さとうです。まあ大学の仕事がいろいろ大変で、しばらくのご無沙汰でした。といいつつ化学会の年会などにも15年ぶりに行ってまいりましたが、やはりいろいろな研究発表を生で見られるというのはいいものだなと改めて思った次第です。さてそこで見かけた面白い合成などちょっとレポートしてみます。

 各種アルカン類は、燃料やプラスチックの原料などとして非常に有用な化合物ですが、その重要な供給源である石油は枯渇の危機にあります。そこで、こうした単純アルカン類を効率よく全合成する手法を開発したというものです。

 出発原料として選ばれたのは、海洋天然物として藻類から得られるブレベトキシン類です。これらポリエーテル類は芳香環やシクロアルカンなどを含まず、良質な直鎖アルカンの原料として優れていると考えられます。

 ただしブレベトキシンにはいくつか側鎖メチル基が生えていますので、これを除去します。この段階は今のところ34ステップ、全収率0.15%ということで、若干の改良の余地がありそうです。
 あとは環を形成している酸素を除去すれば完成ですが、ここで脱酸素剤として著名な「エージレス」が用いられました。お菓子の袋などから集められたエージレスを粉砕、デスメチルブレベトキシンと混合した上、オートクレーブ内250度2時間反応させることで酸素はほぼ完全に除去され、高い収率でアルカンC42H86を得ることに成功しました。
deoxy
ブレベトキシンから直鎖アルカンの合成



 「一番苦労した点はどこか」という会場からの質問に対しては、やはり原料であるブレベトキシンの入手という答えがありました。必要量の原料を手に入れるために数百トンの藻類を処理したとのことで、やはり並大抵の努力ではなかったようです。

 もちろんこれでエネルギー問題の解決というほど簡単ではないでしょうが、将来に夢を持たせてくれる仕事ではあります。また、E. J. Coreyが提唱して1989年ノーベル化学賞受賞の原動力となった「逆合成」(Retrosynthesis)の考え方が究極の形で実現したともいえそうです。残念ながらどこの大学のどの研究室であったか、メモるのを忘れてきてしまったのですが、論文の発表を楽しみに待ちたいと思います。