有機化学美術館・分館

HP有機化学美術館のブログ版。タイムリーな話題,短いテーマをこちらで取り上げます。

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多芸な分子・メチレンブルー

 ずいぶんまともな更新をしておらず、ブログの書き方を一瞬忘れてしまいました。ずっと次回作の執筆に集中しておりましたもので申し訳ありません。医薬関係の本で、9月発売の予定です。いろいろ決まりましたらまたこちらでお知らせいたします。

 さて本題。「天は二物を与えず」という言葉があります、しかし実際には三物も四物も与えられた人間は結構いるもので、イケメンで人当たりもよく、研究者としても優秀という人を筆者は何人か知っております。あれは何なのでしょうね、一体。

 これは化合物の世界でも同じことのようで、たいていの化合物にはあまり特別な機能もなく、何かひとつ使い道があればいい方です。しかし、中には3つも4つもの優れた機能を兼ね備えた、化合物界の福山雅治みたいなものもやはり存在しています。そのひとつが、メチレンブルーという化合物です。

 メチレンブルーは下のように、窒素(青)とイオウ(黄色)を含む6員環にベンゼンが2つ縮環した、フェノチアジンと呼ばれる骨格を持ちます。全体が陽イオンとなっており、多くの場合塩化物イオンが対イオンとなっています。

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メチレンブルー

 この化合物、実験室でも様々な用途に用いられます。たとえば生物学分野では、細胞核を染めて観察するための染色液として用いられます。また、水溶液中で還元剤が存在すると、還元を受けて無色のロイコメチレンブルー(下図右)へと変化するため、酸化還元指示薬としてもよく用いられます。

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メチレンブルー(左)の酸化還元

 化学実験においては、光増感剤として用いられます。メチレンブルーに光を当てるとそのエネルギーを吸収し、それを酸素分子に渡して一重項酸素に変えます。一重項酸素は反応性が高く、酸化反応などに用いうるため、メチレンブルーは有用な試薬のひとつです。

 この性質は、身近なところで利用されます。前述のようにメチレンブルーは酸素を活性酸素に変えるため、殺菌効果を持つのです。金魚が白点病などにかかった際、青い薬を水槽に入れて治療を行なった経験をお持ちの方も多いと思いますが、あれがメチレンブルーなのです。

観賞魚用の薬であるメチレンブルー

 人間への治療薬に使われることもあります。血液中のヘモグロビンに含まれる鉄イオンは通常2価ですが、これが何らかの原因で一部3価になってしまうことがあります。この状態の鉄は酸素に結合できず、血液の酸素運搬能力が落ちるので、各臓器が酸素欠乏に陥ります。これがメトヘモグロビン血症です。ここにメチレンブルーを投与すると、Fe3+がFe2+に還元され、血液は酸素運搬能力を取り戻します。

 メチレンブルーは、かつてマラリア治療薬としても用いられた時代があります。1891年ごろ、化学療法の開祖であるパウル・エールリッヒは、メチレンブルーがマラリア原虫を選択的に染めることに気づきました。ということは、この染料がマラリア原虫にダメージを与えることもできるのでは、と考えたのです。このため、メチレンブルーは完全人工合成による最古の医薬品と呼ばれることもあります。

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パウル・エールリッヒ

 その後、クロロキンなどの登場により、メチレンブルーはマラリア治療には使われなくなっていましたが、近年また治療薬として見直されつつあるということです。クロロキンなどに耐性のあるマラリア原虫が増えたこと、安価なメチレンブルーは途上国でも扱いやすいことなどが背景にあります。


 さらに最近、メチレンブルーが「頭のよくなる薬」になりうるという記事が「Wired」に掲載され、話題となりました(こちら。元論文はこちら)。筆者の専門外ですので全部はわかりませんが、要するにメチレンブルーを健康な被験者に投与し、fMRIという装置で脳内の血流を調べているようです。結果、「メチレンブルーは島皮質と呼ばれる脳の領域の反応を増加させた。この領域は脳の深い部分にあり、感情の働きに関与している。さらに、記憶の処理をコントロールする前頭前皮質、知覚情報の処理を行う頭頂葉、視覚情報処理の中枢である後頭皮質といった、短期記憶を取り出す際に働く部位の反応も(メチレンブルーによって)高められることが示された。」(Wiredの記事より)とのことです。

 といっても、メチレンブルーに記憶増強効果があることは、30年も前から動物実験で示されており、人間での実験もなされています。今回の実験はそのメカニズム解明を目指したものですので、「頭がよくなる薬が見つかる」という題名は少々問題ありかと思います。また、これで「頭がよくなった」とはとても言えず、せいぜい認知症などの改善に、将来つながるかもしれない糸口がひとつ見えてきた、というところかと思います。

 むろん、メチレンブルーの作用メカニズムはまだ全く未解明ですし、将来の影響など詳しいことはまだわかっていません(おしっこや白目が青くなり、大変不気味な見た目になることはわかっています)。間違っても、ペットショップでメチレンブルーを買ってきて、テスト前に飲んでみるなどといったことのないようお願いします。

 それにしても、最古の合成医薬であるメチレンブルーに、こうした作用が見つかってくるというのは面白いものです。身近な物質も、よく調べればまだまだ未知の機能が眠っているのかもしれません。

講演のお知らせ

 最近は筆者も、講演などに呼んでいただく回数が増えてきました。先日も土木学会のお招きで、滋賀県まで行って国道噺をぶってまいりましたが、7月にもいくつかありますのでお知らせをしておきます。

 7月2日(土)には、朝日カルチャーセンター新宿教室にて、「炭素が変えた人類の歴史」と題した講座を行います(こちら)。内容は、
歴史の教科書 に並んでいるのは、ほとんど人物や戦争、条約の名ばかりだ。しかし、歴史を動かしてきたのはこれら人間の営みだけではない。 有用な物質を創り出し、奪い合い、活用することで、その活動の場を広げてきた側面もある。
 こうした物質 の中でも、炭素を含む「有機化合物」は、常に歴史を動かすキープレイヤーであり続けてきた。本講座では、数々の有機化合物の 中か ら、 デンプン、エタノール、尿酸などいくつかの物質に焦点を当て、それらがいかに大きく歴史を動かしてきたか眺めていく。意外で面白いエピソードの数々を通じ、化学を学ぶということの意義を、改めて問い直してみたい。
という感じです。まあ要は拙著「炭素文明論」に近い内容のお話です。申し訳ありませんが、参加料などかかるようです。

 7月10日(日)16時からは、河合塾の大阪・上本町校舎にて、「歴史を変えた化合物」の題でお話をします。基本的に河合塾の塾生さんたちが対象ですが、その他一般の方も入場可能とのことです。事前申し込みなどは不要、無料です。内容的にはやはり「炭素文明論」をベースとしていますが、高校生がメインということで内容は変えていく予定です。

 7月20日(水)19時からは、東京・日比谷図書文化館にて、「世界史を変えた薬の歴史」の題でお話をします。
医薬品は、人類の歴史が始まる以前から我々の傍らにあり、多くの人々を病の苦しみから救ってきました。一方で、医薬は使い方を誤れば害毒ともなります。このため、医薬は歴史にプラスマイナスの両面で、大きな影響を与えてきました。
イエズス会の宣教師たちが、マラリアを癒やす不思議な木に出会っていなかったら、もしマゼランやコロンブスがビタミンCを知っていたら、もしモルヒネの分子が少しでも違った構造であったなら――、間違いなく、世界地図は今と全く違うものになっていたでしょう。
この講座では、医薬という切り口を通して世界の歴史を眺めつつ、医療と人類の現在と未来を考えてみたいと思います

こちらは「世界史を変えた薬」をベースとしたお話になります。お勤めを終えた後、ちょっと覗いていっていただければと思います。ちなみに受講料は1000円、事前申し込みが必要です。

 ということで、なんだか7月は世界史を変えてばかりですが、お時間がありましたら足を運んでいただければ幸いです。ではでは。

ヤヌスの立方体

 ローマ神話に出てくるヤヌス(Janus)という名の神様をご存知でしょうか。背中合わせになった2つの顔を持ち、出入り口や物事の始まりを司る神なのだそうです。一年の始まりの月を英語で「January」と呼ぶのは、このヤヌス神の名に由来します。

janus
ヤヌスが描かれたコイン(Wikipediaより)

 というわけで、欧米では両面に異なる性質を示すものに「ヤヌス」の名を冠することが多いようです。たとえば「ヤヌセン」と名付けられた炭化水素化合物が存在しており、図に示す通り2つの芳香族の面が向き合った構造です。

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ヤヌセン(janusene)

 最近では、シクロヘキサンの一方の面には6つの水素、もう一方の面には6つのフッ素が結合した、「ヤヌス型シクロヘキサン」が合成され、話題を呼びました(論文)。炭素・水素・フッ素だけでできているのに異例なほど極性が高く、イオンとの強い相互作用が観測される(論文)など、両面性分子ならではのユニークな性質が明らかになりつつあります。Chem-Stationさんに解説記事がありますので、詳しくはそちらを。

cyclohexaneF6_2
cyclohexaneF6_1
all-cis-1,2,3,4,5,6-ヘキサフルオロシクロヘキサン

 そしてこのほど、「ヤヌスキューブ」と銘打たれた化合物が登場しました。群馬大学の海野雅史研究室による成果で、立方体骨格に半分ずつ違う置換基が結合したものです。

januscube
緑がケイ素、赤が酸素。
上半分にフェニル基(橙)、下半分にイソブチル基(水色)が4つずつ結合している

 立方体骨格の分子としてはキュバンがよく知られていますが、これは合成に手間がかかり、自由に置換基を入れるのも面倒です。そこで著者らは、ケイ素と酸素から成る「オクタシルセスキオキサン」という骨格を利用しました。安定で、置換基の導入もしやすいところが利点です。

 ヤヌスキューブ合成法の原理そのものはシンプルで、上半分と下半分の四角形(8員環)を別々に作り、両者を合体させる作戦です。ただし、接合に用いる上下の置換基の組み合わせには工夫を要し、Si-F結合を持ったものとSi-O-Na結合を持ったものとの取り合わせによって、収率よくキューブを得ています。

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接合のようす。黄緑がフッ素、紫がナトリウム

 置換基としてはいろいろなものを導入できそうです。また、堅牢な立方体から向きの決まった置換基が出せますので、うまく互いに引き合う置換基同士を配置すれば、さまざまな構造体を構築できそうです。たとえば筆者は、有機/無機ハイブリッドのゼオライトのようなものができないかななどと思いましたが、みなさんも使いみちを自分なりに考えてみるのも面白いのではないでしょうか。

多環式芳香族を数え上げる

 さてまたずいぶん更新をサボってしまいました。何を書こうかと思ったのですが、いま筆者は「π造形科学」の広報を務めておりますので、ちょっと芳香族化合物のことを書いてみましょう。

 アルカンの炭素数が増えていくと、異性体の種類も加速度的に増えていくことが知られています。炭素数3までは1種類しかありませんが、その後は一炭素増えるごとにほぼ倍々ペースで増えていきます。炭素数20のイコサンでは約36万種、炭素数30のトリアコンタンでは約41億種、炭素数40のテトラコンタンでは約62兆種の異性体が存在する計算だそうです(こちらなど参考)。

alkanes

 一方、芳香族化合物の基本になるのはベンゼンです。この六角形がたくさんつながったものが、多環式芳香族炭化水素(Polyaromatic Hydrocarbon, PAH)と呼ばれる化合物群で、連結の仕方や数によってさまざまな性質を示します。では、このPAHにはどのくらいの種類があるでしょうか?

 環の数が1個(ベンゼン)及び2個(ナフタレン)の場合、異性体はなく1種類だけです。では環が3つになるとどうか?単純に六角形を3つつないだ図形は、3種類考えられます。しかし右側にある団子型の化合物(フェナレン)では、どう二重結合を配置しても、sp2配置になれない炭素が出てきてしまいます。このため、環の数が3の場合、PAHはアントラセンとフェナントレンの2種類のみということになります。

3rings
アントラセン(右上)、フェナントレン(右下)、フェナレン(右)

 環の数が4つだと、形の上では7種の異性体がありえます。しかし、やはりこのうち一番右にあるひとつだけ、全ての環が芳香環になれません。というわけで、環が4つのとき、PAHの種類としては6種が存在します。

4rings
右の黄色い化合物のみ、芳香環のみで構成できない。

 では環が5つになるとどうでしょうか。早くも筆者の手には負えなくなってきたので、ウィキペディア先生に聞いてみましたところ、5つの正六角形をつないでできる図形は22種だそうです。何でもありますね、ウィキペディア。

5rings

 このうち、筆者の勘定が間違っていなければ、7種類が条件を満たせませんので、PAHになりうるのは15種です(下図)。要するに、水素が結合できる場所が奇数ヶ所である場合は、どうあがいても芳香環にはなれませんので除外できます。ちなみに除外組には、以前取り上げたオリンピセンも含まれます。

5rings_X

 環の数が6つになると、また違った問題が出てきます。6つの六角形を環につないだ、穴あき図形が出てくるのです。これはPAHでいうならコロネンに相当しますので、7環性化合物に分類すべきでしょう。その代わり、6つの環がらせん状につながった、ヘリセンが登場しますので、これをカウントすることにしましょう。

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コロネン(左)とヘリセン(右)

 すると、6つの六角形から成る図形82種のうち、31種がアウトということになります(だと思います)。ということで、6環性のPAHは51種ということになります(と思います)。

6rings

 環が7つでは333種、8つでは1448種、9つでは6572種、10では30490種の図形が存在するそうで、これらのうちいくつPAHになりうるのか、もう手動では全く追いつきません。アルカンの異性体数え上げでも相当大変ですが、こちらはそれ以上の課題になりそうです。もう計算されているのかどうかわかりませんが、どなたかコンピュータを駆使してチャレンジしてみてはどうでしょうか。先行例がなければ、論文一報くらいになるかもしれません。

一人でサイエンス

 Nature誌やScience誌などで、有機合成関係の論文を見かける機会が増えてきました。90年代ごろには、両誌に有機分野の論文が載ることはきわめてまれで、Nicolaouのタキソール全合成(Nature 367, 630 (1993).)や、村井らの触媒的C-H結合活性化反応(Nature 366, 529 (1993).)など、文字通り歴史的な論文がたまに掲載される程度でした。筆者など、ちょっと生物学分野に偏り過ぎなんじゃないの、と思っていたものです。

 しかし最近では、毎週のように――はちょっと言い過ぎかもしれませんが、かなりたくさん有機分野の論文が掲載されるようになりました。その分、なんでこれがNature、Scienceなんだろかと思うようなこともありますが、まあ筆者の見る目がないのでしょう。

 こうした超一流誌に掲載される論文は、大人数が投入された大型プロジェクトが多くなります。分野をまたがった共同研究などでは、著者が20人くらいになることも珍しくありません。余談ながら論文の著者数の世界記録は、Phys. Rev. Lett.誌に載ったヒッグス粒子に関する報告で、なんと5154人が著者として掲載されています。33ページの論文のうち、著者名と所属機関の表記だけで24ページを占めているということで、いろいろと桁違いのお話です。

 ところが、大学などに所属せず、自宅の物置きでたった一人で行なった研究で、Science掲載を果たした人物もいます。ホロトキシンという化合物を発見した、島田恵年氏がその人です。

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ホロトキシン

 島田氏は、京都大学薬学部の学生であったころ、母の「ナマコが水虫に効く」という言葉を聞き、試したところこれが本当に有効であったそうです。島田氏は大学院を中退し、自宅の物置きでナマコから有効成分を抽出する実験に取り組み、10年かかってホロトキシンを結晶化することに成功したのです。この結果をまとめた論文は、1969年にみごとScience誌掲載を果たしました(こちらで見られます)。

 島田氏はこのホロトキシンを「ホロスリン」の名で水虫薬として商品化し、現在でもホロスリン製薬から発売されています。在野の一化学者の果たした快挙といえると思います。

 前述のヒッグス粒子のようなビッグサイエンスが幅を利かす現代にあっては、こうした小規模で地道な研究が、世間をあっといわせる成果を挙げるのはなかなか難しいのが現実です。とはいえ、金と人をかけるばかりではない、鋭いアイディアの研究も見てみたいと思う次第です。

(参考)「海の生き物からの贈り物~薬と毒と~」 化学工業日報社
海洋天然物化学について一般向けに書かれた本ですが、上記のようなエピソードも満載で、大変に面白い本です。著者は,DPPAやTMSジアゾメタンの開発で知られる、塩入孝之先生です。

画期的新薬・ソバルディの代価

 前回、ソバルディ(化合物名ソフォスブビル)という薬の素晴らしい効能について書きました。ただ世の中、なかなかめでたいばかりとは行きません。実はこの薬、価格が非常に高いという問題があります。昨年、ソバルディが認可された際につけられた薬価は1錠あたり6万1799円、「レジパスビル」という薬との合剤である「ハーボニー」は8万171円でした。12週間の治療では、それぞれ約546万円、約673万円という、目の玉の飛び出るような値段になります。

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レジパスビル。ハーボニーはこれとソフォスブビルの合剤

 日本には健康保険制度や医療費助成制度があるため、患者自身の負担は数万円で済みます。しかし残りの金額は国民全体の負担となるわけで、C型肝炎の患者でない人たちにものしかかってくる問題です。

 なぜこうも高くなってしまうのか?日本を含め、多くの国では薬価は製造元でなく、国の機関が決めることになっています(詳しい決め方は、こちらなど参考にしていただければと思います)。薬の開発にかかったコスト、海外の価格とのバランスなどを考えた上、こうした画期的な薬の場合には「画期性加算」といったプレミアもつきます。

 C型肝炎の治療薬開発は、高価な動物を用いた実験を行なわねばならないなど、非常にコストと時間がかかる道のりです。ここでかかった金額を、わずか12週分の薬剤で回収せねばなりません。何より、非常に難しいとされてきたC型肝炎治療薬実現には、大きなリスクを乗り越える必要がありました。高価になってしまう事情も、理解はできるのです。

 また、C型肝炎に対して今まで行なわれていたインターフェロン療法もかなりの高額でしたし、何よりC型肝炎は肝硬変から肝がんへ進行する可能性が高い病気でもあります(肝がん患者の約75%がC型肝炎ウイルス感染者)。こうなった際の医療費を削減し、短期間の投与だけで命まで救うのだから、決して高価な薬ではない。長い間で見れば医療費の負担を軽減する薬だ――というのが、ギリアド社の言い分です。

 とはいえ、C型肝炎は患者数の多い病気なので、投資分の回収は十分可能でしょうから、もう少し適切な価格というものがあるだろうと思えます。ハーボニーが有効なタイプのC型肝炎患者は日本に33万人いるそうですので、もしこの人たちが全員ハーボニーによる治療を受けたら、単純計算で2兆2千億円以上かかってしまいます。日本の薬剤費は、2000年度に6.1兆円であったものが、2014年度には約9.9兆円まで跳ね上がり、悲鳴を上げている状態です。ここにたった1剤で2兆円が上乗せされたら、健康保険制度はとうてい保ちません。

 こうした背景から、この春の薬価改定で、ソバルディとハーボニーは31.7%という大幅な薬価引き下げを受けることになりました。一定以上に売れた医薬は、最大50%も薬価を下げられるという「特例拡大再算定」という新制度が適用された結果です。事実上、ソバルディとハーボニーを狙い撃ちにした制度といっていいでしょう。まあこれだけ値下げしてさえ、健康保険制度に対するソバルディの負担はなお非常に重いことは変わっていないのですが。

 しかしこれは、製薬企業からすれば「画期的な薬を開発したらペナルティで売り上げを削られる」ような制度であり、イノベーションへの意欲をそぐものとして、強い反発の声が挙がっています(高い薬価さえつければ、イノベーションは起こるのかというツッコミもあるでしょうが)。それより恐ろしいのは、海外企業が「日本市場に魅力なし」と見たら、今後の画期的新薬の日本投入が遅れるという事態でしょう。

 そして困ったことに、ソバルディやハーボニーどころではない高薬価の薬が、まだまだ存在するのです。たとえば乳がんの治療薬ハラヴェン(化合物名エリブリンメシル酸塩)の薬価は1ミリグラムあたり6万4070円で、重量あたりでいえば純金の1万3千倍以上です。肺がん治療薬アレセンサは1年間投与すると約950万円、同じくオプジーボに至っては約3460万円ということで、薬価上昇傾向はとどまるところを知りません。

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エリブリン
 
今後もこうした高額医薬が出てくるであろうことを考えると、事態は健康保険制度、高額療養費制度が保つかどうかというところに来ているように思います。これは日本だけの問題ではなく、世界各国が薬価高騰については頭を痛めているところで、米大統領選でも薬価抑制が大きな争点ともなっているほどです。

 それにしても、新薬が高騰しすぎて国家の財政を食い潰すほどになっているのは、どこかで何かが間違ってしまっているというしかないように思います。みなさまはこの問題、どうお思いでしょうか。

(関連記事)
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C型肝炎への切り札・ソバルディ

 近年登場した医薬のうち、最も売れているものといえば、C型肝炎治療薬ソバルディ(化合物名ソフォスブビル)でしょう。2014年度の世界売り上げは100億ドルを突破し、並みいる最新の各種バイオ医薬を蹴落として、一気に初登場2位をゲットするという快進撃を見せました。昨年から日本でも発売され、わずか4ヶ月で売り上げ首位に躍り出るなど、まさに「爆売れ」というべき状況です。

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ソバルディ(ソフォスブビル)の構造

 C型肝炎という病気は、輸血や注射器の使い回しなどにより、血液を介してC型肝炎ウイルス(HCV)が体内に侵入することで発症します。HCVキャリアは世界で1億7千万人といわれますが、これまで有効な治療法やワクチンなどはなく、大きな問題となっていました。

 ところがソバルディは、わずか12週間の投与で約96%の患者を治癒させるという結果が出ています。まさしく著効を発揮する上、重篤な副作用もないとされています。エイズの治療薬などでは、一生飲み続ける必要があるのとは対照的です。ここまで治療に劇的な進歩をもたらす医薬は、そうあるものではありません。

 こうした抗ウイルス薬にはいくつかのタイプがありますが、ソバルディは「核酸アナログ」と呼ばれるものです。HCVはRNAを遺伝子として持っており、増殖の際にはこれを大量に複製する必要があります。そこで、RNAの部品となる核酸(ヌクレオシド)によく似た分子を紛れ込ませ、RNAを作るシステムをストップさせてしまえば、ウイルスの増殖を食い止められます。これは、以前取り上げたインフルエンザ及びエボラ出血熱治療薬「アビガン」と同じようなメカニズムです。

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アビガン(化合物名ファビピラビル)の構造

 ソバルディの「本体」といえるのは、右側の部分です。ここはRNAの「部品」のひとつであるウリジンの構造にそっくりですが、そのヒドロキシ基のひとつ(2'位OH)が、メチル基とフッ素に変わっているのです。これが体内に入ると、リン酸基が取り付けられ、本物のウリジン三リン酸と間違えられてウイルスのRNA合成酵素に入り込みます。しかしこの偽物の部品は、酵素にくっついたまま離れなくなり、それ以上のRNA合成合成を阻んでしまうのです。

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ソバルディの本体(左)とウリジン(右)

 ただし、この本体部分だけを投与しても、あまり効果が挙がりませんでした。この「本体」(下図の化合物(1))は、まずひとつリン酸と取り付けられて(2)になり、さらに三リン酸のついた活性本体(3)になるのですが、この第一段階の進行が遅いためです。

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 じゃあ最初から(2)か(3)を薬として投与すればいいんじゃないの、と思うところですが、これもうまくいきません。リン酸のように電荷を持った部位がついていると、薬剤が細胞内へ進入しにくくなるためです。そこで、(2)のリン酸部分にフェニル基やアミノ酸を取り付けて、電荷を「消す」工夫が行われました。この形では中性なので問題なく感染細胞へ入り込み、その後、細胞内でフェニル基やアミノ酸が切り離されて(2)を遊離します。

 吸収されやすいように、適当な置換基を薬剤本体に取り付けておき、体内で切り離すこうした手法を「プロドラッグ」と呼びます。この場合は、ヌクレオチドに対するプロドラッグということで「protide」(prodrug+nucleotide)と名づけられているようです。

 この手法は、ギリアド・サイエンシズ社で開発中の、GS-5734でも使われています。この薬は、エボラ出血熱など幾つかのウイルス疾患に有効であり、注目を集めています。ギリアド社は抗インフルエンザ薬タミフルで有名になりましたが、このソバルディなども含め、抗ウイルス薬の分野で快進撃を続けています。
(注:ソバルディを最初に創ったのは米ファーマセット社で、ギリアドがこれを買い取って発売)

GS-5734
GS-5734

 というわけで、ソバルディはさまざまな工夫が凝らされた、素晴らしい医薬であることは間違いありません。ただ、なかなかいいことづくめと行かないのが世の常で、このソバルディも高薬価という難題を抱えています。このへはまた次回に。

あの試薬の意外な使いみち

 有機化学の実験室にはさまざまな試薬があり、それらの特徴をよく知って使い分けることが必要になります。しかしそうした試薬には、実験室外でも意外な使い方をされているものがあります。

 たとえば塩化チオニルは、塩素化剤として最も広く利用される試薬です。アルコールのOH基を塩素に置換して塩化アルキルに、またカルボン酸を酸塩化物へ変換する能力を持ちます。副生成物は塩化水素と二酸化硫黄だけであるため、単に反応液を留去するだけでほぼ純粋な生成物が得られるので、この反応の際に真っ先に検討する試薬といえます。

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 この塩化チオニルは、電池の陽極として用いることで、高電圧の電池となることが知られています。陰極として金属リチウムを用いるため、塩化チオニルリチウム電池と呼ばれます。

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塩化チオニルリチウム電池(Wikipediaより)

 塩化チオニルリチウム電池は、長期間にわたって広い温度幅で使える特性があります。このため、水道やガスメーター、防犯装置の電源として用いられます。宇宙開発にも活躍し、現在公開中の映画「オデッセイ」の原作「火星の人」(大変面白いです)にも登場します。ただし、塩化チオニルには腐食性があるため、破損すると危険です。このため塩化チオニルリチウム電池は、組み込み部品として用いられることがほとんどであり、その姿を我々が見る機会はほとんどありません。


 過酸化ベンゾイルも、実験室には常備されている試薬のひとつです。この化合物は不安定なO-O結合を持つため、熱などで開裂してラジカルを発生します。このため、オレフィン重合の開始剤としてよく用いられます。

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過酸化ベンゾイル

 この過酸化ベンゾイルは、ニキビ治療薬としての用途があります。アメリカなどではかなり以前から用いられてきましたが、日本でも2015年にようやく認可され、皮膚科などで処方されるようになりました。この化合物がニキビの原因となる菌を殺すことによって効果を表します。また、ピーリング作用を持ち、角質を除去するはたらきもあるようです。


 もうひとつ、水素化ホウ素ナトリウムも有名な還元剤であり、ケトンやアルデヒドをマイルドな条件でアルコールに変換することができます。使ったことがない有機化学者はいない、というくらいに汎用される試薬でしょう。

NaBH4

 この化合物は、酸やある種の触媒によって分解して水素分子を放出するため、水素源として用いられることがあります。水素はクリーンなエネルギー源であるものの、運搬が難しいというデメリットがありますが、水素化ホウ素ナトリウムはその難点を解決する手段の一つとして期待されています。

 ちょっと意外な用途としては、絵画の修復があります。紙は長い年月の間に、光による黄変、カビなどのシミが発生し、せっかくの絵画を鑑賞不能にしてしまいます。こうした紙を、0.25%ほどの薄い水素化ホウ素ナトリウム水溶液に浸すと、色素成分が分解されて白く戻ることがあるのです。もちろん紙に薬品が残っていると劣化の原因になってしまうので、処置後は純水でよく洗い流す必要があります。


 これらはあくまで有機化学者から見た「意外な用途」であり、他分野の人から見れば「この薬品は有機化学でも使うのか」と思われるものかもしれません。しかし、多くの試薬の性質を熟知した研究者なら、ちょっと頭を柔らかくすれば、他分野での思わぬ応用がひらめく可能性もありそうです。

サーキュレン

 有機化学では数限りない分子を取り扱いますが、中でもベンゼン環は基本というべき存在であり、これがあることでこのジャンルはぐっと奥深さを増しているといえます。このベンゼン環をつないだだけの分子も、すいぶんたくさん作り出されています。

 ベンゼン環の六角形が辺同士でつながり、全体として環になった分子を「サーキュレン」と称します。多角形を、ベンゼン環がぐるりと取り囲んだ分子と表現することもできるでしょう。サイズを表現するときには、ベンゼン環の数を先頭につけて、[n]サーキュレンという書き方をします。

 20世紀中に合成されたサーキュレンは、n=5,6,7,12の4種類です。ベンゼン環5つのものはコランニュレン、6つのものはコロネン、12個のものはケクレンという名がついています。これらは、何度か本サイトでも取り上げています。

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 この後しばらく、サーキュレン類の新顔は登場していなかったのですが、2010年代になってこのジャンルは再び活発化し始めました。2010年、B. T. Kingらのグループが[4]サーキュレンにあたるクアドラニュレン骨格を、2012年には[14]サーキュレンに相当するセプチュレンの合成を報告したのです。さらに2013年には分子研の鈴木敏泰ら、2014年にはWhalleyらが[8]サーキュレン骨格の合成に成功するなど、次々にブレイクスルーが生まれています。特に、ひずみが大きすぎる[4]サーキュレンはいくらなんでも無理だろうと思っていたので、この合成には驚かされました。

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(※追記 [8]サーキュレンは、台湾のYao-Ting Wuらが先に作っているとのご指摘をいただきました(論文)。しかもこちらはベンゼン環が縮環していない、純正のものです。筆者の見落としでした。失礼いたしました。)

 これらサーキュレン類が最近になって次々作り出されているのは、やはり合成法の進歩が大きいと思われます。パラジウムを用いた結合生成、各種の芳香環形成反応など、多くの新しい反応がこれらの合成を下支えしました。

 また、曲がった芳香族特有の面白い性質も、注目を受ける理由でしょう。上の図では平面的に描いてありますが、ベンゼン環の数が5, 7, 8のサーキュレンは実際には平面から外れた構造をとります。たとえば[7]サーキュレンは下図のように、反り返った形になっています。

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[7]サーキュレン

 これら非平面の芳香族化合物は、単純な平面のものとはいろいろと異なる性質を示します。たとえば、平面の芳香族はぴったり重なるので互いにはがれにくく、一般に溶媒に溶けにくいのですが、非平面の芳香族化合物には溶解度に優れたものが多いのです。この性質は、デバイス化など応用を考える際には大いに有利になります。

 というわけで、今後もこのたぐいの化合物はいろいろ登場してくると思われます。ヘテロ環を含んだものもたくさん作られていますし(別の機会に取り上げたいと思います)、下のようなベンゼン環数が8〜10のサーキュレンも、すでにチャレンジしている人がいそうです。[9]サーキュレン(右上)はひずみも高そうなので、右下のような配置も考えられそうですが、中央の穴の中で水素が干渉するので、これはこれで難しいかもしれません。

circulenes3

 サーキュレン類に限りませんが、こうした化合物の合成法を眺めていると、環の数が奇数のものは難しいなあと思います。奇数であると、対称性を利用して一気に短工程で骨格を作るという方法が取りにくいからです。たとえば[8]サーキュレンは、こちらのd,eにあるような方法で、比較的簡単な化合物から一段階で骨格ができていますが、環の数が5や7だとこういう手が使えず、どうしても長工程になってしまいがちです。

 こうしたところを、化学者たちがどう工夫して乗り越えてくるか、また今後どういう応用が出てくるか。野次馬である筆者としては、展開を楽しみに待ちたいところであります。

新元素名は何になるか

 昨年末、日本の科学界に待望のニュースが飛び込みました。森田浩介博士(現・九州大)率いる理研チームが合成・報告した113番元素がIUPACの認定を受け、命名権が同グループに与えられたっというものです。日本はもちろんアジアでも初の快挙であり、科学史上に残るできごとと言ってよいでしょう。

 実はこの時発表されたのは113番だけではなく、115・117・118番元素にも同時に命名権が与えられています。115番と117番は、JINR(ロシアのドゥブナ合同原子核研究所と、米国ローレンス・リバモア研究所、オークリッジ国立研究所の共同研究チーム)が、118番は同じくロシアのドゥブナ合同原子核研究所と、米国ローレンス・リバモア研究所の連合チームに命名権が授与されています(こちら)。

113-118

 さてそうなると、これら新元素の名前は何になるのか。この件に関し、Nature Chemistry誌のブログ「The Sceptical Chymist」で予想が行なわれています(New kids on the p-block)。専門家を招き、オッズなどもつけられて、なかなか本格的です。

 まず語尾ですが、新元素が金属と予測される場合は-iumで終わるようにという規定がありますが、117番はハロゲン、118番は貴ガスの位置です。このため、先輩元素たちに合わせて117番元素は-ine、118番元素は-onで終わる名が予想に挙がっています(もちろん新元素の化学的性質は全くわかっておらず、ハロゲンや貴ガスに分類されるべきものかどうかはまだ不明ですが)。

 語幹の方は、
(1)神話にちなむもの
(2)鉱物名
(3)国名や地名
(4)元素の性質
(5)科学者の名
から取るというガイドラインがあります。といっても、最近の元素は鉱物から得られるわけでもなく、性質もわからないところが多いので、地名か科学者名がほとんどになっています。

 ☆113番元素の名は?
 日本発の新元素である113番元素には、オッズの高い方から順にJaponium、Nipponium、Nihonium、Rikeniumなどの名が挙げられています。ただ、一度元素名として提案されて消えた「幻の元素」の名は使えないということもあるようなので、43番元素に対して一度提案された「ニッポニウム」は不可とされる可能性大です。リケニウムも、理研は地名ではないので外されるのではと思います。

 ニホニウムとかジャポニウムはOKのはずなので、後者が今のところ本命視されています。なんでジャパニウムは候補にならないんだろう、とちょっと疑問ですが。日本神話にちなんで「Amaterasium」も8対1のオッズで、響きは悪くありませんがどうでしょうか。

 謎なのは、6対1というかなり高いオッズで、「Enenraium」が推されていることです。エネンラて何よ、と思って調べたら、「煙々羅」という煙の妖怪がいるのだそうです。いったい、なぜこれが出てきたのやら。それであればヌラリヒョニウムかジバニャニウムとかの方が、よっぽどなじみがあると思いますが。ちなみにオッズ50万対1で、「Godzillium」の名も入っていたりします。

SekienEnenra
妖怪・煙々羅

 ☆115番元素
 先ほど、新元素名は地名か科学者にちなむものがほとんどと書きましたが、最近の元素発見は米ロ独のチームによる寡占状態が続いているため、地名はだいぶ使い尽くされてきた感もあります。先のブログでは大本命として、モスクワにちなむ「Moscovium」が挙げられています。この名前、116番のリバモリウムの時にも提案されているということですが、リベンジは成るでしょうか。

 ロシアにちなむ元素には、すでにルテニウム(ロシアの古名Rutheniaから)があります。また、ルシウム(Russium)は、すでに19世紀に一度提案されて消えているようです。アメリカの研究所にちなむTennessium、Oakridgiumも挙がっていますが、アメリカ側の寄与が小さいと見られているのか、オッズは高くありません。

 ☆科学者の名
 というわけで、科学者名由来の新元素名がつけられる可能性はかなり高いと思われます。113番元素に対しては、物理学者仁科芳雄にちなむ「Nishinium」が候補になっています。日本の著名な核物理学者には湯川秀樹、長岡半太郎、南部陽一郎などもいますが、理研の大先達である仁科が有力ということでしょう。筆者も、人命由来ならニシニウムが本命かと思います。

225px-Yoshio_Nishina2
日本の現代物理学の父・仁科芳雄

 他にも、いまだ元素名になっていない大物学者はたくさんいます。先のブログでは、ベルセリウス、アボガドロ、モーズリー、パウリ、ポーリングなどにちなむ名が挙げられています。シュレーディンガーやハイゼンベルクといった超大物もまだ元素名にはなっていませんが、これだと名前が長くなりすぎるのが問題かもしれません。

 日本ではあまり有名ではありませんが、98〜109番あたりの元素合成に大きく貢献した科学者、アルバート・ギオルソが選ばれる可能性はかなりありそうに思います。米国からの意見が通るようなら、ギオルシウムの名が周期表に刻まれることになるでしょう。

 候補には挙がっていませんが、118番元素に対しては、貴ガス発見に多大な貢献をしたW. Ramsayにちなんで「Ramsayon」の名はどうかと個人的には思います。第7の貴ガスに、最もふさわしい名前ではないでしょうか。

 というわけで筆者の予想をまとめますと、

 113番:ジャポニウム(Jp)
 115番:モスコビウム(Ms)
 117番:ギオルシン(Gi)
 118番:ラムゼイオン(Rm)

 てな感じでありますが、みなさまのご意見はいかがでしょうか。
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