February 01, 2007

『ものごとは努力によって解決しない』

これは、臨床心理学者である河合隼雄さんの『こころの処方箋』という本の中の、21章のタイトルの言葉です。

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『こころの処方箋』は全部で55章あり、どの章のタイトルも含蓄のある意味深い言葉がつけられ、そのタイトルの言葉の意味を作者独特の視点で解釈したことが、短い文章でわかりやすく書かれています。

何だかもやもやしたり、物事がうまく行かない時、私はこの本を取り出します。パラパラとめくっていくうちに、今の自分の心具合にピタッとくるタイトルに出会ったりするからです。そしてその章の中に、まさに「そうだったのか!!」というような深い真理を発見し、それが解決のヒントになったりするのです。

このところ、ひっかかっていた言葉は、これ。
『ものごとは努力によって解決しない』


昨日も久しぶりに会った友人と、お互いの子供達の事を話していて思ったことです。
子育てがうまくいくという事は、親の努力とは、たぶん違う次元の所に存在しているんだろうという事。
もちろん基本的な部分で子育てに、親の様々な努力が必要な事は言うまでもないのですが。もともと人間を育てることは、育てる側の「努力」と「結果」が必ずしも比例しない部分がどこかつきまといます。
そこにはもっと偶然とか運とか、もともと持っている本人の資質以外にも、そういう不確実な要素がいっぱい入ってきてしまう。だからそれらを全部ひっくるめて考えないと、どうも苦しくなってしまいます。

そもそも、子育てがうまくいくという事はどういう事なのかということだって、はっきりと言い切ることは難しいことかもしれません。

親がたとえどんなに一生懸命、まっとうな子育てをしてきたつもりでも、ある日子供は自分の意思で親の考えられない方向に進みだす事があります。だからといって、それは親の努力が足りなかったから、という事にはもちろんならないのです。
そういう時の親は、子供に対して何をしても、ただただ無力でしかなかったりするのですよね。まさに、このタイトル通り。そして河合氏は言うのです。
だからといって、「われわれ凡人は、努力を放棄して平静でなど居られない。」
「努力によってものごとは解決しない、とよくわかっているのだけど、私には努力ぐらいしかすることがないので、やらせて頂いている。」

親の言う事を聞かず、自分の道に進みたがっている子供を、だからといって見捨てる事はできず。無駄だと思っていながらも、あれこれ口や手をだしたり、引っ込めたり、見守ったりと色々するわけです。

まあそれでも、そのことでうまくいく事はまずない、と思ってやってるのとそうでないのとは、気持ちの上で天地ほどの差があります。ダメもとの気分でいれば気持ちは全然楽ですもの。
そして、そのうち風向きがひょんなことで変わって、何だかわからないうちに、元の鞘に収まったりすることもあったりするのです。
「解決などというのは、しょせん、あちらから来るものだから」と言う河合氏の言葉は、とても深いのです。

『ものごとは努力によって解決しない』
そう思っていると、本当に目の前の世界が変わって見えてきますね。
この言葉は、当分私の「呪文」として愛好しようと思います。

*この記事は「ジャンバラヤ」にTBします。

riro at 23:16│Comments(10)TrackBack(0) ジャンバラヤ 

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この記事へのコメント

1. Posted by applespc   February 09, 2007 00:02
子育てはダイエットやら勉強と違って
努力に比例するものじゃないんですよね。
長男が生まれた時はそう思えずに子育ての
重圧に押しつぶされそうになっていた事を
思い出しました。日々起こる子ども絡みの
いろいろな出来事に右往左往、じたばたする
私ですが、そういう時こそこの言葉を思い出さ
なくては、ですね。
いい言葉を聞きました♪
2. Posted by riro   February 10, 2007 00:30
●applespcさん
コメントありがとうございます。
>子育てはダイエットやら勉強と違って
>努力に比例するものじゃないんですよね。

そうなんですよね。
たいていの事は努力しだいで、うまくいくので、
だから皆頑張らなくちゃと思う。
頑張っただけ結果が出てくるものがあるのも、
事実です。

だけど、そうじゃないものがあるという事に、
気付く事は、とっても大切ですね。
発想の転換というか、物事はそんなに単純には
いかないと知っているだけで、
余裕がでてくるのですよね^^

3. Posted by こけ玉   February 19, 2007 12:25
>「ものごとは努力によって解決しない」
>「解決などというのは、しょせん、あちらから来るものだから」
今のわがやにぴったりな言葉です。(シミジミ)

>物事はそんなに単純にはいかないと知っているだけで、
余裕がでてくるのですよね
これって大切ですよね。とくに大人には。

話は変わりますが、久々に作った私のことわざ?は
「人生に全勝はない」です。
人生を勝負にたとえると、たぶん3勝2敗ならすごいなって思うし、
2勝2敗1引き分けでも十分。
いろいろあるから次の道が開けてくる。

な〜んて話をきのう娘にしました。
4. Posted by riro   February 19, 2007 22:13
●こけ玉さん
コメントありがとうございます。

うまくいってもいかなくても、そこで得るものはきっとあるんだろうけど。なかなかそうすぐには、気持って切り替えられないものですよね。
だから、こういう「呪文」を心にあらかじめ持っていると、強みになりますね。

ところで乱暴な言い方をしてしまえば、たとえば「高校なんて、入ってしまえばどこだって同じ」ということを、私は現在実感していますよ…^^;
要は本当に、本人の気持ちしだいですから。

>いろいろあるから次の道が開けてくる。
その通り! 一生懸命やっていれば、たとえ希望と違ったとしても、それが本人にとってベストになる道が絶対開けてくる、私はそう信じています^^
5. Posted by わがまま   July 14, 2008 08:51
4  始めまして。最近riroさんの記事を読ませて頂いています。頷くことが多く、何時も自分の考えと照らし合わせて考えさせて頂いています。ありがとうございます。
 努力と諦めですか。情緒と共に経験して学ばなければならないことは沢山あるんですよね。

 努力したり諦めたりする事って、それが出来る為には同一性をしっかりと獲得しておくことが大切と思い父親をさせて頂いています。

 共感できることが余りに沢山あったのでカキコさせていただきました。これからも興味深く頷けるメッセージ、お願いします。
6. Posted by riro   July 16, 2008 00:15
●わがままさん
はじめまして、わがままさん。
このサイトは最近開店休業中なのですが、ようこそお越しくださいました。

わがままさんはお父さんなのですね。お子さんのことに真正面から取り組んでいらっしゃる姿は、素晴らしいと思います。
こちらこそ今後とも、どうぞよろしくお願いします。
7. Posted by ハットトリック    January 08, 2009 12:26
3 河合隼雄さんですか。   
名前は知ってます。

よく、努力は報われずと、言いますが
たしかにその通りで
今は努力と、いう基準で人やものを決めて
ないんですよね。

昔は、仕事がうまい人が面白い人が
評価された時代ですが
いまはそれだけではうまく行かない。
いかに掟や暗黙のルールや付き合いが出来るか
守れるかと、いうことが重要視されている
時代ですからね。 
でも、それが出来ない人だっているのに
どうしても出来ない人の気持ちはわかろうとせずに
掟や暗黙のルールが守れるか否かばかりを見てる。
大人社会に限ったことではなく
子どもでもそういうことが多いから困りますよね。 
それがいじめ、嫉妬、妬み恨みつらみ、けんかなどの原因を作ってる気がします。
 
すべてにおいて努力した、してないという基準で
人やものを決めてるからだと思う。
そういう視野でしか人やものを決められない
判断してない気がします。
偏った視野、偏った視点で人やものを
判断するのではなく
個人の尊重、個々の尊重を互いに理解しあうこと
人に対して思いやりを持つことが必要ですよね。  
      
 
 
  
   
8. Posted by riro   January 09, 2009 18:31
ハットトリックさん、こちらにもありがとうございます。

>偏った視野、偏った視点で人やものを
判断するのではなく
個人の尊重、個々の尊重を互いに理解しあうこと
人に対して思いやりを持つことが必要ですよね。 

そうですよね。
努力というのは、本当に一概に良い、悪いと決め付けられない所がむずかしいです。 
      
9. Posted by ゆうあ   January 06, 2010 00:25
5 初めまして。
たぶん息子さんと同じ年の女です
いきなりすいません;
ゆとり教育で調べたら
あなた様のブログが出てきて息子さん…あたしと同じ年だっ!と思ってコメントしました;笑
あと河合隼雄さんの名前が出てきたので。
臨床心理学に興味があって
本屋さんで見ていたら
たくさん本を出されてるみたいだったので覚えました。

失礼します!笑
10. Posted by riro   January 06, 2010 19:13
●ゆうあさん
はじめまして!古い記事にコメントありがとうございます。
ゆうあさんは、息子と同い年なんですね。息子は今理系の大学一年です。ゆとり教育うんぬんよりも、自分自身の思春期問題で進路が二転三転したかもしれません^^;
河合隼雄さんの本はとてもわかりやすくて、そのわりには奥が深い内容で、私の好きな人です^^

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