2009年11月30日

ナノカーシリーズにニューマシン投入

 以前から何度か紹介している、James Tour教授のグループによる「ナノカー」シリーズに新作が登場しました。ナノカーは文字通り車の形をした分子で、細い探針で押してやることにより、金箔などの表面上を文字通り「走る」ことが可能な化合物です。すでにいくつかのタイプが発表されていますが、今回満を持して投入されたニューマシンは、「ナノドラッグスター」と命名されています。

 ナノカーのタイヤ部分には、これまでフラーレンやカルボラン、ルテニウム錯体などの球状分子が用いられてきました。しかしこれらはそれぞれに性質が異なり、例えばフラーレンは金表面との相互作用が強いため、温度を上げてやらないとまく走りません。カルボランは相互作用が弱いので走行には有利ですが、電子顕微鏡で姿を確認しにくいといった難点はあります。
nanodragster

 今回のニューマシンは、前輪にカルボラン、後輪にフラーレンを採用し、両者の長所と欠点を折衷した形の「ハイブリッド車」です。その名の通り、今までのものよりフォーミュラカーを思わせる構造になっています。また前輪のホイール間が短く、この部分がくるりと反転することによって方向転換も(理屈の上では)可能になっています。

nanodragster2

 筆者がこの研究を好きなのは、遊び心に満ちた仕事である上、ある意味で基礎研究として理想的であると思うからです。今のところ何の役にも立っていませんが、将来ここから面白い用途が生まれてくる可能性がひしひしと感じられるように思います。さらに化学者以外の一般人でもその考え方がわかりやすく、面白さが伝わるという意味でも秀逸です。

 現在「事業仕分け」により、基礎科学関連の予算が減額判定を受けて大きな衝撃が走っています。仕分け人の無理解を責める声もありますが、基礎研究の必要性と魅力を伝えることを怠ってきた我々の責任も極めて重大でしょう。そしてもしこのナノカーを「日本発の基礎研究」の実例として紹介できたらよかったなあ――などと筆者は思ってしまうのです。

 日本の科学は、知られている事柄を組み合わせ、改良していく「ボトムアップ型」が多いように思います。野心的でユニークな目標を設定し、どうすればそこにたどり着けるかという「トップダウン型」の研究は、残念ながら欧米発のものがほとんどではないでしょうか。

 1000員環を作るにはどうすればよいか、ウイルスを包み込んでしまうほどの巨大な超分子ケージをどうやって合成するか、まだ作られたことのない元素間結合をいかに作るか、生体の中ででもC-C結合を作れるクリック反応は可能か??などなど、単純でありながら未踏のテーマはいくらでも考えられます。こうした事柄に挑むことで初めて開拓される、新たな方法論も少なからずあることでしょう。

 ただし、こうしたいつできるかわからないテーマは論文の生産につながりにくく、特に若手にとってはリスキーであることは事実です。頭の柔らかい若年のうちに、こうしたテーマに挑戦しにくいというのであれば、研究を支えるシステムに大きな欠陥があるせいと言わざるを得ません。今回の仕分けの件を機に、こうしたことも含めて考え直してはどうか、などと思っている次第です。


route408 at 02:33│Comments(3)TrackBack(0)

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この記事へのコメント

1. Posted by finrandia   2009年12月02日 19:55
> ナノカーを「日本発の基礎研究」の実例として紹介できたら

蓮芳議員にかかれば「人の乗れない車を作って、国民の利益になるんですか」と言われ、きっとバッサリ予算カットじゃないかなぁ、などと思います。
2. Posted by Calvero   2009年12月06日 01:11
>finrandia さん
蓮芳議員は「普通の人」代表のような議員で、当初、科学に対して特に知識も関心もない人が普通に抱く感想を述べたんではないかという気がします。まあ、もう懲りたでしょうから、次は同じようなことはないんじゃあないでしょうか。
3. Posted by さとう   2009年12月12日 00:53
ま、そこらの魅力をうまく語れる人材を育てることも重要なんでしょうね。

ちなみに蓮舫さんは「はす もやい」と打って変換すると出せます。豆知識。

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