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龍孫江の数学日誌

龍孫江が主に数学について気ままにお話しています.現在は 龍孫江の数学日誌in YouTubeの更新告知がほとんどですが,もう少しオリジナル記事を増やしたいと考えています.連載「はじめての可換環」は毎週日曜日更新です.どうぞご贔屓に.

有限群のおもちゃ箱 (7) 位数 $8$ の群の位数 $4$ の要素

 こんにちは,龍孫江です.龍孫江のよろず語り「有限群のおもちゃ箱」第7回の問題はこちらです.

問題 7.$G$ を位数 $8$ の非可換群とする.以下の問いに答えよ:
(1) $G$ は位数 $4$ の巡回群を部分群にもつ.
(2) $G$ は二面体群 $D_8$ か四元数群 $Q_8$ に同型であることを証明せよ.

SmlGrp07:位数8の群の位数4の要素


「有限群のおもちゃ箱」今回は位数 $8$ の群を分類します.素数の3乗 $p^3$ と表される数は $30$ 以下の範囲では $8 = 2^3$ と $27 = 3^3$ の2個がありますが(余談ですが龍孫江の誕生日は $8$ 月 $27$ 日です),位数 $8$ と位数 $27$ とでも微妙に状況が異なるのが興味深いところです.

位数 $p^2$ の要素はあるか

 この差をもたらすのは,折に触れて現れる素数 $2$ の特殊性です.有限群論においては徹頭徹尾 $2$ という素数に振り回されている面がありまして,ひとつの到達点が Feit-Thompson の奇数位数定理です.

定理Feit-Thompson の奇数位数定理)位数が奇数の有限群は可解である.

 可解ではない有限群の位数は必ず偶数,すなわち $2$ を素因数にもつと述べているわけですから,有限群における素数 $2$ の特別な地位を示していると言えるでしょう.もちろんここで Feit-Thompsonの定理の証明を紹介はできません(複雑で込み入っており,そして長大です).なお,Thompson はこの奇数位数定理の証明から始まる有限単純群の分類に対する貢献によって1970年にフィールズ賞を受賞しています.

 さて,わたしたちの手の届く範囲で位数 $2$ の特殊性を示すとしたら,ぼくは次の定理を紹介したいと思います.

命題.$G$ を有限群とする.単位元を除く $G$ の要素の位数が総て $2$ なら,$G$ は可換である.

 位数 $27$ のところで示すように,この命題において $2$ を他のどの奇素数に置き換えても結論は成立しません.つまり,奇素数 $p$ に対して,単位元を除く総ての要素の位数が $p$ であるような非可換群が存在します.詳しくは次回.

命題の証明 任意の $x$, $y \in G$ に対し $xy = yx$ を示せば充分です.積 $xy$ も位数2以下なので $$(xy)^2 = xyxy = 1$$ であり,左から $x$, 右から $y$ を乗じると$$ xy = x^2 (y x) y^2 =yx$$ を得ます.証明終

 では,問題の (1) を整理します.問題の $G$ は位数 $8$ なので,その要素の位数は $1$, $2$, $4$, $8$ のいずれかです.$G$ に位数 $4$ 以上の要素がなければ上記の命題によって $G$ は可換群のはずですが,$G$ は非可換なのでそうではなく,位数 $4$ 以上の要素を含みます.また位数 $8$ の要素があれば $G$ は巡回群のはずですが,やはり $G$ の非可換性と矛盾するので位数 $8$ の要素もありません.したがって位数 $4$ の要素 $x$ が存在し,$H = \langle x \rangle$ をとれば位数 $4$ の巡回部分群が得られます.

剰余群 $G/H$ と生成系

 (1) で得た部分群 $H$ は $G$ の指数 $2$ の部分群なので正規部分群で,$G/H$ の位数は $2$ です.ここで $y \in G \setminus H$ をとれば
$G = H \sqcup Hy$ ($G$ の剰余類分解)
から $$G = \{ x^s y^t \mid 0 \le s < 4,~t = 0,1 \}$$ と表せます.特に $G = \langle x, y \rangle$ なので,$x$ と $y$ の関係式を求めれば $G$ の型が決定されるわけです.

 $y$ が定める内部自己同型 $\phi_y \colon G \to G$ は正規部分群 $H$ の自己同型を誘導します.自己同型は位数を保つので $\phi_y (x) = yxy^{-1}$ は $H$ の位数 $4$ の要素で,特に $x^{\pm 1}$ のいずれかです.
 もし $\phi_y(x) = x$ とすると,$yxy^{-1} = x$ を整理して $xy = yx$ ですから $G$ は可換です.これは仮定に反しますから
$\phi_y(x) = x^{-1}$,すなわち $yx = x^{-1} y$
しか起こりえません.これで $x$, $y$ が充たす関係式として $$x^4 = 1,~~~yx = x^{-1} y$$ が見つかりました.

 残る疑問点では,あと $y$ の位数がまだ決まっていません.$G/H$ での振る舞いを見れば $y^2 \in H$ であり,また $G$ における $y$ の位数は $2$ または $4$ なので,可能性としては
  • 位数 $2$ の場合: $y^2 = 1$ (単位元)
  • 位数 $4$ の場合: $y^2 = x^2$
の可能性が残っています.

1. $y^2 = 1$ のとき,$y$ の位数は $2$ で,$x, y$ が充たす関係式は $$ x^4 = y^2 = 1,~~~yx = x^{-1}y$$ が挙げられます.これらの関係式が定める群は,位数 $8$ の二面体群 $D_8$ です.これらの関係式から二面体群を導出する操作については,位数 $2p$ の群に関する動画で紹介しています:

2. $y^2 = x^2$ のとき,$z = xy$ とおくと $$z^2 = xyxy = x (x^{-1}y) y = y^2 = x^2$$が成り立ちます.ここで $x^2 = -1$ と表示を取り替えると,$$ G = \{ \pm1, \pm x, \pm y, \pm z \}$$ と表され,これらが充たす関係式には $$ (-1)^2 = 1,~~~x^2 = y^2 = z^2 = -1,~~~z = xy$$ が挙げられます.これらの表示と関係式により,$G$ は四元数群 $Q_8$ と同型です.

 以上により,位数 $8$ の群の分類が完成しました.次回は引き続き,位数 $27 = 3^3$ の群について考えます.

 最後までご覧いただきありがとうございました. 今後ともご愛顧のほど, よろしくお願いいたします.
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環論:実数体の自己同型

 こんにちは, 龍孫江です.龍孫江の数学日誌,本日は環論からこちらの問題をご紹介します.
[問題] 実数体 $\mathbb{R}$ の自己同型は恒等写像に限られることを証明せよ.
RS189:実数体の自己同型
それでは,動画をお楽しみください.

 本動画の内容をまとめた略解スライド版が『数学日誌 in note』からお求めになれます.今回限りのご購入は1回100円,1か月分の継続講読は月1000円でございます.毎月10回以上更新いたしますので,ご興味のある方には継続講読を強くお勧めいたします.お代は龍孫江の数学活動の足しにいたします.どうぞ応援の意味も含め,ご購読をお願いします.

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体論:分解体の生成元の最小多項式

 こんにちは, 龍孫江です.龍孫江の数学日誌,本日は体論からこちらの問題をご紹介します.
[問題] $\omega = \frac{-1 + \sqrt{-3}}{2}$ を $1$ の原始3乗根,$\alpha = {}^3\!\sqrt{2}$, $\beta = \alpha \omega$ とする.
(1) 拡大次数 $[\mathbb{Q}(\alpha, \beta) : \mathbb{Q}]$ を求めよ.
(2) 任意の有理数 $c \in \mathbb{Q}$ に対し,$\gamma := \alpha + c \beta$ は6次多項式 $T^6 + a T^3 + b \in \mathbb{Q}[T]$ の根になることを証明せよ.\vs1
(3) $\alpha + \beta$, $\alpha - \beta$ の最小多項式をそれぞれ求めよ.

KS086:分解体の生成元の最小多項式
それでは,動画をお楽しみください.

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環論:素イデアルとイデアルの積

 こんにちは, 龍孫江です.龍孫江の数学日誌,本日は環論からこちらの問題をご紹介します.
[問題] $A$ を可換環,$P$ を $A$ の素イデアルとする.以下を証明せよ.
(1) $A$ のイデアル $I$, $J$ に対し
$I \subset P$ or $J \subset P$ $\iff$ $I \cap J \subset P$ $\iff$ $IJ \subset P$.
(2) $A$ のイデアル $I_t$ ($1 \le t\le s$) が $P = \bigcap I_t$ を充たせば,$I_1, \ldots, I_s$ のどれかは $P$ 自身である.

RS188:素イデアルとイデアルの積
それでは,動画をお楽しみください.

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可換環をのぞきこむ (10) 多項式環からの写像

 こんにちは,龍孫江です.「はじめての可換環」第40回の問題はこちらです.

問題 40.$\mathbb{Z}[T]$ を整数係数の多項式環とする.以下の問いに答えよ.\vs1
(1) $F \colon \mathbb{Z}[T] \to \mathbb{C}$ が環準同型ならば,各整数 $a \in \mathbb{Z}$ に対し $F(a) = a$ であることを示せ.\vs1
(2) 環準同型 $F \colon \mathbb{Z}[T] \to \mathbb{C}$ で,$F(T) = \sqrt{2}$ を充たすものが一意的に存在することを示せ.\vs1
(3) (2) の準同型 $F$ の像 $F(\mathbb{Z}[T])$ を書き下せ.

FCRT40:多項式環からの写像


『はじめての可換環』第3章「可換環をのぞきこむ」もあれよあれよという間に最終回となりました.いろいろな可換環から,あるいは可換環への準同型を作ってきましたが,とりわけ多項式環からの準同型写像は特徴的は性質を持ち,今後の糧としても極めて重要です.

再考:多項式環とは何か?

(整数係数の)多項式環は「可換環をつくる」で作ったことがあります.整数に成分をもつ,有限個を除いて $0$ である数列の全体に,加法を成分ごとの和,乗法をたたみこみ積によって導入し可換環としたものを多項式環というのでした.

 ところで,可換環論を含む代数学という分野では,ある対象を考える上で
それがどのように作られるか?
よりも
それがいかに振る舞うか?
がしばしば重視されます.構成方法は考察対象の存在を示すには有効ですが,その性質の考察には構成要素の姿かたちに過度に固執せず,目的に応じて見方を変えたほうが幸便な場合が多いのです.

 代数学の主たる研究対象は代数的対象と呼ばれます.いささか同語反復的な印象がなくはないですが,代数学とは代数的対象の性質を研究する学問と言えます.この代数的対象というのは,さまざまな数学のいろいろな対象から代数的手法で調べられそうな(演算を中心とする)構造を抽出したものです.全く異なる由来と見た目を持つものから,抽象化と捨象を経て共通の構造や性質が見出されていく.これは代数学の醍醐味のひとつと言えるでしょう.
 ということは,です.同一の代数的対象であっても,出自や見方によって多様な表現方法が存在しうるのです.言うなれば,我々が積み重ねてきた数学的背景に応じて,同じ対象なのに見え方が変わる場合がありうるのです.このあたりのことは,まだお話もしていませんが,「群」を扱い始めるとより顕著に感じられることでしょう.

 少し話がそれましたが,つまり問題は
多項式環を多項式環たらしめる性質とは何なのか?
です.そしてさらに,その性質を充たすものは多項式環として同様に扱えるし扱って良いというのが代数学の基本的な考え方です.そうであれば,場合により扱いやすい表現に取り替えてよいのも頷けます.
 前置きが長くなりましたが,多項式環を特徴づける性質を与えましょう.

定理-定義(多項式環の特徴づけ)単位的可換環 $A \ne 0$ に対し,可換環 $S$ とその要素 $T \in S$ の組 $(S,T)$ で以下の性質を充たすものが存在する:
  1. $A$ は $S$ の部分環である;
  2. 少なくとも1つは $0$ でない $A$ の要素の組 $(a_0, a_1, \ldots, a_n)$ に対し $$a_0 T^n + a_1 T^{n-1} + \cdots + a_n \ne 0``;$$
  3. 任意の $f \in S$ はある $A$ の要素の組 $(b_0, b_1, \ldots, b_m)$ を用いて $$f = b_0 T^m + b_1 T^{m-1} + \cdots + b_m$$ と表せる.
この $S$ を $A$ 係数の多項式環といい,しばしば $A[T]$ と表す.

 多項式環を定義する場合に,しばしば「変数」と呼ばれる不思議なブツをどこからともなく引っ張ってきて,そしてそれはなぜか元の環の要素と足したり掛けたりでき,いつの間にか可換環になっている……という操作を披露する人はしばしばいます.かつてのぼく自身がそうでした.しかし,このやり方はあまりいいやり方とは言えません.これを回避するために,あえて数列の集合として多項式環をつくったのです.
 変数の特徴は,上記の定理-定義の中で言えば 2. および 3. の性質にあります.この条件が成り立つことを「$T$ は $A$ 上代数的に独立(または $A$ 上超越的)である」といいます.また,3. の条件が成り立つことを「$T$ は $A$ 上 $S$ を生成する」といいます.条件 2. と 3. は一般には互いに関係はなく,$A$ 上代数的に独立だが $S$ は生成できない要素もいくらでもありますし,$A$ 上 $S$ を生成する要素が代数的に独立とは限りません.つまり,多項式環とは
$A$ 上代数的に独立な要素 $T$ が生成する可換環
のことで,この性質を充たす限りは──それがいかなる見た目や出自を持つ環であろうと──多項式環と呼んでよいし多項式環として扱って構いません.

 本来ならばここで「多項式環をつくる」で構成した可換環が本当に多項式環となっているか確かめるべきなのでしょう.しかし,多項式環がどう振る舞うかさえ知っていれば,実際に何を引き起こされるのか観察することは充分に可能です.そこで今回は上記の定理-定義を指針として「多項式環ならばどう振る舞うか」から問題へとアプローチする方法を考えましょう.
 条件 2. と 3. は,次のようにひとつにまとめられます.

補題.$S$ を可換環,$A$ を $S$ の部分環,$T \in S$ とする.$A$ および $T$ が上記定理-定義の条件 2. および 3. を充たすための必要充分条件は,
  • 任意の $f \in S$ はある $A$ の要素の組 $(c_0, c_1, \ldots, c_l)$ を用いて $$f = c_l T^l + c_{l-1} T^{l-1} + \cdots + c_0$$ と一意的に表せる
ことである.

 定理-定義の条件と見比べると,$T$ の代数的独立性が「一意的に」という一語に押し込められてしまったような印象を受けます.では,証明してみましょう.

証明 必要性から示します.$f \in S$ を任意にとって固定します.条件 3. により,$A$ の要素の組 $(c_0, c_1, \ldots, c_l)$ を用いて $$f = c_l T^l + c_{l-1} T^{l-1} + \cdots + c_0$$ を充たすものが少なくとも1組存在します.他に組 $(b_0, b_1, \ldots, b_m)$ で $$f = b_m T^m + b_{m-1} T^{m-1} + \cdots + b_0$$ を充たすものがあれば,$a_t := c_t - b_t$ とおくことで $$ 0 = a_n T^n + a_{n-1} T^{n-1} + \cdots + a_0$$ が成り立ち,条件 2. により各 $t$ に対し $a_t = 0$ を得ます.これは総ての $t$ に対して $b_t = c_t$,すなわち表示 $$f = c_l T^l + c_{l-1} T^{l-1} + \cdots + c_0$$ が一意的であることを意味しています.
 充分性を示します.条件 3. は明らかでしょう.また,$(0)$ は $0 \in S$ を表示する要素の組であり,一意性によって $0$ を表示する組は $(0)$ しかありません.これは条件 2. を意味しており,充分性も証明できました.証明終

 前置きが伸び続けておりますが,そろそろ切り上げて問題に移りましょう.

問題の考察

 問題はいずれも,多項式か $\mathbb{Z}[T]$ から複素数の全体 $\mathbb{C}$ への準同型写像についての問題です.この2つの環は $\mathbb{Z}$ を部分環にもつ点で共通しており,この事実が基礎となって問題を支え続けています.この基礎を明文化したものが問題 (1) です.

(1) $\mathbb{Z}$ は $\mathbb{Z}[T]$ および $\mathbb{C}$ の共通の部分環なので,両者の単位元 $1$ はともに $\mathbb{Z}$ の単位元 $1$ です.準同型 $F \colon \mathbb{Z}[T] \to \mathbb{C}$ は $F(1) = 1$ を充たします.整数 $a \in \mathbb{Z}$ は $1 $ を何回か足したり引いたりして得られるので,「$\mathbb{Z}$ への準同型はあるか?」でも展開した議論と同様に $F(a) = a$ とわかります.

(2) $S$ の要素は $f = f(T) = a_n T^n + a_{n-1} T^{n-1} + \cdots + a_0$ と表現されます.この要素 $f$ が $F$ によってどう写されるかを考えます.$F$ は準同型なので,加法・乗法を展開できて $$ F(f) = F(a_n) F(T)^n + F(a_{n-1}) F(T)^{n-1} + \cdots + F(a_n)$$ です.(1) により $F(a_t) = a_t$,仮定により $F(T) = \sqrt{2}$ なので $$ F(f) = a_n \sqrt{2}^n + a_{n-1} \sqrt{2}^{n-1} + \cdots + a_n = f(\sqrt{2})$$ です.条件「$F(T) = \sqrt{2}$ なる準同型写像」は存在するならばこの「$T$ に $\sqrt{2}$ を代入する」写像しかなく,特に存在すれば一意的です.
 あとはこの写像が準同型であることを確かめれば充分ですが,実は一般に「多項式の変数にある要素を代入する」という写像は準同型になることが知られています.すなわち次が成り立ちます:

命題.$A$ を可換環,$B$ を $A$ の拡大環($A$ を部分環にもつ可換環)とする.$b \in B$ に対して定まる写像 $$F \colon A[T] \to B~~;~~ f(T) \mapsto f(b)$$は準同型である.

(3) 像は $$F(\mathbb{Z}[T]) = \{ a + b \sqrt{2} \mid a, b \in \mathbb{Z} \}$$ です.$F(a+bT) = a + b\sqrt{2}$ から $\supset$ は明らかでしょう.また関係式 $\sqrt{2}^2 = 2$ を活用すれば,2次以上の項は1次以下の項に帰着することができ,$\subset$ もわかります.

 (3) の結果がシンプルになったのは,関係式 $\sqrt{T}^2 = 2$ のおかげでした.しかし,代入する値によっては全く関係式が存在しない場合もあり得ます.例えば円周率 $\pi$ はこのような関係式をまったくもたないことが知られており(超越数といいます),$「\pi$ を代入する写像」$\mathbb{Z}[T] \to \mathbb{C}$ の像 $$ S := \{ f(\pi) \mid f \in \mathbb{Z}[T] \}$$ と要素 $\pi \in S$ の組 $(S, \pi)$ は多項式環となるための要請(定理-定義の条件)を充たします.つまり,$(S,\pi)$ もまた多項式環なのです.これは「多項式環をつくる」で紹介した多項式環のつくりかたとは全く異なる出自と由来をもちますが,環論的な観点からは同様に振る舞い同様の性質をもちます.その性質を充たすものは多項式環として同様に扱えるし扱って良いということの意味がお解りいただけるでしょうか.

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