こんにちは,龍孫江です.「はじめての可換環」第37回の問題はこちらです.

問題 37.$R := \mathbb{Z} \times \mathbb{Z}$ を直積環とする.写像$$T \colon R \to R~~;~~(x,y) \mapsto (y,x)$$について,以下を確かめよ:
(1) $T$ は準同型である.
(2) $T$ は全単射である.
(3) 準同型 $F \colon \mathbb{Z} \to R$ に対し,$T \circ F = F$.

FCRT37:準同型が全単射なら


「可換環をのぞきこむ」の目的は環準同型の観察でした.以降も,いろいろな環準同型の例をご覧いただこうと思います.今回の主題は
全単射である準同型について
です.

問題の解法

 まずは問題を解くところから始めましょう.「確かめよ」と言うように,問題自体が問題というよりは,形式をきちんと確かめられるかが問題です.数学においても考えたことを形式に則って文章化するという技術はとても重要です.

(1) 繰り返しますが,準同型とは加法,乗法,単位元を保つ写像のことでした.$a = (x_1,y_1)$, $b = (x_2,y_2) \in R$ に対し $$ a+b = (x_1+x_2, y_1+y_2),~~~ab = (x_1x_2, y_1y_2)$$ ですから,$$ T(a+b) = (y_1 + y_2,x_1+x_2),~~~T(ab) = (y_1y_2, x_1x_2)$$ です.一方,$T(a) = (y_1,x_1)$, $T(b) = (y_2,x_2)$ なので $$ T(a) + T(b) = (y_1,x_1)+ (y_2,x_2),~~~T(a) T(b) = (y_1,x_1) (y_2,x_2)$$ です.直積の演算の定義によって,$T(a+b) = T(a) + T(b)$, $T(ab) = T(a) T(b)$ を得ます.また $R$ の単位元は $1_R = (1,1)$ なので$$ T(1_R) = (1,1) = 1_R,$$以上をまとめて $T$ は準同型とわかります.

(2) 全単射性を確かめるには,定義に従ってごちゃごちゃやるよりも逆写像を構成してしまうのが手っ取り早いです.幸い,今回の写像 $T$ はかなり見やすい形をしていますから,逆写像もおおかた想像がつきます.
 $T^2 = T \circ T$ を考えますと,$a = (x, y)$ に対して $$ T^2(a) = T((y,x)) = (x,y),$$すなわち $T^2 = \operatorname{id}_R$ です.これは $T$ 自身が $T$ の逆写像であることを意味し,特に $T$ は全単射です.

(3) 準同型 $F \colon \mathbb{Z} \to R$ を書き下すことから始めましょう.この写像は,整数 $n$ を単位元 $1_R$ の「$n$ 倍」の写す写像でした.$1_R = (1,1)$ なので,$$F(n) = n \cdot (1,1) = (n, n)$$です.このように書き下せば$$ (T \circ F)(n) = T((n,n)) = (n,n) = F(n),$$ すなわち $T \circ F = F$ が成り立つことが確認できました.証明終

「同型」について

 さて,今回の問題に関連して,ひとつとても重要な概念を定義します.

定義(同型)$A$, $B$ を可換環とする.
(1) 可換環の準同型 $F \colon A \to B$ が全単射のとき同型という.
(2) 同型 $F \colon A \to B$ が存在するとき,$A$ は $B$ に同型であるといい,$A \simeq B$ と表す.

 同型というのは一種の相等関係,つまりある程度の解像度での「同一性」を表す概念なのですが,2つの可換環が
可換環という枠組みの中では区別できない
こと(距離や位相,順序などの他の構造を使えば区別できる可能性はあります)を意味します.この同一性の指針となるのが同値関係で,その条件を充たす関係はだいたい相等性を表す概念であると考えてよいものです.以下がその条件です.

定理 $A$, $B$, $C$ を可換環とする.
(1) $A \simeq A$;
(2) $A \simeq B$ ならば $B \simeq A$;
(3) $A \simeq B$,$B \simeq C$ ならば $A \simeq C$.


 この定理の証明のため,次の補題を示します.

補題 $F \colon A \to B$, $G \colon B \to C$ を準同型とする.
(1) 合成 $G \circ F \colon A \to C$ も準同型である.
(2) $F$ が全単射のとき,逆写像 $F^{-1} \colon B \to A$ も準同型である.


補題の証明 (1) $x$, $y \in A$ に対し $$ (G \circ F)(x+y) = G(F(x) + F(y)) = (G \circ F)(x) + (G \circ F)(y)$$ および $$ (G \circ F)(x \cdot y) = G(F(x) \cdot F(y)) = (G \circ F)(x) \cdot (G \circ F)(y),$$すなわち $G \circ F$ は加法および乗法を保ちます.また $$(G \circ F)(1_A) = G(1_B) = 1_C$$ から $G \circ F$ は単位元も保ち,特に準同型です.

(2) $F \colon A \to B$ が全単射のとき,$a \in A$ および $b \in B$ に対し
$b = F(a)$ $\iff$ $a = F^{-1}(b)$
に注意します.$b_1, b_2 \in B$ をとり $a_t = F^{-1}(b_t)$($t = 1, 2$)とします.上の注意によって $F(a_t) = b_t$ であり,ここから $$ F(a_1 + a_2) = F(a_1) + F(a_2) = b_1 + b_2$$ および $$ F(a_1 \cdots a_2) = F(a_1) \cdot F(a_2) = b_1 \cdot b_2$$ です.再び上の注意によれば,この等式は $$ F^{-1}(b_1+b_2) = a_1 + a_2,~~~F^{-1}(b_1 \cdot b_2) = a_1 \cdot a_2$$ を意味しますから,$F^{-1}$ は加法および乗法を保ちます.また $F(1_A) = 1_B$ から $F^{-1}(1_B) = 1_A$ です.証明終

定理の証明 (1) 恒等写像 $\operatorname{id}_A \colon A \to A$ は同型です.
(2) 同型 $F \colon A \to B$ に対し,逆写像 $F^{-1} \colon B \to A$ は準同型かつ全単射,すなわち同型です.
(3) $F \colon A \to B$ および $G \colon B \to C$ が同型のとき,合成 $G \circ F \colon A \to C$ は準同型かつ全単射,すなわち同型です.証明終

 引き続き,準同型や同型を使って可換環を観察していきましょう.

 最後までご覧いただきありがとうございました. 今後ともご愛顧のほど, よろしくお願いいたします.
ランキング参加中です.