ビリー・ジョエルの「マター・オブ・トラスト〜ブリッジ・トゥー・ロシア」のBlu-rayを見ました。
このBlu-rayには、レニングラードでのライブ映像と2013年に作られた約60分のドキュメンタリーが収録されています。
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ライブ映像の方は、全盛期の元気な姿がしっかりと収録されています。オープニングの「プレリュード/怒れる若者」の高速ピアノで気持ちが一気に盛り上がります。次々に演奏される名曲の数々。音声はリニアPCMのステレオのみ。5.1ch化されると思っていたので意外でしたが、臨場感のある音に仕上がっていて不満はありません。映像もクリアです。この当時のビリーのライブの見所だったリバティー・デヴィートのパワフルなドラムもしっかりと収録されています。クライマックスの「ビッグ・ショット」では、グランドピアノに飛び乗ったり、御神輿状態になったり、そして最後はお約束の「ピアノの上からバック転するぜ!」っぽい演技。見所、聞き所満載です。






そして、ドキュメンタリー。
「ライブ映像がメインで、ドキュメンタリーは『ふりかけ』レベルのおまけ程度」だと思っていましたが、
見終わって、印象がガラリと変わりました。
ドキュメンタリーにものすごく存在感があります。ライブ映像だけでは「単にビリーの全盛期の元気な姿を収めた作品」にとどまります。しかし、そこにドキュメンタリーが存在することで、時代の背景、ソ連公演にかけたビリーの思い、ソ連社会に与えたインパクトなどがわかり、作品に深み&奥行きがでます。
カレーとライスの両方がなければ成立しないカレーライス状態という感じです。

映像は冷戦時代の白黒画像から始まります。赤の広場を闊歩するソ連兵、軍備パレードでお披露目されるミサイル、ミサイルの発射映像、学校での避難訓練の様子。当時のアメリカがソ連に対して恐怖を抱いていたことがよくわかります。
そのような中、ソ連に招かれて公演を決意したビリー。彼はソ連に妻のクリスティーや1歳の娘アレクサを連れて行きました。恐れられていたソ連に何故、愛妻と愛娘を連れて行ったのか? その理由はビデオの中で明かされます。
ビデオでは、ソ連のミュージシャンが、ロックや人が大勢集まることが厳しく制限されていた時代を振り返ります。それを打ち破ったアメリカのトップミュージシャンのコンサート。ソ連の若者は、このできごとを知り、当時のソ連指導者ゴルバチョフが進めていた改革が本物だと実感したでしょう。
その姿は、サーカス団のピエロ、ヴィクトール君を代表として描かれています。見物として訪れたサーカス団で出会ったビリーとヴィクトール。懇意になったヴィクトールはビリーのソ連公演で毎回最前列に陣取り、激しくノリノリで踊りまくる。恐怖政治に押さえつけられてきた感情を一気に爆発させたという感じです。後に、ビリーは彼のことを、アルバム「ストーム・フロント」の収録曲「レニングラード」で描きました。



他の交流についても収録されています。ソ連で最初に訪れたグルジアでの地元のコーラス団との場面。コーラス合戦がほほえましいです。その際にレコーディングされた「オドイヤ」がCDのオープニングに収録されています。また、TV番組で、ボブ・ディランの曲「
時代は変わる 」を歌う場面も収録されています。観客の異様に強ばった顔が印象的です。「アメリカのロックを聴いて、笑顔なんか浮かべちゃだめよ。逮捕されてしまうわ!」なんて思っていたのでしょうか? この曲もCDではラストに収録されています。
極めつけは、レニングラード公演のクライマックス曲「ビッグ・ショット」で、観客の手の上で御神輿状態になりながら歌うシーンの説明。何故、このような危ないことをやったのか? その理由を聞いて胸が熱くなりました。単にウケ狙いの演出ではなかったのです。

さて、ビデオには面白い話も記録されていました。モスクワ公演での観客の様子を日本での最初のコンサートと比べたり、「観客の手の上で御神輿状態」について、プログレ界の大物ミュージシャンの名前が引用されたり。元妻のクリスティーの60歳とは思えない若々しさ&美貌ぶりには目を見張りました。「もしかしたら彼女だけ10年前にインタビューしていたのかも??」と思ってしまうくらいです。




私は、「どうせドキュメンタリーなんてオマケだから、わざわざ高い金出して日本語字幕がある国内盤を買わなくてもよい」と思い、輸入盤を買いましたが、今になって「日本語字幕欲しかったな・・・」と後悔しています。幸い、英語字幕を表示できるので、内容はだいたいわかりましたが・・・。

ドキュメンタリーを貫くテーマは一つ。マター・オブ・トラスト(直訳なら「信頼の問題」になるが、「信頼こそすべて」という意味合いが適切かも)です。
発売◯周年でもないのに、何故、今年この作品が発売されることになったのかは、わかりません。
国家間の信頼関係が怪しくなってきている昨今の状況をビリーが憂い、彼なりの世界平和に向けてのメッセージを発信したのかもしれません。