山王院へ至る石段のふもとに、伝教大師最澄の廟所である浄土院が建つ。
廟所というだけに、ここは比叡山中で最も清浄な場所とされている。
なるほど、山内の他のお堂が武骨な印象を与えるのとは違って、この境内はどことなく清涼感のある美しさを漂わせている。
ここで廟所を守る僧は「侍眞(じしん)」と呼ばれており、昼夜を問わず、厳しい戒律の下で、あたかも伝教大師が生きているかのように食事などの給仕を行う。
そして、一日の多くの時間を、勤行と掃除と勉学に費やし、十二年もの間、山を下りないという規律に従って、修行生活を送っている。
比叡山には3つの厳しい地獄……すなわち修行があると言われている。
ひたすら読経三昧に明け暮れる横川の「看経地獄」。
十二年籠山の千日回峰行の「回峰地獄」。
そして、ここ浄土院の「掃除地獄」。
伝教大師最澄の眠る聖域には、塵一つ、木の葉一枚ですら落ちていることを許さず、舞い落ちる木の葉を何度も何度も掃き取り、清めなければならない。
ここの境内が清涼感のある美しさを感じさせるのは、そういった修行の賜物なのだろう。
けれども、秋から冬へかけての落葉の季節は、さぞかし、しんどいのだろうな…。
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