有機化学美術館・分館

HP有機化学美術館のブログ版。タイムリーな話題,短いテーマをこちらで取り上げます。

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新元素名は何になるか

 昨年末、日本の科学界に待望のニュースが飛び込みました。森田浩介博士(現・九州大)率いる理研チームが合成・報告した113番元素がIUPACの認定を受け、命名権が同グループに与えられたっというものです。日本はもちろんアジアでも初の快挙であり、科学史上に残るできごとと言ってよいでしょう。

 実はこの時発表されたのは113番だけではなく、115・117・118番元素にも同時に命名権が与えられています。115番と117番は、JINR(ロシアのドゥブナ合同原子核研究所と、米国ローレンス・リバモア研究所、オークリッジ国立研究所の共同研究チーム)が、118番は同じくロシアのドゥブナ合同原子核研究所と、米国ローレンス・リバモア研究所の連合チームに命名権が授与されています(こちら)。

113-118

 さてそうなると、これら新元素の名前は何になるのか。この件に関し、Nature Chemistry誌のブログ「The Sceptical Chymist」で予想が行なわれています(New kids on the p-block)。専門家を招き、オッズなどもつけられて、なかなか本格的です。

 まず語尾ですが、新元素が金属と予測される場合は-iumで終わるようにという規定がありますが、117番はハロゲン、118番は貴ガスの位置です。このため、先輩元素たちに合わせて117番元素は-ine、118番元素は-onで終わる名が予想に挙がっています(もちろん新元素の化学的性質は全くわかっておらず、ハロゲンや貴ガスに分類されるべきものかどうかはまだ不明ですが)。

 語幹の方は、
(1)神話にちなむもの
(2)鉱物名
(3)国名や地名
(4)元素の性質
(5)科学者の名
から取るというガイドラインがあります。といっても、最近の元素は鉱物から得られるわけでもなく、性質もわからないところが多いので、地名か科学者名がほとんどになっています。

 ☆113番元素の名は?
 日本発の新元素である113番元素には、オッズの高い方から順にJaponium、Nipponium、Nihonium、Rikeniumなどの名が挙げられています。ただ、一度元素名として提案されて消えた「幻の元素」の名は使えないということもあるようなので、43番元素に対して一度提案された「ニッポニウム」は不可とされる可能性大です。リケニウムも、理研は地名ではないので外されるのではと思います。

 ニホニウムとかジャポニウムはOKのはずなので、後者が今のところ本命視されています。なんでジャパニウムは候補にならないんだろう、とちょっと疑問ですが。日本神話にちなんで「Amaterasium」も8対1のオッズで、響きは悪くありませんがどうでしょうか。

 謎なのは、6対1というかなり高いオッズで、「Enenraium」が推されていることです。エネンラて何よ、と思って調べたら、「煙々羅」という煙の妖怪がいるのだそうです。いったい、なぜこれが出てきたのやら。それであればヌラリヒョニウムかジバニャニウムとかの方が、よっぽどなじみがあると思いますが。ちなみにオッズ50万対1で、「Godzillium」の名も入っていたりします。

SekienEnenra
妖怪・煙々羅

 ☆115番元素
 先ほど、新元素名は地名か科学者にちなむものがほとんどと書きましたが、最近の元素発見は米ロ独のチームによる寡占状態が続いているため、地名はだいぶ使い尽くされてきた感もあります。先のブログでは大本命として、モスクワにちなむ「Moscovium」が挙げられています。この名前、116番のリバモリウムの時にも提案されているということですが、リベンジは成るでしょうか。

 ロシアにちなむ元素には、すでにルテニウム(ロシアの古名Rutheniaから)があります。また、ルシウム(Russium)は、すでに19世紀に一度提案されて消えているようです。アメリカの研究所にちなむTennessium、Oakridgiumも挙がっていますが、アメリカ側の寄与が小さいと見られているのか、オッズは高くありません。

 ☆科学者の名
 というわけで、科学者名由来の新元素名がつけられる可能性はかなり高いと思われます。113番元素に対しては、物理学者仁科芳雄にちなむ「Nishinium」が候補になっています。日本の著名な核物理学者には湯川秀樹、長岡半太郎、南部陽一郎などもいますが、理研の大先達である仁科が有力ということでしょう。筆者も、人命由来ならニシニウムが本命かと思います。

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日本の現代物理学の父・仁科芳雄

 他にも、いまだ元素名になっていない大物学者はたくさんいます。先のブログでは、ベルセリウス、アボガドロ、モーズリー、パウリ、ポーリングなどにちなむ名が挙げられています。シュレーディンガーやハイゼンベルクといった超大物もまだ元素名にはなっていませんが、これだと名前が長くなりすぎるのが問題かもしれません。

 日本ではあまり有名ではありませんが、98〜109番あたりの元素合成に大きく貢献した科学者、アルバート・ギオルソが選ばれる可能性はかなりありそうに思います。米国からの意見が通るようなら、ギオルシウムの名が周期表に刻まれることになるでしょう。

 候補には挙がっていませんが、118番元素に対しては、貴ガス発見に多大な貢献をしたW. Ramsayにちなんで「Ramsayon」の名はどうかと個人的には思います。第7の貴ガスに、最もふさわしい名前ではないでしょうか。

 というわけで筆者の予想をまとめますと、

 113番:ジャポニウム(Jp)
 115番:モスコビウム(Ms)
 117番:ギオルシン(Gi)
 118番:ラムゼイオン(Rm)

 てな感じでありますが、みなさまのご意見はいかがでしょうか。

自著を振り返ってみる(2)

 というわけで、自分の著書を振り返ってみる企画パート2です(パート1はこちら)。

 ・炭素文明論〜「元素の王者」が歴史を動かす
 2013年7月刊。ここまで本やブログを書いてきた経験から、化学関係者に向けた化学の本だけ書いていても、どうしても広がりがないなという思いがありました。で、文系の人に読んでもらうにはどうすればいいか、自分なりに考えて書いてみた一冊。デンプン、グルタミン酸、カフェインなどいくつかの化合物を取り上げ、世界の歴史との関連を描いてみました。

 評判もよく、自分では今のところこれが代表作だと思っています。韓国・台湾版も出て、初めて世界進出を果たすことができた意味でも、思い出深い本です。タイトルだけ見ると相当硬い本に思えますが、実はそんなに難しくもないですし、「世界史を変えた薬」を気に入ってくださった方なら、こちらも面白く読んでいただけるものと思います。

コンセプトの練り込みもしっかりできた一冊と思います。

 ・ふしぎな国道
 2014年10月刊。ご存知の方はご存知の通り、筆者は国道巡りという変な趣味を持っています(「国道系。」というブログもあります)。こちらでも本を書きたいと思い、各社の編集者さんと会うたびに話を持ちかけていたのですが、「ハハハ面白いですね。で、本題ですが」と軽くスルーされておりました。そんな中、講談社のT氏が唯一この話を真に受け、誕生したのがこの本です。

 その結果、この本は4万部近く売り上げる、まさかのヒットとなりました。世の中、何が当たるかわからないものです。まあ、筆者のどのサイエンスの本より売れてしまったので、サイエンスライターを名乗る者としてはやや複雑な心境ではあります(笑)。

 国道めぐりって何が楽しいの、と思われそうですが、謎を解くことに快感を覚えたり、数字が好きであったりする研究者諸氏には、おそらく潜在的に国道マニアの適性があると思います。だまされたと思って本書を手に取ってみて下さい。「そうだったのか!」と思うネタが満載です。


 実際には帯がかかっており、国道標識がプリントされています。

 ・化学で「透明人間」になれますか? 人類の夢をかなえる最新研究15
 2014年12月刊。「小説宝石」に連載したものをまとめた本です。がんや花粉症は治せるか、惚れ薬やダイヤモンドは作れるか、金持ちになれるかなどなど、真面目なものから突拍子もないものまで、15の「人類の夢」を化学がどこまでかなえられるか、という内容です。

 この本、サトウ博士と妻のショウコさんの会話、というか夫婦漫才形式で進んでいきます。挿絵及びマンガも描いていただき、広く読みやすいのではと思います。ただ残念ながら、筆者の本の中で唯一増刷がかかっていません(最近出たばかりの「国道者」を除く)。授業などで使えるネタも満載で面白い本なんだけどな、と自分では思っているのですが。

イラスト・マンガはおちゃずけさんに担当していただきました。


 ・世界史を変えた薬
 2015年10月刊。「炭素文明論」企画中に、どれか医薬の話も入れるべきかと考えているうち、医薬だけで一冊書けそうだと思い至りました。実際、医薬だけでも選ぶのに苦労するほどエピソードがあり、気づかぬ形で世界史を動かしてきたキーファクターだと気付かされました。この本も好評をいただき、海外版の刊行も決定しています。

 創薬研究に10年以上関わってきた身として、やはり医薬という存在には思い入れがあります。そのあたりがどう中身に作用しているか、ご覧いただければ幸いです。

 この本はノーベル賞シーズンに刊行されるということで、ヤマを張ってエイズ治療薬開発の満屋裕明先生の話を入れてみました。結果としては今回はハズレとなりましたが、いつか必ず受賞されると思っています。電子版では、特別編として大村智先生の業績についての一章を収録しています(紙版でも挟み込みで掲載)。

この本も帯がかかっており、薬のカプセルの写真が入っています。

 ・国道者
 2015年11月刊。「新潮45」誌に連載中の同題のエッセイをまとめたものです。国道の本第2弾ということで、こちらは道路史における謎解きがメインテーマになっております。昭和30年代にはズダボロだった日本の道路は、わずか30年ほどで驚くべき進化を遂げるわけですが、その中にはやはり政治的なあれやこれやがあったわけで、調べていくと実に面白いです。

 こういう本を書いていて気づいたのは、結局研究者の資質として重要なのは、「謎を謎として認識する能力」そして「謎が解けた時に快感を感じる体質」なのではないかということです。なんかこいつはおかしいぞ、と気づかねば進んで課題には取り組みませんし、謎が解けたときに「そうだったのか!」と強く感じる心がなければ、取り組むエネルギーは生まれません。というわけでこの本、道路に興味がなくとも研究者気質の人なら、面白く読んでもらえるのではと思います。

 とはいえ、道路史は鉄道に比べると資料が少なく、研究も進んでいません。筆者あたりの素人仕事ではなく、その方面の専門家にしっかりと研究していただきたいものと思う次第です。

書店によって置いてある棚がまちまちなので、ポチっていただくのが確実です。


 ・健康になれない健康商品: なぜニセ情報はなくならないのか
 で、こちらが今月20日発売予定の最新刊です。雑誌「企業診断」での連載に、加筆修正の上まとめたものです。タイトルの通り、酵素やら水素水やら血液クレンジングやら、怪しげな健康法に関して書き綴った本です。できる限り、現状の科学知識に沿って、誠実に書いたつもりです。

 正直言いますと、この手の本はリスクが大きく、あまり書きたい部類の本ではありません。有名人やら博士やらが支持する健康法やダイエット法、大企業が発売する健康商品に向かって筆者あたりが何か書いても、焼け石に水なのかなという空しさもあります。とはいえ次々に妙な話も出てきますし、同じことでもある程度繰り返し言っておく必要もあるかと思い、こうしてまた世に問う次第です。そう言っているそばから、グルテンフリーとか何とかがまた流行り始めるのでアレなのですけれど。

さてどの程度反響がありますか。


 まあ今後も化学や医薬の本は書き続けますし、道路関連の本も需要がある限り書きたいと思います。囲碁や折り紙の本なんかも、いつか書ければよいと思っていますし。ご興味のある出版関係者、また佐藤健太郎フェアなどやってみてもよいという奇特な書店さんなどおられましたら、素早くご連絡いただければ幸いであります。

日本の「国化合物」

 世界の国の多くには、その国を象徴する動植物が決められています。たとえば日本の国花はサクラ、国鳥はキジ、国魚は錦鯉なんだそうです。国獣も決まっている国が多いのですが、日本にはないようです。

 このへんはご存じの方も多いと思いますが、たとえば「国石」もあることはあまり知られていないと思います。日本の国石は水晶で、かつて良質の水晶を産したことからだそうです。

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水晶(石英)の結晶構造

 国蝶はオオムラサキで、これは1957年に日本昆虫学会の総会で決められたのだそうです。何で蝶ばっかり、国蟻や国甲虫もあってもいいじゃないかという気もしますが、どうやらないようです。もし「国虫」を決めるなら、日本の別名を「秋津島」というくらいなので、トンボにすべきではないかと個人的には思います。

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国蝶・オオムラサキのオス(Wikipediaより)

 2006年には「国菌」も決まりました。日本醸造学会の大会において、麹菌ことアスペルギルス・オリゼーが、国菌に認定されたのです。マンガ「もやしもん」でも主役(?)を張ったこの菌、味噌・醤油・日本酒など、日本の食文化を支えてきた存在ですから、これは文句なしでしょう。

 さてそうなると、化学の世界でも何かこういうものを決めてもいいのでは、という気がしてきます。「国元素」は、先日命名権獲得となった113番元素で決まりでしょうが、たとえば「国化合物」となると何がよいか。発見の経緯で日本に縁が深く、できれば日本の歴史や文化に関連しているものがよさそうです。

 先日このことを少しツイートしたところ、エフェドリンとかアドレナリンといったご意見をいただきました。いずれも日本で発見された化合物であり、資格はありかなと思います。そういう意味では、カーボンナノチューブという選択肢もありますね(化合物ではなく単体ですが)。

 まあしかしいろいろ考えていくと、やはりグルタミン酸ナトリウムがふさわしいかなという気がします。旨味成分であることを発見したのは日本の池田菊苗ですし、日本食に欠かせぬ味わいでもあります。生理学など各分野で重要な化合物でもありますし、一番納得がいくのではと思えます。

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グルタミン酸ナトリウム

 といろいろ考えてみましたが、この他タンパク質や錯体など、各ジャンルで日本を代表する物質を考えてみるのも一興ではないかなどと思う次第です。みなさまのご意見はいかがでしょうか。

自著を振り返ってみる(1)

 さて昨年は2冊の本を出版し、筆者の単著はこれで累計10冊の大台に乗りました。いつの間にかずいぶん書いてきたものだなと思います。ということでこの機会に、ここまで出してきた本を、裏話など交えつつ振り返ってみようかと思います。

 ・有機化学美術館へようこそ ‾分子の世界の造形とドラマ
 2007年5月刊の、記念すべき処女作。旧サイトを元に加筆修正したものです。それまでにも2度ほど「サイトを書籍化しませんか」という声はかけていただいていたのですが、三度目の正直で日の目を見ました。

 今見ると書き手として未熟だなと思うところも多々ありますが、カラーページも充実しており、美術館の名に恥じない出来と思います。これだけ面白分子を大々的に扱った本はそれまでなかったし、その後も類書は出ていません。出来上がった本を手にとった時、書店に並んでいるのを見た時の感動は、生涯忘れることはないでしょう。

 まだ会社に務めていたころに出した本なので、手続きやら認可やらいろいろ面倒だったのも、今となってはよい思い出です。3万部くらい売れたら会社を辞めてライターになってやろうと思っていたのですが、残念ながら1万部少々でした。まあ結局、この本が出た半年後に退職してしまったのですが(笑)。

勤めが終わってから、毎日遅くまで構造式をしこしこと描いたものでした。

 ・化学物質はなぜ嫌われるのか ‾「化学物質」のニュースを読み解く
 2008年6月刊行。1冊めと同じ、技術評論社の「知りたい!サイエンス」レーベルからです。専業ライターになって初めての本で、それだけに気合も入りました。各種の化学物質を取り上げ、その危険性について世間での誤解を解くコンセプトで書いています。こういう本はミスがあった場合を考えると非常に恐いのですが、科学的に見てここまでは大丈夫と見たら、思い切って踏み込むことにしたのがよかったと思います。

 この本は、タイトルをどうするかで出版社側とずいぶんもめた記憶があります。実はタイトルというものは書き手が自由に決められるものではなく、営業政策やらいろいろにらみ合わせて、編集会議で決まります(もちろん意見は聞かれますが)。書き手にとって著書は可愛いわが子同然なので、納得の行く題名をつけたいところなのですが、この本に関してはこれがベストであったか、今もわかりません。

 売り上げは前作とあまり変わりありませんでしたが、これをきっかけにあちこち講演などにも呼んでいただき、多少なりと化学物質に対する世間の理解に貢献できたかなと思っています。また、評論家の宮崎哲弥氏に週刊文春のコラムで「掛け値なしの名著である!」と激賞いただき、ライターとして非常に自信になりました。これが次の仕事につながり、飛躍のきっかけともなったので、思い出深い一冊です。この週刊文春は、今も大事に保管してあります。

フリーとなり、気楽ながらも迫り来る貧困の恐怖に怯えながら書いていました。

 ・医薬品クライシス―78兆円市場の激震 (新潮新書)
 2010年1月刊。東京大学で働いているときに出した本で、初めての完全書き下ろしでした。古巣の医薬品業界について書いた本で、大型医薬品の特許が一斉に切れる「2010年問題」をテーマとしています。医薬がなぜ効くか、創薬の過程、副作用の問題、医薬品業界の現状分析、なぜ薬が生まれなくなったかなど、ちょっと詰め込み過ぎたかというくらいに書きました。

 ちょうど経済誌などで2010年問題が取り沙汰されていた時期でもあり、3万部を超える売れ行きとなりました。またこれで科学ジャーナリスト賞をいただき、大学に拾っていただいた先生に多少なりと恩返しをすることができたのも嬉しかったです。講演など、いろいろな仕事を呼んできてくれた孝行息子でもあります。まあNHKの生番組にまで引っぱり出されるはめとなり、青い顔でもごもごしゃべって多方面からツッコミをいただいたような、若干苦い記憶もあるにはありますが。


ライターとして何とかやっていけるのではと、希望を持つことができた一冊。

 ・創薬科学入門—薬はどのようにつくられる?
 2011年11月刊。フリーのライターになってからすぐ、オーム社の「MedicalBio」誌に連載の枠をいただき、創薬に関する記事を書きました。本書はこれをまとめたものです。

 製薬企業のプロのメディシナルケミストが読む教科書というよりも、学生さんや薬理担当者などが読む感じをイメージして書いています。あまり堅苦しくなく、読み物としての要素も加えました。またFBDDや抗体技術など、(当時の)最新技術についてもできる限り盛り込んでいます。

 本書は、アメリカでベンチャーを立ち上げて「レスキュラ」「アミティザ」という2つの新薬を送り出した、久能祐子先生に監修をいただき、その創薬過程について最終章で書いていただいております。この章だけでも、本書を手にとっていただく価値があると思います。


連載媒体となった「MedicalBio」誌は、その後休刊となっています。

 ・「ゼロリスク社会」の罠 〜「怖い」が判断を狂わせる
 2012年9月刊。化学物質の話をメインに、少し広くリスク論について扱っています。人がリスクを読み間違える心理、「天然=安全安心」という思い込み、トランス脂肪酸やメタミドホス、ホメオパシー療法の話などを通じ、「ゼロリスク信仰」の危うさについてできる限りわかりやすく書いてみました。

 最終章では、放射性物質についてと、そのリスクについての解説も行なっています。あの時期にこのテーマの本を執筆するとなると、やはり触れないわけに行かないかということで、ずいぶん思い悩みながら書いた記憶があります。予想通り多方面から多くの意見をいただき、反省することも多々ありました。しかしその後長く読み継いでいただいているようであり、書いた意義はそれなりにあったのではと思うことにしています。


大学の仕事が忙しかったこともあり、ずいぶん難産でした。

 ということで残り5冊はまた次回。

実は行く反応、行かない反応

 有機合成の世界では、論文を見て反応を行なってみても、書いてある通りの収率・選択性が出ないことはさほど珍しくありません。論文を書いている方は、何度も同じ反応を繰り返し行なって慣れているからということもあるのでしょうが、やっぱり何度追試してもうまく行かず、悔しい思いをすることも多々あります。

 というわけで、あの国の論文は信用するなとか、あの研究室から出てくる数字は怪しい、などという評判は誰しも聞いたことがあるでしょう。口の悪い人など「○○(教授の名)係数は0.7くらいだ」なんてことを言ったりもします。○○先生の論文に収率80%と書いてあったら、そこに0.7をかけて実際には5割ちょっとくらいと思っておけば間違いない、という意味だそうです。

 とはいえ、こうした再現性の低い論文が表立って取り沙汰されることはほとんどありません。たいていは「うちではうまく行かなかった」でひっそりと終わってしまいます。ところが最近、「この論文に書いてある通りに実験しても、書いてある通りの選択性が出ないぞ!」という論文が出版され、ちょっと話題になっています。論文の主は、イリノイ大学の大御所、Scott Denmark教授です。

 ことの起こりは、2003年にPatrick Henryらが、Organic Letters誌に報告した論文に遡ります。オレフィンに対して塩素あるいは臭素を付加させ、1,2-ジハロアルカンにする反応は、教科書には必ず載っている基本的かつ有用な反応です。Henryらは、不斉パラジウム錯体を触媒として用いることで、この付加反応を高い立体選択性で行えると報告したのです。

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 反応はWacker酸化に近い条件で行なわれ、選択性は95%ee(97.5:2.5)にも達する、としています。本当であるなら、なかなか利用範囲の広そうな、よい反応だと思えます。ところがDenmarkらが、この反応条件を可能な限り忠実に再現して実験を行なってみても、化学収率はほぼ再現するものの、どの基質でもラセミ体のみが得られ、立体選択性は全く見られなかったという結果になりました。アルゴン雰囲気下で反応を行なったり、反応を途中で止めて確認したりなどしましたが、結果は変わりなかったということです。

 Henryらは、キラルシフト試薬を用いたNMRで光学収率を決めていますが、これらのデータの詳細がHenryらの論文には記載されていないため、事情ははっきりしないようです。責任著者でもあるHenry教授はすでに2008年に世を去っているそうで、過去のデータも出てこないかもしれません。

 論文に書いてあることが再現しなくても、実験者の腕の問題として片付けられてしまうことも多いですし、「再現しない」という完全な証明は(某細胞のケースに見られる通り)、実際上困難です。その意味でDenmarkらがこうした論文を書くのは、なかなか勇気のいることであっただろうと思います。


 これと逆に、「進行しない」とされた反応が、実は間違いなく進行するものであったとわかったケースもありました。1960年、Wittig反応で有名なG. Wittigは、V. Franzenとの共著で、新しいシクロプロパン化反応を報告しました。臭化テトラメチルアンモニウムにフェニルリチウムを作用させ、オレフィンと反応させるというものでした。

Wittig-Franzen

 しかし4年後の1964年、Wittigはこの報告を撤回します。別の教え子にこの反応を試させたところ、全く再現しなかったためでした。Franzenはこのためアカデミックの道に進む夢を絶たれ、企業へと活躍の場を移しています。

 ところが、半世紀以上を過ぎた今年になり、Peter Chenらがこれに類似した反応を報告したのです。Franzenとの主な差は、ニッケル錯体(PPh32NiBr2を加えていることでした。つまりFranzenの実験では、どこからか不純物として入り込んだニッケルが触媒として働き、シクロプロパン化が進んだ可能性が高いと考えられます。

 このシクロプロパン化はなかなか気難しい反応で、触媒の量が0.1〜1mol%だとうまく行きますが、5mol%まで増やすと副反応が優先してしまい、目的物が得られません。こうした性質のため、いろいろ試しても再現が難しかった可能性があります。

 Franzen氏は70代半ばころだと思われますが、もしこの論文を読んだとしたら、いったいどんな思いであったでしょうか。再現性は科学の基本ではありますが、なかなか難しいことでもあります。

マラリア治療薬・アーテミシニン

 今年もノーベル賞の授賞式が近づいてきました。本ブログでも大村智先生の業績については紹介しましたし、受賞の意義について別のところでも解説記事など書いております(なおこちらは、「世界史を変えた薬」の電子書籍版にも収録されています)。

 ですが、今回のもうひとつの授賞対象となった医薬・アーテミシニンについては、これまで触れてきませんでした。いろいろと多忙で、ずっと後回しになってしまっていましたが、これもまた「世界史を変えた薬」の一つでもありますので、ここで解説してみます。

 マラリアは古くから世界最大の感染症のひとつであり、毎年2億人にも及ぶ患者が発生します。病原体のマラリア原虫を持った蚊に刺されることで感染し、間欠的な高熱、腎障害などの症状が出ますが、特に脳症を発すると死亡率が高いため恐れられています。

 アーテミシニンは1972年、中国の屠呦呦らのチームによって、クソニンジンの葉から抽出されました。このクソニンジンという名前は、特異な臭気を持っていること、人参に似た葉を持つことから命名されたそうです。実際には人参とは違ってヨモギ属の植物であり、日本国内でもちょくちょく生えているのだそうです。

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クソニンジン(Wikipediaより)

 クソニンジンは2000年以上も前から、解熱作用を持つ漢方薬として利用されてきました。ここから発見された有効成分がアーテミシニンで、中国語では「青蒿素」(チンハオス)と呼ばれます。論文などでは、「Qinghaosu」の名も併記されていることも少なくありません。

 マラリアの治療薬としては、キニーネ及びその誘導体が古くから用いられてきましたが、これらの薬が効かないマラリア原虫が蔓延し、問題となっています。アーテミシニンはこれら耐性マラリア原虫にも有効な化合物として、注目を集めました。

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アーテミシニン(artemisinin)

 ただしアーテミシニン自身は水にも油にも溶けにくく、薬とするにはかなり扱いにくい化合物です。そこで構造を一部変換し、溶解性を上げた形で用いられます。下図は、コハク酸のエステルとすることで水溶性を上げたアーテスネートと呼ばれる化合物です。

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アーテスネート。緑色がコハク酸部分。

 これらアーテミシニン系の医薬の登場は、マラリア治療を大きく変えています。マラリアによる死亡率は、2000年から2014年の間に42%(アフリカの子供では54%)も低下していますが、ここにアーテミシニン系薬剤は大きく貢献しています。と聞けば、ノーベル賞に値する医薬であることは、誰もが認めるところでしょう。

 しかしこのアーテミシニンがどのようにマラリア原虫を殺すのか、いまだ完全な解明はなされていません。ただ有機化学の心得がある人がアーテミシニンの構造を見れば、誰しも「この部分が何か薬理作用に関わっているのだろうな」と思い至ることでしょう。上図右側の酸素(赤色)が2つ連なっている部分がそれで、専門用語では「エンドペルオキシド」と呼ばれます。天然の化合物で、このような-O-O-結合を持つものは相当に珍しい部類に入ります。実際、アーテミシニンのエンドペルオキシド部分を還元すると、活性は失われます。

 ひとつには、赤血球のヘムの鉄が、このエンドペルオキシド部分と反応して、極めて反応性の高いラジカルを発生させ、これが原虫を殺すという説があります。その他、鉄は関わっていないなどの説もありますが、いずれにしろこのエンドペルオキシド部分が鍵を握っているのは間違いありません。

 というわけで、このエンドペルオキシド部分を持った人工化合物が試され、いくつかは成果を上げつつあります。たとえば下図に示すアルテロランは、インドで第形衫彎音邯海進められているということです。
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アルテロラン(arterolane)


 かくして、ひとつの発見を糸口に、多くの医薬が編み出され、マラリアの治療を大きく変えつつあります。膨大な患者が発生していながら、治療薬開発に十分リソースが振り向けられていないこの病気ですが、ノーベル賞をひとつの起爆剤として、さらなる進歩を期待したいところです。

血のにおいの化合物

 またずいぶんと更新の間が空いてしまいました。先月の「世界史を変えた薬」に続き、今月は「国道者」、さらに来年1月にも新刊を控えていて、なかなかてんやわんやな状態です。

 というわけで、今回は身近なところからひとネタ。口の中を切ったり、鼻血が出たりした時、我々は「血のにおい」を感じ取ります。金属的なにおいであるので、「金気臭い」などと表現されたりすることもあります。これはいったい何のにおいなのでしょうか?

 血液は鉄イオンを含んでいますので、そのにおいかと思ってしまいますが、実際には鉄が直接臭っているわけではないそうです。血中のヘモグロビンが、皮脂などの脂肪酸と反応し、分解してできる成分の臭気であることがわかっています。たとえば下に示す1-オクテン-3-オン、トランス-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールなどが主成分です。

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(上)1-オクテン-3-オン(下)トランス-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナール

 と、この話、当ブログの昔からの読者ならば、記憶に引っかかっている話があるかもしれません。「鉄のにおいの正体」というタイトルで、鉄さびが手についた時のにおいについて書きましたが、それと同じような話だからです。1-オクテン-3-オンも、「鉄のにおい」としてその時に紹介しています。

 ちなみにこの1-オクテン-3-オンは、金属臭の他「キノコのにおい」とも表現されます。実際、この化合物のケトンがアルコールに還元された形の1-オクテン-3-オールはマツタケの香り成分として知られ、「マツタケオール」の別名があります。言われてみれば、多少血に近いにおいかもしれません。

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マツタケオール

 もうひとつの「血のにおい」の成分であるトランス-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールは、極めて感知されやすいにおい成分であり、空気中に1リットルあたり1.5ピコグラム(1兆分の1.5グラム)含まれていれば、においを感じ取れるのだそうです。言うまでもなく、血のにおいは獲物や敵の居場所を察知するために重要であり、このためこの化合物を鋭敏に感知するようになったと思われます。

 しかしこの化合物、有機化学を学んだ人ならおわかりの通り、かなり不安定そうであり、水分や人体の持ついろいろな物質と反応して、すぐ別のものに変化しそうな構造です。我々が鉄や血のにおいと思っているのはこの化合物ということですが、実際にはまた別の化合物に変化し、それを感知している可能性もありそうです。してみると、「におい」とは一体何であるのか、ちょっと哲学的な気分にさせられる話ではあります。

新刊「世界史を変えた薬」

 さて本日あたりから、筆者の9冊目となる新刊「世界史を変えた薬」が書店に並び始めると思います。筆者の手元には、すでに見本が届いております。

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赤白のカプセルが目印。

 目次は以下のようになっております。
第1章 医薬のあけぼの
第2章 ビタミンC 海の男たちが恐れた謎の病気
第3章 キニーネ 名君を救った特効薬
第4章 モルヒネ 天国と地獄をもたらす物質
第5章 麻酔薬 痛みとの果てしなき闘い
第6章 消毒薬 センメルワイスとリスターの物語
第7章 サルバルサン 不治の性病「梅毒」の救世主
第8章 サルファ剤 道を切り拓いた「赤い奇跡」
第9章 ペニシリン 世界史を変えた「ありふれた薬」
第10章 アスピリン 三つの世紀に君臨した医薬の王者
第11章 エイズ治療薬 日本人が初めて創った抗HIV薬

という感じです。ウェブ連載したものに加筆修正してまとめたものですが、第11章は完全書き下ろしとなっております。

医薬という存在を通じて歴史を眺めてみようという試みであり、まあいってみれば、「炭素文明論 「元素の王者」が歴史を動かす」の医薬品バージョンということになります。とはいえ医薬というもの、直接に人間の生命に関わるものですので、より生々しく歴史にも関与してきています。

 改めて、薬というものは人類の思いが最も濃く詰まった化合物であると思います。病苦から逃れるために、人類はこんなことまでやっていたのか、と思うことが書いていてたくさんありました。というわけで、明日以降書店に行きましたら、ぜひ講談社現代新書のコーナーをチェックしてやっていただければ幸いです。

大村智博士にノーベル生理学・医学賞

 さて今月16日、筆者の新刊「世界史を変えた薬 (講談社現代新書)」が発売になります。タイトル通り、モルヒネ、キニーネ、麻酔薬などなど、世界の歴史と医薬の関わりについて書いた本です。興味のある方はご覧いただければ幸いです。

 さてこの本の最終章で、医薬の開発には長らくノーベル賞が出ていないという話を書きました。1950年代くらいまでは、いくつもの医薬がノーベル賞の対象になっていますが、その後は1988年のBlack, Elion, Hitchingsらが唯一の例となっている――という内容です。

 と、その本が出る直前に、久方ぶりの医薬品開発に対する授賞が決まりました。大村智、ウィリアム・C・キャンベル、屠呦呦の3氏に、2015年のノーベル生理学・医学賞が贈られたのです。特に大村先生の授賞は、医薬品研究者出身、かつ東京理科大の後輩に当たる筆者には、大変に嬉しいことです。

 大村博士は山梨大学を卒業後、いったん高校の教員になるものの理科大の大学院に入り直し、山梨大学の助手を務めた後に北里大学へ移るなど、その経歴は異色であり、いわゆるエリートコースを歩んだわけではありません。しかし、ここからが大村博士の真骨頂でした。

 土の中には、1グラムあたり1億ともいわれる細菌が住んでおり、この中には有用な化合物を生産しているものがいます。大村博士は、こうした細菌を培養し、医薬になるものがないか探すという仕事に取り組みます。土は場所によって細かく性質が違い、住んでいる菌も全く異なります。このため、各地の土を集めてくることも重要な仕事です(筆者も会社員時代、ドライブついでに山の中の土を採集してきたものです)。

 この時、どのような作用の化合物を狙うか、またその化合物の作用の有無をどう判定するかは、大変難しい技術になります。大村博士は数々の手法を工夫し、新規な作用を持った化合物を数々発見しました。たとえば下の化合物スタウロスポリンは、プロテインキナーゼと呼ばれる酵素の作用を妨げる作用を持つ、非常に有名な化合物です。これをツールとして用いることで、生化学に多くの発展がもたらされました。

staurosporin
スタウロスポリン

 また、不要になったタンパク質を分解するシステムである、プロテアソームの作用を阻害するラクタシスチンも、大村らが発見したものです。

lactacystin
ラクタシスチン

 ラクタシスチンは、ハーバード大のE. J. Coreyらによって全合成が達成され、その分解によって生ずる下のような4員環ラクトンが活性本体であることが確認されています。Coreyは大村博士に敬意を評し、この化合物に「オオムラライド」の名を与えています。

omuralide
オオムラライド

 大村博士の発見した化合物のうち、25種ほどが医薬・研究用試薬として用いられ、人類の幸福と科学の発展を助けています。この素晴らしい実績から、大村博士には「微生物代謝の王」との称号も奉られました。また、生産菌の遺伝子操作によって、有用な化合物を量産させたり、不要な化合物の生産を抑えたりといった技術も編み出しています。

 中でも今回授賞の対象となったのは、イベルメクチンやアベルメクチン(エバーメクチン)など、抗寄生虫薬の発見でした。

ivermectin
イベルメクチンB1a

 これらの化合物は、川奈のゴルフ場の土から発見されたといいます。イベルメクチンは、アフリカに蔓延するオンコセルカ症やミクロフィラリアといった寄生虫病に著効を示します。しかも極めて安全性が高く、一度経口投与すれば1年は有効という、実に驚くべき効能を持ちます。十分に医療環境の整っていないアフリカ諸国でも安心して使える、素晴らしい薬剤です。

 この薬で2億人が病から解放され、年間4万人が失明を免れており、病気の撲滅も間近といいますから、その人類に対する貢献度は絶大です。ノーベル賞の対象となるのも、全く当然といえるでしょう。


 そして大村博士の凄いところは、研究者として大成功しているのみならず、人生の大成功者でもある点です。製薬企業であるメルク社などと組んで、医薬となる化合物を発見するたびにロイヤリティを獲得、その総額は250億円にも上っています。この潤沢な資金で研究を推進した他、病院や専門学校などを建設、北里研究所の運営にも関わっています。美術にも造詣が深く、個人としのコレクションを収めた韮崎大村美術館まで建てているということですから、実に見事な金の稼ぎ方、使い方という他ありません。

 人類に、科学に、教育に、地域の発展に、素晴らしい貢献を果たした大村博士が、最高の栄誉に輝いたことは、実に喜ばしいことと思います。その歩んだ道は、多くの研究者や関係者に、重要な示唆を与えてくれるのではないでしょうか。

参考文献 「大村智 - 2億人を病魔から守った化学者」 馬場錬成 著 中央公論新社

ノーベル化学賞予想

 さて今年もノーベル賞の季節がやってまいりました。5日の生理学・医学賞を皮切りに、6日物理学賞、7日化学賞が順次発表される予定です。

 筆者の専門分野である有機化学方面には、しばらくノーベル賞が出ていませんが、今年辺りそろそろという期待がかかっています。というのは、過去の受賞を見てみると、下のようにだいたい5年周期で有機分野が受賞しているので、今年あたりそろそろと思えるわけです(以下敬称略)。 
 1990 E. J. Corey 有機合成理論および方法論の開発
 1994 G. A. Olah カルボカチオン化学への貢献
 2001 Sharpless, 野依良治, Knowles 不斉触媒の開発
 2005 Chauvin, Grubbs, Schrock オレフィンメタセシスの開発
 2010 Heck, 根岸英一, 鈴木章 クロスカップリング反応の開発
 
 では有機化学の中だと、どの分野に賞が出るか?筆者の勝手な予想を書いてみます。

 ・合成反応開発
 最近3回はこの分野に出ているので、ある意味本命といえます。近年の大きな潮流を作り出している有機触媒でB. ListやD. W. C. MacMillan、C-H結合活性化でR. G. Bergmannや村井真二などの各氏が候補に挙がりそうです。ただし、最近の化学賞は社会的応用が重視される傾向にあるので、このへんのジャンルはまだちょっと受賞には早いかもしれません。

 ちょっとニュアンスは異なりますが、クリックケミストリーは化学の広い分野に影響を与えており、十分に受賞資格があると思います。受賞すれば2度めとなるK. B. Sharplessの他、V. V. Fokin, C. R. Bertozziなどが候補に挙がるでしょうか。

 安定カルベンの化学もまた多くのジャンルにインパクトを与えており、A. J. Arduengo IIIを個人的には推したいところです。ただし、このジャンルの先鞭をつけたH. W. Wanzlickはすでに亡くなっており、これがどう影響するか。

 ・天然物全合成
 K. C. Nicolaou, S. J. Danishefskyらをはじめビッグネームがそろっていますが、最近の流れを見ているともはやこの分野には厳しいでしょうか。個人的にはなくなってほしくない分野ですが。

 ・有機電子材料
 有機半導体、有機磁性体、有機ELなど発展の著しいジャンルで、そろそろこの方面に出る可能性もあろうかと思います。かといって誰が受賞するかとなるとちょっと難しいのですが、有機ELの開祖であるC. W. Tangが有力だとは思います。

 ・超分子化学
 いわゆる自己組織化は、科学の広い分野に通用する概念です。J. F. Stoddart, J. Rebek Jr., G. M. Whitesidesといったあたりがトップランナーですが、結晶スポンジ法というインパクトの大きな応用を示した藤田誠に一票を投じたいところです。

 ・日本人の受賞は?
 PCP/MOFも近年大注目のジャンルで、北川進らが候補に挙げられますが、もう少し応用が出てきてからかもしれません。また、物理学賞の有力候補によく挙がる細野秀雄・十倉好紀なども、化学賞に入ってくる可能性もありそうです。ナノカーボン分野の飯島澄男、中村栄一といったところも、いつでも可能性ありでしょう。

 このあたりの先生方に獲っていただくと、筆者にもいろいろ仕事が回ってきそうなのですが(笑)、果たしてどうなりますか。当日を楽しみに待ちたいと思います。
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