有機化学美術館・分館

HP有機化学美術館のブログ版。タイムリーな話題,短いテーマをこちらで取り上げます。

2007年11月

サイエンスアゴラ無事終了

25日、お台場の「日本科学未来館」にて開催されたサイエンスアゴラ2007は無事終了いたしました。今回は「分子のかたち、分子の機能」と銘打って折り紙分子モデルとパワーポイントの資料を交えて一席ぶってまいりました。最初のうちちょっと緊張して早口になってしまったり、時間配分を間違って長くなってしまったりと、やはり慣れないとなかなか難しいものです。

折り紙ダイヤ

とはいえ観客席はおかげさまで大入り満員の盛況、持ち込んだいくつかの折り紙モデルも幸い好評であったようです。写真はダイヤモンド結晶構造モデルです。

本間先生のサイトにも参加記録がアップされておりますので、ご覧下さい。筆者も何やらダイヤモンド片手に写り込んでおります。

終了後、観覧者の方々とのお話も盛り上がり、大変楽しいイベントでした。また他のブースも様々に工夫がなされ、勉強になるお話などもありました。今後こうしたイベント、サイエンスカフェなどにも積極的に(観客としても演者としても)参加してみたいなと思った次第です。

なおこちらの写真は長尾先生の造られた、レーザーマーキング法によるC60クリスタルです。特別価格3000円にて入手いたしました。
クリスタルフラーレン

実に美しいもので、他にも多くの種類が展示されていました(上記参加記録のページにも画像あり)。オーダーメイドで作ると高価になりますが、プロジェクト完成の記念品などに最適ではないでしょうか?

ということで参加者のみなさま、どうもありがとうございました。よい機会を与えていただき、全体を取り仕切っていただいた本間先生に深く感謝いたします。

サイエンスアゴラ2007

以前より何度かお知らせしております「サイエンスアゴラ2007」、いよいよ今週末となりました。

生活環境化学の部屋」の本間善夫先生にお招きいただき、「分子が見える!分子で魅せる!」と題して先生方に混じって何やら一席ぶつことになりました。当日は「有機化学美術館」にあるような変わった分子の話をさらさらと語る予定でおります。

会場はお台場の日本科学未来館、25日(日)の午前10時から登場の予定です。もちろん我々以外にも多くのグループからの講演がありますし、科学未来館自体の常設展示も面白いので来て損はないかと思います。

ご来場の方は、席が限られていますのでこちらから「分子が見える!分子で魅せる!」のところで参加登録をしていただけると確実です。3連休最後の日、行楽地もいいですが、お台場で科学の話を聞きながらお茶でも飲むというのも有意義な時間ではないかと思います。

ということで皆様ぜひよろしく。

においを感じる人、感じない人

 最近のNature誌に、「においの感じ方を変える遺伝子」の研究論文が掲載されていました(Nature 449, 468 (2007))。アンドロステノンという化合物は、体内で男性ホルモンであるテストステロンが代謝されてできる化合物で、汗などに含まれる体臭の原因物質のひとつです。ところがそのにおいは、人によって大きく感じられ方が違うことが知られていました。ある人にとっては汗や小便のようなすえた不快な臭気ですが、ある人には甘い花のような香り、ある人には森林のような爽やかな香りに感じられるというのです。

アンドロステノン


(アンドロステノンの構造)

 今回の研究は、「OR7D4」という遺伝子が一部変異することによって鼻の嗅覚受容体の構造が変化し、アンドロステノンに対する感受性が変わることが示された、というものです。単一遺伝子の変異が知覚の個人差に結びつくことが示されたのは、これが初めてであるそうです。

 しかし人によってにおいの感じ方が違うのは、恐らくアンドロステノンに限った話ではなさそうです。我々が実験で使う試薬にも、感じ方に個人差があるものが多いようであるからです。

 例えばアルキルスズの誘導体はカンに障るような非常にいやな臭気がするのですが、筆者の同室で実験していた上司は全くこのにおいを感じないと言っていました。有機スズ化合物には発ガン性があるから、危険があってもわからんのは困るなあ、とぼやきながらStilleカップリングをしていたことを思い出します。

 そういう筆者は、よく使われる溶媒であるアセトニトリルのにおいが全くわかりません。みなの言うことによれば何かにおいがするらしいのですが、近くで大量に使っていても全く感知できません。またn-ブタノールは筆者は別にいやなにおいと思わないのですが、使っているとみな鼻を覆って逃げ出します。この化合物はバイオエタノールに続く再生可能な燃料として期待されているのですが、実際の使用には案外この臭気がネックになるかもしれません。

アセトニトリル&ブタノール
(アセトニトリル(左)とn-ブタノール(右))

 嗅覚というのは退化しかかった感覚であるとはよくいわれることで、多少変異が起きても淘汰されることなく子孫に受け継がれるため、個人差が大きくなっているのかもしれません。実際嗅覚の強さ、鋭さは人によってだいぶ差があるようで、筆者の先輩にはにおいだけで「枝分かれのあるカルボン酸」「芳香族アルデヒド」とある程度構造を言い当てられる人がいました。R体とS体でにおいが違う化合物を合成していたときには、においだけで「70%eeくらいかなあ」と光学純度まで割り出していた(!)ほどなので、ここまで行くともはや超能力に近いと思ったものです。まああまりに鋭い鼻なので、においのきつい試薬を使うときはつらかったらしく、いいことばかりでもなさそうではありましたが。

 ちなみにこのNature論文で取り上げられたアンドロステノンはほ乳類で最初に発見されたフェロモンでもあり、オスブタの発するアンドロステノンのにおいを嗅ぐとメスブタは交尾の姿勢をとるのだそうです。そのようなことから、この化合物はヒトのフェロモンでもあるのではないかという説を唱える研究者もいます。こうした背景があるだけに、人によってにおいが違って感じられるというのはなかなか興味深いところです。

 というわけでこの化合物を合成して香水代わりにつけておけば、女性にモテるようになる――のならば筆者も自分の研究など放り出してやってみるところですが、どうやら今のところアンドロステノンがヒトのフェロモンとして働くという証拠は乏しいようです。それどころか女性にはこの化合物を不快な臭気と感じる人が多いようですので、単なる体臭のきついオヤジと思われてしまう危険なしとしません。というわけでヒトフェロモン実験にチャレンジしてみたい方は、自己責任でお願いしたいと思う次第です。



実験中の事故




 最近いくつかの大学で爆発事故が相次いだようです。実験にある程度事故はつきものではあり、筆者も小さな火を出してしまった経験などはありますが、幸い大きな事故の現場に出会ったことは今のところ一度もありません。しかし長年のうちには事故は避けがたいもので、例えば著名な化学者のBarry Sharpless教授なども爆発事故によって片目の視力を失っているのだそうです。

 大スケール反応、酸化反応、ニトロ・アジド・ジアゾ化合物を用いる反応など、爆発の危険の大きい実験ではありますが、ある程度有機実験では避けて通れないものではあります。こういう実験の際には気をつけて臨みはしますが、中には思わぬ化合物の組み合わせが大きな事故を招くケースがあります。

 「有機化学実験の事故・危険―事例に学ぶ身の守り方」(鈴木仁美著、丸善刊)は著者が40年にわたって化学論文から拾い集めた事故の実例を丹念に集成したもので、爆発事故だけでなく、発火・アレルギー・発症など多くの障害例が集められていて大変参考になります。中には「トリエチルアミンを含むクロロホルムを、アセトンの入った廃液タンクに捨てたら爆発が起こった」「DMFと塩化チオニルからVilsmeyer試薬を発生させる際、強力な発ガン物質である塩化ジメチルカルバモイル(Me2NCOCl)が生成する」など、思わぬものが思わぬ危険性を持っている実例が多数出てきて驚かされます。

 340ページを超えるかなり分厚い本ですが、このページの数だけ実験中の犠牲者が出ていることを思うと、ふだん何気なく行っている実験が恐ろしくなってきます。どんな素晴らしい成果を挙げようと、ケガをしたり病気になったりしたのでは何にもなりません。十分な知識を持った上、気を引き締めて実験に臨みたいものです。



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