先日のカルチャースクールに続き、今月末も添加物関連でお話をさせていただく機会があり、そっち方面の本もぼちぼち書いていたりで、最近は食の安全方面にアンテナを張っております。で、この間の週刊現代に、その手の記事がまた出ておりました。「食べてはいけない 2010」だそうです。こちらで読めるようですね。

激安食品が出回る現在、うさんくさい食品は確かにあるのだろうと思います。ただし、そうした警告記事をどこまで信じるかというのもまた難しいところです。拙著「化学物質はなぜ嫌われるのか」でも書いた通り、こういう問題は疑うことはいくらでもできるのに、絶対安全という保証は事実上不可能であるからです。

ある添加物が「危険だ」と主張する人と、「安全だ」という人でディベートをすれば、これはもう圧倒的に前者が有利です。「動物実験で安全性を確かめた」といっても「人間では絶対安全とは言えない」「体質によって危険な人がいるかもしれない」「他の物質と複合的に作用するかもしれない」などいくらでも攻めようはあり、「安全」派はこの攻撃をまず守りきれません。

まあ筆者など、そんなに危険なものを毎日食べている国民が、世界一長生きできるわけないだろと思ってしまうのですが。

とりあえずこの記事については、やはりこの点に突っ込んでおかねばなりますまい。

> 添加物の危険性について、科学ジャーナリスト・渡辺雄二氏が説明する。

>「食品添加物は合成添加物と天然添加物に分けられます。合成添加物は化学物質ですから、人間の身体で処理できないんです。分子量が小さいため分解されにくく、体内に吸収され、蓄積されるものがあります。


ものの見事にめちゃくちゃです(笑)。筆者は製薬企業で様々な化合物の生理作用と体内動態を見る研究を長年続けてきましたが、天然由来だから分解しやすい、人工だから蓄積するなどということは全くありません。「分子量が小さいため分解されにくい」というのも意味不明です。

薬の場合、ある程度体内にとどまってもらわないと効果が出ませんが、代謝機能というものは実によくできていて、たいていの化合物を景気よく処理分解し、体外に放り出してくれます。何とか少しでも半減期を長く、といろいろな工夫して作った化合物がすぽーんと一瞬で排泄され、「またダメか」と頭を抱えるという経験を筆者は山ほどしてきました。もちろんこれには人工も天然もありません。人体の細胞には化合物が天然か人工かを見分ける機能などついていませんし、そもそも両者の境界はあいまいなものです。

化合物の生理作用、体内動態というものは、ちょっと構造を変えただけで驚くほどがらりと変わることがあります。極端な例は下に示すパリトキシンで、タンパク質以外の物質として最強クラスの猛毒です。ところがこの巨大分子(分子量2680)は、右上のアミノ基をアセチル化するだけで、驚いたことにほぼその毒性を失ってしまいます。
palytoxin
パリトキシン


要するに化合物の生理作用というものは個々の物質によって大きく変化するので、天然だの人工だのという大ざっぱなくくりで論じることは不可能なのです。しかし「天然」「自然」という言葉は耳障りがよく、こちらを選びたくなるのが人情なのですね。

しかし天然物にも恐ろしいものはたくさんあり、特にカビの作るマイコトキシン類には危険なものがたくさんあります。史上最強の発ガン物質アフラトキシンなどもこの仲間に含まれ、最も警戒すべき物質です。
アフラトキシンB1
アフラトキシンB1


カビの生えないパンということには論争もありましたが(参考:PDFファイル)、もろもろの危険を考えれば「人工の化学物質」を使って「天然のカビ」を防ぐことは十分に理のあることと考えます。「カビの生えるパンはよいパン、生えないパンは悪いパン」といったような大ざっぱな認識が広まってしまうとすれば、これは大変危険なことではないかと思う次第です。