マンガや小説に出てくる架空の化合物というのはいろいろあり、なかなか面白い設定のものもあります。しかし構造式までしっかり明かされているケースは多くありません。先月紹介した「ラブ・ケミストリー」には、主人公が合成しようとしている「プランクスタリン」という化合物の構造式が、裏表紙にもしっかりと印刷されていますが、これは極めて珍しいケースといっていいでしょう。
pranksterin
プランクスタリン


 ところが先日某所にて、月刊ヤングマガジンに連載されている「エリート!!」というマンガに、見たことのない分子の構造式が載っているとの情報がありました。刑事対爆弾魔の話であるようです。てことでちょっと購入。こんな分子でした。


DNHP



ほほう、なかなか興味深い。


 ドデカニトロヘキサプリズマン。まだ合成されたことのない分子です。これに近い分子としてはオクタニトロキュバンがあります(以前本館でも紹介しました)。これは極めてひずんだ構造のキュバン骨格に、爆発性の官能基であるニトロ基が8つも結合しており、理論上最強の爆薬ともいわれています。
ONC
オクタニトロキュバン


 そして今回マンガに登場した化合物の主骨格であるヘキサプリズマン(六角柱型炭化水素)は、極めてひずみが高いためにいまだに合成されたことのない分子です。ここに12個ものニトロ基がついていますから、合成されればまさに最強の爆薬になるはずです。誰かチャレンジしてみる人は……まあやめておいた方が無難でしょうね。
hexa
ヘキサプリズマン


 しかし作者の新條まゆさん、いったいどこからこんな化合物を引っ張り出してきたのでしょうか。他にもヒドラジンとかRDXとかいろいろな爆薬が登場してなかなかマニアックです。相当にデキる監修者がついていると見ました。

nitro
ドデカニトロヘキサプリズマン


 ただし実際には、こんな化合物は合成に手間がかかりすぎる上に極めて危険であるため、爆薬として実用的では全くありません。では実際の爆薬研究はどうなっているのか、この辺は気が向いたらまた次回に書くと致します。

追記:その後、ツイッター経由で新條まゆさんご本人からコメントをいただきました。監修はなく、ご自分で調べてのことであるそうで、失礼いたしました。すばらしいチョイスと思います。
ついでに、今月号最後に出てくる爆破予告状にある「奥谷トロ」という名前は、作者のちょっとしたお遊びだそうです。「オクタニトロ」……気づかなかった。