2009年09月29日

金沢21世紀美術館 雨の夜

ねぇ、ほんの1分でいいから、沈黙を守ってみないか?



その夜は雨だった。
昼間は、デジカメや携帯のシャッター音、それから人の話し声でにぎやかだったこの部屋も、夜の闇が濃くなるにつれて、人の姿も少なくなった。
そして、たまたまその場に居合わせた僕たちは、申し合わせたように黙り込む。
するとどうだ。
夜の黒い天井から落ちてきた雨が床を濡らし、ぴちぴちと小さな雨音を立てている。それから、四角く切り抜いた天井の際から、大きな粒となった水滴が落ちてきて、ぼたぼたと大きな音を鳴らしている。そして、耳をすませば、外の草むらで鳴いている虫の声が聞こえてくる。その声はとても儚げだ。



部屋の片隅で目を閉じてみる。我々の周囲は、雨やら虫の声やら、自然の音が確かに存在していることを知る。
この「タレルの部屋」は、視覚だけではなく、耳にも楽しい部屋だったのだ。



夜の美術館は楽しい。夜の美術館で妄想するのは楽しい。



この椅子たちも、もしかしたら、人の気配がなくなったら、勝手に動きはじめたりするのかもしれない。
その時を今か今かと待ちわびているのかもしれない。
市民ギャラリーの壁は、マイケル・リンの花のペインティング。



円形の美術館の周囲はガラス張り、空から眺めたら、夜の闇に煌々と浮かび上がって見えるのだろうか。
僕が子供の頃に思い描いた宇宙ステーションって、たぶんこんな感じ。







そして、タレルの部屋には傘を持った少年がやって来た。
彼は、手にしていた傘を床に置いて、雨の音を奏ではじめたのだった。そして、傘を置く場所をあちこちへと変えながら、雨が傘を打つ音に変化があるかを試しはじめた。
子供の純真さといたずら心には、時としてはっとさせられる。
大人になってしまうと、「大人であること」を理由に、好奇心のおもむくままにやりたいことを、人前では出来ない時があるから。



やがて遊び飽きると、少年も姿を消した。



そして、部屋の中は、僕ひとりになってしまった。

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この記事へのコメント
石庭さんの空間編集力のおかげで、インスタレーションがストーリーになって伝わってきました。つまり、臨場感。ありがとうございます。これはブログに終わらせず、テキスト付のスライドショーなんかにしてはいかがですか?かなりステキだと思います。
それにしてもさすがです。
サイレント・メモリー。
Posted by hayate at 2009年09月30日 23:08
hayateさんが言われるように、物語ですね!
それにしても21世紀美術館、かなり遅い時間帯
まで開館してるようですね。
夜の美術館・・・少し怪しげでとてもいい雰囲気です。
Posted by 一休 at 2009年10月01日 00:22
>hayateさん
いえいえ、恐縮です!
もし「タレルの部屋」にストーリーを感じるのだとすれば、それはこの空間がなせるわざなのかもしれません。
その場に居合わせた人と、それから、その時の天気、時間、空気、音……いろいろなものが登場人物になるのかもしれません。

>一休さん
21世紀美術館の交流ゾーンは夜10時まで…と、このあたりも初代館長の蓑さんのこだわりだったみたいですね。
美術館である以前に、いろいろな人がふらっと立ち寄れる「憩いの場」としてのあり方へのこだわりが、
かいま見れたような気がしました。
Posted by 石庭 at 2009年10月02日 00:50