特殊高所技術の広場(ロープ高所作業,ロープアクセス)

特殊高所技術とロープ高所作業、世界のロープアクセス技術について、業種・会社の垣根を越えて、いろんなことを話してゆきたいです。

カラビナを実際の墜落で破壊してみた

一般社団法人特殊高所技術協会:TKGSの1級講習会で実施した墜落実験です。
https://www.facebook.com/tkgs.or.jp/videos/1092076837550712/

今回は、カラビナの破断実験をしました。
Case1:ゲートが開いた状態→5.2kN
Case2:横方向荷重状態→7.7kN
カラビナの強度が、ゲートオープン状態と横方向では劇的に弱くなることは、みなさん数値的には理解しているかと思います。...
しかし、具体的に「どれぐらいの墜落現象で、弱点状態のカラビナが破壊するのか」と、経験的・感覚的に落とし込めている人はあまりいないでしょう。
今回は、ナイロンスリング二重巻きで自己確保(セルフビレイ)をとった状態から墜落させて、カラビナを破断させています。
1.伸び性能のないスリングで自己確保を取ることは危険である
2.カラビナはゲートをしっかり締めて、縦方向に使うこと
以上2点の重要性を理解いただければと思います。
何かにつながっているだけでは、安全とはいえません

+++
改めて、通常速度の動画をよく見ると、カラビナの破断時にほとんどダミー人形の落下速度が落ちていないのですよね。
落下係数FF=1.0でもカラビナは十分割れていたと思います。
当時は「講習会の時間も押していたので、確実に割れる落下エネルギ量をカラビナに与えたい。」という思惑がありました。

なので、一撃必殺、落下係数F=2.0でやってました。
完全KOです。

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どんな優れた機材にも、弱点があります。
アキレスの踵のように。
それを探し出して理解しておくことは、生き残る上で大切です。





https://youtu.be/zH1N46UJGlM

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今後、最新情報等は、一般社団法人特殊高所技術協会のFBページやWebにて公開されることが多くなってゆく予定です。
https://www.facebook.com/tkgs.or.jp/
http://www.tkgs.or.jp/
このブログ、開設当初は個人的なブログでしたが、
だんだんとやっていることの非プライベート性が高くなってしまっていので、
こちらでの更新が滞り気味です。
ご容赦を。

PETZL アサップロック アーム部に亀裂が生じる事例が報告されています

1
【製品に関する事故例情報】
PETZL アサップロック使用者は至急、
下記リンクの記事の写真を見て、同一箇所、
アーム部のクラックの有無を確認してください。

もし亀裂があるようであれば、購入元に報告してください。
輸入代理店のアルテリア様からもじきにアナウンスがあるかと思います。

PETZLクロール チェストアッセンダのカム軸破断事故に関する PETZLの報告書


国外でPetzl クロール:チェストアッセンダのカムの軸が折損破断する事故があり、その後、Petzlからの原因調査結果のアナウンスが出ました。

英語
http://www.petzl.com/en/pro/news/safety-information/2014/04/28/customer-information-use-petzl-croll-b16-b16aaa-in-corrosive-

日本語
http://www.alteria.co.jp/download/pdf/info/Customer%20Information%20update%20on%20the%20Petzl%20CROLL%20-%20JP1405.pdf

結論は、
カムの軸に使われている、ステンレススチールの腐食環境下での疲労破壊「応力腐食割れ」
ということでした。
非破壊検査の世界では「まあ、一般的なよくある話」でもあります。

腐食に強いステンレス。
なのに、腐食環境下では最大破断強度には影響がないけど、繰り返し応力による疲労破壊には、比較的弱くなってしまうという特徴があります。
詳しく知りたい人は、「応力腐食割れ」「ステンレス」で検索してみると良いかと。
https://www.google.co.jp/#q=%E5%BF%9C%E5%8A%9B%E8%85%90%E9%A3%9F%E5%89%B2%E3%82%8C+%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%B3%E3%83%AC%E3%82%B9


今回の事故は海上油田プラットフォームのような、つねに海水飛沫を浴びるような環境で使われ続けた個体であることが報告されているので、原因としては十分でしょう。
あとは、その個体がマメに水洗いなどで「塩抜き」していたのかが気になりますね。おそらく、あまりハーネス等を洗わない人・組織だったのでしょうか。
やはり腐食環境で使用したPPEはマメに洗浄しないと問題が生じるということです。
アルミニウムの腐食問題については、すでに記述した記事「酸性のヘドロでカラビナが腐食する」も参考にしてください。
http://blog.livedoor.jp/rope_access_eng/archives/565005.html

あと、疲労破壊って何?って人は、基本的な話をネットなどで検索して調べた上で、
アルミニウム合金のカラビナの疲労強度は3kN程度@10^7回負荷か?http://blog.livedoor.jp/rope_access_eng/archives/1360308.html
を参考にしてみてください。

僕が気になっているのは、報告書に記載されているPETZLが実施した、クロールの疲労破壊実験。
腐食環境ではない、通常環境下で、クロールに100kgfの重りを何回も載せる試験をやってます。
で、結果は
「カムの軸より先に、クロール自体が壊れたよ」
というもの。
これをもって、
「カムの軸は悪くない、ユーザーが腐食環境下で十分なメンテナンスをしなかったのが原因だ」
と言いたいのでしょう。
それはごもっともです。

一方で、僕としては、
「本体の方が先に疲労割れで破壊しているとして、それって、応力振幅が何Nで、何万回で壊れているの?」
ってことが気になっている。
おそらく、日本で特殊高所技術が一番、クロールを酷使していると思っている。
自分のチェストアッセンダが年間に登っているロープの延長が1万m程度だとして、年間チェストアッセンダーには約2万回の繰り返し応力が作用している計算になる。
ここは、是非とも、PETZLさんに、クロールの疲労破壊実験の詳細な情報の公開をしてもらいたい。

********
この報告書で、使い続けたらいつかクロールって破断するってことーーー?
と思った人、多いかと思います。
鉄鋼製品には「疲労限界」という、
「何N以下なら一千万回繰り返し応力をかけても疲労破壊しないよ」
というものがあります。
しかし、アルミニウム合金では一千万回の繰り返し負荷に耐えても、
その後、継続して繰り返し負荷を与えてゆくと疲労破壊を生じることがわかっています。
鉄鋼材料と異なり、アルミニウム合金は疲労限度を持たず、
繰り返し負荷のもとでいずれは破壊する運命にあるのです。
その辺の話も、
アルミニウム合金のカラビナの疲労強度は3kN程度@10^7回負荷か?http://blog.livedoor.jp/rope_access_eng/archives/1360308.html
を参考にしてみてください。






ダイニーマスリングはほつれに注意

ダイニーマスリングはほつれに注意しましょう。

ナイロンよりも高強度なダイニーマスリングですが、ナイロンよりも伸びにくく、衝撃荷重が大きくなりやすい欠点があるのはみなさんご存じでしょう。
ですが、維持管理面でもいくつか欠点があり、以下に注意して使う必要があります。

1.繊維の摩擦が少ない
ダイニーマ繊維は繊維自体の摩擦抵抗が少ないので、ほつれ始めると、ほつれの進行がナイロン繊維よりも早い傾向があります。

2.熱しても解けずに萎縮する
ダイニーマ繊維は、ナイロンと違い、ライターの火であぶっても溶けてドロドロにならずに、縮んでいきます。
つまり、切断末端のほつれを防止するために熱処理をしても、溶けて固まって1つにまとまってくれません。

この1.と2.の欠点は相乗効果を発揮します。末端は熱処理してもまとまらず固まらず、しかも、ほつれ始めると、どんどんほつれてゆく。
実際、一度ほつれ始めたスリングの末端は、瞬く間に縫い目までほつれてしまい、熱処理しても溶け固まらないので、もう破棄するしかなくなってしまいます。
P1140339P1140337

また、縫い目を起点にしてほつれ始めることもあります。たぶん、縫い針がスリングの縦糸ないし横糸を部分的に切断してしまうのが原因なのでしょう。ナイロンスリングでは、わずかなほつれは周囲の繊維との摩擦や絡み合いでその場に落ち着いてしまうことが多いのですが、ダイニーマ繊維は摩擦が少ないのでわずかなほつれが大きなほつれに伸展しやすいデメリットがあります。
P1140333P1140331P1140330P1140320P1140318

3.摩耗には相対的に弱い
金属でもそうですが、一般的に高強度のものは柔軟性に乏しくなり、耐摩耗性が低下しやすくなります。
ダイニーマも同様です。ナイロン繊維よりも高強度な分、対摩耗性についてはやや弱い傾向が見られます。
さらに、高強度である分、もともとナイロン繊維よりも断面積が小さい(細い)ので、同じ程度の摩耗具合でも、強度の低下率はナイロンよりも深刻なものになります。
また、もともと細いので、摩耗による目減りが触った感じではよくわからないのも、この問題のややこしいところです。
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健全な部分と摩耗した部分を並べてさわり比べても、もともと薄いので、その差が分かりにくいです。

P1140326
しかし、折り曲げて横から観察したり、折り曲げた個所を指でつかんで厚さを比べると、その摩耗具合がわかりやすくなります。

P1140329
折り曲げた個所では、表面繊維の損耗具合がよく見て取れます。
特殊高所技術ではこの程度の摩耗では破棄になります。

細くて丈夫なダイニーマ。その長所と短所をよく理解して、維持管理に努めてください。

*****脱線話*****

ダイニーマのもう一つの特性として、「染色できない」というのがあります。
染色が難しいんです。染めてもすぐに色落ちしちゃいます。
よって、ダイニーマスリング製品は、白色をベースにカラーラインが入った製品がほとんでしょう。
しかも、色のついた部分というのは、実はナイロン繊維です。
P1140337
この写真を見てください、白色のダイニーマは火にあぶられて萎縮していますが、両端の赤いナイロン繊維は、溶けて焦げてますね。
同じく、ケプラーやアラミド系の高強度ポリアミド系繊維も染色が困難なんです。

さらに脱線しますが、昔、群馬山岳連盟がスポニチをスポンサーにサガルマータ遠征をした際、アラミド系繊維で作られた軽量なザックが作成・隊員に支給されましたが、やはり染色ができないので、珍しい白色のザックでした。
ただ、背面に国旗をもったカエルの絵が樹脂プリントされてましたね。
このザックをとても軽いからと言う理由で長期にわたって修理しながら愛用されていた方がいましたが、ナイロンの生地よりも摩擦が少なく、普通に縫っても糸が抜けてきてしまうと言ってました。
もう、かれこれ、18年近く前の話ですけどね。

安全帯の墜落実験 三つヨリランヤードvsアブソーバ付きランヤード


国交省のイベントや某高速道路関連会社の安全大会向けに作成したプレゼン資料用に行った実験の模様をUPします。

主題は何かというと、
「もうせめて、三つヨリロープはやめて、アブソーバ付きのランヤードを使おうよぉ」
「できれば、胴ベルトじゃなくて、全身型安全帯(フルハーネス)を使いませんか」
という話です。

胴ベルトの安全帯と、三つヨリロープのランヤードでは、墜落衝撃荷重が大きくなりすぎます。
地べたまで落ちることはないのですが、腰椎や内臓を負傷するリスクがかなりあります。
今、日本の規格では、最大衝撃荷重を8kN以下にするようになっています。
しかし、胴ベルトで8kNという衝撃荷重は、
「一命を取り留められる」
程度でしかなく、大抵の人間は重度の障害を負うことになります。
端的にいうと、腰の骨が折れて車椅子生活が待ってます。
もうちょっと大事な事をいうと、股間は一切感覚もなく機能もしません。

墜落衝撃荷重と人体の負傷程度の関係については、日本ではほとんどデータがありません。
海外文献を調べてみても、ボランティアによる人体実験や動物実験で大まかななところがわかっている程度です。
(このボランティアによる人体実験ってのが、アメリカの空軍が自軍の兵に志願者を募って行っているんだけど、ボランティアって表現が本当に適切なのかなぁ。)
複数のいまいち釈然としない実験結果をまとめると、だいたい以下のような図になる。

墜落衝撃荷重と人体の受ける負傷程度の関係_横kNバージョン
















これでわかるように、病院送りになりたくないなら、胴ベルトで4kN以下、全身型ベルト(フルハーネス、フルボディハーネス)で6kN以下に衝撃荷重を抑えないといけない。

胴ベルトと全身型の違いは何か。
ランヤードを通じて人体が受ける衝撃荷重をいかに分散して体に伝えられるかである。
胴ベルトは衝撃荷重のすべてを腹部で受ける。
全身型は、脚付け根、腰、背中ないし胸の各部に衝撃荷重を分散できる。
その差が上記の4kNと6kNの差になる。
全身型のほうがより大きな衝撃荷重に人体型が耐えられるということである。

一方、ランヤードの役割は作業員が地べたまで墜落しないように、なにかに繋ぎ止め、
かつ、墜落衝撃荷重を適切にコントロールすることである。
よって、ランヤードは鋼ワイヤーのように伸びない素材だと衝撃荷重が大きくなりすぎて不適切。また、バンジージャンプで使うゴムひものようにやたらと伸びる素材では、衝撃荷重は小さいものの、ランヤードが伸びすぎて地面まで墜落したり、落下中にどこかに体をぶつけて負傷するリスクも増えます。
よって、ランヤードは墜落衝撃荷重を人体が耐えられる程度の大きさに制御しつつ、落ちる距離を極力小さくするように設計することになる。


では、実際の墜落の状況を動画で見てゆきましょう。

1.ふつーの三つヨリランヤードで落下距離1.5m
2kN_IMG_5317










2kN_グラフ2

衝撃荷重 最大8.2kN セカンドインパクト3.0kN
派手に跳ねてます。
胴ベルトで8.2kNくらうと、ほぼ腰椎骨折します。
そこに、セカンドインパクトで3kNくらいますから、腰椎内の神経やられちゃいますよね。
もしかすると、脾臓や肝臓もやられるかもしれません。
あの世行きになるかは微妙なラインですが、少なくとも病院行き、そしてほぼ車椅子生活が待ってます。
一命は取り留めますが、いろいろと失うものは多いでしょう。

2.アブソーバ付きランヤード 落下距離1.5m
4kN_CIMG1390









8kN_グラフ3












衝撃荷重 最大3.8kN セカンドインパクト1.5kN
アブソーバだと、あまり跳ねません。
これなら、胴ベルトでも重傷には至らないですむかもしれませんね。
ただし、すぐに助けてもらえればの話。
全身型安全帯(フルハーネス)なら、無傷でしょう。笑って昼飯喰えます。

4kN_CIMG13914kN_CIMG13944kN_CIMG13994kN_CIMG1402









アブソーバがまだ伸びきってなかったので、とどめを刺すついでに、アブソーバが裂ける様子を近接撮影してみました。


というように、とにかく、胴ベルト三つヨリロープの組み合わせの安全帯を使っている人は、それ、さっさと捨ててください。せめてアブソーバ付きランヤードのついた安全帯を使ってください。
できれば全身型のフルハーネス、フルボディハーネスをつかってください。

プルージックコードのスリップ荷重の確認実験



φ11mmセミスタティックロープ
φ8mmプルージックコード
落下体質量 85kg

落下距離 H=1.2、1.5、1.7m

プルージックコード設定方法
3on3にてシングルおよびタンデム

****考察*****
1.スリップ荷重
0kN_グラフ9kN_グラフ









みんながいうように、3on3シングルでだいたい最大荷重7kN程度で滑っているということがわかりました。
滑り始めの荷重は7kNより小さい。5kN弱程度。
そこから、ノットが締めあがったりしながら、最大荷重が7kN程度の範囲内で滑っている。

2.スリップは複数回発生
一気にズルっと1回だけ滑るのではなく、小刻みに複数回に分けて滑ってます。
これはカムデバイスや下降器のスリップ現象とほぼ同じです。

3.プルージックコードが溶ける
ロープには溶けたプルージックコードが外皮がこびりつきます。
当然です。
スリップして墜落エネルギーを発散させるためには仕方ないです。
ロープとプルージックコードの接触面が滑って、摩擦熱を発生して、墜落エネルギーが発散されるためです。
落下直後はプルージックもロープもだいぶ熱くなります。
9kN_スリップ跡


4.再スリップ荷重はかなり大きい
溶けたプルージックコードの外皮は、ロープの外皮と溶着します。冷えると固着します。
この溶着したプルージックコードはロープから外れなくなります。くっついてますから。
べりべりと引きはがすことになります。
問題なのは、この状態で再荷重が掛かる場合、溶融固着しているので、以前と同じ7kNでは滑らないことです。
実験では11kNまで引張荷重を掛けても再スリップしませんでした。

5.再利用はできない
プルージックコードによる衝撃荷重の緩和発散効果は1回限りだと考えるべきでしょう。
一度、何かしらのトラブルで衝撃荷重が作用し、スリップしたプルージックコードはロープに溶着してしまいます。
そして、冷えて固着してしまうと、もう同じ荷重ではスリップしてくれなくなります。この状態ではオーバーロード過負荷を予防する性能が無いことになります。
また、プルージックコードの外皮自体がかなり擦り切れているので、再スリップが起きると、外皮だけでなく、内芯まで摩擦損傷を受けることになります。

6.正しい認識をもって活用する
プルージックコードがスリップすることで、衝撃荷重を緩和・発散するという原理には次の3点に着目しないと誤った認識を生みます。

1)最大荷重が目標とする管理荷重(一人あたり最大6kN程度以内)に収まるかどうか。
 スリップ荷重が大きくなると、人体に掛かる負荷が大きくなります。シングルのプルージックとタンデムのプルージックではスリップ荷重は変わってきますよね。

2)上記1)を実現させるために緩和・発散させなければならないエネルギー量が、プルージックコードがスリップすることで緩和・発散できるエネルギー量を超えていないか。
 スリップして摩擦熱を生んで落下エネルギーを発散させるメカニズムはプルージックコードの外皮による自己犠牲に支えられています。あまりに大きな質量、落下距離による大きな墜落エネルギーに対してはプルージックコードは摩擦とその熱で擦り切れて、最終的には切断してしまいます。
長距離の墜落をプルージックコードのスリップによる緩和・発散効果だけで受け止めるのにはおのずと限界があります。これは各種のカムデバイスや下降器でも同じです。
よって、アブソーバ製品と同様にそれぞれの器具が緩和・発散できる最大エネルギーをある程度把握して、安全な範囲内で使うことが求められます。

3)一度大きな荷重を受けてスリップを引き起こすと、プルージックコードとロープが摩擦熱で溶融、その後冷えて固着する。そして、同じスリップ性能は得られなくなる。

これを正しく認識していれば、プルージックコードは安全に使えます。

8年ぐらい過去にある組織がプルージックコードを静的引張試験機に掛けてその引張強度を確認した際に、プルージックコードがメインロープの外皮を引き裂いてしまう事例や、プルージックコード側が切断する事例があったと報告しています。
これは、静的引張試験機のように、ゆっくりのんびり長い距離をひっぱって行く過程で、何度かプルージックコードはスリップを繰り返すのですが、果てしなく引っ張り続ければ、
1)プルージックコードが摩耗して切断する
2)プルージックコードがスリップ後にロープに固着してスリップしなくなり、ロープ側の外皮が破れる
という現象が起きるのは当然です。
また、この試験結果では最大引張荷重も記載されていましたが、最大値にのみ着目して結果が整理されていました。そのため、プルージックが一度スリップして固着し、後に再スリップした際の高めの荷重値を拾っているテストケースも見られました。
1回目のスリップと固着後の再スリップは違う現象として考えて、得られたデータの整理を行わないといけないのですが、そこらへんが不十分です。
実験で起きている現象を注意深く観察できていないのか、それとも、実験者の都合にあわせて実験結果を整理しているのか、あるいは両方か。
テストケースごとの応力ー変位データがあれば、プルージックコードが破断するまでに緩和・発散したエネルギー量を計算できるのにもったいないことです。

*******テスト結果データ群***************

CASE1 落下距離H=1.2m 3on3シングル



0kN_グラフ




















CASE2 落下距離H=1.5m 3on3シングル



9kN_グラフ


















CASE3 落下距離H=1.7m 3on3タンデム(失敗:落下エネルギー不足)





8kN_グラフ


















8kN_スリップ跡_IMG14448kN_スリップ跡_CIMG1443






<まだ作成中>




化学繊維の化学薬品による損傷程度

化学繊維の化学薬品による損傷程度書籍Inspection Personal Fall Protection Equipment/Dr.DF Merchant に掲載されていた表をベースに、僕が情報を一部追加修正したものです。
内容について、ある程度裏を取れているものもあれば、そうではない部分もあります。
化学薬品は無数に存在し、それらが化学繊維に与える影響を網羅的に検証することは不可能です。
しかし、代表的な薬剤、溶剤、液体、ガスや、一般的な性質(酸・アルカリ・塩・油)などから、大まかな傾向を知っておくことは、現場での安全管理に必要不可欠です。

PDF版はこちら

岩登りをしていた頃の意識

僕、16歳から岩登りをしていました。
岩登りを始めたころは、カラビナ、ロープ、ハーネス等の破断強度が2ton程度あることに、無限の安全性を感じていました。正直、「え、2tonも持つの?、マジで、そんなに持つの?」と思ってました。
静止荷重と衝撃荷重の違いや大きさも理解どころか、貧弱な想像さえしていませんでした。
半分冗談で、3mmの細引きで5mの高さから懸垂して、地面まであと1mのところで紐が切れたりして、尻もちついたりしたこともありました。
今思い返すと、だいぶヤバイことも沢山してました。
エイト環に環なしカラビナを組み合わせて確保をしたりとか、知らずにやってた時もありました。
それに、当時はもちろんおそらく今でも岩登りをする上で十分な安全管理をしようなどという風潮はあまりなかったです。書籍などでもそういうことを扱った物はほとんどなかったでしょう。
正直なところ、
「何かに自分の体がつながっていればとりあえず安全なんじゃね?」
程度の考えでした。
ただ、廃刊寸前の雑誌「岩と雪」で当時、リードクライミングの墜落でカラビナが破断する事例が紹介されたり、ヨセミテを代表するアメリカンエイドクライミング技術が流入し始めてから、また、書籍「生と死の分岐点」が販売されてからは国内の岩登りでの安全への考え方が一部で理論的かつシステマチックになってきたかと思います。
それまでは、山での岩登りや、冬山での確保技術は「墜落してはいけないのが大前提、墜落したらあとは運次第」といった思想でした。それを技術や理論ですこしでも安全側に引き寄せようという人がすこしづつ増えてきたのではないかと思います。
それでも所詮、自己責任のレジャーや冒険の範疇ですから、執拗に安全性を追求することに俄然性はありません。危ないと思うなら登らなければいいのです。
正直、僕はもう岩登りしません、危ないからです。

一方、お仕事での高所作業はどうでしょう。
残念なことに日本の高所作業に携わる人の安全意識はおおむね、
「何かに自分の体がつながっていればとりあえず安全なんじゃね?」
程度の認識です。
安全帯メーカーが衝撃荷重を緩和できるアブソーバー付きの製品を出しても、全身型のフルハーネス製品を出しても、多くの人は「軽い、安い、邪魔にならない」という理由で胴ベルトに三つヨリロープ一丁掛けの3,000円程度の安全帯を使っています。
ただ、最近は高所作業の頻度の高い職種で2丁掛けが浸透しつつあることや、外資系が関与する現場や電気機械関係のグローバル企業が関与する現場でフルハーネスの普及が見られます。建築と土木では建築のほうが状況が改善されつつあります。土木はほとんど進化なしですね。
また、建築でも一般住宅建築はヘルメットさえ満足にかぶっていないのを街中でよく目にします。
不思議なことに日本の建設技術は世界最高水準であるにもかかわらず、高所作業の安全管理レベルは途上国と五十歩百歩どころか、下手をすると植民地時代の宗主国から積極的に技術導入をしている途上国の方が上です。
今後、日本の高所作業がより安全になるようにハード、ソフト、両面から改革をしてゆかなくてはなりません。

蒸気による熱影響を受けたカラビナを破棄する アルミニウム合金は熱に弱い

clip_2

とある現場で高温の蒸気が発生する施設がありました。
その施設を稼働させながら、合間を縫って内部で我々が作業をしていました。
しかし、一部の一時的に残置したカラビナとハンガーが高温蒸気に暴露されてしまいました。
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image
外観では何の変化もありません。

今回、その高温蒸気に暴露されたカラビナとハンガーを破棄するか継続使用するかを社内協議した結果、破棄することにしました。理由は以下の通り。

1.高温水蒸気の温度は不明である。しかし、周囲のコンクリート、レンガの熱影響損傷具合から、最大200℃程度はあったものと推定される。
また、現場周辺に設置されている耐熱仕様のセンサー類の性能を確認すると、使用周辺温度の上限は200℃であった。よって、現場は最大200℃程度の高温水蒸気雰囲気になりえると推定される。
(水蒸気って100℃じゃないんですかって、他の人に聞かれましたけど、水の沸点が一気圧で100℃なのであって、水蒸気の温度に上限はありません。)

2.カラビナに使われる7075-T6アルミニウム合金の製造時の熱処理行程を考慮すると、200℃の熱環境に数時間以上暴露されることによって、強度特性の変化が生じていないとは断言できない。
特に、T6熱処理の最終工程である人工時効硬化処理の温度は、100~200℃である。よって、今回、高温水蒸気に暴露されたカラビナは、製造時に行われた人工時効硬化処理の性能が失われている可能性がある。

3.もったいないけど、疑わしきは破棄せよの原則によるべき

**T6熱処理については以前の記事
鉄やステンは伸びて変形するが、アルミは割れる? 金属の性質について」を参照してください。
http://blog.livedoor.jp/rope_access_eng/archives/1141591.html

**人工時効硬化処理とは***
人工時効硬化処理は、100〜200℃の空気中で一定時間放置することで、金属結晶の構造が変化してゆき、軟らかさ、強度、耐腐食性を調整する処理です。
材質によって、最大強度が得られる温度と時間がだいたい決まっており、それより短時間で時効処理を終えると亜時効となり強度は控えめで軟らかく曲げ加工に適した材料になる。一方、最大強度を得られる時間(ピーク時効)を越えて時効処理を行うと過時効となり、強度は控えめではあるが腐食に強い材料になる。


カラビナのような高強度アルミニウムは、高度に管理された熱処理行程を経ることで、高強度を実現しています。
明瞭な基準はありませんが、100℃を超えるような環境に暴露されたアルミニウム合金製のPPEは破棄したほうが無難でしょう。「強度的な影響が無い」ということを証明できる論拠もデータも今のところありません。

下降器のボビンなどはロープとの摩擦熱によって100℃を超えてしまう部品もあります。
しかし、主たる熱を帯びるボビンはアルミ性ではなく、鉄製の物が多いですね。STOPの上ボビンはアルミニウム合金
ですが、構造的に引張力が働きにくい使われ方なので問題にならないでしょう。
確保器が長距離の下降に適さないのは、ロープへの熱によるダメージだけでなく、放熱特性の良くない確保器そのものが摩擦熱でダメージを受けることを考慮してのことなのでしょう。
また、下降器も規定の最大下降速度を守らないと、ロープが熱で溶けてしまうだけでなく、アルミ合金部の強度特性に影響を与えかねないということになります。

ついでに、ナイロンの軟化点は約160℃〜180℃です。


******補足説明 2013/06/03 ********
100~200℃程度で熱が入った7075-T6アルミニウム合金の強度低下は破断強度でマイナス12%、耐力で14%程度と推定されます。
<<論拠>>
RRA法(T77)というのがある。これはT6時効処理したAl合金に再度高温熱入れをして時効処理を復元し、その後、再度T6時効処理するというもの。これは強度を維持しつつ耐腐食性を向上させるためにおこなわれる。
このときの復元処理は、温度170〜210℃、時間20〜120分で熱入れがされその後室温まで自然冷却するというもの。
この復元処理後
、再度T6時効処理を行わない場合は、室温時効硬化が進むことになる。そして、最終的(室温時効はゆっくりすすみ、ピークは24時間後以降)にはT7時効処理と同等の強度が得られるとある。
参考文献:NMCニュース 新技術・新素材RRA法による7000系アルミニウム合金の強度、耐食性の向上(ニューマテリアルセンター顧問 村上陽太郎)
www.ostec.or.jp/nmc/TOP/13(H15.4).pdf
7075-T7の強度はT
6と比較して、引張強度でマイナス12%、耐力でマイナス14%である。
たとえば、OK-SLの破断強度が24kNである。これの破断強度がマイナス
12%となれば21.1kNとなる。
(単純形状品ではなく、カラビナのような複雑形状品の場合、素材の強度比がそのまま単純比例的に製品強度比になる訳ではない。)
ただ、熱が入った直後は時効が一旦失われているので、12%以上の強度低下が生じていると推定される。


****さらに補足説明*****
7075-T6アルミニウム合金の高温時の強度特性ですが、以下のようになってます。

温度(℃) 破断強度(N/mm2) 耐力(N/mm2)
-30   595  515
 25   570  505
100   485   450
150   215   185
205   110    90

となっています。
強度は常温25℃の時と比較して、
100℃の状態では、1割5分程度低下します。
150℃の状態では、4割程度しか残っていません。
200℃の状態では、2割程度しか残っていません。

一方、炭素鋼の高温強度特性は、一般的な炭素鋼の場合、おおむね200~300℃で最も強度が強くなり、その後温度上昇に応じて強度は低下します。おおむね500℃程度では、強度は常温時の半分程度に低下します。
参考HP:JFEスチール 高温における強度

ステンレス鋼の高温強度特性は、おおむね500℃までは大きな強度低下はおきません。
ステンレス鋼は炭素鋼より高温特性は良好です。
参考HP:日本鋼構造協会 ステンレス構造 技術資料 高温・低温特性

また、JIS B8265 では、鋼材ごとの使用上限温度を強度低下と酸化速度を定めており、一般的な炭素鋼SM400Aで350℃、SUS304で800℃としています。


よって、高温状態に暴露される場合は、その温度領域にあわせて、鋼かステンレス素材の器具を選択するのが良いということになります。
250℃までの常用耐熱特性を持つアラミド繊維ロープを利用するといった状況では、併用するコネクタ・カラビナ類も合わせて、検討し、アルミニウム合金製品の利用について注意を払ったほうが良いでしょう。

****アルミニウム合金について参考になるサイト******

1.KOBELCO:初心者でも一からかなり詳しく説明してくれる記事
やさしい技術/アルミ編
http://www.kobelco.co.jp/alcu/technical/almi/index.html

2.アルミニウム合金をその開発史応用例とともに説明
技術解説 高強度・耐熱性アルミニウム合金 小山克己(古川スカイ株式会社)
www.furukawa-sky.co.jp/review/006/06_abst02.pdf

3.各種アルミニウム合金の物性値
株式会社渡辺商事 アルミハンドブック
http://www.zerocut-watanabe.co.jp/pg321.html

4.再熱入れ時の強度変化の考え方は、アルミニウム溶接の資料が参考になる
日本溶接協会 Q&A  アルミニウム合金の溶接熱影響部はなぜ軟化するのですか
http://www-it.jwes.or.jp/qa/details.jsp?pg_no=0110020230

D型カラビナとO型カラビナの使い分け

20130401_182532特殊高所技術では主にオーバル型(O型)の カラビナ、コネクターを使っています。
オーバル型は支点用のスリングや、ハンガーに掛けたり、ロープを接続するのに利用しています。
また、荷物を吊り下げるにも利用します。
一方、下降器等にはD型のカラビナを使っています。

強度はD型のほうが強いという意見があります。その通りです。
同じ素材、断面積の棒材でD型カラビナとO型カラビナを作成した場合、破断強度はO型よりD型のほうが強くなります。たとえば、Petzlのオーバル型とD型である、OKAm'Dそれぞれの破断強度は24kNと28kNです。2種類は断面積も重量もほぼ同じです。
Am'DはD型として強度が向上した分、華奢に作って、破断強度が24kN程度になるように設計しても良いのですが、あえてそのままにしてあります。
なぜD型のほうが高強度になるでしょうか?
カラビナ、コネクターの弱点はゲート部です。たいていのカラビナはゲート部のヒンジのリベットピンから壊れます。
KONG社のオーバルのようにほぼ純粋なオーバル形状のカラビナでは、ゲート側のストレート部と、ゲートと反対側のストレート(バックストレート?と言いましょうか)に掛かる荷重はほぼ、50―50です。
そこで、カラビナ形状をD型にして、ゲートをD字の右側に配することで、ゲート部にかかる荷重を少なくし、ゲートと反対側にかかる荷重を多くすると、カラビナ全体の強度が向上するということになります。

一方で、軽量化のためにD型を採用しているモデルが主に岩登り用の製品として存在します。これらは、D型を採用して強度を稼げる分、断面形状をH型として断面二次モーメントを稼いだ分、細く華奢に作ります。PetzlのATTACHE3Dなどがそうです。ATTACHE3Dの強度は規格ぎりぎりの22kNです。しかし、重量は55gとOKやAm'Dより20gも軽くなっています。

m-axisメーカーがカタログに記載する破断強度は、それぞれの製品が準拠する規格に定められた試験方法で求められた値です。
注意しなければいけないのは、試験室での破断強度と、実際の現場における利用状況での破断強度は同じではない場合があるということです。
破断強度の試験は左の図のようなD型カラビナにとって理想的な条件で試験が行われます。
しかし、実際の現場では、次のような状態になっていることがあります。





20130410_15014320130410_150507左の写真のような状態で使っていることはよくあることです。
特にHMSのようなカラビナは、ムンターヒッチをしたり、
ATCやルベルソのような確保器と組み合わせて使いやすいように、上部のFrameの部分が広く設計されています。
D型の強度が強い理由は荷重がゲートのないバックストレート側にかかるからです。しかし、この写真のように、カラビナ上部のFrameの中央部寄りに荷重がかかってしまっている場合、ゲート側にも相応の荷重が掛かるようになります。
(これを英語圏ではLoad Shiftingと表現してますね。)
このように実際の利用状況を考えると、D型であるがゆえの高強度も実際にはオーバル形状と同じ強度特性に落ち着いてしまうと考えたほうが適切でしょう。
非常に用途が限られているスポーツクライミングなどでは、確保器や下降器に組み合わせるカラビナを除くと、カラビナにはハンガーとロープしかかからないことがほとんどでしょう。そのように考えると、規格強度ぎりぎり22kNを維持しながら可能な限り形状と素材を工夫して軽量化することは問題ないでしょう。また、スポーツクライミングで使う下降器や確保器に2名分の荷重が作用するような状況もかなり限定的なので、ATTACHE3Dのような軽量性追求型カラビナを組み合わせてもほとんど強度的な問題が生じないでしょう。

ということで、作業でつかうコネクター、カラビナを強度の面からD型とオーバル型で使い分けることには大して意味はないと考えています。
前述のPeztlのオーバル型カラビナOKとD型カラビナAm'Dの強度が、それぞれ24kNと28kNの破断強度であったとしても、Am’Dのほうが高強度で安全だという話にはなりません。 かりに、Am'DがOKと同じ24kNの破断強度だとすると、実際利用上はD型のAm'Dのほうが安全マージンが少ないという考え方ができます。
むしろ、PetzlのAm'Dは実際利用時の荷重のかかり方も考慮に入れて、OKとほぼ同じ直径の棒材を利用し、試験上の数値ではD型形状の恩恵でオーバルより4kN程度強度が強くなっているけど、それはD型カラビナとしての必要マージンなのだという設計思想なのではないでしょうか。

さて、本題のD型とオーバル型の使い分けです。
ハーネスと下降器をつなぐコネクター、カラビナには、D型のカラビナをつかっています。
オーバル型でもほぼ問題はないと考えています。
ただ、経験上、荷重が抜けたり、掛かったりする際に、ジャミングしたりマイナーアクシス荷重になったりする頻度はD型のほうが少ないです。ただし、D型は荷重が抜けた際に、カラビナのゲートの向きが体とは反対側のほうに反転してしまう頻度がオーバル型よりも多いです。

それ以外の用途、ランヤードとハーネスの接続や、支点用スリングとロープの接続、コンクリートアンカーに取り付けたハンガーとロープの接続にはオーバル型のカラビナを使っています。また、荷物を吊り下げるのにもオーバル型のカラビナを使っています。
20130410_15014320130410_150834一番の理由はオーバル形状の対称性ゆえの汎用性です。
幅の広い物を掛ける場合や、滑車を使う場合でも、斜めにならずまっすぐ掛かります。
D型カラビナで注意しなければならないLoad Shifting(荷重方向が、本来の主軸からゲート側にずれてしまうこと)に対して寛容であること。また、同様にD型よりもY字荷重に対して寛容である。






20130410_15122420130410_151115壁面に設置されたアンカーにロープを固定する際、D型ではロープのノットが壁面と擦れてしまう。一方、オーバル型では壁面とノットが離れることによってノットと壁面の擦れが回避・軽減できる。










20130410_15195820130410_151614

この壁面とノットの干渉は特に、コンクリートアンカーに設置されたハンガーにロープを固定する場合に顕著に問題となります。
この場合も、組み合わせるカラビナをオーバルにすると、ロープの擦れを回避軽減できるメリットがあります。






案外、オーバルを使っている最大の理由は、昔からずーとこれを使っていて、特にD型を必要としていなからかもしれません。オーバルの汎用性の高さが特に致命的なデメリットを見せないのも理由の一つでしょう。
逆にD型を主に使っているとなった場合、ときどきオーバルでないと不都合があるケースに出会うのかもしれません。

スポーツクライミングのように用途が特化していると、カラビナの形状も限定的になり、さらにある一つの用途に対してのみ使いやすい(片手でロープがクリップしやすい)性能を追求してゆくのでしょう。その結果、登山用品店にはいろんな形のカラビナが並んでいます。
しかし、業務用途ではさまざまな状況に対処できるよう、汎用性を重視します。その結果、無難にオーバル型やシンプルなD型程度に落ち着くのでしょう。業務用途で一般的ではない形状のコネクター、カラビナを使う可能性があるのは、下降器やランヤードの先端に組み合わせるコネクター、カラビナ程度ではないでしょうか。

ヴェアフェラータ用コネクター特有の強度試験 KONG TANGO

カラビナ、コネクターの強度テストは以下の条件で行われています。
・縦方向(メジャーアクシス)
・横方向(マイナーアクシス)
・ゲート解放時縦方向

clip_2

一方、ヴィアフェラータ(via ferrata)用のカラビナ、たとえばPetzlのヴェルティゴや、Kongのタンゴなどは、EN12275(UIAA121)に規定されるType-Kカラビナとして、追加で以下のような試験を行い、破断強度で8kNの強度が求められます。
clip_3

この図の右側、こういったコネクターを中央部からへし折るような荷重のかかり方は、一般的なカラビナ、コネクターではやってはいけない使い方の一つです。しかし、岩壁に縦方向に数mおきに固定された金属ワイヤーや、鉄製梯子を登るヴィアフェラータでは、どうしても衝撃荷重をこのような条件で受け止める必要が出てきてしまうのです。
そこで、ヴィアフェラータ用で使われるアブソーバー付ランヤードの先端につけるコネクターは、このような”へし折り荷重”(いま思いつきで作った造語です)にある程度対応できるべきだということです。
さて、なぜに8kNなのでしょう。
構造的に20kN以上の強度を確保するのは困難でしょう。
では、最低限どこまで強度を保証すべきか。、ヴィアフェラータでは必ずエネルギーアブソーバ付のランヤードを併用します。よって、ヨーロッパではアブソーバー利用時の最大衝撃荷重は6kN程度にコントロールされます。同様に北米ではアブソーバー利用時の最大衝撃荷重は8kN程度にコントロールされます。
それゆえ、ヴィアフェラータ用コネクターのへし折り荷重時の破断強度は、適切なアブソーバ利用時に想定される最大衝撃荷重(8kN)に合わせようという設計基準の意図が見えてきます。
UIAAもいろいろしっかりと考えて基準を作ってくれているのですね。

ところで、高所に設置されているタラップや点検通路では、自己確保を取って通過しないと墜落の危険がある場所というのがところどころにあります。
そういう、不安定な箇所をちょっと通過するだけの時に、手すりや鋼材に自己確保用のランヤードのコネクターそんな時、わざわざスリングを巻いてコネクターを掛けるのも面倒だなぁ。けど、無確保では危ないよねって状態。そういうのは、実際の現場ではちょくちょく遭遇します。
多人数が通過する場合は、先頭の一人がスリングを1本、鋼材や手すりにヒバリ結び(タイオフ)してくれれば良いでしょう。
しかし、自分ひとりが通過するだけのときに、スリングを掛けてそこを通過するほど用心深い人は、正直かなり出来た人間でしょう。人は案外面倒くさがりなもんです。
そういう理想論と現実の狭間では、ランヤードの先につけるコネクターは”へし折り荷重”にぎりぎり8kNまで保証しているEN12275 TypeK に適合した、ヴィアフェラータ用コネクターが良いのではないでしょうか。
もちろん、理想論として第一には”へし折り荷重”にならないよう現場管理することです。


個人的におすすめするのは、KONG社のタンゴ(TANGO)です。
http://www.kong.it/pr_conn.htm
715
最近、類似形状のコネクターが各社から発売されています。
しかし、なぜかKONG社のタンゴは、破断強度が33kN、ゲートオープン時の強度が15kNもあったりします。
他社の類似形状商品は破断強度で28kN程度、ゲートオープン強度が10kN程度しかない。不思議です。
KONGのことだから試験のやり方間違ってんじゃないの?と思ったりもします。
また、最近タンゴは地味に形状変更してまして、ゲートと反対側が物にぶつかったときにゲートロックが解除される危険性を低減しています。
新旧で並べてみましょう。左が新モデル、右が旧モデルです。

715
clip_5








コネクターの下穴の右側、ゲートロックカバーの下端部に出っ張りができてます。
これで、コネクターのゲートロックカバーが壁面に叩きつけられても、ゲートロックが解除されにくいという訳です。この形状を採用しているのはいまんところKONGだけのようですが、おそらく他社も追従することでしょう。


昔は、ランヤードの先にPetzlのヴェルティゴを使っていた時期があったのですが、ゲートロックの機構が簡易なものであるため、業務用途としてこれが安全環(ゲートロック)付のコネクターとは見なし難いと判断し、現在は環なしコネクターと同じ扱いにしています。
ただ、ヴェルティゴは形状的にゲート開口部が大きく、そして深いので、ふつうのコネクターでは掛かりにくい、鋼部材の吊ピースや高所作業空間などで遭遇する手すりの太目のパイプなどにもよくマッチするのです。
ヴェルティゴの形状でボールロックやトライアクトなどのゲートロック機構を備えたコネクターが製品化されるとうれしいのですが。

ロープの引き上げ回収中は自己確保(セルフビレイ)をとりましょう

ロープの回収中はセルフビレイを取ること荷物やロープの引き上げ回収中は自己確保(セルフビレイ)をとりましょう。
引き上げ中のロープが手から離れてしまった場合、ロープが落ちていきます。
・あわてて、このロープをつかんでしまった場合
・脚や腕にロープが絡み付いてしまった場合
かなりの力で引きずり込まれます。
特に脚にロープが絡むと、大外狩りをくらって奈落の底に引きずり込まれます。
腕や手に絡むと、脱臼したり、手首の骨が折れます。

対策としては、

0.とにかく自己確保、セルフビレイは必ずする
1.ミニトラクション等のカムデバイスを使ってロープ回収を行うことで手を放してもロープが落ちないようにする。
 これは重たいものを人力で引き上げるときにも有効で、体力の消耗も防げます。
2.引き上げたロープの塊をまたがない、塊の中に足を入れない。
3.重たくても、ロープを腕や手にぐるぐる巻きつけない

 エッジ際というのは、自分の脚で立ててしまう分、転落しないための対策がおろそかになりがちです。
 不意に引きずり込まれないように、まず自己確保(セルフビレイ)、そして上記の各種予防策をしましょう。

焦げたカラビナは捨てましょう

IMG_4347焦げたカラビナは捨てましょう

炎にあたったりしたカラビナは、強度が低下したり微細な割れが生じている可能性があるので捨てましょう。

・強度が低下する理由は?
 カラビナ等の高強度アルミニウム合金はその製造過程で非常に複雑な熱処理工程を経ることで、金属粒子の構造を調整し高強度を実現しています。
 そのため、使用中に炎にあたったりするような高温にさらされると、その金属粒子の構造が変わってしまい、強度特性も変化します。
・割れが生じる理由は?
 高温状態から、水がかかるなどして急冷されると、外部と内部、水のかっかた場所とかからなかった場所、もともと熱せられていた場所と熱せられていなかった場所で、急激な温度変化による縮み具合の差が生じ、ひびわれが生じることがあります。専門的には熱収縮割れとも言います。

割れについては非破壊試験である程度は判断できます。しかし、熱による金属粒子構造の変化に起因する強度の特性は一般的な方法では判断できません。(切削断面を顕微鏡で観察するとかしないとわからない。)

よって、炎にあたったりして熱影響を受けたアルミニウム合金の機材は破棄すべきです。
また、この問題はアルミニウム合金だけに限らず、熱調質を行っているスチール製、ステンレス製のカラビナも同様です。
スチール製のほうが、熱収縮割れは生じにくい傾向はあるものの、製造時の熱処理によって得られた強度特性を失う可能性があることは、スチール製もアルミ製も同じです。

******参考資料********
アルミ合金での熱収縮われの実験

目的:カラビナの探傷試験用の教材(サンプル)づくり
    それを用いた浸透探傷試験(PT、カラーチェック)の実技講習

内容
1.カラビナをわざとガストーチで炙っる
2.水で急冷し、熱収縮われを生じさせる
3.カラビナに対して染色浸透探傷試験速乾式現像法を行う


IMG_4344

写真1:浸透探傷試験の実施状況
IMG_4346
写真2:現像剤を適用して白くなったカラビナ

IMG_4347
写真3:検出された熱収縮われ
やや縦長な網状のわれが生じている



アサップASAPの使用方法を確認してください

20121228_093513アルテリアさんのHPにて、アサップの使用方法についての追加技術情報が公開されてます。(日本語)

アサップを使っている人はみんな見てね。とても重要な内容です。

http://www.alteria.co.jp/professional/product/mobilefallarrester/asap-experience/

アサップと組み合わせるアブソーバーの考え方を落下実験結果とともに紹介しています。
あと、2名荷重時に墜落した場合の衝撃荷重とロープへのダメージについても触れています。
いままでは、これらの情報が断片的に公開されていましたが、これでようやく整理がついたなといったところです。
強風対策や、アサップの位置をなるべく上に保つためのトピックスも紹介されてます。
強風対策は風車なんかでは下手に末端を固定すると、ロープが縄跳び状に暴れて、ロープ周辺の構造物に衝突して具合が悪いことも多いのですが、なかなかいい手だてがないのよね。

海外ではいまでもシャントをフォールアレストデバイスとして使っている方が多く、これにまつわる事故も定期的にIRATAでは報告されてます。
また、下降器についても、IDで訓練を受けたものが、現場でSTOPを初めて使って、パニックフォールに至る事例も報告されています。
http://www.irata.org/safety_notices.php
複数種類の下降器を利用している組織では、全員がすべての種類の下降器での訓練経験があるようにしておかないといけませんね。同僚救助などで否応なしに不慣れな下降器を触らなくてはならない状況が生まれる可能性もあります。下降器に何を使うのかは、個人的な趣味・嗜好のみで決めるべきではなく、組織内での統一性を考慮しておかないといけませんね。

ハーネスの捨て方


メインアタッチメントポイントの摩耗に伴い、ハーネスを新調しました。
このハーネス、管理ログを見ると、2012年3月に購入・使用開始しています。
よって、9か月間の使用で破棄に達したということになります。

さて、表題の捨て方ですが、そのまま燃えるごみにするには金属物がいっぱいついているので、波刃ナイフでざくざくバックルやアタッチメントポイントを切除してあげます。
各アタッチメント部は、テープが二重になっている、縫い目があるなどで、波刃ナイフでもけっこう切りにくいですので手元にはお気をつけて。
あとは各自治体の方針に基づいて処理していただくことになります。
アルミのアタッチメントポイントは金属リサイクル屋さんがよろこんで買ってくれます。

20130105_085328 20130105_085718 20130105_091459

バックルやアタッチメントポイントは、調節型の支点用スリング(Petzlのコネクションバリオみたいな奴)の自作用パーツとして転用できそうな気もする。
そういう理由で、しばらく保管しておいたりするのだけど、結局使わないのよね。

装備破棄基準 ハーネスのメインアタッチメントポイントの摩耗(破棄)

<製品名> シンギングロック社 エキスパートII Speed

<原因> 日常的な摩耗によるナイロンテープの摩耗

<破棄基準> 破棄

<考察>

・使用中は外観からしか摩耗状況は確認できない。また、使用中はアタッチメントの他に2枚のマイロンデルタ(ランヤード用とチェストアッセンダ用)が装着しており、内面の摩耗状況は観察しにくい。

・今回は、アタッチメント部を切開して内面を確認した



20130105_08545220130105_085718


20130105_085829 20130105_085858



・アタッチメント部の端部の摩耗によって「ほつれ」が始まると、その後は摩耗ではなく「ほつれ」によるテープの切断が急速に進行する

・日常の始業前点検にてほつれに気づいてから、この状態に至るまで、実作業日数で12日間程度である

・アタッチメントのナイロンテープは、左右のレッグループに繋がっており、二重(ふたえ)の構造である。よって、今回の二重になっている下側のテープが破断にいたっても致命的な事故には至らない構造となっている。しかし、上側のテープについても、下側とは反対側の端部にほつれが見られ始めることから、今後、急速にほつれによる切断が進行するものと推察される。

<結論>

ハーネスのアタッチメントポイントの摩耗が、摩耗から「ほつれ」になり始めた段階で早急に交換を実施すること。

<備考>
長期の現場では、破棄基準と照らし合わせて「要観察」の装備が「破棄」の段階に至ることもありえます。ハーネスの予備を携行して現場に行く人はそうそういないでしょう。早めの交換ないし、早めの交換用ハーネスの準備が求められます。
ハーネスの多くは輸入品ですから、国内在庫がないと輸入待ちになります。
輸入代理店の入荷サイクルにもよりますが、概ね、シンギングロック社製品だと最長一か月程度、Petzl社製品だと3か月程度待たないといけないことがあります。
早めに交換用予備を確保しておくことも重要ですね。

20130105_165410(←ナバホのアタッチメントポイント

社内でもナバホとエキスパート混在して使っていますけど、耐久性については明瞭な差は感じません。
では、みなさんも今年1年ご安全に。



*****************************
いやー、実に9か月ぶりの更新です。
年末の繁忙期にハーネスの更新もサボっていたら、メインアタッチメントがだいぶヤバイことになってしまいました。反省してます。
ナイロンのベルトは表面的かつ全体的な摩耗から、「ほつれ」の段階に入ると急速に切断が進行するということの好例となりました。
アタッチメントポイントの摩耗は見えない部分から進行するので、ときどき、よーく隙間から覗き込まないといけませんね。

ちなみに、Petzlのナバホ系ハーネスも腹部のメインアタッチメントは基本的には同じ構造なんで、ナバホとエキスパートでどっちが耐久性がいいのかということは無いでしょう。

実験:ナイロンスリング二重巻 落下係数1.0 M=87kgで 9.6kN

******2012/03/15追記メモ*******
前回試験結果のM=78kg→ 87kg:1.11倍  落下係数1.14→1.00:0.88倍の変換計算が雑すぎるかなと思いますが、当分このままにしときます。微小変化においては、強引に比例配分(つるかめ算)でも大差ないかなーって。
もうすこし詳しくやると、M=78kg→ 87kg:1.08倍((n+√n)/2)  落下係数1.14→1.00:0.93倍 (√n)となって、
1.08倍×0.93倍=1.00倍 とイッテコイになります。比例配分でやると、0.98倍ですから誤差2%程度っすね。

*******************



1年近く前に新しいコンパクトなロードセルを購入していたのですが、気が付くと、新旧のロードセルで特性差を確認していなかったなぁということで、ロードセルを2つ連結し、同じ荷重が作用する条件で、落下実験をしました。

<実験目的>
ナイロンスリングを二重巻した状態で、落下係数1.0で墜落した場合に作用する荷重を確認する。
また、薄手の日本製大径フックがナイロンスリングに損傷を与えないかを確認する。

<実験条件>
落下体質量:87kg
落下係数:1.0
落下距離:0.8m
ロードセルと落下体を長さ1.6mのナイロンスリングを二重巻にして連結する。
落下体とナイロンスリングの間には日本製の大径フックをコネクターとして装着。

<実験状況写真>
P3060102P3060104


<実験結果グラフ>
グラフスリング落下試験

<実験結果と考察>
落下による最大衝撃荷重は9.6kNでした。
また、1次衝撃ののち、落下体はバウンドし、1次衝撃のピークから約0.6秒後に2次衝撃を受けており、この際も5kNの衝撃荷重を受けている。
最大荷重の9.6kNは、日本の安全帯の規格における最大衝撃荷重8kNを上回っている。また、ロープアクセス作業においては落下による衝撃荷重を6kN以下に抑えるのが一般的な目標であることを考えると、作業者の安全性を考慮するにあたりまったくもって許容できない荷重である。

過去にナイロンスリング一重巻で、落下係数1.14、落下距離0.8m、落下体質量M=78kgにおける実験を行っている。
http://blog.livedoor.jp/rope_access_eng/archives/1194438.html
この条件においては、落下による最大荷重は7.9kNであった。
この前回の試験結果を簡単に、今回の試験条件にスライドさせると、
落下体質量 78kg→87kg 1.11倍
落下係数  1.14→1.0   0.88倍
あわせて、 1.11×0.88=0.98倍
となり、 7.9kN×0.98倍=7.7kN
ということになり、スリング一重巻で今回と同じ条件の実験をしたら、7.7kN程度の衝撃荷重だったんだろうなぁと推察されます。(実際にはいろんな要素があるので、あくまで目安ですよ。)

よって、スリング一重巻より二重巻のほうが、より伸びにくくなるのは当然で、その分、衝撃荷重は大きくなります。
その結果、一重巻:7.7kN → 二重巻:9.6kN ということになります。
弾性理論では、二重巻にすることで、(衝撃荷重−体重)の値は約1.4倍(√2倍)になるんですが、今回は約1.3倍でした。
そもそも、使っているスリングのメーカー・製品も違いますから、この程度の相関関係が把握できれば十分かなと思います。
どのみち、スリングをランヤードとして使う場合は墜落衝撃荷重を与えないように使わないと、人体のほうがダメージを受ける危険性がかなりあるということです。

大径フックによるスリングの損傷は特になかった。

新旧のロードセルの特性差は問題になるような差はなかった。落下体が左右に小刻みに暴れる状態で、二つのロードセルの荷重値に差が認められる程度であった。

<補足>
落下による衝撃荷重を考える場合において、落下を受け止めるロープやランヤードの数が1本から2本に増えると、衝撃荷重は増えますかそれとも減りますか?という問いをすると、けっこうな割合で間違った答えが返ってきます。

落下の衝撃を受け止めるロープやランヤードの数が増えると、衝撃荷重は増えてしまいます。
直観的には、ロープやランヤードの数が増えると、「破断強度」が当然増えるので、衝撃荷重は減るんじゃないかと思ってしまいがちです。

ランヤード1本vs2本_衝撃荷重はどっちが大きい

しかし、ロープやランヤードを「バネ」と置き換えて考えると若干わかりやすくなります。
1本1本のバネの伸びやすさは同じです。
落下の荷重を受け止めるロープの数、ランヤードの数が増えるというのは、バネを直列につなぐのではなく、バネを並列に連結することと同じです。
バネ1本vs2本_2本は硬くて伸びない
並列に連結して増やしたバネは、荷重を分散することになり、複数のバネ全体としては、「太くて硬くて伸びない」バネになります。
落下による衝撃荷重を低く抑えるには、バネはびよーーんとよく伸びて、長い時間を掛けて落下のエネルギーを
バネの伸びのエネルギーに変えてもらわなくてはなりません。
わかりやすい例はバンジージャンプですね。
バンジージャンプは落下係数1.0で落下距離も20m超ととても長いのですが、ランヤードがよく伸びるゴム紐でできているので、落下する人にはそれほど大きな衝撃荷重はかかりません。
ゴム紐はいわば、よく伸びるバネです。
逆に太くてごっつい全然伸びないバネはなんでしょうか?
スチールワイヤー等の硬くて伸びないロープでしょう。
ではもし、バンジージャンプをゴム紐ではなく、Φ20mmのスチールワイヤーロープでやるとどうなるでしょうか?
落ちて行った人は、とてつもない衝撃荷重をくらって体は木端微塵、考えたくもない状態になるでしょう。
以上、両極端な例でしたが、衝撃を受け止めるロープやランヤードの本数が増えると、荷重が分散することで破断強度は増えるのですが、同時に落下を受け止めた際に生じる衝撃荷重も増えてしまうということになります。

精神的には本数が増えるほど安心感が増すのですが、墜落を受け止めるということを考えると、大きな衝撃荷重を受けるリスクが増えてゆくという直感と矛盾する現象が潜んでいるのです。

1人でロープを登る訓練をする ひとりハツカネズミ


P3139935


最近、新人の訓練を朝と夕に屋内でやっているのですが、指導するというより、間違ったことをしないかを見守っている時間も多いので、自分の訓練もしながら、新人の訓練の見守りをしようといろいろやってます。
はじめは、スクワットとか、腹筋をしながら見守りをやっていましたが、同じ筋トレを毎日だと逆効果になりそうでいかんなぁと。
どうせなら、ロープを登るトレーニングをしながら、新人の訓練の見守りをしようと考えました。
ロープを登るトレーニングといえば、「ハツカネズミ」というシステムがあり、下の図のようなものです。


はつかねずみ
このように登れども登れども、地上にいる相棒が下降器からロープを繰り出すことで、際限なくロープを登らなくてはならないというシステムです。
際限なくというのは、ウソで、実際にはロープの長さ分だけ登りつづけることができます。
うちの社内では100mロープを使うことで、100m分登りつづけることができます。
でも、この訓練、だれかに下降器を操作してもらわないとできないんですよね。一人じゃできない。

そこで、訓練として、1人で延々とロープを登り続けられる方法はないかなぁーと考えて、ロープを固定する天井の梁部分に下の写真のようなシステムを組んでみました。

P3139938P3139942

下降器を上方支点にセットして、その下降器を遠隔操作するという発想です。
PETZLの下降器RIGのハンドルの末端にΦ5mmの孔をあけてΦ3mmのアクセサリコードを通してます。
下降器の末端側のロープ(緑色)をプーリーを介して下方に垂らしてあります。
また、下降器のハンドルの末端につながるロープ(白色)もプーリーを介して下方に垂らしてあります。
この状態で、緑色のロープの末端をしっかりと握りながら、白色のロープを下に引くと、下降器からロープが流れ出てくるという仕組み。
欠点は、下降器をセキュアロック(ハードロック)できない事ですね。ハンドルをセキュアロック側に回すための紐・ロープをもう一本追加すればよいのでしょう。



実際の使用感は↑こんな感じです。

セキュアロック(ハードロック)されていない下降器にぶら下がるのが怖いので、下にボルダリング用マットを敷いてます。
アサップもつけてますけど、このような4m未満の高さでは、グランドフォール(地面まで落ちる)リスクが多いのであまり役に立たないですね。

今朝、さっそく100mほど登ってみましたが、操作感はなかなか良好です。

実験:下降器は大きな衝撃荷重で適切に滑る?


P3060129

下降器は大きな(静もしくは衝撃)荷重を受けるとロープがスリップすることで、オーバーロード(過負荷)状態になることを回避する機能があるという話を聞いたことがありませんか?

少なくとも、PETZL社の下降器STOPについて言えば、昔の取り扱い説明書にはDinamicRequestという項目があって以下の条件での落下試験の結果を掲載していました。(今のWEB上の取り扱い説明書には記載が見当たらない。)
<試験条件>
・落下体質量:80kg
・落下係数:1.0
・落下距離:2m
・ロープ径:Φ9,10,11mmの3種
・ロープ種:ダイナミック、セミスタティックの2種

<試験結果>
ロープ径 ロープ種 衝撃荷重 スリップ量
09mm     Dynamic  3kN          080cm
09mm     Static      3kN          150cm
10mm     Dynamic  4kN          050cm
10mm     Static      6kN          010cm
11mm     Dynamic  7kN          015cm
11mm     Static      8kN          010cm

と、たとえば、Φ10mmのセミスタティックロープでは、衝撃荷重6kNでスリップして、そのスリップ量は10cmでしたという実験結果がある訳です。

また、株式会社アルテリアさんが過去にまとめた「ロープレスキュー資機材説明会資料ver.3.02」のp13にもID's(アイディS)による落下実験と静的引っ張り試験の結果について以下の記載があります。
(注意:上記の資料には「本表の記載内容は一部の用具の特徴を紹介したものであり、用具の取扱説明書ではありません。」との記載があります。詳細については、上記資料を確認してください)

<落下試験条件>
・落下体質量:100kg
・落下係数:1.0
・落下距離:記載なし
・ロープ径:Φ11mm
・ロープ種:セミスタティック

<落下試験結果>
衝撃荷重 スリップ量
7.8kN       020cm

<静的引っ張り試験条件>
・ロープ径:Φ11mm
・ロープ種:セミスタティック

<静的引っ張り試験結果>
スリップ開始荷重:6.5kN 


下降器のこのような特性は、大きな荷重が作用することで人体が負傷したり、各種のシステムが崩壊するのを防いでくれるかもしれません。
たとえば、下降器を使っての作業中に不意の墜落により衝撃荷重を受ける場合や、ハイラインシステム等に下降器を組み込んでいる場合の過負荷防止において有効な場合もあるでしょう。
また、このような特性は、プルージックや牙(トゲ)のないカムデバイスでも広く言われていることでしょう。

*****************************************

今回の実験は、弊社(特殊高所技術)で多く使われている下降器、PETZL RIG に墜落衝撃荷重を与えた場合にどれぐらいの荷重でスリップし始めるのかを確認する目的で実施しました。
試験条件は下記の通り。また、スリップの状況・量を観察するため、ロープのRIG取り付け部に黄色のマーキングテープを張り付けています。

<試験条件:ケース1&2>
・落下体質量:87kg
・落下係数:1.0
・落下距離:1.0m
・ロープ径:Φ10.5mm
・ロープ種:セミスタティック(マムート社)

<試験結果>
ケース 衝撃荷重 スリップ量
1          7.2kN         2cm
2          7.3kN       10cm

<試験条件:ケース3>
・落下体質量:87kg
・落下係数:1.4
・落下距離:1.4m
・ロープ径:Φ10.5mm
・ロープ種:セミスタティック(マムート社)

<試験結果>
撃荷重 スリップ量
7.1kN        20cm

<試験状況写真>
P3060113落下前の状況(ケース1)


P3060122落下後の状況(ケース2)スリップ量10cm

P3060125落下後の状況(ケース3)スリップ量20cm




P3060129P3060128

P3060147P3060151ケース3 ロープの摩擦熱による融解損傷


<荷重グラフ>
グラフRIG落下試験

<ハイスピード動画>


ケース1:落下係数1.0 落下距離1.0m 1回目



ケース2:落下係数1.0 落下距離1.0m 2回目



ケース3:落下係数1.4 落下距離1.4m

<考察>
・ケース1では、初回落下ということもあって、上方のロープ支点のノット(ラビットノット)が伸びることで衝撃が緩和されており、RIG自体はほとんどスリップしていません。
・ケース2では、RIGは10cmほどスリップしています。ハイスピード動画で見ると、ロープに最大荷重がかかってゆくときに合わせて、リグからロープが滑り出ているのが観察されます。このRIGからロープが滑り出す現象はグラフの0.26~0.30秒の範囲かと推察されます。この範囲ではケース1と比較して急激な荷重の減少と直後の下げ止まりによるなで肩型の荷重推移が観察されます。
・ケース3では、落下係数が1.0→1.4と大きくなっており、それにあわせてスリップ量も10cm→20cmと増加しています。また、ハイスピード動画を観察すると、リグからロープが滑り出る速さがケース2と比較して速いことが観察されます。そのため、荷重グラフにおいても、ケース3では、7.1kNのピークを記録したのち、RIGからロープが急激に滑り出したことで、一旦急激に荷重値が1.0kNまで低下し、再度4.8kNのピークを記録しています。
・ケース3の落下後にはロープ外皮の下降器で発生した摩擦熱による著しい溶融損傷が確認できた。滑り始めの箇所はやや毛羽立った損傷である。中間部以降は表面が溶けながら引きずられた形跡が確認される。落下停止時に下降器内にあってカムと密着しているロープの範囲においては、外皮表面は溶融して光沢を帯びている。

結果、RIGにおいても、Φ10.5mmのセミスタティックロープにおいては、概ね7kN程度の衝撃荷重においてロープがスリップする現象が確認できた。
ただし、1名荷重時のロープアクセス作業において墜落衝撃荷重を6kN以下となるようにするという安全管理目標の元においては、7kNの荷重値は過大である。また、落下のエネルギーを下降器とロープの摩擦熱に置換することで吸収することになるため、ロープの損傷がはなはだしく、大きな落下エネルギーを受け止めた場合においてはロープの損傷が外皮にとどまらない可能性も現時点では否定できない。
よって、下降器RIGのスリップ性能によって衝撃荷重を緩和させることを前提とした安全管理は現時点ではふさわしくないと考える。

<今後の課題>
Φ9mm、Φ11mm、ダイナミックロープ、低伸長ポリエステルロープ等の各種ロープでの実験。
大きな落下距離における現象の把握。


デイジーチェーンの落下試験 ver2.1


*****2012/03/05更新******************
大径フックでの実験を追記しました。が、荷重計測値に誤りがあると思われます。
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*****2012/03/03更新******************
落下試験の未掲載分を追記しました。
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デイジーチェーンの落下試験を行いました。

全部で8ケース行いました。
順繰り、すこしづつ紹介してゆきたいと思います。

目的:デイジーチェーンは本来は、セルフビレイ用のスリングとして製造されており、これをロープを固定する支点作成のためのスリングとして使うことをメーカーは推奨していない。
個々のループの破断強度は3〜4kN程度で、メーカーによって差がある。
また、世間ではその論拠がないまま以下のようなことが言われている。

1.ディジーチェーンはショックアブソーバがそうであるように、ループの縫い目が裂ける事によるエネルギーの吸収・逸散効果がある。
2.ディジーチェーンのループが衝撃荷重によって、1つ2つと裂けてゆく場合、縫い目が裂ける事で衝撃荷重を吸収するどころか、逆に衝撃荷重はどんどん増えて、途中で止まることなく、末端まで裂けてゆき、最終的に大きな衝撃荷重が作用する。

このような真偽不明の情報がある中で、デイジーチェーンのループが連続的に裂けてゆく現象を定量的に評価しておきたい。
まず知りたいのは。

1.静的条件でのループの破断強度と動的条件(衝撃荷重)でのループの破断強度にどれだけの差があるのか?
2.デイジーチェーンをセルフビレイ用のスリングとして利用した場合、落下係数1程度の短距離墜落は当然起こりうる現象であり、この場合に、
(1)ループは破断するのか、
(2)ループはいくつ破断するのか、
(3)そのときの衝撃荷重はどれほどになるのか、
(4)落下はループの途中で止まるのか、
(5)それとも末端までさけてゆくのか、
(6)これらの現象と落下距離の相関はどうなるのか、

といった事である。

**********実験条件***************

1.落下体の質量:約78kg(25kgのセメント袋3つと大型土嚢袋)

2.落下係数=1 (落下する距離と、衝撃荷重を受け止めるデイジーチェーンの長さが同じ)

3.荷重計測方法: ひずみゲージ式ロードセル+動ひずみ計測器

************* ケース1 **********

1.試験体:ロックエンパイア ダイニーマデイジーチェーン 150cm

2.はじめのループ(縫い目)までの落下距離:800mm

3.結果:ループを2つちぎった後、落下体の一部が着地してしまった。(ちょっと失敗)

落下状況の動画を以下に示す。
秒間210コマのスロー映像です。(ハイスピードカメラ CASIO EX-FH20 により撮影)
ですので、普通の動画の1/7倍速になります。



経過時間と荷重の関係を以下のグラフに示す。

Case1-2_graph

ケース1においては、衝撃荷重においても、概ね4kN程度の荷重でループが破断している。
ループは2つ破断したのち、3つ目のループにて落下は停止している。
この際、落下体の一部が地面に着地してしまっているため、全ての落下荷重が3つ目のループによって受け止められている訳ではないことに注意する必要がある。

ケース1においては、計測のサンプリングレートを200Hz(1秒間に200回計測すること。)で行っているが、得られた波形を見ての通り、200Hzでは不足していることがわかる。ケース3からは2000Hz(1秒間に2000回計測)に変更し、より緻密なデータ採取を行う。

********つづく************

まだ、十分な整理はついていないのですが、概ね次のような結果・考察を得ています。
1.ループの静的破断強度と(衝撃荷重による)動的破断強度はほぼ同一である。
個人的には、動的破断強度=静的破断強度 X 1.2 程度かなーと思っていたので、ちと意外。
2.ループの縫い目が裂けることによるエネルギー吸収・逸散効果はあるものの、量的に小さく、エネルギーアブソーバーとしての役割はほとんど果たしていない。
3.ループが連続的に破断することによって荷重が増大するといった現象は確認されない。(予想どおり)
4.ループが全部破断し、末端まで達した後は、普通のスリングと同じ挙動を見せる。
5.はじめのループ(縫い目)までの落下距離が増えるほど、破断するループの数は概ね増える。しかし、そこそこの落下距離があるにもかかわらず、ループが1つだけ破断した場合など、例外的な挙動も見られる。
6.デイジーチェーンでセルフビレイをとっている状態で、落下係数1で短距離墜落した場合は、ループの3つや4つは平気でちぎれると思っていたほうがいい。
7.ループがちぎれていって末端まで達した後は、普通のスリングと同様に大きな衝撃荷重を受ける可能性がある。落下係数1でも場合によっては6kNを超えて8kN程度まで作用すると考えておいた方が良い。

 

 

************* ケース4 **********





デイジーチェーン落下試験Case4ループ3つちぎって止まる


















このグラフは、落下係数=1、はじめの縫い目までの落下距離=800mmの条件で、落下させたときのもの。
4kN程度の衝撃荷重のピークを見せながら、ループを3つちぎって、4つ目のループで落下は停止している。

(余談ですが、グラフで激しく上下しているのは、ロードセル自身が振動・共振しているのが原因のようです。高価なロードセルだと共振対策されているのですが、僕のロードセルはお買い得スペックなんで。ローパス設定をいじるとこの細かい振動は消せるのですが、そうすると、鋭い荷重ピーク値を見逃すかもしれないので、ほぼローパスフィルターを掛けない設定でやってます。)


************* ケース5 **********



Case5_graph


このグラフは、落下係数=1、はじめの縫い目までの落下距離=800mmの条件で、落下させたときのもの。
4kN程度の衝撃荷重のピークを見せながら、ループを4つちぎって末端まで達し、5kNを超える荷重を生じて落下は停止している。


************* ケース6 **********

試験体:ケース6以降は、ブラックダイヤモンド社のナイロンスリング160cmにて実験です。




デイジーチェーン落下試験Case6ループ3つちぎって止まる

















このグラフは、落下係数=1、はじめの縫い目までの落下距離=800mmの条件で、落下させたときのもの。
3.5kN程度の衝撃荷重のピークを見せながら、ループを3つちぎって、4つ目のループで落下は停止している。
ロックエンパイアのダイニーマデイジーよりもブラックダイヤモンドのナイロンデイジーのほうが見た目の縫い目の幅も広くしっかりしているので、4kN以上のループ強度が得られるのかと思ったら、3.5kN程度の強度となりました。
縫い目の強度は見かけによらないのだなぁと。



************* ケース7 **********



デイジーチェーン落下試験Case7ループ4つちぎって止まる


 



















 このグラフは、落下係数=1、はじめの縫い目までの落下距離=800mmの条件で、落下させたときのもの。
3.5kN程度の衝撃荷重のピークを見せながら、ループを4つちぎって、5つ目のループで落下は停止している。

*******考察********
今回の実験によって、衝撃荷重においても、商品のカタログスペックとほぼ同一のループ(ポケット)強度が得られることが確認できた。また、連続的にループが破断してゆく場合にも、同一の強度で破断してゆくことが確認できた。
よって、俗説的に言われていた事象「ループが連続して破断する場合は、衝撃荷重が増大してゆく」が誤りであることも確認できた。
デイジーチェーンは基本的に衝撃荷重を掛けない条件でのセルフビレイで利用するのが本来の使い方である。
しかし、支点作成時やデビエーション(方向変え)として利用する際の長さの調節しやすさは特筆に値する。
今回の実験で得られたデイジーチェーンの衝撃荷重作用時の挙動をよく踏まえれば以下のことがわかる。
・基本的にロープ固定の支点やデビエーション用の支点にデイジーチェーンを利用することは適さない。
・一方で、すべてのループが破断しても、最終的な強度はスリング自体の強度(大抵は22kN)となる。
・よって、ループが破断してゆき、支点の位置が下に移動することにより、新たにロープがエッジに擦れたり、荷重分散支点の荷重バランスや荷重方向が変わることによる支点脱落リスクが無いという条件においては、デイジーチェーンをロープ固定用支点のスリングとして利用したり、デビエーション用支点のスリングとして利用することも許容できると考える。


*********************2012/03/03追記***********************************

追加実験
大径フックによるランヤードのループの破断実験

実験目的:
デイジーチェーンのポケットの強度はカラビナを掛けた場合において、メーカーによるが、一般的に4kN程度の強度がある。
一方、デイジーチェーンのポケットに大径フックを直接掛けることがある。
大径フックはカラビナと比較して、薄くできており、デイジーチェーンのポケットの縫い目をカラビナよりも小さな力で引き裂くのではないかとの疑問について実験により検証を行うものである。

実験材料:
・デイジーチェーン:過去に落下実験で利用し、まだ、ポケットの縫い目が4つ残っているもの。ただし、最上部の1つの縫い目は半分程度すでに裂けている。

・大径フック:藤井電工のFS-93 鋼板打ち抜きにアルミパーツの安全ロック機構を備えた軽量モデル。鋼板の厚さは4mm程度のみである。

・落下体:ダミー人形のゆうじ君 ハーネス込みの体重:87kg

・ロードセル:TEDEA Model619 (東洋測器社)

IMG_3247IMG_3245IMG_3241






*****荷重計測の結果に疑義が生じているので、この数値は信用しないでください。********

ケース1_大径フックでデイジーのループを切る


*****荷重計測の結果に疑義が生じているので、この数値は信用しないでください。********
 (じつは、計測機のローパスフィルターの設定が間違えていたんですよぉ。本来なら、ループが破断したあとの荷重計数値は絶壁状にすとんと落ちるはずなんですけどね。だから、ループが破断したときの荷重のピークについても正しく捉えきれていないと思われます。)

一つ目のループははじめから半分裂けていたので、1.3kN程度で破断しています。
その後、残り3つのループが2.5kN程度の荷重で破断し、最終的にデイジーの末端で墜落が抑止され、この際、3.8kN程度の荷重が生じています。
今回の実験で使用した大径フックは幅4mm程度の薄い鋼板であり、カラビナのように断面が丸くある程度の太さがある訳ではない。この形状の差異がループの破断強度に影響を及ぼすのかが問題である。

*****荷重計測の結果に疑義が生じているので、上記の数値は信用しないでください。********

P3050100

最終的には、デイジーの末端で落下を受け止めているが、末端部と大径フックが接触した箇所には、特にナイロンスリング表面の損傷は見られなかった。
(わずかに跡がついている程度)


PETZL Shunt ペツル シャントをフォールアレストデバイスとして使った場合の落下実験


IRATAさんが、PETZL Shunt ペツル シャントをフォールアレストデバイス(墜落抑止装置)として使った場合の落下実験を公開しております。
実験そのものは、IRATAの訓練部門の委員長Leigh Greenwood氏がオーストラリアで実施したようです。
http://www.irata.org/irata_technicians.htm


実験の内容は概ね以下の通り。
・オンサイトレスキュー(同僚救助)状況を想定して、200kgの落下体を設定
・2名荷重に考慮して、2つのシャントを1本のバックアップ(セーフ)ロープに取り付ける。
・ケース4においては、アサップ+アブソービカでの落下実験を実施。
・落下係数は1程度

この実験の中で驚いたのは、ケース5の動画で、シャントがロープから外れてしまう事象です。
詳細がよくわからんのですが、とにかく外れちゃっているんです。
実験結果のコメントを見る限り、変形してロープから外れているようです。

*******

海外のロープアクセス業界では長年にわたって、PETZLのシャントを使ってきています。
しかし、PETZL社は墜落抑止専用器具としてASAPアサップを販売するようになって以降、シャントを墜落抑止装置として使わないで欲しいとのアナウンスをしてきました。

一方、多くのロープアクセス作業に従事する側は特に経済的な理由なのでしょうか、なかなか新製品のアサップに移行できずにいるようです。
IRATAとしても、このままシャントを使い続けて良いのか、それとも、アサップ等のほかの墜落抑止装置に切り替えるべきなのか、はたまた、シャントを工夫して使うことで、安全な墜落抑止装置にならないかと、このような実験を行っているようです。

アブソービカのランヤードの誤使用

問題です。

下の写真において、ランヤードの安全な利用方法について、いくつか指摘してみてください。
アブソービカ誤使用


























*******
Y字ランヤードを片側しか利用していない場合で、かつ、アブソーバを併用している状況においては、使っていないランヤードを腰両脇にあるワークポジショニング用アタッチメントポイントにかけてしまいたくなります。
しかし、写真のような状況で実際に墜落し、アブソーバーが裂けながら伸びていくとどうなるでしょうか?
途中から、墜落衝撃荷重がアブソーバーを装着している胸部のフォールアレスト用アタッチメントから、使っていない大径フックを掛けてある、腰脇のワークポジショニング用のアタッチメントポイントに荷重移動してゆくことになります。
特に、この写真では使っていない側のランヤードを歩くさいに膝に引っかかって転ばないように簡単に団子結びしてあります。よって、墜落の際アブソーバーはほとんど伸びることなく、腰脇のワークポジショニング用アタッチメントに衝撃荷重がかかるようになります。
腰脇のワークポジショニングアタッチメントでは、墜落衝撃荷重が全身に分散されずに、わき腹にのみかかるので、内臓損傷・腹腔内出血・脊椎損傷のリスクが高くなります。
そうとはわかっていても、作業上、ランヤードをワークポジショニング用アタッチメントポイントに掛けるのはとても便利だし、腰まわりがすっきりしやすいので使いたくなってしまうのですよね。
Y字型のアブソーバー付きランヤードを利用する場合は、その辺をよく意識しておかないと、「ついうっかり」写真のような状況になってしまいがちです。
この問題はY字型のアブソーバー付きランヤードを使っているときだけの問題であり、一本もののアブソーバー付きランヤードや、そもそもアブソーバーを備えていないランヤードでは関係がありません。
詳細はPETZL社のアブソービカYの取り扱い説明書にもありますので、今一度確認してみましょう。
PETZLのアブソーバー製品は落下係数2(足元から支点をとっている状態)で墜落しても、墜落衝撃荷重が6kN以下に抑えられるすぐれものです。腰より下の位置でしか自己確保が取れない現場では必携です。

*******
手すりに大径フックが掛けられています。
大径フックはちょうど、腰の高さぐらいの位置にありますから、この場所から墜落すると落下係数は1程度でしょうか。
しかし、この大径フック、手すり上を右に少しずれると、30cmほど落ちますよね。
しかも、その中間の横バーまで落ちた状態で墜落すると、大径フック自体に横方向の荷重がかかるので、大径フックが壊れるかもしれません。

ぱっと思いつくのは、以上の2点でしょうか。
他になにかあれば「ツッコミ」よろしく!
たとえば、「ロープバックの自己確保がされてないけど?」とか

手摺に大径フックを掛けるときにはよく対象を見てから


IMG_0390




手摺に大径フックを掛けて自己確保とする事は、現場ではよくあることです。
しかし、手摺にはたまに端部があったり、管の内側から著しく錆びていたりすることもままあります。
上の写真のような状況にならないように注意しましょう。
IMG_0650

実際に手すりに大径フックを2丁掛けで、掛け替えしながら移動していると、手前からは、上の写真のように見えているんですよね。端部が見えません。
IMG_0651
もっと近づいてくると、手すりのバーに端部があるのが見えるのです。
急いで移動している時でも慌てずに。

IMG_0677
もう一例
鋼鉄のハッチを空けて、ハッチの外に出る前に、直近の手すりに大径フックをかけて自己確保をとります。

IMG_0679
ハッチをくぐろうとしたら、「あれ!、手すりの端部に!」大径フックがかかっています。
運良く気づけたら、大径フックを掛け直せば良いだけです。
気づかずにハッチをくぐろうとして、そこでバランスを崩したりして、運悪く大径フックが手すりの端部から滑って外れたら。。。。


明るい条件では、こんな状況にはそうそうならないのですが、暗い環境や、手元が見通せない環境においては、普段より用心深く大径フックをかけるようにしてます。
現場に慣れてくると「ここに手摺があるはず」という思い込みで、手元をよく見ずに大径フックをカチャンと掛けてしまいたくなるかもしれませんが、しっかりと大径フックを掛ける対象物を確認してから、掛けるように意識的にっ心がけないと、「掛けたつもりだったけど、じつは。。。。」となりかねません。

ちょっともう一例。
IMG_0681
なんの変哲もない手すりですが。
IMG_0682
よくよく、下を見ると、支柱の下が固定されずに、張り出し部になっています。
手すりとして利用するには問題はないですが、自己確保をとる位置としては、こういう手すりの弱点になっている箇所は避けたほうがいいでしょう。

最後にもう一点、
IMG_0686IMG_0687

いまから、写真のマンホールをくぐって、向こう側に移動しようとします。
マンホールの前後は足元が悪い場所なので、自己確保をとってから、マンホールをくぐることにしました。
マンホールの手前のバーに大径フックをかけて自己確保をとるのが良いか(写真左)
マンホールの向こうのバーに大径フックをかけて自己確保をとるのが良いか(写真右)
どちらがより安全でしょうか?
ポイントとしては、
・大径フックを掛けるときに、フックがちゃんと掛かっているかを確認しやすいのはどっち?
・実際に墜落したときに、ランヤードのロープが鋼材の角で擦れにくいのはどっち?
・墜落しやすいのはハッチの手間なのか、向こうなのか?
・急いだり、慌てていたり、疲れているときにヒューマンエラーを起こしやすいのはどっち?
等をいろいろ考えて、ベストな答えというのは、なかなか難しいでしょうから、ベター(より良い)答えを常に探すように意識してゆくことが大切かなと思います。
状況によっては、ハッチの手前と向こう両側にランヤードを掛けることを選択することもありえるでしょう。


社内ではこういった「うっかりしていて危険な事になりかねない現場で注意すべきポイント」の事例をスタッフ各自がいろんな現場の中で見つけ出しては、写真に収めて資料を作成・蓄積し、社員のKY力(危険予知能力)の向上に努めてます。

話はかわって、最近、錆びるのを嫌って、FRPの手摺を取り付けている構造物がちらほら見かけられるようになってきていますが、FRPの手摺に大径フックを掛けて自己確保に使ってよいのか一寸悩みますね。よくしなりますし。

フォールアレストデバイスは胸か背中のアタッチメントにつけよう


IMG_4419


建設業界ではおなじみのリトラクティブワイヤーの墜落抑止装置を利用する場合は、
フルボディーハーネスを使っているなら、胸か背中のアタッチメントポイントに接続しましょう。
ウエストベルトだけの安全帯の場合、腰横のアタッチメントポイントに接続しますが、フルボディーハーネスでも同じように腰横のワークポジショニング用のアタッチメントポイントには接続しないでくださいね。
フルボディーハーネスの意味がなくなっちゃいます。

ワークポジショニング用アタッチメントでぶら下る
ワークポジショニングアタッチメントでぶら下るとこうなります。
全衝撃荷重がヨコッパラにかかります。
墜落距離を適切に管理できていて、最大6kNの衝撃がヨコッパラに...
苦悶ですね。

腰後ろのレストレイン用アタッチメントでぶら下る
通称「犬紐」行動範囲制限用のレストレインアタッチメントでぶら下ると、腹の正面で衝撃荷重をうけることになります。エッジ際の自己確保で、このアタッチメントポイントは一見使いやすいのですが、誤って落っこちると危険です。

腹のロープアクセス用アタッチメントでぶら下る
お腹についているロープアクセス用アタッチメントポイントでぶら下るとこうなります。
意識がなければ上半身が後屈して、呼吸と血行を阻害します。あと、いい姿勢で落ちないと、腰椎損傷することもあります。でも、いわゆるフルボディーではないシットハーネスではここで衝撃荷重を受け止めるしかないです。
シットハーネスでの墜落と腰椎損傷の話は、書籍の生と死の分岐点p96-103、続生と死の分岐点p277に詳しい話があります。

胸のフォールアレスト用アタッチメントでぶら下る
胸のフォールアレストアタッチメントポイントでぶら下ると、背中・腰・尻・ふとももに衝撃荷重が分散され、しかも意識喪失状態でも安定した姿勢が維持できます。もっとも理想的です。ソファーに腰掛けている気分です。
けど、胸部のアタッチメントポイントにフォールアレストデバイス(墜落抑止装置)やバックアップロープを取り付けると、自分の作業がしずらかったり、自分の視界が遮られたりしがちなのがデメリットではあります。作業性を維持しつつ、安全なフォールアレスト用のアタッチメントポイントは背中になります。

背中のフォールアレスト用アタッチメントでぶら下る
背中のフォールアレスト用アタッチメントポイントでぶら下った状態です。
股と腹と胸で衝撃荷重を受け止めます。日本国内で「フルハーネス」と呼ばれているタイプの全身型安全帯も、ほとんどが、背中にだけアタッチメントポイントを備えており、このような墜落姿勢になります。
この姿勢ですが、体重のほとんどが股間に集中して、「コマネチラインがとても痛い!」のです。
この状態でぶら下られた奴は、地面に降り立った後は、無意識に「コマネチ!」のポーズをとって股間をさすります。
また、ショルダーストラップの調節がルーズだと、ぶら下った状態で首の頚動脈が若干圧迫されることがあります。
危険ではなく、安全なんですけど、快適な状態とはいえません。
けど、アタッチメントポイントにつけた、ロープやデバイスが自分の作業の邪魔をしたり、視界を遮ったりしないので、
「もし、墜落しても、すぐに同僚に救助してもらえそうな状況」ではメリットがあるでしょう。

安全ですか?危険ですか?ではなくて、「安全管理の難易度」が問題なの

たとえば、ある場所にアクセスするのに、

1.普通に上方に支点を作成して、ロープで垂直下降してアプローチ
2.横方向にボルト・アンカーを連打してトラバースしてアプローチ
3.水平にハイラインを展張してアプローチ

の3つの方法が考えられるとして、
質問:「どれが一番安全な方法ですか?」
と聞かれるとするとどのように返答するのが適切だろうか?

なんとなく、こう答えてしまいそう。
返答「一番安全なのは、1. 次が2. 最後が3.の順でしょうね。」

でも、ちょっとひっくり返して考えてみると、3.のハイラインを張るのが「危険な作業」なのか?どの方法でもきちんと安全に作業できるのに。

では、こう返答してみてはどうだろう?

「どの方法でも安全ですよ。ただし、安全管理を行う上での注意点やその難易度は、それぞれ異なります。難易度の低い順にいうと、一般的には、1.2.3の順になりますね。」

さらにこう付け加えるとよいのでは?

「もちろん、この安全管理の難易度には、万が一作業員が病気・怪我などで行動不能になった場合において救助をしなければならなくなった場合における、救助の難易度も含まれます。通常作業における作業効率だけでなく、非常時の安全管理の難易度も含めて、作業方法を適宜選択しています。 作業効率はよくても、緊急時の退避や救助が技術的にあまりにハイレベルであったり、あまりに時間がかかってしまうような方法は、作業環境から想定される事故リスクの状況によっては選択すべきではないでしょう。」

ざっくりと説明するなら、

「まあ、どの方法でも安全にやりますよ。でも、とくに理由がない場合は、なるべくシンプルな手段を選ぶのが多くの場合は良いことが多いですよ。作業効率だけでなく緊急時の対処や救助とかも考慮してね。」

といったかんじですかね。

ハイラインと安全は技術だ!

LEATHERMANレザーマン純正の便利なケース


LETHERMAN_MOLLE_CASE_035日ごろ、レザーマンマルチツールのSuperTool300を便利につかっているのですが、困ったことにハーネスに固定するのに良いケースがありませんでした。
が、ようやく、いいのに巡りあいました。なのになぜかメーカー純正品です。

Leatherman Super Tool 300をナバホに取り付ける始めは付属の革ケースをインシュロック等で強引にハーネスの腰にくくりつけていたのですが、最近革が引き千切れてしまいました。何回も革ケースごとハーネスを洗濯していたために革が脱脂されてしまっていたせいでもあります。(反省)

そんなある日、後輩にLEATHERMANのWAVEの黒色塗装したモデルをプレゼントしました。
で、この黒色のWAVEには普通のWAVEとはちがう専用のナイロンケースがついていました。
米国の歩兵さんがいろんな個人装備を身に付けるためのMOLLE(Moduler Lightweight Load-carrying Equipment)とかいうシステムに準拠したケースのようなんですが、これがとても便利に作られていて、ハーネスに装着するLEATHERMANのマルチツール用ケースとしてはもってこいなんです。
LETHERMAN_MOLLE_CASE_034LETHERMAN_MOLLE_CASE_008LETHERMAN_MOLLE_CASE_011

LETHERMAN_MOLLE_CASE_006LETHERMAN_MOLLE_CASE_019LETHERMAN_MOLLE_CASE_018

LETHERMAN_MOLLE_CASE_025LETHERMAN_MOLLE_CASE_021
ビットキットを収納するサブポケットも装備、ビットキット用ポケットの幅はけっこうぎりぎりなので、写真のように背面向きにいれたほうがスムーズです。
少なくとも、WAVEとSuperTool300で問題なく収納できることを確認しています。JuiceS2には大きすぎます。
ただ、プライヤーを出した状態での仮収納においては、SuperTool300では若干不安定ですね。
こんなに便利なケースなのに、標準アクセサリーとしてはカタログには載っていません。
が、輸入代理店に問い合わせると「単品で販売できるし在庫もあるよ」ということでした。
LETHERMAN_MOLLE_CASE_036LETHERMAN_MOLLE_CASE_041LETHERMAN_MOLLE_CASE_050

LETHERMAN_MOLLE_CASE_038LETHERMAN_MOLLE_CASE_042

ケースはハーネスの腰部のみならず、レッグループにも装着しふとももの側面に配置できます。取り付けの汎用性と、ケースの脱落のしにくさは歩兵さん用ならではです。
ケースのカバーも広い面積のベルクロ(マジックテープ)なので手探りでも開け閉めしやすく、不意に開かないように作られています。
PETZLのナバホシリーズ、SingGingRockのエキスパートIIシリーズで問題なく装着できることを確認しています。
アイディア次第で、どこでも自分の好きな場所に装着できるケースですね。
ハーネスにLEATHERMANマルチツールを装着したい人には、これが一番お奨めですね。

ちなみに、僕の勤務先の特殊高所技術では、LEATHERMANのマルチツール製品の小売販売もしています。
上記のケースが欲しい方がいましたら、order@tokusyu-kousyo.co.jp まで「LEATHERMANのMOLLEケースが欲しいんだけど」と書いてメールを送ってください。このケースについては、今のところ特にWEBの通販ページにも掲載していません、値段はメーカー希望小売価格が3,150円ですが、実際の小売価格は通販担当者に値切り交渉して決めてください。

なんか、広告になってないかい?これ。
あとで、通販担当者が「ケースみたいな小物じゃなくて、ツールナイフ本体を売るような文章を書いてくださいよ。」とか言って来そうだな。

ちなみに、黒色モデルのWAVEは使い始めて当分の間ヒンジ稼動部から黒い油汁が出てきて指が汚れます。軍用モデルだから細かいことは気にしない、気にしない。黒い油汁は顔にでも塗りましょう。

あと、レザーマン製品も最近はネットで並行輸入品が多く売られています。円高も激しいですしね。
しかし、レザーマンのよいところは正規の輸入品ならば「25年の保証」が付くことです。
たかだか数千円の価格差でこの「25年保証のない並行輸入品」を買うのはとってももったいないことだと思いますね。
国内の正規代理店さんが親切・誠意をもって保証・修理対応してくれます。
「孫の代まで使う」ならレザーマンの正規輸入品、25年保証での購入をお奨めします。

ちょっと個人的、会社的にうれしい話

今日の記事は、以前掲載の以下の記事のつづきみたいなものです。

災害救助・救援・復興おつかれさまです。
http://blog.livedoor.jp/rope_access_eng/archives/1313383.html

以前、栃木と福島の県境付近の水力発電施設で緊急点検調査業務をしに行った話しをいました。その後、また同発電所の別の構造物についても僕の会社で緊急調査を実施しました。
その発電所も補修完了の目処がたち、7月末から再稼動に入るようです。
それを東京電力がプレスリリースをし、マスコミが「計画供給量50万キロワット引き上げ」などと報じていたのでちょっと驚きました。

やっぱうれしいですね。
自分たちの仕事がなんらかの形で社会に貢献できていることを実感できるというのは。


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プライベートでもだいぶ前にちょっと現地でごそごそしてきましたが、頭と心の中にいまだに整理できないというか、消化できないものが多量に蓄積され、どう言っていいのか、書いていいのかわからないというのが本心です。
すいません。
搾り出すように何かしらの言葉にしてみても、それが自分の接した現実と比べて、あまりにも稚拙ならまだしも、自分にとって嘘をついているようにしか思えないのです。

今の僕からただ1つ言えるのは「漁師さんたちのロープワークはすごかった!」ということだけです。

アルミニウム合金のカラビナの疲労強度は3kN程度@10^7回負荷か?

できれば、以前の記事
鉄やステンは伸びて変形するが、アルミは割れる? 金属の性質について
http://blog.livedoor.jp/rope_access_eng/archives/1141591.html
をお読みになってから、本記事を読まれることをおすすめします。


金属疲労、疲労破壊、疲労われ
みなさんいずれかの言葉は聞いたことがあるのではないかと思います。

では、この疲労破壊とはどんな現象でしょうか。

たとえば、40kNで破断する鉄鋼の板があります。
このカラビナを40kNで引っ張ると、当然、ちぎれて壊れます。

では、この鉄鋼の板を24kNで引っ張ります。
当然、壊れませんよね。

しかし、1回では壊れなくても、何十、何百、何千、何万、何十万、何百万、何千万回と繰り返し荷重を掛けたり抜いたりすると、破断強度以下の荷重でも破壊に至ってしまうのです。
このような、破断強度以下の荷重であっても、繰り返し荷重を掛けることで破壊に至る現象を疲労破壊などと呼んでいます。

この疲労破壊に至るまでの特性は、疲労強度、疲労寿命と呼ばれています。
疲労強度、疲労寿命の特性を表す指標というのは、
1.どれだけの力で
2.何回
の負荷をかけると壊れてしまうかで表現します。
注意しなければならないのは、1.どれだけの力で?の部分です。
単純に引っ張って壊れる破断強度の場合は、何kNで引っ張ってこわれたと表現されるのですが、疲労寿命、疲労強度についていうと、この「どれだけの力」という部分を「応力振幅」という用語で表現します。
応力振幅。振幅ですから、振れ幅です。掛かっている力の大きさがどれだけの幅で振れ動いたのかということです。

たとえば、Case1_負荷が5kN〜10kNの幅で振れる場合には、応力振幅は(10-5)=5kNとなります。
そして、Case2_負荷が10kN〜15kNの幅で振れる場合でも、応力振幅は(15-10)=5kNとなります。
掛かっている負荷荷重の絶対的な大きさは、Case1とCase2では違っているのですが、応力振幅という力の変動、振れの幅という観点では同じ5kNなのです。
直感的には、ある金属の板にCase1の5〜10kNの応力振幅と、Case2の10〜15kNの応力振幅を与えて疲労破壊をさせようとする場合、Case2の条件のほうが少ない繰り返し負荷回数で疲労破壊に至りそうな気がします。しかし、実際の現象では、Case1とCase2では、ほぼ同じ繰り返し負荷回数で疲労破壊に至るのです。

不思議なことに、金属の疲労破壊という現象においては、疲労破壊に影響しているのは、負荷荷重の絶対的な大きさではなく、応力振幅の大きさなのです。

そして、大きな応力振幅の負荷を掛けるほど、少ない負荷回数で疲労破壊し、小さな応力振幅の負荷を掛けるほど、多くの負荷回数で疲労破壊します。

さらに、鉄鋼材料では、ある一定以下の応力振幅では何千万回と負荷を与えても疲労破壊しないことがわかっています。
この応力振幅の値を疲労限度と言います。

この応力振幅と負荷の回数の関係(S-N曲線)を図示したものを以下に示します。
この図の中で、D点の位置、σwが疲労限度となります。

図_S-N曲線の概念


しかし、アルミニウム合金では一千万回の繰り返し負荷に耐えても、その後、継続して繰り返し負荷を与えてゆくと疲労破壊を生じることがわかっています。
鉄鋼材料と異なり、アルミニウム合金は疲労限度を持たず、繰り返し負荷のもとでいずれは破壊する運命にあるのです。そのため、アルミニウム合金においては寿命設計を行います。

アルミニウム合金は鉄鋼材料と違って疲労限度がありませんので、鉄鋼材料の疲労限度のかわりに、一千万回(10の7乗)の負荷回数における疲労強度をもって設計の指標とするのが一般的です。

アルミニウム合金においても鉄鋼材料においても、疲労限度または10の7乗の負荷回数における疲労強度はその金属材料の引張強度と良い相関があることが知られています。何のことかと言いますと、金属材料の引張強さに対する疲労限度の比をσ/σBとして表し、疲労比といいますが、鉄鋼材料ではこの疲労比が約0.5であることが知られています。一方、アルミニウム合金では熱処理や加工状態によってこの疲労比が異なることが知られており、ロープアクセス用器材に多く用いられている7075-T6系のアルミニウム合金のように時効硬化型の合金では、疲労比が約0.25と鉄鋼材料と比較して疲労に対する強さが半分程度しかないことがわかっています。

ちょっと疲労比について補足しましょう。
鉄鋼材料の疲労比が約0.5だと言いました。
ある鉄鋼材料の引張強度が500N/mm2だとします。この場合、この鉄鋼材料の疲労限度は500*0.5=約250N/mm2だということになりますので、疲労寿命を気にせずにこの鉄鋼材料を使おうとするならば、作用する荷重・応力を250N/mm2以下になるように設計すれば良いということになります。
同様に、7075-T6系アルミニウム合金の疲労比は約0.25です。
また、7075-T6系アルミニウム合金の一般的な引張強度は570N/mm2です。
ですので、このアルミ合金の一千万(10の7乗)回の疲労寿命は、570*0.25=約140N/mm2だということになりますので、一千万回の負荷回数まで使うぞという疲労寿命設計のもとでは、作用する荷重を約140N/mm2以下になるように設計すれば良いということになります。

参考として、7075-T6511合金を含め各種のアルミニウム合金の応力振幅ー繰り返し負荷回数曲線(S-N曲線)を以下に示します。

図_平滑材のS-N曲線図_平滑材のS-N曲線_疲労比


アルミニウム合金の疲労破壊に関しての基本的な話はここまでです。
では、次は、実際のアルミニウムカラビナの疲労破壊について考えて行きましょう。

カラビナに引張荷重がかかっているとき、カラビナの各所に作用している応力は一様ではありません。
ある特定の場所に応力の集中を生んでいることは容易に想像できるかと思います。
そして、疲労破壊はそういった、応力集中を生じている箇所、弱点から進行します。
それゆえ、単純な計算では、カラビナに局所的に生じている集中応力を求めることはかなり難しく、FEM(有限要素法)などによる解析をするか、実際にカラビナを疲労破壊試験するしかありません。

カラビナを実際に疲労破壊させた実験が、MIT、マサチューセッツ工科大学のCenter for Sports Innovationにより公表されています。論文名は、
Analysis of fatigue failure in D-shaped karabiners

この実験では、ブラックダイアモンド社のD型カラビナを利用し、ゲートが開いている状態で応力振幅を0.5kN〜4,5,6kNと、ゲートが閉じている状態で応力振幅を0.5kN〜8,10,12,14,16,18,20kNとした条件において疲労破壊するまでの負荷回数を求めています。

この実験の非常に残念なことは、結果として応力振幅が大きくて、1万(10の4乗)回程度の負荷回数までの実験データしか得られていない事です。理想的には一千万(10の7乗)回程度の疲労強度の実験結果が欲しいところです。その辺については、論文の今後の展開についてのところで語られているので期待しましょう。

では、この実験結果の中で、
・ゲートは閉じている
・応力振幅=0.5〜8.0kN=7.5kN
・疲労破壊負荷回数=約1万回(テストデータ3ケースのばらつきが結構ある)
を利用して、このカラビナの一千万回(10の7乗)の疲労強度(kN)を推定してみましょう。

まず、7075-T6系アルミニウム合金にとって1万回の負荷回数で疲労破壊するのは疲労比でどれだけの時でしょうか?グラフから読み取ってみましょう。


10の4乗付近の実験データが無いのですが、エイヤ出で曲線を左に延長して考えると、概ね、疲労比=0.6ぐらいですね。
ということで、ちょっと強引ですが、このD型カラビナにおける応力振幅=7.5kNにおける疲労比はσ/σB=約0.6だと判りました。
ここから、7075-T6アルミニウム合金の10の7乗回疲労強度に対応する疲労比σ/σB=0.25における、応力振幅を計算してみましょう。

7.5/0.6*0.25=3.125(kN)

と、一千万(10の7乗)回負荷における疲労強度は約3kNということが推定できました。
また、この計算を報告書内の(1)式 Lc=85.4(Nc)^(-0.25)でやると、Lc=1.5(kN)という値が得られますが、この(1)式は負荷回数が少ない範囲(10の0乗〜10の4乗)での近似式なので3桁も違う10の7乗の疲労強度の計算に拡張して当てはめるのはちょっと無理があるように思えます。
この(1)式は、疲労強度(負荷回数)Nは応力Lの4乗に反比例するという意味を持っています。
話はそれてゆきますが、一般に鋼の疲労強度(負荷回数)Nは応力振幅Sの3乗に反比例することが知られています。アルミニウム合金では3乗に反比例するのか、4乗に反比例するのか、ちょっと今の段階ではわからないです。

次に問題になるのは、一千万回の負荷回数が日常的なロープアクセス作業を考えたときに多いのか、少ないのかということです。
日常的なロープアクセス作業では、スポーツ(フリー)クライミングに見られるような墜落という事象がほとんどありません。ロープアクセス作業において器材にかかる応力振幅は基本的には自重のオン・オフに伴う動的な荷重がほとんどであり、それらは最大限に考慮して落下係数=0(フォールファクターゼロ)における自重の2倍程度の応力振幅(概ね2kN程度)でしょう。
あとは、その自重のオン・オフ(負荷回数)が何回生じるのかですね。
たとえば、まっすぐ下に下降するだけの作業だと、荷重のオン・オフは下降開始から下降終了まで、下降開始時に多少もたついても5回程度でしょう。
一方、トラバースのように、多数の支点に対してランヤードを幾度と無く架け替えては体重を預けなおすような作業をしている場合、負荷回数はかなり多くなるでしょう。30秒に1回の荷重の架け替えを行うとする場合においては、1日あたりの負荷回数は、労働時間を8時間と想定するなら、8時間x60分x60秒/30秒=960回=約千回
1年間毎日働いたとして、36万5千回の負荷回数です。
逆算して、一千万回の負荷に至るのには27年ほどかかりますね。

このかなりいい加減な試算では、一般的なロープアクセス作業における疲労条件では、アルミニウム合金のカラビナの金属疲労に対する寿命は27年程度ということになります。

問題なのは、クライミングジムのリード壁に設置されっぱなしのカラビナのような環境なのかもしれません。
日常的に破断強度の1/4程度の墜落衝撃荷重を一日に数十回うけかねないような負荷環境です。
仮に、カラビナが6kNの衝撃荷重を1日に40回うけるとした場合、報告書内の(1)式 Lc=85.4(Nc)^(-0.25)を利用して計算すると、応力振幅6kNに対応する疲労負荷回数は約4万回です。よって、約1000日、約3年程度で疲労破壊に至る計算になります。

以上の計算は、あくまでも試算です。おそらく、カラビナの疲労寿命は、そのカラビナの形状に起因する局所的な集中応力の度合いや、ゲートのかみ合い構造のクリアランスが大きく影響するのではないかと思います。
一時期、パラグライダーのハーネスとラインをつなぐカラビナの疲労による破断が大きな問題になっていたかと思います。あれは矩形(四角い)カラビナゆえの角部の応力集中が問題の一因なのかなぁと思ったりもするのですが、最終的な結論がどうなっているのか、ちょっと気にはなります。たぶん複合要因なのでしょう。
一連の事件をうけて、一部のフライヤーさんは、コンペ以外ではスチールやステンレス素材のマイロン構造のコネクターを使っているようです。

自分の直感としては、破断強度のみで考えるなら、オーバル形状よりもD型カラビナのほうが大きな強度をだせるのでしょう。しかし、疲労強度という側面で考えると、オーバル形状のほうが大きな応力集中箇所が生じにくいため、疲労寿命については同一破断強度、同一素材のD型とオーバル型のカラビナがあるとするならば、オーバル型のほうが疲労寿命に優れているように思えます。

いつも自分がつかっているPETZLのオーバル型カラビナ、OKスクリューロックの疲労強度に関する実験をしてみたいです。もし、PETZLさんがすでに実験しているなら、実験データが見たいですね。
自分で実験するには、設備面、金銭面で現段階ではかなり無理がありますしね。


ハイラインの角度と吊下荷重とロープの張力の関係 ver1.1

2011/07/06追記:支間長とたるみから角度を計算するグラフを追加

ハイライン(展張線)のロープ、支点に今、どれだけ荷重がかかっているのだろう?という疑問を手っ取り早く解決する方法を紹介します。

まず、ハイライン(展張線)にまつわる現象を一緒に考えてゆきましょう。

ハイライン荷重状態図

1.ハイライン(展張線)に重量物:Fをぶら下げると、ロープが伸びてたるんだ分、V字型になります。
2.重たいものをぶら下げるほど、たるみは大きくなり、V字の角度(ハイラインのなす角度:θ)は小さくなる。
3.重たいものをぶら下げるほど、ロープの張力:Tは大きくなり、支点に作用する力も大きくなる。
4.あらかじめ、大きな張力を掛けてピンピンに張るほど、重量物:Fをぶら下げたときのロープのたるみは小さくなり、V字の角度(ハイラインのなす角度:θ)は大きくなる。
5.あらかじめ、大きな張力を掛けてピンピンに張るほど、重量物:Fをぶら下げたときのロープの張力:Fは大きくなり、支点に作用する力も大きくなる。

ここまでは良いでしょうか?

実は、ハイラインの中央に重量物:Fをぶら下げたときの、ロープの張力:Tは、ハイラインのたるみによるV字の角度(ハイラインのなす角度):θを観察・計測すると簡単に計算で求められます。
ハイライン荷重計算式
計算式で書くとこうなります。
こんな三角関数の入った数式を覚えても、現場で暗算・筆算できるわけではないので、グラフを作っておきます。

いろんな吊下荷重(0.5〜4.0kN)、いろんなV字の角度(120〜175°)で、ハイラインのロープにどれだけの引張力(引っ張り荷重kN)が掛かっているのかを、さっとグラフから求められるようにしたものが下の図です。

20110702ハイライン荷重計算表

<例題1>
たとえば、2名+担架で吊下げ荷重が2kN、ハイラインのなす角度が160°のときは、ハイラインのロープにかかる引っ張り荷重はいくらでしょうか?

横軸の160°のところから、指で縦線を上に向かってなぞってゆき、
2.0kNの曲線と交わるところで指を一旦とめましょう。
次に、指をその交差するところから左にまっすぐなぞって行くと、縦軸のロープの張力Tの目盛りに突き当たりますね。
だいたい、T=5.8kNってところですかね。
静止荷重で5.8kNですから、けっこう大きな荷重ですよ。

<例題2>
たとえば、ハイラインのシステムをNFPA-G規格(破断強度36kN)の器材で構築していて、ハイラインのロープは1本だとします。
ここに、2名+担架の2kNの荷重を吊るすとします。
このとき、ハイラインのなす角度は、何度以下にしないといけないでしょうか?

まず、ハイラインに掛けてよい荷重の上限は静止荷重において、器材の破断強度の10%にするとしましょう。
10%ルール、安全率10というものですね。
すると、ハイラインのロープにかかっても良い引っ張り荷重は静止荷重で、36kNの10%=3.6kNだということになります。

条件が整いました。
ハイラインのロープの張力T=3.6kN
ハイラインの吊下荷重F=2.0kN
この条件を満たすハイラインのなす角度をグラフから求めてみましょう。

まず、グラフの縦軸、ハイラインのロープの張力T=3.6kNの場所を指差し、右方向にまっすぐなぞってゆきます。
そして、吊下荷重2.0kNの曲線と交わる場所で指を止めましょう。
次に、その交差する場所から、今度はまっすぐ指を下になぞっていきます。
すると、横軸のハイラインのなす角度:θに突き当たりましたね。
数値は何度でしょう?

148°程度ですね。

よって、破断強度36kNのNFPA-G規格の器材で構築したロープ1本のハイラインにて、2名+担架の2kNの荷重を吊下げる場合、10%ルールに則って運用するならば、ハイラインのなす角度はハイラインの中央部で148°以下になるようにしなければならないということになります。

<例題3>
では、例題2の発展として、同じ条件でなるべくロープをたるませたくないので、ハイラインのロープを2本張ったとします。このときには、ハイラインのなす角度を何度以下にすればよいでしょうか?

ハイラインを2本張るということは、ハイラインのロープ1本あたりの荷重は、半分の1kNになります。
10%ルールに則った安全な運用荷重の上限は3.6kNと例題2と同じですね。

では、グラフの縦軸、ハイラインのロープの張力T=3.6kNの場所を指差し、右方向にまっすぐなぞってゆきます。
そして、吊下荷重1.0kNの曲線と交わる場所で指を止めましょう。
次に、その交差する場所から、今度はまっすぐ指を下になぞっていきます。
すると、横軸のハイラインのなす角度:θに突き当たりましたね。
数値は何度でしょう?

164°程度ですね。
実際にハイラインのなす角度が164°だと、けっこうタルミが少ないように見えますよ。

************************
この計算方法の弱点は、
いちど荷重をかけてみないと、ハイラインのロープに作用している荷重が求められない。
ということです。

あくまで、事後確認しかできないということです。

ですので、本番の現場でいきなり役立つわけではありません。
普段の訓練の中で、ハイラインのロープを展張する際の力加減と、ハイラインに吊下げる重量を様々に変えてみて、結果としてどれだけのタルミが生じるか(ハイラインのなす角度がいくらになるか)を観察・計測します。
そこからグラフを使って、ハイラインのロープに作用している引っ張り荷重を求めてみてください。
そして、自分が構築したハイラインの破断強度と比較して、ハイラインのロープの引っ張り荷重が10%を超えていないかを確認することを繰り返します。

それによって、重量物を吊下げる前にハイラインのロープをどれだけの力で展張するのが良いのかの力加減が経験的にわかってくると思います。

*****************
実際にハイラインのなす角度を測るとなると、、ハイラインの横から分度器をもってじーっと透かし見ないとわからないかもしれません。
簡単な計測の1つは、写真を撮影して、あとでゆっくり分度器をあてて角度を測る方法です。
また、ハイラインの支点と支点の間隔の距離と、重量物を吊下げてたるんだ高さを計測することで、計算によってハイラインのなす角度を求めることもできます。この計算方法はまた後日。

2011/07/06追記

角度を測るのが困難な状況にそなえて、ハイラインの支点と支点の距離すなわち支間長:Ls(m)とハイラインの支間中央に重量物Fを吊下げたときのハイラインのたるみh(m)からハイラインのたるみ角度θ(deg)をもとめるグラフを作成しました。20110702ハイライン荷重計算表_支間長とたみから角度を計算























<例題1>

支間長Ls=30m ハイラインのたるみh=4m のとき、ハイラインのなす角度:θはいくらでしょうか?

まず。縦軸のハイラインのたるみh=4mの目盛り位置に指を置いて、右方向に指を動かしてゆきます。
その指が、支間長Ls=30mの曲線と交わる場所で指を一旦止めます。
次に、指を今度はまっすぐ下に動かしてゆくと、ハイランのなす角度:θのかかれた横軸にぶつかります。その数値を読み取ってみましょう。いくらですか?

θ=150°ですね。

<例題2>
支間長Ls=40mのハイラインにおいて、ハイラインのなす角度を荷重管理の面から、150°以下にしないと過負荷になることがわかっているとする。
このとき、ハイラインのたるみhは何メートル以上にしなければならないか?

まず、横軸のハイラインのなす角度:θ=150°の位置に指を置いて、上方向になぞってゆきます。
そして、Ls=40mのラインと交差する場所で一旦指を止めます。
次に、指を今度は左方向に動かしてゆくと、縦軸のハイラインのたるみhにぶつかります。その数値を読み取ってみましょう。いくらですか?

h=5.4mですね。
よって、ハイラインのたるみhが5.4m以上にしなければならない。

*****

ちなみに、ハイラインの支間長ーたるみーなす角度の関係式は以下のようになります。
支間長-たるみ-角度の関係図





支間長-たるみ-角度の計算式




*************

以上の2つのグラフ、
1.ハイラインのなす角度θと吊下荷重Fとロープの張力Tの関係
2.ハイラインの支間長Lsとたるみhとなす角度θの関係
を使うことで、ハイラインの設置に関する荷重の管理(過負荷の予防・発見)や、たるみ量の管理(ハイラインの下方クリアランスの確保)などの検討・検証・現場管理がしやすくなるかと思います。

この2つのグラフを合成して1枚のグラフにしたものも、近いうちに掲載したいと思います。
で、掲載しました。
これだと、グラフ1枚でぜんぶ計算できますが、慣れていないと混乱するかもしれないので、使い慣れない人は上記の2枚のグラフで計算したほうがよいのかもしれません。
ハイラインのロープの張力-吊下荷重-なす角度-支間長-たるみ相関図


























使い方は同じです。
ただ、右の数値軸をみればいいのか、左の数値軸をみればいいのかを間違えると、トンチンカンな結果を導いてしまいます。

支間長Lsの曲線をなぞっているときは右のたるみ長さhを、
吊下荷重の曲線をなぞっているときは左の張力Tを、
それぞれ読み取るように注意してください。

<例題1>

支間Ls=40m、吊下荷重F=2kN、たるみh=5mのときの、なす角θとロープの張力Tの値を求めましょう。
ハイライン図の読み方例題1



















作業は2ステップあります。
setp1.支間長Lsとたるみhの関係から、なす角度θを求める
step2.求めたなす角度θと吊下荷重Fから、ロープの張力Tを求める

では、step1.からいきましょう。
1)右縦軸のたるみh=5mの位置から、指を左になぞって、支間Ls=40mの曲線と交差する点で指をとめます。
2)次に、指をまっすぐ下におろして、ハイランのなす角度θを読み取ります。
θ=152°ですね。

では、setp2.に移りましょう
3)step1.にて求めた、横軸のハイラインのなす角度θ=152°から指を上になぞってゆき、step2.では吊下荷重F=2.0kNの曲線と交差する点で指を止めます。
4)そこから、指を左に動かしてゆき、左縦軸のロープの張力Tの値を読み取ります。
T=4.1kNですね。

ということで、θ=152° T=4.1kN となります。

<例題2>

支間Ls=50m、吊下荷重F=2kN、ロープの張力F=3.6kNとなるときの、ハイラインのなす角度θとたるみhを求める。
ハイライン図の読み方例題2



















作業は2ステップあります。
setp1.吊下荷重Fとロープの張力Tの関係から、なす角度θを求める
step2.求めたなす角度θと支間距離Lsから、ハイラインのたるみhを求める

では、step1.からいきましょう。
1)左縦軸のロープの張力T=3.6kNの位置から、指を右になぞって、吊下荷重F=2.0kNの曲線と交差する点で指をとめます。
2)次に、指をまっすぐ下におろして、ハイランのなす角度θを読み取ります。
θ=148°ですね。

では、setp2.に移りましょう
3)step1.にて求めた、横軸のハイラインのなす角度θ=148°から指を上になぞってゆき、step2.では支間長Ls=50mの曲線と交差する点で指を止めます。
4)そこから、指を右に動かしてゆき、右縦軸のハイラインのたるみhの値を読み取ります。
h=7.2mですね。

ということで、θ=148° h=7.2m となります。

どうでしょう?使いこなせそうですか?
このグラフには、5つの要素があります。
1.支間長Ls
2.吊下荷重F
3.ハイラインのなす角度θ
4.ハイラインのたるみh
5.ロープの張力T
この5つの要素のうち、3つの要素の値がわかっていれば、他の2つの要素の値をグラフから求められるということです。

グラフを使う場合に注意したいのは、吊下荷重Fの曲線と、支間長Lsの曲線とが交差する点には、とくになんら意味がないということです。
あわてていると、この2つの曲線の交差する点の座標値である、ロープの張力Tとハイラインのたるみhとハイラインのなす角θを答えと勘違いすることがあります。
冷静に考えてみてください。支間長Lsと吊下荷重Fだけが判っている状態でどうして、ハイラインのなす角度θや、ロープにかかっている張力Tが求められるのでしょうか?

さらにもう一点、
このグラフは、どんなロープでも使えます。
ワイヤーでも、三打ロープ、ダイナミックロープ、セミスタティックロープ、ポリエステル低伸長ロープなんでもOKです。
なぜなら、すでに重量物を吊下げて、ロープが伸びてたるんだ状態の現象について計算しているからです。
逆をいえば、荷重を掛ける前に、荷重を掛けた後の状態を計算するものではないということです。

また、この計算はロープの自重を無視した計算です。
50mを超えるような大きな支間長では、ロープの自重によるたるみが若干でてきますが、これを無視しています。
このロープの自重によるたるみの計算は、カテナリー曲線、ハイパボリックコサイン曲線、双曲線などと呼ばれるややこしい関数を相手にしないといけなくなります。


**************
今後さらに、これを発展させて、あらかじめ設定された支間長さ、吊下げ荷重 、ロープの仕様(本数、伸び率)、たるみ量から、 ロープに荷重を掛ける前のハイラインの展張作業において、ロープにどれだけの初期張力を与えるべきかの計算をおこなえないかといろいろ考えます。
ただ、ハイラインって一回、誰かがぶら下ると、たるみますよね。リラックスするともいうらしいですが。システムのあちこちのノットや、プルージックがしまり上がった分、ロープ自体ははじめよりすこしたるみます。
そういう現象を無視した計算でもうまく実際現象に近いシミュレーション計算結果が得られるのか、ちと疑問ではあります。

新品の性能に興味はない

ちょこと、ぼそぼそします。

社内で実験をするときは、なにかとわざと使い古した器材でテストを行っています。
可能なら、社内の破棄基準に達したもので実験をしています。

新品の器材で実験を行い、満足のゆく結果が得られたとしても、道具は使い始めたときから劣化してゆきます。
安全という観点からすると、破棄基準に達した装備でも安全性能を満足してることを確かめたいのです。

もし、使い古した装備では安全性能が満足されないことが判明したなら、破棄基準を強化すればよいのです。

新品の性能には興味はありません。
現場ではほとんどの器材が多少なりとも使い込まれたものです。
中古の性能と、破棄基準に達したものの性能が知りたいのです。

アルミが腐ったー 電蝕です

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現場に一晩残置したアルミニウムのハンガー(Petzlクデー)が腐食しました。
左の写真の上段は腐食していないハンガー、下段は腐食したハンガー
写真はすでに腐食した箇所をワイヤーブラシで磨いた後のものですが、それでも腐食痕跡がよく観察されます。

原因は、ハンガーを設置した環境と組み合わせるアンカーの材質によるものです。


橋台アンカー設置状況
アンカーは橋梁の橋台の上に設置されました。
ここは、路面からの雨水・土砂が流入したり、冬場の融雪材の塩分が残留したり、鳥糞が堆積したりと腐食環境になっていました。
そして、アルミニウムのハンガーは、ステンレスの本体打込み式アンカーと組み合わせて使用していました。異種金属を接触させると、電位差が生じて卑な金属(ステンレスとアルミの組み合わせならアルミ側)が腐食しやすくなります。ここに融雪材や鳥糞の塩分が混じった水が介在すると、腐食が急速に進むことになります。

今回の場合は設置期間が18時間程度で、腐食も表面的なものでしたので、表面に付着している腐食生成物をワイヤーブラシで除去し、新鮮なアルミニウム面を出してあげることで、そのハンガーの継続利用をしてよいこととしました。
腐食が著しく、断面減少している場合は破棄とすべきでしょう。

アルミニウムは一般的には「錆びにくい金属」とイメージされていますが、実際にはとても腐食しやすい金属です。
しかし、あまりに腐食されやすいため、普通はアルミニウム金属の表面は瞬く間に空気中の酸素と結合して丈夫な酸化皮膜を形成してしまいます。これが、アルミニウムを腐食から守ってくれることになり、「錆びにくい金属」という印象をみなさんにふりまいてます。
また、「アルマイト処理」という酸化皮膜形成方法があり、これはわざとシュウ酸、硫酸、クロム酸などの水溶液につけて電解を行って表面により強固な酸化皮膜を形成させるもので、アルミサッシのあのツヤっとした表面処理がその代表です。
しかし、海水をはじめ、強い腐食環境では、その酸化皮膜も壊されてしまい急速に腐食が進むというデリケートな側面を持つ金属です。

気をつけてゆきましょう。

また、過去の類似記事
「酸性のヘドロでカラビナが腐食する」
http://blog.livedoor.jp/rope_access_eng/archives/565005.html

も併せて読んでいただければと思います。

あついっす。熱中症。

IMG_6590
みなさんご無沙汰してます。
暑い季節になってきました。正直しんどいっすね。へろへろっす。
熱中症対策してますかー。
ロープにぶら下っている状態での熱中症による行動不能はとってもシリアスというか、もう即レスキューなんで、予防第一でいきましょう。
のーれすきゅー いず べすとれすきゅー っす。

僕が気をつけていること。

1.作業開始前に500ccは体にいれておく
  荷物としてもっているだけの水分は熱中症対策にならないので。
  前夜、寝汗をかいている時などはもっと飲んでおく。
  水筒の水は重たい荷物だけど、飲んじまった水は荷物にならない。

2.朝ごはんのときに牛乳をのむ。 
  カルシウムをはじめ各種の電解質・ミネラルを摂取できます。

3.百均で買った小さい扇子(紙でなく布製)を携行してぶら下っているときでも体を扇いで冷やす。
  特に湿度が高くかつ無風環境にあっては、汗をかいても汗が気化せず体温が下がらないので、扇子の風による強制冷却は効果的です。フルボディーハーネスは衣服の換気を著しく阻害していることを考えて積極的にあおいで空冷しましょう。

4.がんばらない宣言、積極的にサボタージュ
  しんどかったら、あきらめてさっさと休む。しんどそうにしている人はさっさと休ませる。
  機械だって高温環境では性能が低下するんだから、人間ならなおさら能力低下するさ。いつも通り働くなんてどだい無理、無理。

5.濡れタオルで体表面の汚れ・脂をこまめに拭う。
  腕や首筋などの汚れ・脂を拭うと、汗の気化効率が良くなって、体がより冷えます。


熱中症対策ってのは概ね次の3要素からなっています。
1.体を冷やす(汗をかいて気化させる、風にあたる、直射日光を避ける等) 至らないと=>熱疲労
2.体内の水分量を維持する(汗をかいて減る分をあらかじめ補給する。) 至らないと=>熱射病
3.体内の電解質・ミネラル量を維持する(汗をかいて減る分をあらかじめ補給する。) 至らないと=>熱痙攣
たまに現場でやたらと「塩あめ」を摂取することを特効薬のごとく推奨する人がいますが、塩あめをなめるだけでは熱中症予防としては片手落ちです。
体を冷やす 水分補給 電解質・ミネラル補給 の3つが揃ってはじめて熱中症予防です。

ご安全に!

拍手ありがとうございます。が、コメントが付いている場合があったんですね。

どうも、山口宇玄です。

いつも拍手・コメントありがとうございます。

今日、気づいたんですが、拍手をいただいた際に、一緒に短いコメントをいただいているケースがあることに、いままでまったく気づいてませんでした。

どうもすいません。

ロープをいろんなもので擦って切断してみよう

どうも、ご無沙汰してます。

新人訓練の中で、
「ロープが周囲の鋼材やコンクリートに擦らないように注意しなければならない。」
「ロープがエッジに擦れる場合は必ずロープガードを当てるんだよ」
と口だけで説明するのも説得力がないので、実際にダミー人間をぶら下げたロープを、
・ナイフ
・ノコギリ
・コンクリートブロック
・鋼材
・木材
で擦りきってみる実験や、ロープ同士を擦らせたらどのように切断するのかを簡単に実験で体験してもらったり、
最後には実際にロープに自分でぶら下って、ロープが切れるまで、コンクリートの角にロープを左右に擦り付ける実験をやってもらいました。

ナイフについては、荷重の掛かっているロープと、掛かっていないロープでは、まったくロープの切れ味が違うことを体験してもらいます。
人の荷重がかかったロープに刃物をあてると、ロープが自ら切れてゆくように、なんの抵抗もなく切れることに皆驚きます。

木材については、一生懸命擦り付けても外皮の一部が傷つくのみで、5,6分では切断には至りませんでした。
角材のロープに押し当てている箇所がどんどん丸くなってしまうのです。

ここまでやると、さすがに「ロープってのは大きな引張り強度はあるけれど、とてもデリケートなものなんだな」と解ってくれることでしょう。

こういった訓練は、使い古した破棄対象のロープでやっとります。
個人的には「たとえ新品のロープを切断してでも、一度は体験しておくべき重要なことだ。」と思っています。
ロープのエッジに対する保護はとても大切なことです。
自分と仲間の命を託すロープの限界、弱点を知っておくことで、現場で適切な安全管理ができることでしょう。

ハイスピードカメラ(スーパースロー)で撮影した実験の動画を以下に列挙しますのでどうぞ。
ノーマルスピードで撮影していたら、擦り始めてから切断までを一部始終お見せできるのですが、ハイスピードでとってしまったので、全部を見せるととても長くなるので、切断直前だけお見せします。


ロープをノコギリで切断

90kgfの荷重がかかったロープにLetherman super tool 300のノコギリを擦り付けてφ9.0mmのロープを切断している。
意外と切断したナイロン繊維がノコギリの刃にからみついて、ノコを引きにくい面がある。しかし、不意にノコギリの刃が当たってしまった状況を想定し、勢いを付けてノコギリの刃を擦り付けると、たかだか刃渡り8cm程度のノコギリだが、ロープの半分程度までは切断してしまう。

ロープをコンクリートブロックで切断

90kgfの荷重がかかったロープにコンクリートブロックの角を擦り付けてφ9.0mmのロープを切断している。
見ての通り、コンクリートブロックはせいぜい10kgf程度の力でしか押し付けていないことは、ロープの屈曲角度がほとんど無いことからもわかると思う。
ロープが横方向の擦れに非常に弱い特性が見て取れる。


ロープを鋼材で切断

90kgfの荷重がかかったロープに鋼材の角を擦り付けてφ9.0mmのロープを切断している。
鋼材の角はバリ取りはされており、防錆塗装がされた状態のもの。
見ての通り、鋼材はせいぜい10kgf程度の力でしか押し付けていないことは、ロープの屈曲角度がほとんど無いことからもわかると思う。
ロープが横方向の擦れに非常に弱い特性が見て取れる。
また、傍目には、切断直前になっても目立ってほつれが生じていないのです。よって、自分が遠く下方にぶら下っているとして、自分のロープが鋼材にすれていて半分以上切断しているのに、遠めには切れているのに気づけないかも知れないのです。これは怖いですね。

ロープ同士で擦って切断

ロープ同士を擦らせてロープを切断させている。
人力で20kgf程度の張力で引っ張りながら、ロープを擦っている。
よって、この程度の張力の場合、ロープは機械的に繊維が破断するというよりも、表面の摩擦熱でナイロン繊維が融解して切れてゆく。
これが、より強い力で引っ張られているロープ同士の場合は、熱融解によって切れるというよりも、繊維同士の噛み合いによる機械的な切断になってゆく

実際にぶら下ってロープをコンクリートの(鋭くない)角に擦り付けて切断

80kgfの荷重がかかったロープにコンクリート擁壁の角を擦り付けてφ9.0mmのロープを切断している。
コンクリートの角は約3cm程度の幅で角取りがされており、まったくもって鋭利というわけではない。
無傷の状態から、左右に約300m程度振る動作を20往復程度行った段階で、ロープは切断している。


災害救助・救援・復興おつかれさまです。

みなさん災害救助・救援・復興おつかれさまです。

そして、ほぼ一月半も更新ほったらかしですいません。
震災のことで僕も人並みにいろいろ思うことはありますが、僕からは人並み以下の言葉しか出てこないので今は何も書かないでおこうと思います。

カラビナの金属疲労の話を準備中なんですが、それは置いといて僕の近況などお話します。

ロープの山明日から栃木と福島の県境付近の水力発電施設で緊急点検調査業務をしにいってきます。
揚水式水力発電というタイプの発電施設で、関東エリアのお昼時のピーク電力需要をまかなうための重要な施設ですが、地震の影響で補修が必要な状態なため、緊急点検調査ののち補修を行うことになっており、その調査業務に行ってきます。
現地に投入するロープの総延長が3,500mというなんか変な現場になっちゃいました。ある意味総力戦です。

プライベートな面では、日赤のボランティアに普段から参加していた関連で、震災発生後は仕事の合間やお休みのときに、被災地に搬送される災害救援物資を京都府内のあちこちの備蓄倉庫から運び出しては日赤の近畿圏における物流センター役となっている高槻日赤病院に搬送するお手伝いや、現地へ派遣される日赤職員や特殊救護要員のための装備の準備と現地から帰ってきた方々の装備の片付け等をしてました。
被災地への救援物資の搬出作業も昨日でひと段落してしましました。なぜなら、備蓄倉庫がほぼ空になりつつあるからです。
昨日、被災地に向けて送り出したのは「安眠セット」という避難所での睡眠をいくぶんは快適にしてもらうためのマットレス・エア枕・スリッパ・耳栓・アイマスクがセットになったものです。日赤職員の方の話では今後長期間(数ヶ月)にわたり避難所生活をすることが確実になった方々に配布されるようです。

なんにせよ、長期戦です。
僕は僕の本業である土木業の中で震災復興にかかわってゆくことになります。
通常業務をこなしつつ、復興業務をこなして、さらに新たな災害対応に備えて準備してゆきます。
プライベートでもいろいろごそごぞしますけど。

みなさんも、健康第一でロープのお仕事気合入れてゆきましょう。
あと、家庭・家族も大事にしましょう。(僕はいろいろと反省してます。)

応急処置用の装備(ファーストエイドキット)と、アワレスキュー(同僚救助)用の装備

1.救急ポーチ(応急処置用のキット、ファーストエイドキットともいうのかな)

僕の会社では、日本赤十字社の3日間の訓練を経て救急法救急員資格を取得すると、救急ポーチを1個中身入りでもらいます。
各現場で、一人はこの救急ポーチをハーネスにぶら下げて作業をするようにしています。
だいたい、社内で現場をまかされる主任クラスの人はたいてい救急法救急員資格をもっているので、その人がこのポーチをぶら下げていることが多いですね。

P2164317ドイターのファーストエイドキット用のポーチに入れてます。もう、白い十字が剥げて、ただの汚い赤いポーチになってます。
しっかりしたつくりで丈夫です。もう3年ほど使ってますが、まだ使用上の不都合を感じさせるほどの損耗・損傷はありません。
見た目が汚いですけどね。

P2164316中身はこんな感じにパッキングしてます。

ファーストエイドキット中身をリストアップすると、
ちっこいマキロン
ポイズンリムーバ
人工呼吸用フェイスシールドマスク
感染予防用ナイロン手袋 x3
保温用毛布(アルミ蒸着レスキューシート)
滅菌ガーゼ30cmサイズ x2
畳み三角巾 x2
トラウマシアーズ
JPTECのロード&ゴーポケットリファレンス
となってます。
ここに、傷病者の観察・処置記録用紙と小さいボールペンを追加しようと考えてます。

ファーストエイドキット畳み三角巾と滅菌ガーゼ、ナイロン手袋はジプロックのナイロン袋にいれて防水処置しています。

ファーストエイドキットP2164314普段からしょっちゅう応急処置をしている訳ではないので、事故に際して慌てていても最低限の手順・判断を思い出せるようにJPTECガイドブックに付録でついていた LOAD and GOのポケットリファレンスを入れてあります。
状況評価・高エネルギー事故の具体例・初期評価・全身観察・グラスゴーコーマスケース・GUMBA・SAMPLE・ジャパンコーマスケール・注意すべき胸部外傷・収容直後の活動・MIST病院への第一報で伝えるべき内容
について、簡潔な記述がされており、過去に適切な訓練を受けている人なら、これを見て思い出しつつ処置ができるのかなと考えてます。
一方、これがあっても、訓練経験のないノンメディカルの一般人にはこんな紙切れ暗号表と大差ないですね。

ポーチ1個あたりだいたい8,000円ぐらい掛かってます。
一番高いのはポーチそのものかな。
一番重要なのは使う人間の能力ですね。
これをいざというときに使えるだけの訓練を受けて、その能力を持っている人の価値というのを考えると、8,000円というのは費用対効果で考えれば安いもんだと思います。

ポイズンリムーバはその効果が疑問視されている面もありますが、現場によっては夏秋の蜂さされ対策で各個人の携行が義務付けられる場合があるので入れてあります。

アルミ蒸着のレスキューシートは、雨に濡れてそのままにしておくと、アルミが錆びて酸化アルミニウムの粉となってしまい、いざ使おうとしたら、粉っぽいただの透明なフイルムになっていたことがあるので、時々状態をチェックするか、防水状態でパッキングしたほうがよいでしょう。
過去にレスキューシートは熱中症シーズンに、日差しの強い岩壁の中で、僕自身熱中症の初期症状を自覚した際、直射日光から逃れるために利用したことがありました。

ちっこいマキロンは、ほんとうは、同じぐらいのサイズの生理食塩水がほしいのですが、なかなか見つからないので、とりあえずマキロンでしのいでます。
傷を洗ったり、目をすすいだりするのには生理食塩水がいいのですが。出来合いのが一番ですが、うまいこと滅菌状態を維持して小さなプラスチックボトルに点滴用の生理食塩水を移し変えられないかなと考えてみたりもしています。日常的には目にごみが入ったときの洗浄液としての利用用途のほうが多いものですから。

あと、救急ポーチの中のトラウマシアーズのような強力ハサミは日常的にけっこう出番が多いですね。ロープをきったり、インシュロックの端末切ったり。


2.アワレスキュー(同僚救助)用の装備

アワレスキュー装備これは、作業員各個人が常に携行することになっている、アワレスキュー(同僚救助)用の装備です。
最低限プーリーが1個とφ8mm長さ2m以上のプルージックコードを所持することになっています。
僕の場合、ここにさらにミニトラクションが1個と、簡易カムデバイスのタイブロックが加わります。
現場は最低2人で作業しているので、最低プーリー2個とプルージックコードが2本あるということになります。
よって、現場で3倍力の引き上げシステムsimple x3をプーリーのみで構築できます。
また、戻り止めにI'D、STOP、RIG等を使うのであれば、5倍力のシステムcomplex x5を組むこともできます。

実際には、現場で荷物の上げ下ろしに際してプーリーを使うことがよくあるので、その時に使うためにプーリーを所持している要素があります。
また、ハンドアッセンダーを落として失った場合においても、プルージックを利用してロープを登り返せるように2mのプルージックコードを所持しているというセルフレスキュー的な要素もあります。

アワレスキュー装備これらの、出番があまり無い装備は、ハーネス、ナバホの後ろのギアラックに掛けてあります。
また、レストレイン用アタッチメントには、いつも、ビニールテープをぶら下げています。何かと便利ですんで。
ギアラックの右側には、マルチツールのレザーマンSuper Tool 300を配置してあります。これも何かと便利ですんで。

これらの装備はレスキュー用として使わずに済むのがベストですが、訓練して使うための能力を作業員がもっていなければただのお荷物です。
レスキューの原則でありましたっけ、「訓練でやったことが無いことを、現場でいきなり試してはいけない。」というのが。

IRATA Safety Notice 17 下降器からロープが外れ、バックアップも機能しなかった

IRATAのSafety Notice に新しい事故報告があがっています。

http://www.irata.org/safety_notices.htm

http://www.irata.org/safety_notices/Safety%20Bulletin%2017%20-%20Abseil%20incident.pdf

I'Dのサイドプレートがきちんとしまっていなかったため、I'Dからロープが外れてしまい墜落。
バックアップデバイスとしてPETZLシャントを利用していたのですが、墜落時にシャントにつけていた、追従用の細引きから手を放せずに、強く握ってしまったため、シャントのカムはバックアップロープを噛み込めなかった。
そのため、バックアップは機能せず、作業員は7m下の地面まで墜落となっています。

この経験年数4年のIRATAレベル2の作業員は、踵の骨折、脊椎の圧迫骨折、摩擦熱による指の火傷で3日間の入院となり、数ヶ月間は就労できない状態になった。(脊椎の圧迫骨折が3日間で退院できるとは到底考えられない。3ヶ月間の入院の間違いか?)

今回のSafetyNoiceはめずらしく、再発防止に関する記述が厚く書かれているのでご一読をお勧めします。
僕の社内では全文を日本語に約して、社内回覧しました。
(ここで、その全文を掲載するのは著作権的に問題になるようなので勘弁してください。)

以前からIRATA内でアナウンスされているように、PETZLのシャントをバックアップデバイスとして利用することの問題点が再度指摘されています。
海外では長らくバックアップデバイスとしてPETZLのシャントを使い続けてきており、なかなかアサップのような自動追尾型のバックアップデバイスに移行できていない現状があるようです。
シャントをバックアップデバイスとしてどのように使うのかは、以下のページを見てみてください。
http://www.ropeworksgear.com/s.nl/it.I/id.80/.f

今回の事故はPETZLのアサップのような自動追尾型のバックアップデバイスなら起きていなかったでしょう。
シャントにかぎらず、シンギングロックのロッカー等細引き紐を指先でつまんで下降するタイプのバックアップ装置の利用の問題点を各自が再度認識するべきでしょう。

基本的に墜落時において、本能的に人は掴んでいる物を放すことはないそうですので、紐をつかんで連れて降りるタイプのバックアップ装置を導入しようとしているなら、その構造を注意深く観察・理解し、その長所・短所を適切に把握しなければ自身の安全を保証できないでしょう。

もしこの作業員が社会復帰し、再度ロープアクセスの仕事をする際に、かれは再びバックアップデバイスとしてシャントを利用するでしょうか?おそらくアサップを使うでしょうね。そもそも、ロープアクセス仕事をしないか。

僕の会社では、ライフライン(セイフライン・バックアップライン)を利用する場合、それに取り付けるバックアップデバイスはPETZLのアサップを利用しています。
たとえば、シャントのように細い紐を指先でひっぱりながら下降し、万一墜落したときは、その紐から手が離れていることが前提で、(下降中ははなからその紐を掴んでいるのに)もし間違えて強く掴んでしまうとバックアップは機能しませんというような、本当に機能するのかどうか怪しいシステムを使う気になりません。
不確実な手段でフェイルtoセイフを構築するから、今回のような事故が起きるとも言えるでしょう。

また、再発防止策として、下降開始前の下降器の動作チェックを確実に行うようにアナウンスされています。
具体的には、「確実な」バックアップラインとバックアップデバイスが装着されているか、支点にランヤードを掛けている状態において、下降をしはじめる前に、15〜20cmだけ下降器で下降してみることで、ロープのセット方法のミス、サイドプレートが確実に閉じているか、セーフティキャッチが閉じているかなどを確認しなさいといったことが書かれています。
下降器へのロープのセットが不確実であることに関しては、過去のブログ記事を参考にしてください。
STOPへのロープの掛け間違い
http://blog.livedoor.jp/rope_access_eng/archives/561465.html

「バックアップがあるから大丈夫」なんて思っていると、ワークライン(メインライン)の扱いがおろそかになり、
「バックアップなんてお飾り」なんて思っていると、バックアップラインの扱いがおろそかになり、
いつのまにか、ワークラインもバックアップラインも両方おろそかになり。
なんてならないように、気を引き締めていきましょう。

落下係数2に対応するランヤード PETZL アブソービカY80

建築業界では、だいぶランヤードの2丁掛けが普及してきているようです。
一部の外資系がからむ建築現場のようにフルボディーハーネスが施主の要望によって義務付けられるケースも増えてきているようです。
昨年末にあと施工アンカー資格の実技試験を受験した際に、他の受験者の方の多くが二丁掛けの安全帯をしていたことからも、建築分野では二丁掛けが標準化しつつあることを実感しています。

発注者が国と自治体が主体の土木業界では、ほとんどの作業員が装着している安全帯は胴ベルト+1丁掛けランヤードのものです。
二丁掛けが要求されていることは自分がかかわった現場では皆無です。

さて、ダイナミックロープランヤードや、国産の一般的なランヤードは落下係数1までの墜落にしか対応しておらず、落下係数1を超える墜落においては過大な衝撃荷重を受けて負傷するリスクがあります。

しかし、現場では腰よりも下の位置からしか支点がとれない状況になることは良くあることです。
そんなときには、PETZLのアブソービカ製品に代表される落下係数2の墜落に対応できる容量の大きなアブソーバのついたランヤードを利用します。
これらのアブソービカ製品は、落下係数2までの、足元からしか支点がとれないような状況での墜落においても、大容量のアブソーバによって墜落衝撃荷重を6kN以下におさえてくれます。
一般的な2丁掛けランヤード用につかうアブソービカY80だと、価格は8,704円(メ希)です。

これをフルボディーの胸部のアタッチメントポイントに装着して使用します。背面でもいいですよ。基本的にはフォールアレスト用のアタッチメントポイントに装着です。
(装着位置は、地面までのクリアランスが十分に得られない等の状況に応じて、ウエストのアタッチメントに装着する場合もあります。あくまでもイレギュラーな処置ですが。)


IMG_1824
僕が良く使っているのはPETZL アブソービカY80の先端に、マイロンGOを介して国産のFUJIIDENKOの軽量大径フックFS-93を装着したものです。
FS-93はフック本体が鋳造鋼でなく鋼板切抜きで薄く、また、ゲート部や安全ロック機構部にアルミを利用して軽量化しており2丁掛けでもあまり重量負担を感じずに済みます。

FS-93は単品では販売されていないため、FS-93と三つ打ちロープのランヤードとがセットになっている商品名AB-93を購入して、ロープの部分を切り捨てて利用しています。
単品販売しているFS-90はフック本体が鋳造鋼で重く、一丁390gもします。軽量なFS-93は一丁270gです。
たった120gのように思えますが、この差が意外と大きいです。
(価格の面でもFS-90の単品とFS-93とランヤードがセットのAB-93では大差が無いか、逆にAB-93のほうが安いケースが多い。マイナーなFS-90の単体販売は価格競争がなく安売りされないせいでしょう。AB-93の実売価格は2430円です。)

注意しなければならないのは、国産の大径フックの強度は規格において13kN以上となっている事です。
具体的に、FS-93の破断強度は15.2kN、FS-90の破断強度は17.5kNです。

よって、FS-93等の国産の大径フック一丁で、レスキュー時のような2名分の荷重を支えさせる使い方はするべきではありません。
あくまでも、1名荷重のみでの運用をしてください。

ロープアクセス用途として、レスキュー時の2名荷重も考慮し22kN以上の強度が必要ならば、PetzlのMGO60等を利用することになります。
MGO60はフック本体がアルミでできており、破断強度25kNで質量455g、価格7,906円(メ希)です。


IMG_1827

ランヤードの先端にはマイロンのGOを介して藤井電工の軽量大径フックFS-93を装着しています。

アブソービカの先端にマイロンGOをつけることで、先端に装着できるコネクターの種類が一般的なカラビナだけでなく、非常に多くの種類のコネクターを装着できるようになります。
各自の現場にあわせて最適なコネクターを先端に装着します。
マイロンGOの破断強度は縦軸25kN、横軸10kNとコンパクトでも十分な強度があります。価格は840円。
ホームセンターでも同じような形状のものがありますが、ねじ部の作りが粗雑だったり、強度性能が不明瞭なものが多いので注意が必要です。そもそも、そういった商品は柵に使うような鎖を連結するためのものであって、人をぶら下げるために作られているのではないはずです。

IMG_1823

橋梁等で手すり沿いに移動中の様子です。
ちょっと寄りかかって休みたいときには、ダイナミックロープランヤードを掛けて休みます。長さを短く調節したいなら、ロープ部にチェストアッセンダを掛けてあげればよいです。


IMG_1829

大径フックの丸孔や、マイロンGOに直接ダイナミックロープランヤードのカラビナを掛けて休むこともあります。
ただし、こんな状況の場合は、大径フックの横滑りに注意です。滑った瞬間「ドキッ」とします。


よいお年を

みなさんへ、

ことしも大きな怪我・事故もなく仕事を納められそうです。
(会社的にはまだ熊本で岩壁調査の仕事をしているチームがあるのですが。)
来年も皆様が、健康に、安全に、事故なくロープ仕事ができますようお祈り申し上げます。

来年も本ブログの応援(拍手・コメント)をよろしくお願いします。


****************************************************
ブログやロープアクセスの実験で今年やり残したこと、

1・デイジーチェーン落下試験の整理・公開
2・コンクリートアンカーの強度に関する簡易計算手法の整理・公開
3・ダミー人形を使ったランヤードでの短距離落下試験と実在人体での試験結果の比較
4・シングル・タンデムプルージックの動的衝撃荷重におけるスリップ開始荷重と墜落抑止性能の実験
5・下降器(RIG・STOP)の動的衝撃荷重におけるスリップ開始荷重と墜落抑止性能の実験
6・下降器(RIG・STOP)をφ9mmロープで利用した場合の、動的衝撃荷重におけるスリップ開始荷重と墜落抑止性能の実験
7・ハンドアッセンダーの動的衝撃荷重と静的荷重によるロープ外皮破損荷重の相違・同等性の確認
8・低伸長ポリエステルロープでの墜落衝撃荷重値の計測と、許容落下係数の検討
9・さまざまな固定分散・流動分散支点において、片側の支点が脱落した場合の衝撃荷重の実測データ収集
10・諸外国のロープアクセスに関する法令・規則の紹介・相違点の整理
11・小型加速度センサーを用いた、落下体(ダミー人形)側での衝撃荷重計測とロードセル側計測値との相違・同等性の確認

なんか、他にも大量にあったような気がしますが、ざっと思い出せるだけかいてみました。
来年も本業の合間にちょくちょくやってゆきますのでよろしく。
「先にOOOの実験をやってみてちょー」とかあればコメントください。

それではみなさん良いおとしを

IRATA Safety Notice カラビナゲートの不意の開放による墜落事故


nopsa_safety_alart38IRATA Safety Notice 14 より、3アクション型の安全環付カラビナが不意に開いてしまったことによる墜落事故の報告が公開されています。

Manriding Incident - Connector Failure
http://www.irata.org/safety_notices.htm

PDF直リンク
NOPSA報告書Safety Alert 38
http://www.irata.org/safety_notices/SN14%20NOPSA%2038.pdf

IRATA報告書Safety Notice SN14
http://www.irata.org/safety_notices/Safety%20notice%20SN14.pdf

カラビナの3アクション型安全環が不意に開いてしまった原因は、ゲート安全環のロック機構に油や泥が詰まっていて、ゲートのロック動作に支障が生じていたためであると推定されています。
海上油田掘削井戸の現場での事故ですので、泥・砂混じりの原油が器材に付着したりする機会が多いのでしょう。

ハーネスと下降器やフォールアレストデバイスを接続するカラビナは、周囲の構造物に擦れたり、身体の動きによってねじられたりします。
このような場合に、ゲートのロックが不完全だとその分、ゲートが開いてしまい、器具の連結が外れる危険性が増してしまいます。
オートロックのカラビナは便利な道具ですが、機械的な構造が複雑である分、十分な点検・清掃・動作確認が必要だということです。

ダム放水流に近接

ダム放水爆風
更新をサボっているかわりに、今の現場でのひとこま。

元々、ダム屋でしたが、こんだけダムの放水に近接したのは初めてでした。
このダムのホロージェットバルブというタイプのゲートから噴出す水流は、落水による地盤への衝撃を和らげるため、大量のエアーを含ませてかつ、なるべく霧状になるようにしてあります。
台所の蛇口にも最近ほどんどついてますよね。水流にエアーをまぜて水が跳ねないようにするノズル。
あれと似たようなもんです。(詳細には違いますけど)
そんなわけで、放水のジェット水流が着地・着水した近辺とくにその直下流は水粒子を含んだ爆風で暴風雨状態です。
夏だと気持ちいいのでしょうけど、冬至にやる現場じゃないですよ。

今回の現場は高低差が110m程度あって、もって降りるロープの長さも150m。
自然の岩壁とコンクリート構造物のミックスで、100m下ったところで、15m程度の横移動(トラバース)付なんで、装備の重量が20kgを超えてしまいました。
降りる段階で装備が重たくていやになるほどで、登り返すときには濡れたロープがさらに重たくなってもう勘弁してくださいという気分になります。

んー、泣き言いっても仕方ないです。
冬の北海油田で波に呑まれながら作業しているより遥かにましでしょう。
でも、彼らはドライスーツを着ているか。
明日も頑張りマース。
宿泊しているのが温泉宿(国民宿舎)なのが救いかな。

ダイナミックロープ 切り売りします


僕は、このブログの中で、ダイナミックロープランヤードをいろいろお奨めしています。


しかし、一部の方々から、「個人では、ダイナミックロープランヤードを作りたくても、φ10mm以上のシングル用ダイナミックロープを切り売りしてくれる登山用品店がないので作れない。」という意見をいただいています。
また、ある消防の方からは「個人的にランヤード用にロープを切り売りして」と頼まれたりしたこともあります。

材料の入手が難しいものをお奨めするのもいかがなものかと思案した結果、僕の勤める会社の通販サイトで販売することにしました。

φ10.3mmのシングル用ダイナミックロープを0.5m単位で切り売りにする予定です。

カウズテールのような左右不等長Y字ランヤードなら全長2m(末端バレルノット)
長尺の1.5mY字ランヤードなら、全長4.5m(末端エイトノット)
が必要な長さの目安になります。
必要長さの詳細は、過去の記事、
ダイナミックロープでY字ランヤードを作る ver4
を参考にしてください。


同時にランヤードの末端につけるカラビナ、KONG タンゴも販売します。

通販サイトはこちらです。

http://www.tokusyu-kousyo.co.jp/marketing-a.html

価格は、
全長2m(カウズテール用):1,500円
全長4.5m(1.5m長尺ランヤード用):2,750円
となっています。

どうぞ、よろしく。

落下試験用のダミー人形

PB302378PB302380

落下試験用のダミー人形を作りました。(近所のテント屋さんに作ってもらいました。)

質量は85kgあります。
寸法はJISの落下試験用トルソの寸法を参考にしています。
外皮はテント生地で、内部には玉砂利と砂を混合したものが入ってます。
砂だけでは、おそらく質量60kg程度にしかならないかと思います。

裸では、擦り傷や、ハーネスとの擦れによる損傷が気になるので、着古したツナギを着せてあります。

腕の付け根の強度にちと不安があります。
そのうち、もげちゃうかもしれません。

もう1体作るとしてら、今より腕は短くしようと思います。
あと、脚をもう少し長くして、重心を低くし、胴体をもうちょっと長くして、実在人体の上半身寸法に近づけようと重います。

しかし、意識の無い物体の85kgというのはとても重く感じます。
いま、社長の体重が85kgとかなりやばいことになっていますが、やっぱ生きていて意識のある人間(社長)は簡単に抱きかかえられるのに、このダミー人形は同じ質量のはずなのに、腰をいためそうなほど重いです。

スタッフはみな「これでレスキュー訓練は勘弁です。」と言ってます。
重心が人間と同じヘソのあたりにあると良いのですが、この形状ではそれがなかなか難しいです。
ヘソよりも少し上の位置に重心がきています。横隔膜の下あたりかな。

ですので、腰部のアタッチメントでぶら下げると、頭が後ろにひっくり返ってしまいます。
無論、重心がヘソの位置にあったとしても、頭が後ろにひっくりかえってしまいますけど。

写真では、背面と胸部のフォールアレスト用アタッチメントポイントの2点から流動分散を構築してぶら下げているので直立しています。
胸部のアタッチメントだけでぶら下げると、水平から20度程度の角度で仰向けになった状態になります。

意識の無い人間は腰部のアタッチメントで吊り下げできないことをなんとなく再認識しつつ、書籍:続生と死の分岐点p277の「ダミー落下実験」のコラムを読み返してみたりします。

落としたカラビナは捨てなさい?


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2010/12/03 
多数回の落下(打撃)衝撃を与えた後のキーロック部のワレの発生状況と浸透探傷試験結果を本文末尾に掲載しました。

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CA380018「高い場所から誤って落としたりしたカラビナなどのアルミ合金のギアには目に見えない微細な”われ”(ひびわれ、亀裂、クラック)が(無数に)入っている可能性があるので、再利用しないで破棄すること。

これ、だいぶ昔(15年前?)から言われており、自分もその言葉に従っています。
しかし、これを裏付ける材料工学的な論拠がどう探しても見つからなくて困っています。

これは迷信なのでしょうか?

書籍「続・生と死の分岐点」P125の「ひびが入るという作り話」では「落下の衝撃程度で、エイト環にひびが入ることはない。」と語られています。
(エイト環もカラビナも、商品ごとに鍛造・形成方法の違いによる材料の物理的特性の若干の違いはあれど、同じアルミ合金です。)

たかだか数メートルの高さから落としただけで、将来的に疲労われ(金属疲労)や応力腐食われの原因となる微細なわれ(ひび、亀裂、クラック)がアルミ合金に生じるのだろうか?

アルミ合金は今日では、宇宙・航空分野だけでなく、自動車分野や、一般的な自転車でも構造部品として多用されているもはやありきたりな素材だ。

アルミ合金が落下のような衝撃荷重によって”われ”が生じるとしたら、はね石が当たる自動車の車体や、転倒するバイク・自転車には怖くてアルミ合金など到底利用できないと想定される。しかし、バイクのフレーム・スイングアームはいまどきアルミ合金が当たり前だし、自分の自転車でさえフレームはアルミ合金だ。

案ずるより産むが安し。
ここはひとつ実験を行いました。

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<試験報告書>

1.目的
カラビナに、自身の落下による衝撃によって、”われ”が生じるかどうかを確認する。


2.試験方法
2−1.落下方法
現実に高い場所から落とすのは面倒なんで、
コンクリート壁に人力で投げ叩き付ける。
なお、落下距離(H)と衝突速度(v)の関係の目安は以下の通り。

H=30m → v=24.2m/s → v=87.3km/h
H=50m → v=31.3m/s → v=113km/h
H=100m → v=44.7m/s → v=161km/h
(v=√(2gh)則に基づく。空気抵抗による減速は考慮されない。)

高さ30mから落下させる場合、衝突速度は約90km/hであり、一般的な男子の野球ボールの投てき速度程度である。

落下(投てき)回数はとりあえず10回とする。

2−2.”われ”の検出(探傷)方法
溶剤除去性染色浸透探傷試験、速乾式現像法とする。
染色剤、現像剤はマークテック社のECO Checkを使用。

(補足説明)
溶剤除去性染色浸透探傷試験、速乾式現像法は、ステンレスやアルミ合金のような非磁性体(磁石がくっつかない材料)の溶接部等のわれを検出する場合にもっともよく使われる試験方法です。
日本国内で行われている90%以上の溶接部の探傷試験はこの方法が使われています。
複雑な形状の部品や厳格な管理を求められるジェットエンジン部品等には水洗性か後乳化性の蛍光浸透探傷試験を湿式現像法を組み合わせて用いられますが、正直、検出できるわれの精度の差は染色と蛍光では50歩100歩です。

2−3.試験体
Petzl OK スクリューロック 中古品
(スクリューロックは損壊したため取り外し済み)


3.試験状況
3−1.投てき前探傷試験

DSCF0026
投てき前に”われ”がないことを確認するため、事前に一度探傷試験をします。
背後に並ぶのが、染色浸透探傷試験で使う液剤です。



DSCF0028カラビナを洗浄液で洗った後、赤色の浸透液を吹き付けます。この赤い液が表面張力で微細なわれの中に染み込んで行くという仕組み。
浸透時間は5分としました。
このとき、アルマイト処理が痛んでいない部分などは浸透液がはじかれるときがありますので、そんな部位には再度浸透液をスプレーします。


DSCF0029浸透液を5分間適用(濡らした)後、表面の染色液をウエスで拭い、除去します。





DSCF0030速乾式現像剤を吹き付けます。
写真のように真っ白になるのは、吹きつけすぎです。
こうなると、微細なわれを見逃してしまいます。
金属の地金がうっすら透けて見える程度の薄さに吹き付けるのがコツ。

DSCF0035これぐらいの薄さが適当。






DSCF0031DSCF0032DSCF0036






ゲートのヒンジやピンの部分は隙間に染み込んだ染色液がすぐに滲んできます。また、刻印のくぼみや、表面的な打撃、擦れによるキズの部位にも赤い模様が出てきます。
このようなものは”われ”に染み込んだ染色液がにじみ出てきたものではないので「疑似模様」として無視します。

DSCF0033DSCF0034ゲートの断面急変部に点状の模様が見えます。
これは製造工程で生じたエクボのようなもので”われ”ではないので無視します。

DSCF0037DSCF0038現像剤を適用(吹き付けてから)5分後の状況です。ヒンジ部のピンから染み出た染色液の滲みがだいぶ広がってきています。


DSCF0039DSCF0040DSCF0041






そのほかの部位にも、特に”われ”と判断できる指示模様は認められませんでした。
結果、投てき前にからびなに”われ”が無いのがわかりました。

実はこの試験体のカラビナ、現場ですでに一度落下させてしまった「落ちビナ」なので「もしや、われが出るのかも」と思っていましたが、われは見つかりませんでした。


3−2.投てき

カラビナを手に持って、10回、コンクリート壁に投げつけました。

DSCF0042DSCF0043DSCF0044






あちこちにかなり大きな打撃跡が残りました。
このような表面的なきずは染色浸透探傷試験のときに「疑似模様」となって現れるので位置と形をよく確認して覚えておきます。

DSCF0055
また、ゲート開閉部のスプリングバネを押さえる小さな板が外れてどっかに飛んでゆき、ゲートがプラプラになってしまいました。



DSCF0056本来は、こういう板が入っていて、その奥にスプリングバネが入っている。
(写真はヴェルディゴ)




DSCF0059DSCF0058さらにゲートのヒンジがぐらついて、キーロックのかみ合わせ部分にかなりガタが出ています。


と、外観点検の状態で満身創痍の試験体となってしまいました。

3−3.投てき後探傷試験

DSCF0046DSCF0047投てき前と同様に、
洗浄、染色、現像とやっていきます。





DSCF0048DSCF0049DSCF0050






DSCF0051DSCF0052DSCF0053






上記6枚の写真の通り、打撃跡のキズ部に疑似模様が出ているだけで”われ”と判断される指示模様は見つかりませんでした。


4.試験結果まとめ

今回の試験結果では、
「このカラビナを約30m程度の高さから10回程度落下させた程度では、溶剤除去性染色浸透探傷試験、速乾式現像法で検出できるような”われ”は生じない。」
ということになりました。


5.考察

かなりラフな条件ですが、かなり実際的な試験でした。
探傷試験の精度については、そこそこ自信があります。

今回の試験のみで、(世界中の全ての)カラビナは高い場所から落としても”われ”を生じないとは断言できません。
あくまでも、一介のテストケースにすぎません。
今回の場合、”われ”を生じなくても、ゲート機構に損傷が生じて使用に適さない状態になってます。

溶剤除去性染色浸透探傷試験、速乾式現像法で”われ”は生じていなくても、各種の電子顕微鏡で観察するレベルでは”われ”が生じているのでは?との疑問については、それを言い出して危惧すると、飛行機と新幹線に怖くて乗れなくなるのでやめておきましょう。


6.今後の課題

さらに投てき回数を増やしてゆき、再度探傷試験を行いたいと思います。

また、別のカラビナを利用して、ガスバーナーで加熱した後、水で急冷し、意図的に微細な”熱応力われ”を生じさせた場合、染色浸透探傷試験によってどのような指示模様(われ)が検出されるかを検証することで、カラビナの”われ”を検出するのに染色浸透探傷試験が適しているかを確認する。

最終的には、この試験体のカラビナに十分(執拗)な回数の落下衝撃(投てきによる衝撃)を試験体に与えることで微細な”われ”を生じさせた後、繰り返し荷重を与えることで、”疲労われ(金属疲労)”による明瞭な”われ”が生じるかを確認する。

以上
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つづきは、そのうち気が向いたらやります。

***余談****

カラビナOKの取扱説明書の「製品に損傷や劣化がないか定期的に点検してください」に関する記述を見ていて思ったのですが、表現が抽象的で、エンドユーザーは具体的にどのように判断・行動したらよいかぜんぜんわからないですね。
「専門家による綿密な点検」という記述にしても、
「専門家って誰?何の専門家?、どんな資格を持っている人にどのような説明をして依頼したらいいの?」、
「綿密な点検って何をすればいいの?」
とわからんことばかりです。

今回の溶剤除去性染色浸透探傷試験速乾式現像法はかなり手軽に行える”われ”を検出できる非破壊検査ですが、形状が複雑なものには適用できませんので、カラビナやルベルソのようにシンプルな形状なものや、部品をネジ1本づつまで分解できるSTOPのような下降器にしか適用できません。
まして、各種のプーリーやID、アッセンダー類は分解ができない構造なので各種の浸透探傷試験では、外からみえる範囲しか検査ができません。よって実質、X線検査による探傷試験でしかギア全体の”われ”を検査できないでしょう。
それ以前に、このような試験を民間の検査機関に委託する場合、最低1万円以上はかかるでしょうから、「新品を購入したほうが安い。」という話になってしまいます。

そもそも工業界では、このような探傷試験を行うのは発電所のタービンやジェットエンジンの部品のような、オーダーメイドの一品物だったり、非常に高価な材料を利用した部品など、交換にかかるコストが、検査に必要な人件費より高い場合に行われる贅沢な試験です。

一般的な工場量産品の安価な部品なら、適度な耐用年数と定期的な外観目視による点検間隔を定めて部品を交換したほうがランニングコストが安くなるので、わざわざ探傷試験をすることはまずありません。

なにごとも、費用対効果です。

ということは、
メーカPETZLは少なくとも12ヶ月ごとに専門家による綿密な点検を行うよう推奨しています。
よって、この点検を行わない場合、購入後12ヶ月経過以降になんらかの不具合・事故が生じても、メーカーはエンドユーザーの保守点検の不徹底を盾に、原材料および製造過程における欠陥を認めないと考えられます。

ロープアクセス用の機材の安全な利用を考え、さらに、有事に際して法廷で十分に闘えるだけの厳格な保守体制を構築しようとした場合、1年ごとにすべての機材を入れ替えるか、金銭コストを度外視して、すべての機材を民間の検査機関で検査してもらうのが適当となるのでしょうか。
なんだか変な話のような気がします。

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2010/12/04 追記

あれからだいぶ経ちました。
時をみては、同じカラビナに紐を付けて振り回して、コンクリート壁に幾度と無くたたきつけ、浸透探傷試験を行うことをしていました。
累計打撃(落下)衝撃回数は200回程度になっています。

今回、キーロック部分に大きなわれが生じたので報告します。

PC042897PC042901
PC042900PC042898




写真のとおり、カラビナゲート部のキーロックのメス側に大きなわれが生じました。
詳細はわかりかねますが、側面からの衝撃が加わって、キーロック部の肉薄部が割れてしまったようです。

ここに損傷が出ることは予想していませんでした。
ゲート部の損傷については、キーロック部よりも、ピン接合されたヒンジ部が先に壊れることを想定していました。
投げつけ試験の初期の段階からヒンジ部にはかなりガタツキを生じていたためです。また、ヒンジ周辺にワレが生じる事例は、PETZLの個人保護用具点検マニュアルでも紹介されているためです。

このキーロック部のメス側の谷間にこのようなわれが生じていると、カラビナに正規の軸力荷重がかかった場合、キーロックの構造上、谷間を押し広げ、引き裂く力が生じるため、まともなキーロック効果を得られずに、ゲート部の噛み合いは外れてしまうことになると想像されます。

キーロックの噛み合いが外れてしまった後は、ゲートオープン状態ですから、PetzlのOKの場合、7kNの破断強度しか残っていないことになり、かなり危険な状態であると言えるでしょう。

このブログを良く読まれている方なら、7kN(約700kgf)という破断強度が人を支えるのに十分ではないことは理解できていると思います。

今回の場合、目視でわかるほどの明瞭なワレ・変形をしているのですが、衝撃の条件によっては、目視ではわからない程度のワレを生じる可能性もあります。

今回のこのキーロック部の損傷結果を得るまでは、
「器材を高所から落下させてもそんなワレなんて入らないだろう」
と考えていました。
実際、いまのところカラビナのゲート以外の本体部分にはワレは生じていません。この点については想像どおりです。
しかし、繰り返し衝撃を与えているうちに、繊細な構造があるゲート部がどんどん壊れてきています。
それらのゲート部の損傷のうち、ガタツキや変形などは目視点検でわかるので、ガタツキ・変形を見つけたら即破棄すればよいだけです。
しかし、今回のようにキーロック部のメス部に、微細なわれが生じてしまっている場合は目視では見落としてしまう可能性があります。それは、ゲートヒンジ部周辺のワレも同様でしょう。
さらに、このゲートのキーロック部やヒンジ部周辺のワレというのは探傷試験がしづらい場所でもあります。

以上のことを踏まえると、現時点では、
高い場所から落としたカラビナには、ゲート部等の構造的に入り組んでいたり、肉薄の箇所に、目視では確認できない損傷が生じている可能性があるので、十分な探傷試験ができないなら破棄したほうが良いでしょう。

********** 浸透探傷試験結果について *************

カラビナの浸透探傷試験を実施しました。

試験方法:溶剤除去性染色浸透探傷試験、速乾式現像法とする。
染色剤、現像剤はマークテック社のECO Checkを使用。

カラビナゲートのキーロック部など、形状が複雑な箇所については試験の対象範囲としていません。
打撃跡の傷による擬似模様はでるものの、ワレは検出されませんでした。

PC042889PC042888PC042892PC042893PC042894

*************
このまま打撃試験を行ってゆくと、そのうち、ゲート部がもげてなくなり、C型の部分だけにも、やっぱ落下打撃による衝撃だけではワレは生じないのではなかろうかと想像しています。
この現状から疲労試験を実施して、新品のカラビナとの差が生じれば、また、新たな考察ができるかとも思えますが、疲労試験は自社ではできないので、外部に委託しないといけません。
外部委託すると、大体、試験時間が100時間程度と短時間で終わった場合でも1ピースで30万〜40万円程度の費用がかかります。新品と打撃後の2ピースで実施して、60万円以上なので、ちょっと僕のポケットマネーでは無理です。

ロープのカタログに描かれている伸び率から伸び−荷重曲線を描こう(NFPA−EN規格相互比較用)

ロープの伸び率計算

NFPA1983規格のロープとEN1891規格のロープ、それぞれの伸び率をエクセルの表に入力することで、ロープの伸び−荷重曲線を描画するプログラムを作りました。
以下のリンクからダウンロードしてください。

http://blog.livedoor.jp/rope_access_eng/files/rope_elongation.xls


自分が持っている、購入・導入を検討するロープの荷重と伸びに関する性能を把握したい時にお使いください。

計算シートは、
・NFPA1983規格ロープの伸び-荷重曲線を描画するための計算シート

・EN1891規格ロープの伸び-荷重曲線を描画するための計算シート
の2つから構成されており、すでにいくつかのロープの諸元を入力してあります。
そして、入力・計算シートの下方には
・伸び−荷重曲線
が自動的に描画されており、計算シートの入力内容にあわせて描画されます。

それぞれの計算シートの右端には、自分で追加する用の諸元入力欄を2つずつ用意してあります。
・NFPAロープA(自分で追加する用)
・ENロープA(自分で追加する用)
などがそれです。

この欄に自分が知りたいロープの諸元性能を、カタログやロープについていた取扱説明書、性能表記カード等を参照して、薄オレンジ色のセルに入力してください。
もちろん、すでに諸元が記入されているロープについて、上書きしても結構です。

NFPA規格のロープの伸び率表示は、カタログ上では、300LBSでの伸び率だけを表示しているメーカー、300LBSとMBS10%荷重時の伸び率の2つを表示しているメーカー、300・600・1000LBSの3つを表示しているメーカーなどさまざまでいまいち統一がされていません。
よって、同じNFPA規格のロープ同士でも、いまいち伸び率の比較がしにくいのが現状です。
当初は、ENとNFPAでの換算一覧表みたいな形にすることを考えたのですが、NFPA規格側の伸び率表示のメーカーごとの対応の違いがあるため、今回のような伸び−荷重曲線で表現し、そのグラフの傾き具合から、ロープの伸びやすさ、伸びにくさを読み取ってもらうようにしました。

NFPA規格とEN規格の伸び率の比較をしたい場合には、自分で数値をいじって、グラフの曲線の変化を見ながらその関係を考察してみてください。

******グラフの見方**************

横軸はロープの伸び(%)です。縦軸はロープに作用している荷重(kN)です。
あるロープの伸び率に関する性能を入力すると、それに対応するロープの伸び−荷重曲線(直線)が描画されますので、知りたいロープの荷重(伸び)に対応した伸び(荷重)をグラフを読み取って知ることができます。
伸び(%)から実際のロープの伸び長さ(m)を知りたい場合は、荷重を受けるロープの荷重を受ける前の長さに、その伸び(%)を掛けることで求められます。
式で表現すると、

[ロープの伸び長さ(m)] = [荷重を受けるロープの荷重を受ける前の長さ(m)] × [ロープの伸び(%)] ÷ 100(%)

となります。
**計算例**
荷重を受ける前の長さ20mのロープで伸び(%)が4.5%の場合のロープの伸び長さ(m)は、

20(m)×4.5(%)÷100=0.9m

となります。

このときの、荷重を受けて伸びたロープの長さは、20+0.9=20.9(m)となります。

エクセルのグラフエリアの下方に、
・ロープの伸び(%)からロープの伸び長さを計算するシート
を追加しておきましたので、あわせてご利用ください。

*********** ちょっと考察 *************

1.ポリエステルロープについては、1.5kN〜2.0kNの間で伸び率が変わる。

2.ナイロンロープでは、伸び率10%程度までなら、ほぼ弾性領域(荷重と伸びが比例関係)にあるようだ。

3.NFPAのφ12.5mmロープ群は、NFPAのφ11mm群やENのφ11mm、φ13mm群とは、伸び率が大きく異なる。これは、NFPAのφ12.5mmの利用目的が2名荷重でのリギングやハイラインの構築に利用することを前提に考えているからであり、一般的なロープアクセス用のセミスタティックロープとは運用の方法や、想定される墜落発生時の落下係数と衝撃荷重の大きさが異なるからではないかと考える。
(実際にはどうなんですかね?)
CMC製品の日本総代理店であるFerno社のページに、NFPA規格下における「レスキューロープの衝撃荷重、伸び率について」という表題の説明文書があります。あわせて読んで見てください。
http://www.ferno-jp.com/images/prd/cmcres/cmc_catalogue_p4.pdf

EN1891規格でのセミスタティックロープの定義については、アルテリア社のエーデルリッドのカタログにとてもよく整理されています。(これはネット上からは閲覧できないのかな?とても参考になる資料なのに)


せまいっす

PB231529
更新をほっとくのもなんなんで、今の現場の写真を1枚。
狭い場所を昇り降りしてまーす。
正体不明の変なケーブルがあったり、ちょっとしたでっぱりに装備が引っかかったり。
下半身が何かに引っかかっても、良く見えないので、下手にもがくより、ちょっと戻ったほうが話が早い場合が多いのですが、昇りor降りのシステムを切り替えられないほど狭い場所では苦労します。

ノットが落下エネルギーを緩和する(作成中)

文書書きと構成をしている時間がないので、ちょっと材料だけ仮置きしておきます。
試験条件などはのちほど。

********************************

落下エネルギーの総量が小さい短距離墜落では、衝撃荷重を受けたときにノットが締めあがって、ロープの長さが長くなることによるエネルギーの緩和効果がけっこうあることがわかってきています。

今回のロープはエーデルワイスのφ9mmセミスタティックロープです。
ロープの両端はエイトノットが作られていて、ロープの長さは1m程度。
エイトノットは手で結んで手で締め上げた状態です。

1回目の落下では落下係数が1を超えているにもかかわらず、その荷重ピークは5.8kNと低い値である。
一方、1回目の落下によってエイトノットの結び目がきつく締めあがった状態にある2回目の落下試験での荷重ピークは7.6kN。
1回目と2回目の落下ではその最大荷重に1.8kNの開きが存在します。

この差は、荷重が加わることによりロープの両端にある2つのエイトノットが締めあがってロープの長さが長くなる現象が1回目の落下では多いのに対して、2回目の落下ではそれが少ないことが主たる原因でしょう。
ちなみに、1回目の落下と2回目の落下の時間的間隔は、8分間あります。
エイトノットに対してすでに静止荷重mg=78kgfが作用した履歴がある状態では、このエネルギー緩和効果はより小さいものになるでしょう。
また、今回は両端にエイトノットがあり、2つのエイトノットの中からロープが伸び出てきています。
ノットの数が減ると、荷重の緩和効果も当然減ると考えられます。


バッテリー液汚染ロープ落下試験


CIMG1275


1回目ノーマルスピード

1回目ハイスピード
荷重がかかってエイトノットの中からロープが伸び出てゆくのがよく観察されます。


2回目ノーマルスピード

2回目ハイスピード
2回目の落下ではノットの中から伸び出るロープの量はわずかです。


衝撃荷重を人体が吸収する?

ちょっと雑感を、

ここ最近、短距離墜落に関する実験をいろいろやってきているのですが、まだ整理はついていないのですが、実験結果をいろいろ見ていて思うのは、

「案外、人体とハーネスのそれ自体はあまり衝撃を吸収してくれていない。」

ということを感じてます。

ランヤードに接続した生身の人間での落下試験での荷重値と、落下体としてセメント袋を詰めた大型土嚢袋をセミスタティックロープで縛り上げて吊るしたものを利用した場合での落下試験の荷重値にあまり差を感じていません。

僕自身、ちょっと前では短距離墜落について、
・短距離墜落においては、落下係数によって計算される荷重値は理論値にすぎない。
・短距離墜落での落下エネルギーの総量は比較的小さいので、人体やハーネスによる衝撃の吸収・緩和量を考慮すればさほど危険な衝撃荷重値にはならない。
という風にも考えていたのですが、どうやらそれは間違いだったようです。

定量的な評価をして、公開するにはまだ時間がかかりそうですが、現在のところ、「案外、人体って衝撃を吸収・緩和してないなぁ」という感想を持っています。

話はそれてゆきますが、衝撃荷重と人体への傷害度合いの関係も、まさかこのご時世に人権を無視して人体で実験することもできないので、なかなか海外に目を向けても客観的な論文がみつからないのが現状です。
国内での安全帯の規格の衝撃荷重の上限値8kNについても、過去にアメリカでおこなわれた動物実験(犬)による内臓受傷リスクの分析によるものを論拠にしているようです。
海外だとフルボディーハーネスが普及しているので、フルボディーハーネス装着状態での墜落事故による負傷に関するデータの蓄積がありそうですが、個々の事故での落下状況から推察される衝撃荷重値と傷害度合いの関係について調査した論文などあれば良いのですが、まだ見つけてません。

ナイロンスリングで直接セルフビレイを取ると危険です。 ナイロンスリングでの短距離落下試験


時間がないので走り書き

普通のナイロンスリング、長さ800mmのもので落下係数1.14の短距離落下試験を行いました。
結果として、衝撃荷重は7.9kNでした。

****試験条件*****
1.落下体質量:78kg(25kgセメント袋3個と大型土嚢袋)

2.ランヤード:普通のナイロンスリング(シンギンクロック社)L=800mm

3.自由落下距離:800mm

4.衝撃を受け止めるランヤードの長さ:700mm(末端をヒバリ結び(タイオフ)しているため)

5.落下係数:1.14

6.計測器:ひずみゲージ式ロードセル + 動ひずみ計測器

7.サンプリング周波数:2000Hz(1秒間に2000回荷重を計測)

IMG_0034s

*****試験結果**********

1.衝撃荷重のピークは7.9kN
2.スリングに荷重がかかり始めてから衝撃荷重のピークまで、0.08秒間。
3.初期ピーク後のバウンド後のセカンドピークでの衝撃荷重は3.6kN

以下に荷重(kN)と経過時間(秒:Sec)の関係をグラフで示す。

14_graph_01

14_graph_02



落下試験時の動画を以下に示す。

1.秒間420コマのスロー映像です。(ハイスピードカメラ CASIO EX-FH20 により撮影)
ですので、普通の動画の1/14倍速になります。



2.通常速度の映像です。
縦横が逆で申し訳ない。


*****考察*******
ナイロンスリングはダイナミックロープランヤードと比較して、伸びにくい素材である。
そのため、落下係数1程度の短距離墜落において、容易に6kNの衝撃荷重を超えてしまう。

ロープアクセス作業において、時として、支点にナイロンスリングで、作業者自身を直接つなげて自己確保用をとってしまうことがある。
このような状況において、短距離墜落をしてしまうと6kNを超える大きな衝撃荷重をうけてしまい、腰椎や内臓の負傷を受ける可能性がある。

また、構造物に巻きつけたスリングにダイナミックロープランヤードを掛けることで自己確保を取る場合も同様に注意しなければならない。
衝撃を緩和する効果の少ないナイロンスリング部の長さが長く、ダイナミックロープランヤードの長さが短い状況にあっては、短距離墜落時の衝撃荷重は大きくなってしまう。
スリング自体に衝撃を緩和する効果は無いものとして、考えたほうが安全でしょう。

ちなみに、予告的にダイナミックロープランヤードでの落下試験結果を以下に示します。
21_graph



耐熱ロープ エーデルワイスTEMP11の耐燃試験 Ver2


****2010/11/06 溶け残りアラミド繊維の残強度を落下試験で確認しました。 **********


TEMP11耐燃試験TEMP11耐燃試験以前の記事 耐熱ロープ エーデルワイス TEMP φ11mmで紹介したエーデルワイス社のTEMP11という耐熱ロープですが、耐燃試験を行ったときの状況を紹介します



試験目的**********************

TEMP11ロープが、アラミド繊維は熱分解しないが、ナイロンは軟化ないし溶けてしまう温度域(180〜350℃)で炎に暴露される場合、どのような挙動を示すのかを確認する。
また、ナイロンが溶融しロープにかかる荷重をアラミド繊維だけが負担する場合において、ロープの破断強度がどの程度あるのかを調べる。

試験条件**********************

1.上下のロープ末端はエイトノット結び
2.約76kgの静止荷重を与えた状態で行う
3.熱源は、バーベキューの炭の火おこし用バーナー
4.ナイロン部(外皮・内芯)が溶けた後に、ロープの上り下りで作用するであろう一般的な荷重値として3kN(300kgf)程度を作用させ、ロープの残存強度を確認する。

TEMP11耐燃試験TEMP11耐燃試験TEMP11耐燃試験










試験結果**********************

1.ナイロンの外皮は炎の直射を受けてすぐに溶ける。
2.アラミド繊維の外皮は炎の短時間の直射を受けてもすぐには熱分解しない。
3.アラミド繊維を焼き焦がさないように炎の程度を調節しているとナイロンの内芯が軟化点および融点に達し、アラミドの外皮の中は液状化する。
4.アラミドの外皮の中の内芯が液状化した段階で荷重はすべてアラミドの外皮が負担することになるが、76kgfの静止荷重でも破断はしない。
5.液状化した内芯のナイロンは、細くなろうとするアラミド外皮から拘束圧力を受けて、アラミド繊維の隙間から漏れ出てくる。これにより、外見上のロープ直径は6mm程度にまで減少する。
7.ナイロンが溶けてしまった状態においても、ロープは3.2kNの動的衝撃荷重と静止荷重に耐えて、破断に至らなかった。

TEMP11耐燃試験TEMP11耐燃試験TEMP11耐燃試験





動画1:燃やしはじめから、ナイロン外皮が剥けるまで。



動画2:内芯が融解し、アラミド繊維の外皮の隙間から漏れ出てくる様子



**************** 2010/11/06追記 アラミドだけになったロープの落下試験 ************

その後、ナイロン部がとけてアラミド繊維だけになったロープの破断強度を調べるために、落下試験を行いました。

******試験条件***********
1.落下体質量:78kg (25kgセメント袋3つ+大型土嚢袋)

2.落下係数:1(ロープの長さと落下距離は同じ)

3.自由落下距離:700mm

4.ロープの末端処理:両端ともエイトノット

5.ロープ全長のうち、両端のエイトノット以外の部分の長さ:440mm

6.計測器機:ひずみゲージ式ロードセル + 動ひずみ計測器

7.サンプリング周波数:2000Hz(1秒間に2000回荷重を計測)
CIMG1271CIMG1272


CIMG1274

*******試験結果***********

1回目の落下では、ロープは切断しなかった。
これは、エイトノットの結び目が締め上げられてロープ全長が伸びたことにより、衝撃荷重の最大値が低減されたことによる。
2回目の落下においては、1回目の落下によって締めあがったエイトノットをそのままにして行った。
結果、衝撃荷重が8kNまで上昇したときに破断に至っている。
グラフにて、8kNの衝撃荷重の後の、3.8kNの衝撃荷重のピークがみられるが、これはロープの破断後にバックアップ用のスリングに荷重が移ったためである。
IMG_0023

TEMP11_破断_graph


落下試験の動画を以下に示します。
秒間420コマのスロー映像です。(ハイスピードカメラ CASIO EX-FH20 により撮影)
ですので、普通の動画の1/14倍速になります。

落下試験1回目(破断せず)


落下試験2回目(8kNで破断)


落下試験2回目(通常速度映像)


***********考察************

1ケースのみの実験ではあるが、TEMP11のアラミド外皮ロープにおいて、ナイロンが溶融した後の、アラミド繊維体のみでの残強度が8kN程度であることがわかった。

TEMP11ロープの利用時において、図らずしもロープが高温体に長時間接触してしまった場合や、炎に直接暴露されてしまった場合、ナイロンの外皮と内芯は、180℃程度を超えた段階から軟化し溶けてしまう。
しかし、アラミド繊維は300℃程度までなら強度を維持できる。

あくまでも、非常事態での対応に限った話だが、
現場での実際の利用にあたって、TEMP11ロープにぶら下がっているときに不運にもこのような状況になって、ロープの一部がアラミド繊維だけになった場合、大きな動的荷重を与えないように注意しつつ、そのロープを利用しつづけて速やかに安全な場所に退避するという行動も、状況によっては選択できるかと考える。
なぜなら、ロープアクセスでのロープの昇り降りで、支点の脱落や不意の短距離墜落等を除けば、ロープに作用する動的荷重の最大値は、1名荷重で4kN程度までであり、TEMP11のアラミド繊維のみの残強度8kNの半分程度だからである。
しかし、そのような行動は非常時に限り許されるべきであって、通常の活動において「アラミドだけになっても8kNの強度があるから、ナイロンが溶けてしまったTEMP11ロープにぶら下がって良い」ということにはならない。
TEMP11ロープの耐熱性能は、長時間暴露で180℃、短時間暴露で300℃の耐熱性能です。
長時間にわたって180℃を超える環境(物体)にロープが暴露(接触)されるなら、はじめからアラミド繊維だけでできたロープを利用するべきです。

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