fidecene



 有機化学と音楽というのはこれ以上ないくらい遠い組み合わせのように見えますが、こじつけて探してみると全く関わりがないわけでもありません。というわけで今回は音楽に関わる話題を適当に集めてみました。

 音楽を趣味とする化学者はたくさんいますが、両方の分野で大きな名を残した人物といえばアレクサンドル・ボロディン(1833〜87)の名が真っ先に挙がるところでしょう。彼は歌劇「イーゴリ公」などを作曲し、中でも「韃靼人の踊り」は誰でも聞けばそれとわかる非常に有名な曲です。しかし彼の本職はあくまで医者・化学者であり、有機化学の最も基本的な反応であるアルドール反応を発見するという大きな功績を残しています。またカルボン酸の銀塩を臭素と処理することにより臭化アルキルを合成する「Borodin反応」をも発見し、化学史にその名を刻んでいます(ただしこの反応は、これを一般化した化学者の名を取ってHunsdiecker反応と呼ばれることが多いようです)。

 RCO2Ag + Br2 → RBr + CO2 + AgBr


 では化学を歌ったミュージシャンはいないのか。日本ではご存知の男性デュオ「CHEMISTRY」がいますが、インタビューで「ケミストリーというのは『化学反応』という意味です」と断言していたくらいで、彼らが特別に化学に詳しいというわけではなさそうです(笑)。まあケミストリーという言葉を世間に広めてくれただけでも、ずいぶん大きな功績とはいえそうですが。

 有機化学というところに絞って、試しにiTunesミュージックストアを検索してみたところ、なんと1件だけヒットしてきました。ブライアン・ウェストホフ・カルテットというジャズバンドがその名もズバリ「Organic chemistry」という曲と、同名のアルバムをリリースしています。彼らによると曲名の由来は「全てが一緒に自然に呼吸している、理想的な音楽の状態を表している」そうで、まあ何のこっちゃという感じではあります。曲の方は試しに聴いてみましたが、落ち着いた大人のジャズといった風情でなかなか悪くありません。興味のある方はダウンロード(\150)して、実験のBGMにでもしてみてはいかがでしょうか。

 ビデオは何かないかとYOUTUBEを探してみたら、変なものが見つかってきました。「Resistant to Base」(注:音が出ます)というタイトルで、どうやら昔の曲のパロディであるようです。歌詞の内容は英語にうとい筆者にはあまりよく聞き取れませんが、KOHとかLDAとか、かなりディープに化学を語った曲のようです。一体どういういきさつでできたビデオなのか謎ですが、まあひまつぶしにでもどうぞということで。

 ちなみにトップの画像は何なのかというと、Prinzbachらによって合成されたフィデセンという化合物です。ラテン語でfidesという名の弦楽器に似ているということから命名されたそうで、筆者の知る限り唯一の楽器に由来した命名です。ネックの部分を長くすれば「ギターレン」(?)にもなりそうで、性質にも興味が持たれますが、合成にチャレンジしてみる方はいませんでしょうか?(笑)