2009年12月22日

或る冬の日−尾行

或る尾行の記録。



有楽町の鉄道高架下を、彼は台車を押して歩いていた。
なぜ彼がわざわざ台車を押しているのかは分からなかったが、その台車の上には、僕が落としてしまった手首が乗せられているような気がしたので、僕は彼を追尾することにした。
道行く人たちは、その台車の上の物体にはまったく気が付かない様子だった。なぜ気が付かないのだと彼らに訴えたい気持ちを押し殺しながら、僕は息をひそめて歩いた。
彼はガード下をくぐると、有楽町駅から新橋駅のあいだに伸びる鉄道高架下の路地へと入っていった。



そこで僕は彼を見失ってしまった。
高架下の小さな店のどこかに入ったのかもしれない。けれども、どうやら昼間から開店している店はないらしい。あるいは、どこかから地上に出たのか。



妙?
妙だといわれれば、そう、それはたしかに妙だった。馬鹿にしやがって。



僕は途端に馬鹿馬鹿しくなってしまい、踵を返して、やって来た道をふたたび歩いた。
すると、僕の後ろから足音が聞こえてくるではないか。



ガード下に出ると、冬の冷たい空気が吹いていて、やきとりを焼く匂いが立ち込めていた。
背後の気配を強く感じたので、振り返ると、そこには僕の手首を持った彼がいた。
僕の手首を、というのは正しくはない。なぜならば、彼の姿はまるっきり僕なのだったから、彼が僕の手首を袖から覗かせているのは当然のことだったのだ。
僕が彼のあとを付けていたと思ったら、いつのまにか僕が僕にあとを付けられていて、それから、今まで気が付かないふりをしていたのだが、僕はここまでずっと、台車を押して歩いてきたのだった。

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この記事へのコメント
私は「ラ・ジュテ」という映画が好きなんですが、読み終えた後久し振りに見たくなりました。
と言うか、「ロスト・ハイウェイ」!!が見たい。

なんと言うか、メビウスの輪の様に堂々巡り。ゴールのない迷路。
このどうにかしたいのにどぉにもならないモゾモゾ感。
好きです。
Posted by miki at 2009年12月24日 22:57
>mikiさん
いつもいつも、こんな妄想にお付き合いいただいて恐縮です!
キャプションに詩みたいものを付けようかなぁ…と思っていたら、
悪ふざけもちょっと興が乗ってしまい、こんな感じになってしまいました…。
でも、こうやって脈絡なく撮った写真を、あれこれと言葉で繋いでいく作業は面白いものです。
Posted by 石庭 at 2009年12月24日 23:56
いえいえ、こちらこそ恐縮です。人の妄想で勝手に楽しんでいるだけなんで!
何も無いところからイメージを膨らまして形を創っていく。本当に面白いですよね!
Posted by miki at 2009年12月25日 22:45
>mikiさん
(・∀・)〜♪
まぁ、妄想に妄想を重ねて楽しんでいってください!
Posted by 石庭 at 2009年12月26日 00:19