こんにちは,龍孫江です.龍孫江のよろず語り「有限群のおもちゃ箱」第3回の問題はこちらです.

問題 3.$p$ を奇素数とするとき,位数 $2p$ の群は巡回群または二面体群であることを証明せよ.
SmlGrp03:Cauchyの定理と位数2pの群


「有限群のおもちゃ箱」は,基本的には位数の素因数が少ない方が分類が容易であろうという観察に沿って進んでいます.第1回は位数が素数の場合,第2回は位数が素数の2乗と,ここまでは素因数の種類が1種類の場合に話を進めてきました.ここからは,素因数が2種類の場合に入っていきます.
 ちなみに,異なる3種類の素因数をもつ最小の正整数は $30 = 2 \times 3 \times 5$ です.素数を小さい方から3つ選んで掛け合わせればよいわけですが,これは同時に $30$ 未満の正整数は高々2種類の素因数しか持ちえないことを示しています.

 素因数が2種類の場合,素因数同士の関係が群の型にも微妙に影響を及ぼします.$30$ 以下の正整数で,2個の異なる素数の積で表される数には
  • 偶数の場合 $\cdots$ $6$, $10$, $14$, $22$, $26$;
  • 奇数の場合 $\cdots$ $15 = 3 \cdot 5$, $21 = 3 \cdot 7$
の2通りがあり,また厳密に言うと $15$ と $21$ の具合も微妙の異なります.ちょっとした微妙な違いから,多くの人の手を経て差異が現れるのはなんとも興味深い話です.

Cauchy の定理

 今回の“おもちゃ”は,要素の位数にまつわる Cauchy の定理です.
定理(Cauchy の定理)$G$ を有限群とする.$p$ を $\# G$ の素因数とするとき,$G$ は位数 $p$ の要素を含む.

 Cauchy の定理は,位数 $\# G$ の素因数が1種類($\# G$ が素数 $p$ の冪 $\# G = p^s$)のときには当然過ぎて真価を発揮しにくいように感じます.Lagrange の定理によれば総ての要素の位数は $p$ の冪ですから,適当に何乗かすれば位数 $p$ の要素はすぐに見つかります.すぐに見つかるものが「存在する」と言われてもあまり嬉しくはないですよね.珍しいもの,存在が判然としないものが「存在する」と断言されればこそ,それを手がかりにして先へ進めるわけです.

 この Cauchy の定理を使って,位数が異なる2個の素数の積 $pq$ である群の重要な特徴を証明しましょう.$G$ の位数を $pq$,ここで $p$, $q$ は相異なる素数,とします.Cauchy の定理によって位数 $p$ の要素 $x$ と位数 $q$ の要素 $y$ が存在することがわかるのですが,実は $G$ のどの要素もこれらで表せること,すなわち次の補題を証明します.

補題.$G = \langle x, y \rangle$.

証明 $H := \langle x \rangle \cap \langle y \rangle = \{1\}$ に注意します.$H$ は $\langle x \rangle$ および $\langle y \rangle$ の部分群なので,Lagrange の定理により $\# H$ は $p$ および $q$ の約数です.ここから $\# H = 1$,すなわち $ H = \{1\}$ を得ます.

 続いて $I := \{ (s,t) \in \mathbb{Z}^2 \mid 0 \le s < p,~0 \le t < q \}$ とおき,$(a,b)$, $(a',b') \in I$ に対して
$(a,b) \ne (a',b')$ ならば $x^a y^b \ne x^{a'} y^{b'}$
を示します.これが言えれば,要素の数の比較によって $$G \supset \langle x, y \rangle \supset \{ x^ay^b \mid (a,b) \in I\}$$ なる系列の各項は総て等しいこと,特に $G = \langle x, y \rangle$ が示せます.ところで,$x^a y^b = x^{a'} y^{b'}$ とすれば $$ x^{a-a'} = y^{b'-b} \in \langle x \rangle \cap \langle y \rangle = \{1\}$$ なので $a-a'$ は $p$ の,$b'-b$ は $q$ の倍数ですが,$a$ の $a'$, $b$ と $b'$ の取りうる値の範囲を鑑みれば,$a - a' = b'-b = 0$しかあり得ません.証明終

指数 $2$ の部分群

 もうひとつ,有名な事実を証明しておきたいと思います.この事実のさらなる一般化は,次回にでも紹介する予定です.

命題.群 $G$ の部分群 $H$ の指数が $2$ ならば,$H$ は $G$ の正規部分群である.

証明 $H$ の指数が $2$ なので,$G$ の $H$ による右剰余類,および左剰余類はともに $H$, $G \setminus H$ の2つです.ここから,$g \in G$ に対し
  • $g \in H$ のとき $gH = H = Hg$;
  • $g \not\in H$ のとき $gH = G \setminus H = Hg$;
であり,いずれにせよ $gH = Hg$ が成り立ちます.証明終

 $x$ と $y$ の関係を調べるには,共役 $yxy^{-1}$ が何になるか? が気になるポイントです.$H = \langle x \rangle$ の指数は $2$ ゆえ正規部分群で,$$ yxy^{-1} = x^{k} \in H$$ なる $k$(ただし $0 \le k < p$) が存在します.この $k$ の可能性を考えましょう.

 $y$ の位数は2なので「$y$ で共役をとる」操作を2回繰り返すと元に戻ります.そこで,要素 $(y^2) x (y^2)^{-1}$ を2通りに計算します.ひとつは $y$ 自身の性質 $y^2 = 1$ を使って $$(y^2) x (y^2)^{-1} = x$$です.
 もうひとつは,結合則を用いて $(y^2) x (y^2)^{-1} = y (yxy^{-1}) y^{-1}$ と見做す方法です.$yxy^{-1} = x^k$ としているので,$$(y^2) x (y^2)^{-1} = y (x^k) y^{-1} = (yxy^{-1})^k = (x^k)^k = x^{k^2}$$です.

 このようにして得られた等式 $x = x^{k^2}$ から,合同式 $$ k^2 \equiv 1 \pmod{p}$$ が得られます.今 $k$ は $p$ 未満の非負整数からとっていたので,これを充たす解は $k = 1$ または $k = p-1$ の2つしかありません.あとはこのそれぞれについて,関係式を決定しましょう.

群の型の決定

 では,いよいよ位数 $2p$ の群を分類しましょう.先述のように,位数 $p$ の要素 $x$ と位数 $2$ の要素 $y$ をとったときに,$yxy^{-1} = x^k$ となる $k$ が問題でした.これを充たすケースとして $k= 1$,$k = p-1$ の場合があり,順番に考えます.

(1) $k = 1$ のとき このとき $yxy^{-1} = x$ から $xy = yx$ です.生成系である $x$ と $y$ が互いに可換なので,$G$ 全体が可換です.整数 $t$ が $$ (xy)^t = x^t y^t = 1$$ を充たすとすれば,$x^t = y^{-t} \in \langle x \rangle \cap \langle y \rangle$ から $t$ は $2$ の倍数かつ $p$ の倍数,すなわち $2p$ の倍数でなければなりません.一方 $xy$ の位数は $\# G = 2p$ の約数ですから,ちょうど $2p$,すなわち $G$ は $xy$ が生成する巡回群と結論されます.

(2) $k = p-1$ のとき さきほどは整理のために $k$ を $p$ 未満の非負整数としましたが,$x^{p-1} = x^{-1}$ であり,以下この2つの表示は自在に行き来するものとします.

 $yxy^{-1} = x^{-1}$ のとき,$x^a y$ の形の要素の位数を求めます.試しに2乗すると $$ (x^a y)^2 =
x^a (yx^a y) = x^a \cdot (x^{-a}) = 1$$ となり,位数は $2$ です.$G$ は位数 $2$ の要素を $p$ 個含むので,その全体を $$ Z := \{ x^a y \mid 0 \le a < p \}$$とおきます.この集合に,$G$ が共役で作用します:
$g \in G$, $z \in Z$ に対し $g \cdot z := gzg^{-1}$
 この作用によって $G$ が $p$ 点集合 $Z$ のいかなる置換を引き起こすかを調べると
  • $x \cdot (x^a y) x^{-1} = x^{a + 2} y$;
  • $y \cdot (x^a y) y = x^{-a} y$;
となりますから,$Z$ を円周上に等間隔に配置すれば,
  • $x$ の作用 …… 然るべき角度の回転;
  • $y$ の作用 …… 頂点 $y$ を通る直径を軸とする鏡映
となり,$G$ は二面体群と同型であることが明らかになりました.

 実は,位数が異なる素数2個の積 $pq$ の群では,基本的な考え方は変わりません.位数 $p$, $q$ の要素からなる生成系を取り,それらの絡み合い方を解きほぐすことで群の型があらわになっていきます.しかし,選ばれた2つの素数の相性によっては,群が複雑になったりならなかったりする,まったく不思議な話です.

 最後までご覧いただきありがとうございました. 今後ともご愛顧のほど, よろしくお願いいたします.
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