さて「2009年10大分子」のパート2です(パート1はこちら)。

5位……デルフィニジン


delphinidin

 (デルフィニジン)

 英語で「Blue Rose」といえば「不可能」という意味があるそうです。昔から幾多の園芸家が青いバラの作成に挑み、失敗してきた歴史があるからです。最近になり、バラにはそもそも青い色素が全くないことがわかり、品種改良によって青いバラを作るのは不可能であることが判明しました。

 しかしサントリーは、バイオテクノロジーの手法によってこの青色色素「デルフィニジン」を生産する遺伝子をバラに組み込み、世界初の青いバラを創り出すことに成功したのです。こう書いてしまえば簡単ですが、実際には液胞内のpH調整、安定化のための構造改変など大変な苦労があったようです。詳細に興味のある方は、最相葉月さんの「青いバラ」などをご覧下さい。
 ただ、現物の「青いバラ」を見ると、想像するような真っ青ではなく、実のところ淡い藤色といった色合いです。まあこれは素人目のことで、プロから見ると大変なことなのでしょうが……。

 青い花の色素といえば、ムラサキツユクサの色素「コンメリニン」もまた興味深い構造を持ちます。実は、空も海も青色の地球において、生物界には青色という色彩はかなり珍しい存在です。このあたり、ちょっと神秘的なものを感じてしまいます。

4位……二酸化炭素


CO2

 (二酸化炭素)

これはいうまでもないでしょう。鳩山首相の突然の25%削減宣言、クライメートゲート事件など、昨年も大いに世間を騒がせました。単に「2009年の分子」というより、「Molecular of the decade」「Molecular of the Century」と呼ばれるべき存在かもしれません。

番外……メタンフェタミン・メチレンジオキシメタンフェタミン(MDMA)


これはいいイメージの化合物ではありませんが、何といっても去年世間を騒がせた化合物には違いありません。個人的に、番外として選んでおきます。
methanephetamine
MDMA

 (覚醒剤アンフェタミン(黄緑)、合成麻薬MDMA(オレンジ))

3位……ペラミビル


peramivir

(ペラミビル)

アメリカのバイオクリスト社が創り出した抗インフルエンザ薬です。日本では塩野義製薬が臨床試験を行い、現在承認審査が進んでいます。タミフル耐性ウイルスが報告される中、バックアップとして大いに期待されます。

ペラミビルはタミフルやリレンザの6員環を5員環に変換し、置換基をうまく組み替えて配置し直したような構造を持ちます。ドラッグデザインの妙が感じられ、見比べるとなかなか面白いです。
tamiflu

 (タミフル=リン酸オセルタミビル。右側はリン酸)

2位……E7389(エリブリン)

E7389


エーザイ研究陣の創り上げた抗ガン剤。天然物のハリコンドリンから24年がかりで医薬まで持っていったその実力には敬服の他ありません。19個の不斉炭素を含む化合物をデザインし、工業スケールで生産してのけた例は他に存在せず、有機合成化学のランドマークと呼ぶべき研究です。詳細は現代化学 2009年10月号に書きましたので、こちらもご覧のほどを。

1位……ラパマイシン


rapamycin

 1位は、昨年Natureにマウスの寿命延長が報告されたラパマイシンです。本ブログでも一度紹介しました
人類最後の夢というべき不老長寿に向けた研究は、着々と進んでいるようです(参考:「老化はなぜ進むのか」など)。それにしても免疫抑制剤、すなわち一種の毒物であるラパマイシンにこうした効果があったというのは実に意外でした。このあたりが1位に選ばれた理由であったでしょうか。

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 というわけで、2009年10大分子のご紹介でした。いずれも興味深い化合物であったことは間違いありませんが、Twitter上でノミネートに参加した方に医薬・生化学方面の方が多かったこともあり、ややこの方面に偏ってしまった感もあります。次回は、全合成や材料科学方面などからの参加もぜひ期待したいと思います。