さて先日、Twitter上にて「2009年10大分子」を決定するという企画がありました。こちらのエントリーシートにノミネートされた化合物から、投票と審査員の審議によって10位までを決定するというものです。詳細はこちらのページでご覧いただけます。

発案者 @ecochem環境化学の部屋」主宰
審査委員長 @drug_discovery 「薬作り職人のブログ」主宰
審査委員:@OrgChemMuse(筆者)
      @chemstationChem-Station」運営者
      @kasokenカソウケン」主宰
選考推薦人 @chemstation
大会事務局 @az4u 「az4u.jp」主宰

という豪華メンバー。筆者も張り切って審査する……はずだったのですが、当日新年会が入ってしまい、みなさんが真剣な討議をしている中、白山の焼き肉屋でビールを呷っていたという全くもって仕方のない事態に終わりました。せめてここで結果を紹介……と思ったのですが、こちらもすでにケムステさん、薬作り職人さん、環境化学の部屋さんでしっかりした紹介がなされています。思い切り出遅れた筆者としては、せめてなるべく違うことを書きたいと思います。

10位……リボソーム

ribosome

2009年度ノーベル化学賞の対象となったリボソームです。当ブログでもすでに紹介させていただきました。「化学賞?」との声もありましたが、ある意味こうした「細胞内小器官」が、分子を扱う技術レベルで解明できたということに非常な感慨を覚えます。

9位……L-グルタミン酸
こちらは「味の素」商品化100周年ということで選ばれました。先日「技術未来遺産」に登録され、筆者も大学の仕事として取材に行ってまいりました(こちら)。池田菊苗教授が初めて単離した本物のグルタミン酸のビンの現物も見てきましたが、この一間変哲もない白い結晶が、その後巨大産業となり世界の食生活を変えたと思うと、化学の持つ力に打たれる思いがしました。
gurutamisan

 (第一号グルタミン酸のビン。筆者撮影)

8位……タミフル

tamiflu

これはいうまでもないでしょう。新型インフルエンザが世界を席捲した2009年、大活躍した化合物です。当サイトでも何度も紹介しているので、そちらをご覧いただければ幸いです(本館分館)。

7位……BSI-201

BSI-201

転移性トリプルネガティブ乳ガン治療薬として期待を受ける化合物です。トリプルネガティブとは、「エストロゲン受容体とプロゲステロン受容体が発現しておらずHER2 の過剰発現も見られない腫瘍」を指します。転移・侵襲性が高く、生存率も低い危険なガンです。

 ガンは人によって変異している遺伝子が異なり、極端に言えば患者ごとに別物の病気と見ることさえできます。当然適切な治療法も人によって異なりますが、これは今までよい方法のなかったタイプに有効な化合物。ごく簡単な構造のこの化合物に、そうした力が秘められているというのが驚きです。

6位……DPP-4

Sitagliptin

(シタグリプチンがDPP-4に結合しているところ)

DPP-4は、ジペプチジルペプチダーゼ-4の略。GLP-1というペプチドは、インスリン分泌促進、ランゲルハンス島β細胞増殖などの作用を持ち、血糖値を下げる働きを持ちます。DPP-4はこれを分解してしまう酵素ですから、その阻害剤は糖尿病治療薬となりえます。
現在メルク社のシタグリプチン(商品名ジャヌビア)が先行して発売され、売上10億ドルを超える「ブロックバスター」に成長しています。他社もこれに追随し、激しい競争が繰り広げられています。

一説にはこのDPP-4阻害剤あたりが、酵素阻害剤として最後のブロックバスターとなるともいわれます。ある種、時代の変わり目を象徴する、歴史的な意味合いを持つ医薬になるのかもしれません。



 さて長くなりましたのでここらでいったん切り、後編に続きます。なお、@ecochemさんの主催する「サイエンスカフェにいがた」 (本日開催)では、お申込みの際『10大分子を見た』とタグとともに書きますと、参加費400円が無料になるとのことです。こちらもぜひどうぞ。