天然物の中でも難物中の難物として知られていた、アザジラクチン(azadirachtin)の全合成がついに完成したというニュースが入りました。偉業を達成したのはイギリスを代表する有機化学者Steven V. Ley教授で、Angewante Chemie誌のVIP(very important paper)に選ばれています。

アザジラクチン
 詳しくリファレンスを調べたわけではありませんが、Ley教授がアザジラクチンに関する最初の論文を発表したのが1985年のことのようですから、なんと22年がかりの仕事であったということになります。


 アザジラクチンはニームの木(マホガニーなどの仲間)から得られ、昆虫がこれを食べると食欲の減退・変態の抑制などを起こすため、天然農薬として注目を受けています。しかし図に示す通りアザジラクチンは極めて高密度に官能基化されており、16カ所もの連続した不斉中心(うち7つは四置換炭素)を持ちます。このためほとんどの化合物が合成されてしまった現代にあっても、アザジラクチンは難攻不落の城塞として君臨し続けてきました。

 見せ場はいくつもありますが、やはりハイライトとなるのは左右の4環性ユニットをつなぎ合わせる過程かと思います。こんな手段をどこから引っ張り出したんだろうかと思うような手法ですが、恐らくこれが唯一の突破口であったのでしょう。このあたりも含めどのような試行錯誤があったのか、Ley先生にはぜひフルペーパー、いや総説を執筆してほしいものと思います。

 それにしても22年がかりという凄まじい粘り強さには本当に恐れ入ります。ノーベル賞候補にも名が挙がるLey教授ですが、これこそがまさに氏のライフワークであったのでしょうか。

 ちなみに全合成開始から完成までの最長記録の保持者は恐らくGilbert Stork教授で、キニーネの合成にとりかかったのが1946年、完成を見たのが2001年ですから、その間なんと55年ということになります。まあさすがにこれは55年間ずっとキニーネの研究を続けていたわけではないのでしょうが、それにしても恐ろしい執念としかいいようがありません。キニーネとStork教授の関わりはいろいろと面白い話があるようですが、このあたりもいつか書いてみたいと思っています。