ArgerichChamberMusic  この隙に行っておかねば
 20日。
 私は午前中の便で名古屋から新千歳空港に向かった。

 気流が悪いということで、飛行機はしつこい揺れから解放されず、ドリンクサービスも冷たいものだけ。
 なぜならば、揺れで飲み物がこぼれ、やけどをしてはいけないからだ。こういうときでも、自分の不注意にもかかわらず、こぼれたら熱い飲み物をサービスする方が悪いと文句をつけるニンゲンがいるわけで、航空会社としては賢明な判断だ。

 過活動膀胱か膀胱に根性がないだけかわからないが、不意かつ急な逃れがたい尿意に襲われるのを避けるため、飛行機では飲み物サービスをお断りしている私(賢明な判断だ)。

 だからサービスが始まってほどなくして-ということはシートベルトサインが消灯しているわけだ-トイレに行き、絞り出すものを絞り出し、席に戻り、ちゃんとシートベルトをした。
 このトイレに行くタイミングはけっこう難しいものがある。あんまり早めにいくとまたしたくなるような気になるし、ぎりぎりまで待っていると急にトイレが混み始め、そのうちシートベルトサイン点灯という、地球滅亡の日ぐらいショックを受けるはめになるからだ。
 目安の一つは機内販売の終了時刻。アナウンスで「機内販売は〇時〇分に終了させていただきます」と流れたら、その終了時刻の10~5分ころ前に行くのが良い(と私は信じている)。

  今回は見事なまでに予定通り
 新千歳空港には、あれだけたちの悪い気流に翻弄されたにもかかわらず、定刻に着いた。

 まずは南千歳駅まで行く。ここから帯広に向かうのだ。
 私が乗るスーパーおおぞら7号が来るまで、小1時間ある。

 1時間もあるのかと言うなかれ。
 飛行機が順調に飛んだからこそ、このように余裕があるが、ちょっとでも狂いだすとたちまち余裕がなくなるのだ。

 南千歳駅のホームに快速エアポートから降り立った私は、そのままそのホームにある「まるい」に行く。
 駅弁店である。
 そして、サーモン寿司(ずし)を購入した。
 サーモン寿司は最後に残った1箱だった。なんか、ツイてるぅ~。

 エスカレーターで改札に向かう(南千歳駅は跨線橋の上にある)。

 駅員に「おおぞらに乗り換えるまで1時間弱あるので、いったん改札から出ていいですか?」と尋ねるリハーサルを上昇するエスカレーターの上で3度繰り返した。

 が、なんと改札内にキヨスクまであるガラス張りの待合室があるではないか!むしろ改札から出てしまう方が居心地が悪そうだ。
 ここから道東へ、道南へと乗り換える客はけっこういるのだろう。なかなか合理的な造りである。

 そして私は、理想的なすき加減の待合室でゆっくりとサーモン寿司を味わった。
 日向山課長と冬のホームで食べたとき以来だから、3年半ぶりということになる。

 そしてまた、その環境の違いは味わいにも大きく影響した。
 ほどよい温度(常温だが)に、適度な柔らかさ。口に広がる芳醇な香り。なんて美味しいのだろう!
 食事というものは寒風吹きすさぶホームでとるものではないのだ。

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 ところで、サーモン寿司を私が初めて食べたのは大学生のとき。
 Kbys君たちとアポイ岳に登るため(この山は低いにもかかわらず、固有種も含め高山植物が豊富)国鉄で様似まで行ったのだが、苫小牧駅に停車したときにホームで駅弁を売りしていたおじさんと目があってしまい購入。これがまた、ツボにはまるほどうまかったのだ。
 現在は南千歳駅と苫小牧駅でしか売っておらず、簡単に買いに行けないのが残念である。

  別会社の2人が仲良く飲んだ帰りに見たものは亡霊?
 おなかが満たされた私は、その後スーパーおおぞらに乗車。
 こちらもほぼ定刻通りに帯広駅に到着。
 帯広を訪れるのはほぼ1年ぶり。去年は大きな台風が十勝地方を襲ったすぐあとに訪問した。

 帯広支社の人たちと情報交換をしながら食事をし、大変楽しい時間を過ごさせてもらった。
 うれしさのあまり、帰りにはお空が涙涙涙だったほどだ(つまりどしゃ降り)。

 ホテルに戻ってから、駅構内にあるセブンイレブンに翌朝の食事を買いに出かけた。
 駅のなかで、帯広勤務時代の取引先のA社のaさんと、B社のbさんにばったり会った。
 2人は私の姿を見て、死霊が現れたかのような顔を最初したが、向こうもほろ酔い状態で「どもども、お久しぶりです」「いやいや、お久しぶりです」と意味のないあいさつをし、なぜ私がここにいるのかを知ろうともせず別れた。

 こうして1日目が終わった。

 ところでバルトーク(Bartok,Bela 1881-1945 ハンガリー)の作品にはSz.という番号が付けられて表記される場合が多い。

 Sz.番号はスールーシ(A.Szollosy)が1956年に出版したバルトーク作品目録の番号(1965年改訂)。
 が、むかし-少なくとも私が高校生のころ-はサボルツィ番号と呼ばれていた。これをどう読めばサボルツィという音になるのかよくわからないが……

 バルトークの作品から、今日は「コントラスツ(Contrasts)」Sz.111(1938)。

 ハンガリーのヴァイオリニストで、バルトークと同じくアメリカに渡っていたシゲティが間に入り、ベニー・グッドマン(そう、あのジャスのグッドマン)からの委嘱で書かれた、ヴァイオリン、クラリネット、ピアノのための三重奏曲。
 クラリネットはグッドマン、ヴァイオリンはシゲティ、そしてピアノはバルトークと、この3人で演奏するように書かれたのである。

 あのくそまじめで頑固そうな(と勝手に思い込んでいる)バルトークらしくないジャズっぽい箇所があり、またハンガリーやルーマニアの民俗舞踊音楽の要素もある、なかなかユニーク味の曲である。
 ヴェルブンコシュ/ピヘネー/シェベシュの3つの楽章からなる。

 ジュイエのヴァイオリン、コリンズのクラリネット、アルゲリッチのピアノで。

 1998年ライヴ録音。EMI。

 今日は歯科医院に行く日。この1カ月の私の窮状を切々と訴えなければ……