三澤正のピロリ菌よもやま話

2012年09月

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 これはピロリ菌を電子顕微鏡で見た写真です。大分大学医学部の村上和成教授からの提供写真です。ピロリ菌はねじれ(らせん状)ており、べん毛を数本もっています。
 私は平成5年から平成23年まで、ある看護学校で胃腸病の講義をしていました。ピロリ菌の話をすると「かわいい名前ですね」とよく言われ、試験に出すとほとんどの学生さんが、満点をとっていました。
 では、ピロリ菌の名前の由来はどこからきたのでしょうか?本名は「ヘリコバクター・ピロリ」と言います。
 実はピロリ菌は発見された時、キャンピロバクターという食中毒を起こす細菌に似ていることから、キャンピロバクター・ピロリと呼ばれていました。
 その後様々な研究から、キャンピロバクターとは違う新しい種類の細菌であることがわかりました。この時、「ヘリコバクター・ピロリ」という名前がつけられたのです。
 ヘリコバクターの「ヘリコ」とは「らせん」という意味です。ヘリコプターもらせん状に舞い上がる?ので、この言葉が使われているのではないかと思います。「バクター」というのは、バクテリアのことで、細菌という意味です。ヘリコバクターとは「ラセン状をした細菌」という意味になります。
 それでは、「ピロリ」とはどういう意味でしょうか?ピロリ菌は人の胃に内視鏡を入れ、胃の粘膜の組織を取ってきて発見されました。この組織を取った場所が胃の出口あたりだったのです。胃の出口のことを医学用語で「ピロルス」と呼んでいますので、「ピロリ」というかわいい名前が付けられたのです。
 ピロリ菌はかわいい名前ですが、胃がんの原因となる怖い細菌なのです。
 世の中、名前だけで判断するのは禁物ということでしょうか?

ピロリ菌はオーストラリアのウオーレンとマーシャルが発見しました。ウオーレンは胃の粘膜にらせん状をした細菌がいることに気づいていました。
マーシャルはウオーレンのいる病院に後期研修医として研修していましたが、指導医の紹介で病理学者のウオーレンの仕事を手伝うことになったのです。
しかし、人の胃の粘膜を内視鏡で取って培養し、その細菌が生えてこなければ、証明はできません。共同で培養の実験に取りかかりました。
培養は2日間で、何も生えてこなければ、培養器は捨てていました。何度も実験しましたが、何も生えてこなかったのです。
それは偶然のことでした。培養の担当者が復活祭があったために、休暇をとっていました。つい、培養2日目にチェックすることを忘れ、そのまま放置していたのです。休暇が終わり、研究室に顔を出したところ、何と培養器の中に何か生えているではありませんか。生えたものはまさしくピロリ菌だったのです。実はピロリ菌はゆっくりしか増殖しなかったということです。
つい忘れるというのも、大発見につながるということです。
忘れっぽくなった私も世紀の大発見をしたいものです。

 私がピロリ菌のことを知ったのは、今から二十数年前、平成と年号が変わった初めの頃と記憶しています。まだ、大学で研究をしていた頃のことです。
 当時はピロリ菌の検査をする試薬もなく、自分で作るしかありませんでした。幸い当時大分医科大学の藤岡講師から、そこで作った試薬を分けてもらい、胃かいようや十二指腸かいようの患者さんの胃カメラをした時に、胃の組織を取らせてもらい、チェックしていました。
 びっくりしたのは、十二指腸かいようの患者さんでは95%、胃かいようの患者さんでは90%ピロリ菌がいたことです。かいようのない患者さんでは60%位でしたので、明らかに差がありました。このとき、かいようの原因はピロリ菌ではないかと思いました。欧米ではすでにそのような発表があったからです。
 しかし、日本では多くの内視鏡をしている先生方は、「胃かいようの原因が細菌などとは考えられない」と言っていたのを覚えています。
 今ではピロリ菌は一般の方に名前が知られており、今昔の感があります。

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