漫画家の名称としても魅惑的ながら、その姿からは想像出来ぬ名前『不吉霊二』。野球漫画のドカベン、不吉霊三朗という投手の妹という設定で、単純に良いなって思って自ら名付けた(笑)。今思えば、真逆の男性みたいで、辟邪名(へきじゃめい)のような悪霊も撤退出来るような力もありそうで気に入っているという。
そして、本人(本名)として生きる自分と、漫画家として歩む別人格かもしれない二つの顔を持ちながら、それでも赤裸々に、義務や使命ではなく、一人の人間として自らが幸せに過ごしていけるカタチを見つけながら、彼女は人生を切り開いているのである。
「高校生までは画家になりたくて…。」美大に憧れていた彼女だったが、親に反対され、それでも中高生の時に好きだった映画や音楽という様々なポップカルチャーに触れていた経緯を選択肢に、早稲田大学の文化系の学科に進学する。
大学生活は、影響を受ける教授や講義との出会いや、興味が無いと思っていた授業にも案外価値を見出せるほどの楽しみもあった。だけど東京生活の始まりは何処か物足りなさもあり、何かを求めるようにいろんな意味でボ~っと徘徊するような日々。中高一貫の女子校に通っていた彼女は、大学生らしく恋にも愛にもさらに奔走した。
しかし、大学二回生となり、東京の生活にも慣れてきた頃、ゴールデンウィークに青春18切符を使って、同志社に通う友人に会うために京都に向かったのが全ての『きっかけ』となる。
バイトだった友達を待つ夜の待ち時間、彼女はふと立ち寄った喫茶店でペンを走らせイラストを描いた。
「あ、何か楽しい♪自由だ♬」
時間潰しのはずが有意義に感じた。
そして友達との時間を過ごし寝泊まりする家で、彼女は亡き父とドライブする夢を見るのである。そう、彼女の父は生まれる前に他界し、写真でしか姿を見た事がなかった。その父とは全く違って、きっと性格も全然違うだろうゲスい人で、嫌なことだって言ってくる人だったけど、そんな時間にその父を好きになっていき「一緒に住もうや~」と提案された所でパッと目が覚めてしまった…。
その嬉しさと記憶を忘れたくなくて、残したくて、そしてあわゆくば誰かに伝えたいと思って、身近な紙とペンを手に取り漫画にしたのが、不吉霊二の始まりとなったのだ。
そこから彼女はずっと作品を作り続けている。多彩なカルチャーに触れるタメに、好きな音楽では『レゲトン』(プエルトリコのレゲエ)に関心を持ち足を踏み入れてみたり、材料が限られ色の少ない『映画ポスター』を作るキューバの作品展示に魅了され、大学時代にキューバへの留学も経験した。そうして、サブカルやアンダーグラウンドなセカイにも幅を広げた彼女は、繋がりからDJの活動にも触れたりと、まさに『きっかけ』を自らの手で探して見つけて、拾ったり自分のものにする力を秘めているのだと思う。そうやって道を切り開いていく中で、彼女は在学中に自費出版の漫画作成にも結び付け、その手でその足で不吉霊二という存在を世に広めていくのである。
そして卒業後は、学生の肩書きが無くなった社会人としての責任や、アーティストとしての重圧を感じながらも、義務ではなく作品作りを好きで居続けるタメに、時にリフレッシュのために海外旅行も楽しみながら、そこでの繋がりや世界観を広げ、漫画家を続けていくための向き合い方を維持しながら、自分自身の歩みを止めず、あくまで自然体で飾らないありのままの自分を大切にしている。
そういった日常の中で、居心地を感じる喫茶店に足を運ぶ彼女は、シチュエーションごとに訪れる場所が決まっている。一人の時間には自分の心と会話してみたり、その同じテーブルで違う時間を過ごしただろう誰かの足跡に想いを馳せたり、空間に漂う光景に目を細め、時に耳を傾けながら現実を感じて、自分の経験や誰かのリアルを風刺的に描いていく。デジタルが五感の一部になってしまっていく世の中でも、そういった人を感じる部分や、人間の手で生み出されたアナログ的要素は、彼女の作品に大きな影響を与えているのかもしれない。
だからこそ、彼女の作品は依頼を受けたとしても、相手の要望や要求に対して自分の描きたいものも重ね合わせることで唯一無二の絵が生まれていると思うし、それぞれのイラストやストーリーにも伝えたいものは明白だと言う。
確かに私達が営む店も、こうなりたいという想いがあれば、メニューを含め届けたい価値を持っていて、それが店としても店主のカラーであるのは間違いない。そこにニーズや利用法をお客様が感じて過ごしてもらえるからこそ、それぞれの店がお客様の場所になっていくのだろう。そんな風に彼女の作品は誰かのタメと自分のタメの想いが中心に交わるからそインパクトが生まれるのだと思う。
そして何より、人によっては辛い現実を経験しているからこそ、生を受ければいつかは死んでしまうことが決まっている人生を、どう生きていくかも芸術として捉え、彼女は今日も自分を信じて生きる実感を探り、世界が美しいことをもっと皆に気付いてほしいと願うのである。そして「多作でいたい」と野望を抱きながら、生きる事に真摯的な彼女だからこそ、その絵には愛を感じ、動かない絵にも今にも動き出しそうな躍動感を感じるのだと思う。
きっと、伝えたい思いが一つ一つの作品に存在するからこそ、読んだり見たりするイラストに何かを感じ、心が刺激される魅力があるからこそ霊二ちゃんの作品には身近さや共感を抱くことができ、だからこそ皆のものだと共有できる依頼やコラボが止まないのだと思う。
彼女の瞳の奥に感じる輝きや、眼差しの力強さのように、私達もまた光りを見失わずに歩み続けたいものである。
※今回取材にあたり、霊二ちゃんが六曜社のタメに描き下ろしてくれたイラスト。
★不吉 霊二
1997年広島県出身
2016年漫画を描き始める
2019年リイド社トーチwebにて連載を開始
2020年漫画『あばよ〜ベイビーイッツユー〜』単行本がトーチwebより出版される
2021年東京で初の個展
2023年水原希子とのコラボレーションによる展示会を上海・成都で行う
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