2009年09月13日

佐保路から西ノ京(5)秋篠寺

大和西大寺の駅からバスに乗り、車がすれ違うにも難儀するような道を行くと、住宅街の奥の一角に秋篠寺がある。



小さな門をくぐると、そこは深い緑に包まれ、木立の中の苔に目を奪われて足を止めてしまう。



境内はよく手入れが行き届いており、清浄な雰囲気だ。



創建時の堂宇はほとんど失われ、現在は、国宝にも指定されている小さな本堂が残る。
鎌倉時代に大改修を行ったというが、奈良に残る古い建築物の例にもれず、均整でシンプルな外観であるのは、創建時の様式を伝えているからだろう。
そして、この本堂に安置されているのが、伎芸天立像。奈良では人気の仏像だ。
少し開いた口元は微笑を浮かべているようであり、その表情と相まって、首を少し傾けた容姿は何やら蠱惑的でもあり、見る者の目を釘付けにしてしまう。
とはいえ、伎芸天と名付けられたのは明治時代以降のことで、もともと何の仏像であったのかははっきりしていない。本来は、阿弥陀様が来迎する図絵などにおいて、口を開いて歌うような仕草で描かれる「音声菩薩(おんじょうぼさつ)」のようなものではないか、とも言われている。


伎芸天立像は、頭部のみが天平時代の脱活乾漆造、体の部分が鎌倉時代に木造で補われている。
一度は破損した仏像が、こうした補修を経てよみがえり、今なお愛される仏像として伝えられているのは、なんというか、時代を隔てた奇跡のようなものだと感じないではいられない。



人気の仏像ではあるが、拝観に訪れる人はまばらなようだ。僕が訪れたこの日は、お堂の中に一人きりだった。



暑気を避け、涼やかなお堂の中で静寂に包まれ、仏像たちと対面していると、日々の瑣事など忘れ、しだいに気持ちがやわらかくなっていくようだった。



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