当夜は固まる。



 そして、少女は目をつむり。


 魅惑的な肢体をこちらに投げ出してきて。



 ――少女は当夜に口づけした。






 霧雨当夜と少女との出会い。

 これが、すべての始まりだった。