2010年04月02日

【展】歌川国芳 奇と笑いの木版画

府中市美術館の春は、近世(江戸時代)絵画の企画展が多いような気がする。
2006年は「亜欧堂田善の時代」、2007年は「動物絵画の100年」、昨年2009年は「山水に遊ぶ」…と、もしかしたら、美術館の企画展の年間スケジュールとして、そういうサイクルになっているかもしれない。
そして、2010年の春は江戸末期の浮世絵師・歌川国芳が登場、「歌川国芳 奇と笑いの木版画」です。



浮世絵師ということであれば、錦絵のみならず、縦横無尽の想像力とフットワークで、肉筆画などにも優れた作品を残した葛飾北斎がいちばん好きだけれど、純粋に錦絵ということで絞れば、北斎と並んで、この国芳も捨てがたい。
国芳を画壇のメインスリームに押し上げた武者絵、三枚続の迫力のパノラマ絵、西洋画の研究とそれを引用した不思議な錦絵、時に世相の皮肉を含みつつ遊び心に富んだ“戯画”と自らが呼んだ絵の数々……などなど、錦絵という限られた平面空間と技法の中で、その限界に挑むかのように、やりたい放題に躍動する国芳の破天荒っぷりは、北斎にも負けず劣らずなのではなかろうか、なんて思ったりもする。

出世作となった初期の「通俗水滸伝」「本朝水滸伝」のシリーズでは、所狭しと人物たちが躍動する。人物の動きのみならず、水の流れや飛沫の表現で動的な表現を与え、さらに「渡辺源二綱」(本朝水滸伝シリーズ)では画面の中にビームのようなものが飛び交う。ちょっと変わったものだと、「皷上蚤時遷」(通俗水滸伝シリーズ)の木の上から行灯のようなもので暗がりを照らす表現が面白い。
それから、絵の中に時折かいま見える、国芳の科学的な興味も目を惹く。「大願成就有ヶ滝縞 許由」では女の着物の模様に雪の結晶を用い、「相馬の古内裏」の骸骨の描き方はやけにリアルだ。おそらく当時の科学書か何かでそうしたものを目にして、自身の絵に取り込んだのではなかろうか。「浅茅原一ツ家の図」や「和漢準源氏 乙女」での西洋画風の表現にしてもそうだが、研究熱心で、表現の幅を広げることに貪欲な姿勢も、国芳の魅力的なところだ。

そして、なんといっても、大判三枚続のパノラマ画面には目を奪われる。
「宮本武蔵と巨鯨」や「讃岐院眷属をして為朝をすくふ図」は、ただ迫力があるというのではなく、迫力を生むためには画面構成にもそれなりの計算と方法があるわけで、ここに国芳の理知的な面を感じたりする。
3つの画面をまたがって、左上から右下へ(あるいは右上から左下へ)対角線を引くように配置することで、限られた平面空間の中でより大きな躍動感を発揮する効果を生み出しているのではないだろうか(こうした画面構成は、ちょっと時代を遡る「源頼光公館土蜘作妖怪図大」「大江山酒呑童子」でも試みられていた)。

フライヤーも、大判三枚続を意識したような三つ折り。「讃岐院眷属をして為朝をすくふ図」。
これは出色の出来栄え。これを手にしただけで、ちょっと得した気分になった。



この展覧会の出品作品は、ある一人の人物のコレクションで集められたというのだから、驚嘆するばかりだった。
後期もたくさんの作品の入れ替えがあるようなので、時間があれば、ぜひ足を運びたいところです。

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