2009年10月12日

【展】一蝶リターンズ

10月12日まで板橋区立美術館で開催されていた「一蝶リターンズ〜元禄風流子 英一蝶の画業〜」は、 英一蝶という元禄の絵師の魅力を知る、とても楽しい展覧会だった。
英一蝶の画は、あちこちの美術館や展覧会でぽつぽつと見たことがあるけれど、まとまって見るのは初めてのことで、こうして一蝶の画業を通して眺めてみると、今まで知らなかった一蝶の面白さの虜になってしまった。

英一蝶(1652-1724)は、狩野派に学んで町絵師として活躍する一方、吉原の遊郭で幇間もするなど、かなり風変わりな人物だったが、1698年には三宅島へ配流という重い罪(当時の将軍綱吉の「生類憐みの令」を揶揄したとも、吉原で大名を散財させたことが怒りを買ったとも)を得てしまう。
しかし、1709年、将軍綱吉が亡くなり、将軍代替わりの恩赦で江戸へ帰ることができた。歳はすでに58歳、英一蝶と名乗ったのはこれ以降のことで、亡くなるまでの15年は人気絵師として数々の作品を残した。

一蝶は波乱の人生だったが、その画は一貫してユーモアに溢れている。ちょっとやそっとの困難(流罪はちょっとやそっとではないが…)にもめげることのない、ユーモアという強靭な精神がみなぎっている。
市井の人々を描けば、思わずくすりと笑ってしまうようなコミカルさがあるし、古典的題材を描けば、思いもよらないような“ひねり”を利かせたアイデアで笑いを誘う。
「不動図」(滝に打たれる不動が、背中に背負っていた炎が水に濡れて消えないよう、傍らの岩の上に置いている)、「四睡図」(本来は、豊干禅師と寒山・拾得と虎が眠っている姿を描く禅画だが、ここではちょうど四者が目覚めた場面を描く)、「鍾馗図」(鬼を探す鍾馗が足元の川を見ると、水面に樹上の鬼が映っている)などは、現在でいうところの、ひとコマ漫画的な面白さに満ちている。

そして「雨宿り図屏風」は、東京国立博物館の常設展でもしばしば展示される一蝶の代表作だが、これまで何度か見たことがあるこの屏風絵も、また新たな魅力で目に映るのだった。
突然の通り雨を屋根の下でしのぐ人々の姿には、大人も子供も、男も女も、それから士農工商の身分の隔てもない(人間たちに混ざって犬の姿さえもある)。雨を見上げる彼らの表情も、どこか明るい感じさえする。「まぁ、そのうち雨もやむだろ」と、笑い声とともにそんな声さえ聞こえてきそうだ。
なんて素晴らしい画なのだろう。
そこには、市井の人々を温かいまなざしで眺めつづけた一蝶のエッセンスが、ぎゅっと凝縮されている。一蝶の生きた時代には、もちろん「ヒューマニズム」なんていう言葉はなかっただろうけど、きっと、英一蝶という絵師は、日々の生への賛歌を自然に表現していたに違いない。

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