ベンゼン環がいくつかつながって環になったものを「サーキュレン」と称します。当ブログ・HPでも取り上げたことがありますが、これまでベンゼン環の数が5・6・7のものが実現しています。[6]サーキュレンは1932年にScholl・Meyerらによって合成され、太陽のコロナを連想させる形から「コロネン」と名付けられました。これは天然にも存在することがわかっています。
coronene
コロネン


 [5]サーキュレンはフラーレンの部分構造に相当する形で、皿状の構造をとります。これはラテン語の「心臓」を意味する「cor」と、アヌレン構造(単結合と二重結合が交互につながった環状分子)であることから「コランニュレン」(corannulene)と命名されています。この名には、合成したLawton教授の夫人Annの名前が埋め込まれてもいるということで、なかなか素敵な命名センスといえるのではないでしょうか。
coranulene
コランニュレン


 [7]サーキュレンは日本の中崎・山本らによって1983年に合成されています。解析の結果、これも平面には収まらず、鞍型の構造をとることがわかっています。
7circulene
[7]サーキュレン


 さらに大きな[8]サーキュレンは理論計算などなされているものの、合成は筆者の知る限りなされていないようです。小さい方の[4]サーキュレンはひずみが大きいから、とうてい合成は無理だろう――と思っていたら、このほどネバダ大学のKingらのグループによって初めてその誘導体が報告されました
4circulene
[4]サーキュレン


 彼らはこの骨格に、ラテン語の「4」を意味する「quadra」から「クアドラニュレン」(quadrannulene)の名を与えました。4員環部分は深くへこんだボウル状構造をとり、かなり大きくひずんでいることが見て取れます。合成はどうやったかといえば、コバルト錯体によるアルキンの三量化により、わずか5段階で作られています。これでこんなにひずんだ骨格が構築できてしまうのか、とちょっと驚きです(ただし収率は2%)。さらに意外なことにクアドラニュレンはかなり安定で、170度程度の加熱、光や酸・塩基試薬などを作用させてもほとんど分解しないそうです。
trimer
三量化反応によるクアドラニュレン骨格の構築


 さてこれが安定であるとなると、下図のような構造も実現できるのではないか?という可能性が見えてきます。実際、この論文が載ったAngewandte Chemie誌の表紙にも、この切頂八面体型を手にした人物が描かれています。
C24fullerene
切頂八面体型フラーレン

 このC24フラーレンは、理論計算などはなされているものの、合成研究などはこれまで恐らく行われていません。しかしクアドラニュレンが安定であることを思うと、実現の目もないわけではなさそうです。もちろん他の構造の可能性も考えられるでしょう。
C48
可能性の一例・C48フラーレン


 こういう可能性を考えるのは、筆者にとって本当に楽しいことであったりします。化学界の野次馬として、一刻も早い実現を切に期待するものであります。