新聞などでご存知の方も多いと思いますが、本年度の紫綬褒章を鈴木啓介教授(東工大)と、相田卓三教授(東大)が受章されることになりました。昨年受章された中村栄一・上村大輔・福山透・細野秀雄教授らに続く名誉であり、大変に喜ばしいことです。ノーベル賞の鈴木章・根岸英一両教授に続き、日本の有機化学のレベルの高さを示したといえるのではないでしょうか。

鈴木啓介教授の専門分野は天然物全合成、特に芳香族ポリケチドと呼ばれるジャンルに関しては他の追随を許さぬ世界的第一人者です。これらの化合物には抗菌作用や抗がん作用など興味ある生理作用を示すものが多いのですが、糖の結合など難しい課題もあり、あまり手が付けられていないジャンルでした。鈴木教授は独創的な手法によってこれらの課題を解決し、鮮やかな合成ルートをいくつも報告しています。中でもギルボカルシンVの全合成は高効率かつ鮮やかなもので、Classics in Total Synthesisにも収録された傑作です。
GilvocarcinV
ギルボカルシンV


その他、軸不斉を利用したベナノミシン類の全合成、制御の難しいカテキン類の全合成などでも独自の手法で切り込み、成果を挙げています。
benanomicin

procyanidinC2
ベナノミシンとカテキンの一種


個人的に鈴木先生が素晴らしいと思うのは、独自の方法論を編み出すだけでなく、それをわかりやすく伝える自らの「言葉」を持っているという点で、これは「化学者たちの感動の瞬間―興奮に満ちた51の発見物語」などでうかがい知ることができます。


 もう一人、相田卓三教授に関しては東大GCOEでのブログなどでも取り上げた他、有機化学美術館・本館でも幾度か登場いただいております。ありとあらゆる素材を組み合わせて想像を遥かに超えた材料を次々に生み出し、論文ごとに何が飛び出してくるかわからない、まさに化学のアヴァンギャルドとでも呼ぶべき先生です。
Aqua
95%以上が水からできた驚愕の新素材、アクアマテリアル


さらに最近では、光を当てると大きく反るという高分子新素材を発表しています(理研プレスリリースScience誌に掲載された論文)。アゾベンゼンに光を当てるとシス-トランスの異性化が起こることはよく知られていますが、相田教授はポリマー鎖の中にこの構造を組み込むことを考えました。ただし普通のポリマーでは、分子があちこちを向いていますので、光を当てて異性化を起こしてもその効果が相殺されて、目に見えるような動きにはなりません。
azo

アゾベンゼンの光による異性化


相田教授はアゾベンゼン構造を含んだブラシ状の高分子をフィルム状に成形しました。これをテフロンシートにはさんで熱をかけながらプレスすると、ポリマー鎖がきれいに方向を揃えて並ぶという現象を発見しました。この極めて簡単な操作で、多数の分子の向きを制御できたというのは驚くべきことです。
こうして向きがきっちりと揃えば、ひとつひとつの分子の運動も同じベクトルに揃うことになり、シート全体が曲がるほどの大きな力になります。今後、様々な方面に応用が可能になりそうな技術です。

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両教授の研究の方向性は違っていますが、化学の可能性というものを実に魅力的に見せてくれる点で共通しているように思います。鈴木・相田両先生のさらなる活躍をお祈りすると共に、それに続く研究者が今後も出現することを願うものです。