
卒業という言葉、それ自体がもつイメージ、時に、「寂しく」時に、「希望に満ち」時に、「過去を振り返り」時に、「未来向かう」時に、「感謝し」時に、「反省する」そしてなにより「祝福に包まれる」そんな全てに相応しい、素晴らしいコンサートでした。
「終わりがあるから、始まりがある」と言った彼女の言葉、私は寧ろ、一ファンとして「築き上げた過程があるから、終わることが出来る」と返したいと思います。
文字通りの卒業コンサートに参加して、一日が経って、その余韻はしつこく醒めないのですが、しかし、吉澤さんが居ないモーニング娘。について考えざるを得ない気分になっています。その手掛かりとなる事を期待して吉澤さんが居た(リーダーであった)モーニング娘。について整理してみようと思います。
「リーダーが変われば色が変わる」という藤本さんへ向けた言葉がとても印象的です。それが正しいという受け止めではなく、「自分がリーダーであることによって自分自身のみならす、自分が属する「モーニング娘。」という存在が変わりうる。」と本人が思っていたということ、そしてそれを最後に敢えて発言したという事がとても印象的だったのです。
そう思い続けながらリーダーであり続けたとしたら、それは想像以上の重圧であったでしょうが、同時にリーダーという責任、何よりモーニング娘。であることを全うした彼女なりの自負心の表れだったのではないでしょうか。
実際に、今振り返ってみれば、彼女がリーダーに就任した2005年4月以降、そして彼女が折りに触れて「新生モーニング娘。」という言葉を発して以降、確実にモーニング娘。は変わったし、同時に吉澤ひとみというリーダーも変わっていたことに今更ながら驚いてしまいます。
どの様に変わったのか。私なりの思いを申し上げれば、それは、乱暴に表現すれば、歌(音楽)を通して、その人を応援するというスタイルから、歌(音楽)に触れることでその人を応援したくなるというスタイルへの転換であったと思います。
モーニング娘。というチームが置かれた歌手としての状況は吉澤さんがリーダーに就任する前から「活動の可能性」という面では、マイナス方向に収束し続けていましたが、その中でリーダーとなった彼女が「色が変わる」と信じて突き進んだ方向は、最後まで砦として活動の中心として現在までぶれない軸として続いているコンサートにおける「良い歌を届ける」という行為に全てを収斂させるということだったのではないでしょうか。
それは簡単な選択ではなかった筈です。
彼女の決意は、プロの歌手としてのスキルでは同等、いやそれ以上であったりする後輩達に対し、戦いを避けるのではなく、敢えて勝負を挑み、自分を変えることを厭わないという行動に帰結します。それは諦める事無く2年間続きました。そして、その結果、驚くべきことにチームをも同様に変えてしまいました。それは正に「リーダーが変われば色が変わる」ということであったのですが、実は本当はそうではなく、「変わろうとしたリーダーが色を変えた」ということだと思います。
最近コンサートに参加して、例えば、「推し」のメンバーを応援するために、或いは、メンバーと一緒に燃え尽きるために「参戦」したのに、何かしっくりしない、しかし、とにかく楽しいコンサートで、結果的にとても満足だった。という気分なったことはありませんか。それは誤解でも偶然でもない、吉澤さんというリーダーの基、モーニング娘。が目指した方向だったのだと思っています。
それは、時間の経過を共有してきたファンを大切にしつつ、初めてそこに様々な切っ掛けで訪れた聴衆(未来のファン)も同様に大切にする姿勢であり、それは同時に、周りに支えられるだけではなく、自分自身が自立するという宣言であり、そしてそれこそが「新生モーニング娘。」なのだと信じ、信頼しています。
彼女は、可能性が無限に広がる状況において許される「吉澤ひとみ」というファンと自身との間で了解された人格に依存する(それはある意味才能のある人にとっては楽な選択ですし、事実彼女には同期のメンバー同様にその才能に溢れている人です)のではなく、会場まで足を運んだファン、或いは聴衆に対し、これまでの経緯を前提としなくても楽しんでもらえる、時間を空間を提供するプロの歌手としての「よっすぃ〜」であることに徹することを選びました。
そしてモーニング娘。を去る最後まで、プロの歌手である「よっすぃ〜」としてステージの上で訪れたファンと対峙し楽しませる姿勢を示し続けてくれました。
卒業の名に相応しいコンサートはしかし決して卒業式というセレモニーでありませんでした。開始から終了まで、彼女達が築き上げてきた「何より楽しいモーニング娘。のコンサート」でした。それは吉澤ひとみというモーニング娘。のリーダーが言葉として発しなかった確かなメッセージだったと思います。
「普段は綺麗なお姉さんなのに・・・・全てを棄てて演じきる」事が素敵であるという言葉を届けた田中さん。どうしてコントの事にこの場で言及するのかその場では分かりませんでした。でも、それは「プロの歌手としての意識」への最大限の賛辞であり、その事をこれからも引き継いでいくという決意だったのだと今は理解しています。
ありがとうございました。本当に、そして心から、ありがとうござました。そして今以上に期待しています、吉澤さんにも、何よりこれからのモーニング娘。にも。