さてこの16日より21日まで、実は環太平洋国際化学会議、通称Pacifichemに行っておりました。日米中韓豪など、太平洋を取り囲む各国の化学者が大挙してハワイに結集し、一週間近くにわたって発表と討議を繰り広げる、化学界の一大イベントです。とにかく来てない化学者はいないんじゃないかと思えるくらいの豪華な顔ぶれがホノルルに集まる、5年に1度の化学のお祭りです。

筆者はこの学会、初参加でした。といいますか、若干恥ずかしい話をしますとこれが初の海外旅行でした。しかも英語が不得手、一人での参加でしたので道中いろいろとドタバタもあり、なかなか大変でした。このへんを面白おかしく書いてみようかとも思ったのですが、まあきりがなさそうなのでやめておき、学会に関連したインプレッションのみ書き留めておくといたします。

Waikiki
ワイキキビーチ。楽園ですねえ。


前述の通りビッグネームが大挙参加しますので、聞きたい講演をくまなく回るには下調べが重要なのですが、何せ筆者は事前に時間が取れず、情報を与えてくれる同行者もおりませんでした。しかもプログラムが実に不親切で、細かい字でびっしりと演目が並んでいるだけ、どこで誰が何をやるか、大変調べにくい代物でした。それでも何とか目星をつけて行ってみると、TrostやNicolaouのような大物では会場から人が溢れ、結局見られないこともしばしばでした。日本化学会のブースで「講演ハイライト」を手に入れてから少しは回りやすくなりましたが、まあちょっと学会の規模が大きすぎるのでしょうね。

Hilton
有機系のメイン会場・ヒルトンハワイアンヴィレッジ。
学会やってる場合じゃないだろこれ。


天然物全合成の演目はたいていどこも人気、聴衆も一杯なら議論も活発でした。筆者も当然好きだからのぞきに行くわけですが、あの人口密度と熱気を見ていると、やはりこのジャンルには一度知った者を決して離さない魔力のようなものがあるのではないか、という気がします。もしRobert Burns Woodwardという人がこの世に生まれていなかったら、このジャンルもこの会場の人だかりもなく、化学という学問の流れもずいぶん変わっていたのかも――なんてことも思ったりしました。

hall
会場。各国の化学者が行き交います。見覚えのあるビッグネームも次々と。


なるべく有機系以外も見て回ろうとあちこち行きましたが、たとえば機能性核酸なんかのセッションは大きめの部屋が満杯になるほどの盛り上がりで、スライドやトークのセンスもちょっと違う。やはりジャンル事に文化の違いがいろいろあるようです。

他にも、NASAのグループから、「数億年前の琥珀から発見したサソリの殻の分析」なんて演題もありました。知らないジャンルもたまに聞くとまあわからないことも多いですが面白い。「こいつにはヒ素は入ってなかったのか」なんて質問も飛んでましたが(笑)。

AGT
こやつと相まみえる日がやってくるとは!


あと、やはりMOF(金属有機構造体)なんかは関心が高かったようで、討議もなかなか活発でした。また中韓の進出も進んでおり、競争はどんどん熾烈になりつつあるなと思えます。人と同じことをやらないよう、差別化が重要――と、まあ言うだけは簡単なのですけど。

ただ筆者、残念ながら2日目以降しつこい頭痛に見舞われ、あまり身を入れて討議を聞くこともできず、知り合いと会食などもできず夜は宿でぐったり、という状態になってしまったのは悔やまれます。まあ慣れない海外で慣れない頭の使い方をして、だいぶテンパっていたのでしょうが。というわけで、非常に不景気な顔をして会場をふらふら歩いている筆者の姿を見かけた方も多かったのではと思います。本人は辛かったので許してやって下さい。

まあ今回の結論としては、

一人でハワイ行ってもつまらんね


ってことですね。

次回は体調を整えて、ゆっくり仲間と行きたいものです。あとまあ英語ができないと当然ながらあまりに辛い。若い人は機会を作ってなるべく早いうちから海外に出てほしい、と根岸先生とは全く違うレベルで思ったりした次第です。