cucurbiturilという化合物が注目を集めるようになっています。グリコウリルと呼ばれる単位が数個メチレン単位を介して環状につながったもので、全体として上下の底が抜けた樽状の構造をとります。カボチャの形にも似ているため、その学名cucurbitaceaeから名前を取ったことは以前にも紹介しました。

 この化合物は筒状構造の中に他の小分子を取り込むため、超分子化学分野でいう「ホスト分子」として働きます。特に筒の上下の入口には多数のカルボニル酸素が並んでいるため、正電荷を持った化合物、特に適当な長さのジアミンなどをよく取り込むことが知られています。図では上下のアンモニウム塩部分を、カルボニル酸素がしっかりと捕らえています。


cucurbituril



cucurbituril錯体








 最近大阪大学の井上佳久教授らのグループは、フェロセンの上下にアンモニウム塩(下図)を取りつけたような誘導体が、cucurbit[7]urilと非常に相性がよく、その結合定数が3×10^15Mにも達することを明らかにしました。


フェロセンジアミン










 この数値は、今まで最強の錯体として知られてきたアビジン-ビオチン系に匹敵し、史上最高クラスの数値であるそうです。アビジン-ビオチン系はこれまで、いわば分子同士の「接着剤」として、アフィニティクロマトグラフィーなど生化学研究の試薬として、またガン細胞に対するミサイル療法などに応用が試みられてきました。しかし精製にコストがかかること、アビジンを変性させない限り取り外しができないことなどが難点でした。


biotin

ビオチン





 今回のcucurbituril-フェロセン系は比較的安価に合成が可能であること、さらに鉄イオンの酸化-還元により、ホスト分子から自由に解離させることも可能だそうで、研究が進めばこれまでのアビジン-ビオチン系に取って代わるだけのポテンシャルを秘めているといえそうです(参考:
科学技術振興機構プレスリリース

それにしてもcucurbiturilの字訳はまだ定まらないようですね。上記プレスリリースでは「キューカービチュリル」を用いていますが、ちょっと検索をかけてみただけでも「ククルビットウリル」「ククルビチュリル」「ククルビツリル」「クカービットウリル」「キュカービチュリル」など実にいろいろな名前が使われているようです。以前同じホスト分子の「calixarene」の字訳も「カリクサレン」「カリックスアレン」「カリックスアレーン」といくつかが乱立しましたが、今は「カリックスアレーン」に落ち着いたようです(ネット上では「カリックスアレン」が最大勢力であるようです。筆者もそうしちゃってましたが(^^;)。これはカリックスアレーンの場合、フェノール単位の数を間に入れて「calix[4]arene」といった表現をすることがあるので、「カリクサレン」では都合が悪いということがあったのでしょう。

 cucurbiturilの場合も、環を成すグリコウリル単位の数に応じて「cucurbit[5]uril」といった表現をするので、「ククルビットウリル」か「キュカービットウリル」あたりが適切なのではという気もするのですが、さてどんなものでしょうか。