クライメートゲート事件、鳩山首相による突然の二酸化炭素25%削減宣言など、CO2は相変わらず注目を集める存在です。地球温暖化との関係についていろいろな意見はありつつも、CO2の放出量削減の努力はとりあえず行われなければなりません。というわけで、近年この方面の研究がずいぶん目につくようになってきました。要はCO2を何らかの形で分解するか固めるかして、大気に放出しないようにする手段を編み出そうというわけです。

 しかしCO2は炭素が燃えてできるもの、すなわちエネルギーを放出しきって安定な状態に落ち着いた分子であり、これを改めて反応させるのは非常に難しい話です。いかにCO2を活性化させるかが、化学者たちの知恵の絞りどころになります。

 東大・野崎京子教授らのグループは、早くからCO2をポリマー鎖に取り込む研究に取り組んでいます(参考)。エポキシドとCO2をコバルト錯体触媒存在下で反応させることで弾力性のあるプラスチックができるというもので、近い将来の商品化が見込まれています(Angew. Chem. Int. Ed., 45, 7274 (2006)など)。

 C.C.Cumminsらのグループは、窒化ニオブ錯体を触媒に使い、CO2を一酸化炭素に還元する反応を発表しています(論文)。この反応では、Nb≡N:の電子対がCO2に結合することでこれを活性化するようです。
Cummins

Cumminsらの触媒。Nb原子(紫)に結合した窒素(青)がCO2(上方)を捕らえる。


 同じような手法で注目されるのが、N-ヘテロサイクリックカルベン(NHC)と呼ばれる化合物を触媒に用いる手法です。NHCは金属への配位子として脚光を浴びましたが、単独で触媒に用いる研究が急速に進展しています。シンガポールのZhangらは、このカルベンのローンペアがCO2を捕らえ、活性化することを見出しました。ここにジフェニルシラン(Ph2SiH2)を作用させると、CO2は一挙にメタノールまで還元されます(論文)。燃えかすが変じて燃料になってしまうわけで、大変注目される反応です。
NHC

CO2に結合したNHC触媒


 同じグループからは、やはりNHCを触媒に、CO2を「酸化剤」に用いて、アルデヒドをカルボン酸へ酸化する反応が発表されています。CO2は結果的に酸素をひとつアルデヒドに渡し、自身はCOへ還元されます(論文)。どうやらNHCによるCO2の活性化は、さらに大きな鉱脈につながっていそうです。

 さらに最近、大阪大学の南方らは1気圧のCO2を固定化する反応を発表しています(論文)。この反応で注目されるのは、金属やNHCなどの触媒を用いず、tert-BuOClとヨウ化ナトリウム及び不飽和アルコールという比較的安価かつ安全な試薬を使って、中性条件下で1気圧のCO2をトラップしてしまえる点です。環境負荷が低く、低エネルギーで行える(高圧を必要としない)点でも大いにこの反応は注目されるべきと思われます。

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もちろんこれらの反応を使えばCO2の放出を抑えることができて一挙に問題解決、とは行きません。CO2の処理に使う試薬の製造のためにより大量のCO2を出すようでは問題になりませんし、生成物の用途・処理法も考える必要があります。
 とはいえこれらのアプローチは、CO2の処理という大目標に対する、重要な入口になる可能性はありそうです。いずれの方法に対しても、大いに先行きを期待したいと思います。