金曜日の夜に見に行ってまいりました!
「受胎告知」は新約聖書のエピソードの1つ。天使ガブリエルがマリアに対して、マリアが聖霊によってキリストを身ごもることを告げ、またマリアがそれを受け入れる場面。
ダ・ヴィンチは20歳そこそこの1472-1473年頃にこの作品を描き、彼が単独で手掛けた絵画としては最初期のものとされる。

もっと混んでいるのかと思いきや、意外とゆっくり見ることができた。
単眼鏡を片手にズームアップして眺め、それから素のままの目で眺め……と、それを何度も繰り返していると、見るたびに新たな発見のある画だった。
服装の質感、地面の草花の描写力、マリアが手を置く書見台に施されたレリーフ、さらにはマリアの読む書物に刻まれた細かな文字……はるか遠景に目を凝らしてみると、街並みや海に浮かぶ船が描かれ、そのさらに奥には霞がかった山々の姿が屹立している(これは後にダ・ヴィンチが確立した「空気遠近法」という技法に繋がるらしい)。
そんなことをしながら「受胎告知」を前に20〜30分ほど夢中に眺めていただろうか。
なんて贅沢なんだ……と思って、ふと後ろを振り返ると、人だかりが増えていた(汗)。
それから、ふだんは閉じられている博物館の一室……本館特別5室(通称「特5」)に初めて足を踏み入れることができたことも、ちょっと感動。
この部屋は、過去には「モナ・リザ」「ツタンカーメン」「民衆を導く自由の女神」(ドラクロワ)などを展示した場所。つまりは、よっぽどの作品ではないと開放されることのない部屋だ。
また、平成館では、ダ・ヴィンチの手稿をもとに、パネルや模型や映像作品でダ・ヴィンチの思索の足跡を検証する展示。
周知の通り、その思索の歩みは多岐に渡っており、現代の常識で考えても「何でこういう着眼点になるのだろう」というくらいにブッ飛んでいる(たとえば、ダ・ヴィンチにとっては、川の支流の流れも、気管支の吸い込む空気の量も同列に並べて語られることなのだ)。
とはいえ、それらの思索を俯瞰していくと、規則性・法則性・調和……といった言葉に集約されていくのではないかと思う。世の中のあらゆる事象をいったん解体し、そこに規則や法則を見出し、またそれを再構築していくことによって世界(ダ・ヴィンチにしか見えない世界だ)を再発見する。ダ・ヴィンチの手稿は、その思索の絶え間ない繰り返しだ。
絵画にしても、ダ・ヴィンチにとっては、世界を再構築する実践の場のひとつの手段であったのかもしれない。人物をバランスよく描くにはどこに重心を置くか、いかにしたら全体の構図を美しく見せることができるか(シンメトリー、黄金比、一点透視法……)などなど。
「受胎告知」見た後に、こうやってダ・ヴィンチの思索を俯瞰する企画も良かったと思う。