近く行われる学会でインフルエンザ治療薬について語るため、資料作りを進めています。いろいろと調べてますが、やはりタミフルという薬は凄いのだなあという思いを新たにしています。
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 (タミフル)

 昨日(10月24日)、アメリカではオバマ大統領が新型インフルエンザ問題で「国家緊急事態」を宣言しました。アメリカではインフルエンザの感染者が数百万人、死者が1000人を突破し、いまだ鎮静の兆しが見えないことからついにこの宣言に踏み切ったようです。これによって議会の手続きなどを経ずに措置が可能になりますので、アメリカは今後思い切った手段を打ってくることになりそうです。

 インフルエンザ患者に対する治療方針は、今のところ日米で大きな差があります。アメリカでは、米疾病対策センター(CDC)が「健康な人は新型インフルエンザに感染しても、タミフルやリレンザなど抗ウイルス薬による治療は原則として必要ない」とする方針を発表しています(読売新聞の記事)。供給に限りがあること、耐性ウイルスの出現の恐れなどを理由に挙げています。
 逆に日本では、感染症学会が「インフルエンザかどうかわからない疑い例であっても、積極的にタミフルを投与すべき」という方針を発表しています(感染症学会の提言はこちら)。

 その結果はどうなっているか。日本では1週間で30万人の患者が出た週などもあり、患者数は累計300万人を超えているといわれます。人口あたりの患者数は、アメリカと大差ないレベルにあると見ていいでしょう。

 ですが今のところ国内でのインフルエンザによる死者は、疑い例まで含めて32人にとどまっています。世界平均では0.1〜0.5%の死亡率と見られていますから、この数字を当てはめれば日本では3000人から1万5000人の死者が出ていてもおかしくありません。とにかく死者をアメリカの30分の1、世界平均の数百分の1レベルに抑え込んでいるのは、素晴らしい成果といってよいのではと思います。
 
 もちろんこれは現場の第一線で体を張って頑張っている医師の努力が大きく、心から敬意を表するものです。その他日本のハード・ソフト両面での対応策が充実していることも寄与しているでしょうが、やはりタミフルの積極投与という方針がかなり成功していると見てよいのでは、と思います(もちろん今の段階で全てタミフルのおかげ、というわけには行かず、はっきりしたことをいうには今後の疫学的検証を待たねばなりませんが)。

 もし日本で、インフルエンザによって千人単位の死者が出ていたら、会社や学校の閉鎖、イベントの中止など経済的にも大きな損失が出ることは間違いありません。この意味で、タミフルの功績は我々が思っている以上に大きい可能性があります。

 もちろん耐性ウイルスの問題などありますから、単純にタミフルの大量使用を無条件で推進してしまってよいとは思いません。しかし、耐性が怖いからタミフルの使用を制限するというのは、すでに百万単位の患者が出ている新型インフルエンザの流行状況を、さらに相当悪化させてしまう危険を伴います。

 そこでタミフルに続く治療薬も臨床試験が進んでおり、第一三共のCS-8958や富山化学のT-705など、日本のメーカーが大いに頑張っています。いずれも好成績を挙げており、近い将来の発売が待たれます。CS-8958T-705
 CS-8959(上)とT-705(下)

 インフルエンザ問題については連日報道されており、多くの場合「対応の遅れ」「医療体制の整備不十分」といったネガティブな見出しが並びます。しかしこうして各方面で頑張っている人々がいるからこそ、日本のパニックはこの程度で収まっているということは、もう少し報道されてもよいように思います。

 参考:新型インフルエンザはなぜ恐ろしいのか  押谷 仁