バレンタインが近いということで、今回はチョコレートの化学の話を。

バレンタインにチョコを贈る慣習があるのは日本だけかと思っていたらそうでもなく、欧米にも一応あるのだそうです。ただし1年間の消費の2割がこの期間に売れるというほど大々的にチョコが売れるのは、やはり日本だけのようです。といっても定着させるまでにはなかなか苦労があったようで、今から半世紀前の1958年、伊勢丹新宿本店でキャンペーンを行った際には売り上げはわずか170円であったという記録が残っているそうです。

それにしてもなぜチョコレートという食べ物が選ばれたのか――実はチョコに含まれる2種類の物質が、恋愛感情を引き起こすのにぴったりだからだという説があるそうです。ひとつがフェニルエチルアミン、もうひとつがテオブロミンという化合物です。

フェニルエチルアミンはチョコレートに重さにして0.1%程度含まれ、アミン類だけあって単独ではあまりいい匂いの物質ではありません。
フェネチルアミン
(フェニルエチルアミン。炭素をチョコレート色にしてみました。)



この骨格を持った分子は脳内で伝達物質として働くものが多くあります。例えば脳内麻薬と呼ばれるドーパミン、興奮作用を持つアドレナリンなどです。
ドーパミンアドレナリン

(ドーパミンとアドレナリン)


フェニルエチルアミンは脳内でドーパミンの放出を促し、このため血圧の上昇・覚醒感・安らかな気分などをもたらします。恋愛感情を持ったときこのドーパミンが脳内で作られているので、チョコを食べると恋をしているような気分になるというものです。そのせいか、かつてはココアが媚薬として用いられていたなどというお話もあるようです。

とはいえ、実際にはこの効果はさほどには期待できないようです。人間はモノアミン酸化酵素(MAO)という代謝酵素を持っており、これがフェニルエチルアミンを分解してしまうため脳にはほとんど届かないからです。なおこのMAOの活性が弱い体質の人がいるのですが、こういった人はチョコを食べると偏頭痛を起こしてしまうそうで、だとするとフェニルエチルアミンは恋愛感情を引き起こすどころか、全くの逆効果になってしまうのかもしれません。

もうひとつの成分テオブロミンの名称は、カカオの学名テオブロマ・カカオ(Theobroma cacao)から取られたもので、文字通りカカオに特有(に近い)化合物です。ちなみにこの「テオブロマ」というのはギリシャ語で「神々の食べ物」を意味するとのことで、なかなか霊験あらたかそうな名前ではあります。

テオブロミン
(テオブロミン(theobromine)。「ブロミン」がつくが、臭素は入っていない。)



テオブロミンはカフェインからメチル基をひとつ除いた構造で、作用の方もカフェインに似て血流増加などをもたらします。要するに心臓をドキドキさせるということで、これも擬似的に恋愛感覚を作り出す手助けをするという理屈です。まあコーヒーを飲むたびいちいち恋に落ちるわけでもないので、冷静に考えると効果のほどは「?」でしょうが。

まあしかしフェニルエチルアミン・テオブロミン成分を強化した「恋愛仕様・ケミカルバレンタインチョコ」などというものも商品としては面白いかもしれません。菓子メーカーの皆様、製品化の際には筆者が監修いたしますので、ぜひご連絡下さい(笑)。