最近は自動車もエコカーが流行りで、日産のリーフや三菱のi-MiEVなどの電気自動車も市場に投入されて話題を集めています。そして分子の世界でもついに、電気で走るナノサイズの車、「ナノカー」が登場してきました。以前からこのジャンルではライス大学のJames Tour教授が先行しており、2005年にはタイヤ部分にフラーレンを用いたマシンを発表していました(論文本館での紹介)。ただしこれは車の形を模しただけで、電子顕微鏡のプローブ(探針)で押せば動くものの、自走するものではありませんでした。
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Tourらのナノカー1号

 さらに翌年、Tourグループは分子モーターを組み込んだナノカー2号を発表します(論文本館での紹介)。このモーターはオランダのFeringa教授が考案したもので、光を当てると一方向に回転する仕組みになっており、これが「地面」をひっかいて前に進むという発想でした。ただしこの2号車は実際に走るには至らず、デザインの発表だけに終わっています。こうしたナノカーの研究はこちらの総説にまとまっています。
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Tourらのナノカー2号。緑色部分か地面をかいて走行する予定だった。

 そして今回ついにナノカーの自力走行に成功したのは、分子モーターの元祖であるFeringa教授でした。Tourのモーターを一つ積んだ車で動かなかったのを見たFeringaが設計したのは、分子モーターをタイヤ代わりに4つ搭載した、ミニ四駆ならぬナノ四駆マシンだったのです(論文)。
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Feringaのニューマシン

 上図の赤い部分がシャシー、グレーの部分がタイヤに当たります(青は窒素原子。また機能に関係ない炭素鎖を省略した)。Tourのものと違い、平ぺったいパーツ(フルオレン骨格)がタイヤ代わりなので、あまり車のイメージには見えませんが。

 Feringaらは以前から、この分子モーター構造の研究を行っていました。フルオレン骨格は二重結合でつながったいるため、通常は回転しないのですが、光を当てると結合の一本が切れ、回転するようになります。普通ですと回転方向は制御できないのですが、この分子ではメチル基などとの立体反発を避けて一方向にしか回らないように設計されています。言葉ではわかりにくいですので、Feringa研究室のトップにある画像を見ていただくのが手っ取り早いでしょう。

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Feringaの分子モーター。中央の二重結合部分で回転する。

 このモーターは光で回転するものと思っていたのですが、今回のナノカーではプローブから電気を送るとそのエネルギーで回転するのだそうです。ただ、板状のフルオレンが回転するとなると、フラーレンのようにスムーズには転がらないことが予想されますが、今回のナノカーではシャシー中央部に三重結合から成るロッドが通っており、これがうまくねじれて上下動を吸収するようです。設計の妙と呼ぶべきでしょう(下の動画参照)。まあずいぶんとギッタンバッコンとした走り方で、あまり乗り心地はよくなさそうですが(笑)。


ナノ四駆が疾走する様子


 前述のように、中央のロッドはねじれることが可能ですので、「地面」への置かれ方によっては前後のタイヤの回転方向が揃わないこともありえます。この場合、マシンは電気を加えてもその場で立ち往生してしまうことも観察されています。

 今回のマシンは電気を加えるごとにタイヤが半周するだけであり、10回エネルギーを与えることで6nm前進したにとどまっています。とはいえこうして自走する分子マシンが登場したことは、まさに大きな一歩といえるでしょう。今後、例えば光で走り、長距離を移動できるようなものが出てくれば、ずいぶん面白そうです。左右にカーブしたり、バックしたりする機能を加えるにはどうすればいいか、考えてみるのもなかなか面白いのではと思います。Feringaの次のマシンはどんなものになるのか、Tourの逆襲はあるのか、楽しみに待つとしましょう。

 参考:「最新分子マシン」 化学同人編集部 編