三澤正のピロリ菌よもやま話

久しぶりに書きます。
ピロリ菌はどのようにして感染するのでしょうか?
キスでうつるのでしょうか?
ピロリ菌の講演や診療をしていると、このような質問があります。
ピロリ菌の感染にはこれまで様々な研究がありました。
当初は何か食べ物が原因ではないかと言われました。
世界中で様々な食べ物が調査されましたが、
食べ物からピロリ菌は証明できませんでした。
これまでの研究で、ピロリ菌はほとんどが幼少時(5,6歳まで)に感染すると
考えられています。
幼少時はまだ胃酸の出が十分でないために、少量のピロリ菌が胃の中に
入っても感染するものと考えられます。
成人になっての感染は非常に低いと考えられます。成人では少量のピロリ菌が、
胃の中に入っても、胃酸で死滅して、定着しないと思われます。
また、感染の経路は家族内感染が最も多いと考えられているます。
とくに母子感染が多く、母親がピロリ菌を持っていると、
その子供の感染率が高いと報告されています。
また、公衆衛生上の問題も注目されています。
すなわち井戸水が使われていたり、水洗トイレがなかったりする地域では、感染率が高いと報告されています。
以上から、キスをしても成人では原則として感染することはないと考えられます。

以前のブログでピロリ菌の発見は、偶然だった話をしました。
新しい細菌が発見された場合には、それが本当に感染(病気)を起こすということを証明しなければなりません。
彼ら(ウオーレンとマーシャル)は、動物の胃に人のピロリ菌が感染するかどうかを研究していましたが、どうしてもうまく行きませんでした。
マーシャルは密かに計画を立てていました。
まず、内視鏡検査をして自分の胃の中にピロリ菌がいないこと、胃炎がないことを確かめました。
そして、何と培養した人のピロリ菌をマーシャル自身が飲んだのです。
1週間後には、吐き気と嘔吐の症状が出ました。
内視鏡をしてみるとピロリ菌が感染し、急性胃炎を起こしていたのです。
自分で人体実験をして、ピロリ菌が人の胃に感染し、病気を引き起こすことを自ら証明したのです。
何と勇気ある行動でしょうか。

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 これはピロリ菌を電子顕微鏡で見た写真です。大分大学医学部の村上和成教授からの提供写真です。ピロリ菌はねじれ(らせん状)ており、べん毛を数本もっています。
 私は平成5年から平成23年まで、ある看護学校で胃腸病の講義をしていました。ピロリ菌の話をすると「かわいい名前ですね」とよく言われ、試験に出すとほとんどの学生さんが、満点をとっていました。
 では、ピロリ菌の名前の由来はどこからきたのでしょうか?本名は「ヘリコバクター・ピロリ」と言います。
 実はピロリ菌は発見された時、キャンピロバクターという食中毒を起こす細菌に似ていることから、キャンピロバクター・ピロリと呼ばれていました。
 その後様々な研究から、キャンピロバクターとは違う新しい種類の細菌であることがわかりました。この時、「ヘリコバクター・ピロリ」という名前がつけられたのです。
 ヘリコバクターの「ヘリコ」とは「らせん」という意味です。ヘリコプターもらせん状に舞い上がる?ので、この言葉が使われているのではないかと思います。「バクター」というのは、バクテリアのことで、細菌という意味です。ヘリコバクターとは「ラセン状をした細菌」という意味になります。
 それでは、「ピロリ」とはどういう意味でしょうか?ピロリ菌は人の胃に内視鏡を入れ、胃の粘膜の組織を取ってきて発見されました。この組織を取った場所が胃の出口あたりだったのです。胃の出口のことを医学用語で「ピロルス」と呼んでいますので、「ピロリ」というかわいい名前が付けられたのです。
 ピロリ菌はかわいい名前ですが、胃がんの原因となる怖い細菌なのです。
 世の中、名前だけで判断するのは禁物ということでしょうか?

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