2010年10月06日

北陸妄想(1)那谷寺(前編)

知人が9月の初めに旅行に行ったきり、行方不明になった。それは寝耳に水のことだった。
顔を合わせるにしても、年に数えるほど。ここ数年は、密な関係であったとは言いがたい。最後に会ったのは、もう半年以上も前のことか。
僕のところに彼の消息に関する連絡があったのは、9月半ばのことだった。彼が旅行の予定を終えても帰宅せず、連絡も取れなくなり、それでもしばらくは家族も待っていたとのことだったが、1週間待ってもいよいよ音沙汰がないと分かると、警察に捜索願を届け出た。



僕の知るかぎりでの彼の人柄からは、いきなり行方をくらますような人間であるとは想像できない、というのが正直な気持ちだ。
もしかしたら何かの事件や事故に巻き込まれたのかもしれないし、あるいは、そうではないのかもしれない。

彼の旅行先は北陸だった。
そして彼は、旅の行程を、旅の行く先々でケータイで撮影した写真とともに、自分のブログに更新していた。
彼を積極的に探すつもりというわけではなかったのだが、どういうわけか僕は、彼の失踪に興味を隠せなくなり、ブログに更新されていた彼の旅の足跡をなぞってみたくなったのだった。彼の家族から預かった、彼の写真を携えて。


新幹線とローカル線を乗り継いで石川県に入った彼は、加賀温泉駅に降り立ち、そこからバスで那谷寺という場所にやって来ている。



この寺の拝観受付の女性に、ひとまず彼の写真を見せ、この男性が9月の初め頃にここを訪れているのだが覚えていないか、と訊ねてみたが、案の定、芳しい返事を得ることはできなかった。
日々、拝観者が訪れる中で、窓越しに拝観料のやり取りをしているだけでは、人の顔なんて覚えてはいないだろう。



山門をくぐると、木々の葉に覆われた薄暗い参道がまっすぐ伸びていて、



参道の脇に目をやると、この日の午前中まで降っていた雨のおかげで、木漏れ日の中の苔の青さが美しかった。



少しぬかるむ道を上っていくと鐘楼が見えてきた。



そして、護摩堂を通り過ぎて、石段を降りていく。
きれいに掃き清められた境内には、木々の葉のあいだから日差しがこぼれ落ちてくる。清浄さを感じる空間だ。



見上げれば色の濃い青空。雨が上がった後の空は、空気中の塵や埃を洗い流したように、しばしばこうした美しさを見せる。
彼が見た空の色は、どうだったろうか。



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