世界一優雅な野獣~セルゲイ・ポルーニンのドキュメンタリー映画を観てきました。この映画の主人公セルゲイ・ポルーニンさんは最年少でロイヤルバレエのプリンシパルになったバレエ史上に残る天才と称えられ、天才ゆえの破天荒な行動もよく知られた現代バレエ界の大スターです。

セルゲイ

私は、日舞や地唄舞などの日本のものや、舞踏なんかの創作ものに関しては毎年共演していましたが、バレエは、サイガバレエの創作舞台で何度か少し弾いただけで、どこか縁遠いものでした。しかしある時、友人にロイヤルバレエのライブビューイングに誘われて、行って観たら、これが素晴らしいのなんのって!!もうすっかり魅せられてしまいました。その後パリオペラ座やボリショイバレエなどの映像も観て、自分の興味の中にしっかりと焼きついています。なかなか生の舞台やライブビューイングをやっている時に時間を作れないのですが、是非世界の一流の舞台をこの目で見たいですね。ロイヤルバレエでは今、プリンシパルが男女ともに日本人が務めているという事もあり、この映画には大変興味を持っていました。


セルゲイ1ポルーニンさんは、ウクライナの地方都市の普通の庶民の家に生まれながらも、小さな頃からその才能を見出され、バレエのレッスン代の為に家族は両親も祖母も皆、海外に出稼ぎに出て彼の学費を稼いだそうです。
彼は、いつか皆が一緒になれることを願い、英ロイヤルバレエスクールで人一倍の研鑽を積み、世界の頂点へと向かって行くのですが、結局両親が離婚。目標・目的となるものが彼の中で崩壊して行きます。そうした中で天才ゆえの様々な葛藤を抱え、ロイヤルバレエのプリンシパル座を捨て、突然退団を発表し大ニュースとして世界に流れました。
彼の全身にはタトゥーが入っています。そんなバレエダンサーは他にいないですね。それだけ彼の心は満たされなかったのでしょう。随分薬にも頼ったようです。
その後は行き場を見失いながらも、ロシアの著名なダンサー、イーゴリ・ゼレンスキーに招かれロシア、ドイツで活躍。しかしそれでも心は彷徨い続け、もうバレエを止めようと考え、最期のラストダンスとして、この「Take me church」を選び(この曲を選んだということも凄い!)、ロイヤルバレエ時代の親友に振り付けをお願いして、このダンスをYoutubeで公開しました。しかしこれが契機となり、ここからまた新境地を開いてゆくというところで映画は終わります。


 


彼は映画公開に先立ち来日してトークショウなどをやったり、TVなどにも出演しました。そこでこんなことを言っています。「最近ゴールを設定したんだ。世界をひとつにしたい、それはアーティストの仕事だと思う。国や文化が違っても地球はひとつなんだから」家族が崩壊した経験が根底にあるのでしょうね。
バレエをやっている人は私とは違う見方をしたと思いますが、私が一番感じたのは、 彼は「選ばれし者」なんだな、ということです。その努力ももう凄まじいの一言なのですが、彼はバレエに人生の全てを捧げて取り組む運命にある、ということがズキズキと疼くように感じられました。

S2私は年を取ったからでしょうか、今迄多くの人に出会ってきて、一人の人間が生きるということを最近良く考えます。様々な人生を間近で見るにつけ、我が身を振り返ってみるのですが、この映画を観ていて、私は彼のように自分の人生に向き合い、自分の人生をまともに生きているだろうか、という想いが沸いて来ました。
時に迷おうが、落ちようが、どんな形であれ、自分の人生を生きているか?。それもアーティストとしてこの世の中に生きているだろうか・・・・と。
世界が繋がっているこの時代に、適当に目の前の満足で喜んで、平和ボケして、小さな世界に留まり、村人よろしくその中でぬるま湯に浸かり、狭い視野で生きてしまっているのではないか・・・?。


映画の中で、彼がロイヤルバレエを辞めた後、故郷のバレエ学校に尋ねてゆく場面があります。そこは彼の原点であり、ダンサーとしての故郷なのでしょう。あの時彼には故郷が必要だったのだと思います。そんなシーンを見ながら、私には、琵琶弾きとしての故郷はあるだろうか・・・・?。音楽家としての故郷はあるけれど・・。そんなことが頭に浮かびました。

セルゲイ2

映画を撮るつもりでこのラストダンスを公開したのか、それともこの動画を公開をしたことで、精神的なものを得て、もう一度舞台に戻ってきたのか・・?それは判りません。もしかするとしたたかなものがあったのかもしれません。しかし天才のしたたかさは絵になるのです。凡人のしたたかさはいやらしく見える。不思議なものです。やはり「選ばれし者」ということなのでしょうね・・・・。


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