映画『ファースト マン』観てきました。

監督は『ラ・ラ・ランド』のデイミアン・チャゼル。

キャストは、人類で初めて月面着陸を成し遂げた主人公ニール・アームストロング役にライアン・ゴズリング、その妻ジャネット役にクレア・フォイ等々・・・


いや~久しぶりに洋画を観て激しく感動いたしました。

予告を観て、アポロ計画の顛末を描く『プロジェクトX』的な内容の「アメリカ万歳!」映画を見せられるのではと危惧していたのですが、そういう臭みのまったくない実に品のいい作品でした。

映像はハリウッド大作らしい迫力に満ちていましたし、緩急自在なストーリーテリングも見事。

主人公ニールと彼を取り巻く家族や同僚との関係やソ連との宇宙開発競争という冷戦期の世相・時代背景なども丁寧に描きこまれ、アポロ計画がいかに遂行され、どんな経緯をたどって人類初の月面着陸という偉業が達成されたのかがよく分かりました。

何より私が感心したのは、ニール・アームストロング船長の人物描写、その人となりが丁寧に描かれていた点です。

映画は、ニールがNASAの実験機で超高高度から(たぶんギリ成層圏内というくらい)地球を見下ろし、また宇宙を眺めるというシーンから始まります。

彼の宇宙への憧憬というものがここで暗示されていると思うのですが、そのあと娘を幼くして亡くすというエピソードが語られ、そして自ら志願して宇宙飛行士への道を歩み始めるという具合に物語は進んでいきます。

ニール・アームストロングという人は常に沈着冷静で、感情をあまり表にあらわさない。

実際にそういうパーソナリティーの持ち主だったのだろうと思いますが、劇中のニールも娘の死後もすぐに職場に復帰するような、バカみたいに実直で同時にやや融通の利かない男として描かれています。

私はどこか宮崎駿監督の『風立ちぬ』の主人公・二郎とキャラが重なる部分があるなと思いながら映画を観ていました。

『風立ちぬ』の二郎は飛行士になることを望みながら、生来の近眼のためにそれをあきらめざるを得ず、その代わりに「美しい飛行機を作る」という目標に向かって邁進し、ついに零式艦上戦闘機という傑作機を生み出すわけですが、何かの夢にとりつかれその実現に向かって一直線に進む、どこか不器用な人間像という点で、ニールは二郎に似たところがあるような気がします。

ニールや二郎のような、ちょっと人間的には偏ったところがあるけれども実務の遂行には抜群に長けた人物というのが時に歴史的な快挙をやってのけるということがあるのだと思います。

というかそういう人物こそが実は常に歴史を動かしてきたのではないか・・・

ニールはアポロ11号で月面着陸を果たすわけですが、まったく平常心を崩しません。

ただ月面のクレーターに、亡くなった娘の名を刻んだロザリオのようなブレスレットを静かに落として涙を流す。

この泣きのシーンは劇場の大きなスクリーンでも宇宙服のヘルメットのせいで、彼が泣いていることが確認しづらい程なのですが、ニールの感情の発露の表現というのが劇中全編にわたって抑制されていて、人類史に残る偉業を成し遂げた英雄として全世界から称賛される中地球に帰還した後の描写でも彼はニコリともしないんですね。

それはラストカットまでそうです。

この映画は実に静かに終わります。

私は、月面に星条旗を掲げるシーンなんかはさぞかし大仰な演出で見せるんだろうななんて思っていたのですが、そんな場面は一切なく、ひとつ俯瞰ショットで小さく星条旗が映るカットがあるだけ。

妻ジャネットがニールに大声で意見したりするシーンはありましたが、役者に対する演出もホントに抑制が効いていて、登場人物がやたらと泣いたり怒鳴ったりする映画が多い昨今、「これは実に品のいい映画だなぁ」と感心しました。

レビュー記事の中には「感動できなかった」とか「全然エモくない」みたいな感想がちらほら見受けられますが、私は逆に過剰に観る者の感情を揺さぶるような作為に満ちた演出をまったくしていない点でこの作品は良作だと思うし、個人的にDVDが出たら買おうかなと思うくらいに大満足な一作でした。


fistman
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