この7月、天下のJACSに掲載されて話題をさらった反応がありました。水素化ナトリウム(NaH)を二級ベンジルアルコールに作用させることで、ケトンへと酸化することができるというものです。用いている試薬が通常塩基または還元剤として働くNaHのみなのに、他の酸化剤など一切必要なしに酸化が収率よく進行する上、論文に掲載された反応機構も極めて怪しいものでしたから、多くの化学者の興味を引いたのは当然というものでしょう。

 この反応はあちこちのブログにも取り上げられ(当ブログ化学者のつぶやきなどなど)、「Totally Synthetic」では自ら反応を追試し、その様子をリアルタイム中継するといったことまで行いましたから、まあ一種の祭り状態というところでした。ちなみに元文献は7月にWeb掲載されたにもかかわらず、いまだに冊子体には収録されず、文献番号が与えられていないようです。

 結局これはどういうことなのか気になっていた方も多いと思いますが、最近Tetrahedron Lettersに関連論文が登場しました。といっても別のチームからの報告であり、謎をスッキリ解決してくれるかと思いきや、余計に謎を増やしてくれるような内容です(^^;。

 今回の報告では、NaHではなく金属ナトリウムが用いられています。要点をまとめますと、
(1)窒素雰囲気下で、二級ベンジルアルコールにTHF中2等量の金属Naを作用させても、酸化は進行しない。
(2)空気中で同じ反応を行うと、ケトンへの酸化が進行する。
(3)金属NaにプラスしてCoCl3、FeCl3、NiCl2などの遷移金属塩が触媒量(数%)存在すると、空気なしで酸化が進行する(!?)。
(4)Naなしで遷移金属塩だけでは、全く反応が進行しない。
NaOx


 今までの情報なども合わせて考えるに、Naアルコキシドは空気によって酸化を受け、ケトンになるという現象自体は間違いなさそうです。謎なのは(3)で、CoCl3など酸化還元を受けうる金属塩が反応を加速することは十分考えられますが、書いてある条件を額面通り受け取れば、どう考えても酸化剤がありません。

 溶媒中に僅かに残っていたか、系中に入り込んだ酸素が酸化剤として働いている――というのがまずはありそうな話かと思われます。このあたりきっちりと条件を詰め、メカニズムの検証なども行ってほしいところです。

 この反応自体、マイルドで環境負荷が少なく、優れた酸化反応となりうるポテンシャルを秘めているのは間違いありません。是非とも、しっかりとした検討を望みたいところです。