えーちょっと宣伝。国道のブログを始めました。タイトルは「国道系。」お前そんなもん書いてるヒマあるのかといわれそうですが、まあぼちぼち時間を見つけて書いていこうと思います。よろしく。

 さて本題。 「マラルディの角度」という言葉をご存知でしょうか。イタリア生まれの天文学者であるジャコモ・フィリッポ・マラルディは、六角形を成す蜂の巣の底面に、菱形が見えることに気づきました。彼がこの菱形の角度を算出したところ、鈍角の方が109°28'になったことから、この角度を「マラルディの角度」と呼ぶようになったのです(蜂の巣の図は前川淳氏のブログにあります)。

 この角度にわざわざ名前がついているのは、自然界のいろいろなところに顔を出す数値であるからです。たとえばぶくぶくと出てくるあぶくにも、この角度が出てくることがあるそうです。これは、膜の表面積が最少になるような構造に、この角度が現れるからです。

 ちょっと違うところでは、辺の日が1対ルート2の長方形(白銀長方形というそうです)の、辺の中点を結んで得られる菱形の鈍角が、まさにこのマラルディの角度になります。白銀長方形は、いわゆるA4やB5のコピー用紙、雑誌などによく用いられるものですから、極めて身近にもマラルディの角度が潜んでいることになります。
hishigata

  ちなみに、戦国時代の甲斐武田氏の家紋である、「武田菱」も、測ってみるとほぼこの形の菱形であるといいます。偶然なのかどうなのか、ともかく家紋というものは、数学の目で見ても非常に面白い対象であるようです。
takeda
武田菱

 この菱形が12枚集まってできるのが「菱形十二面体」と呼ばれる多面体で、実はこれもなかなか個性的で面白い立体です。この立体を積み上げると、隙間なく空間を埋め尽くすことができるという、珍しい「特技」を持っているのです。
240px-Rhombicdodecahedron
菱形十二面体(Wikipediaより)


そしてこの形は結晶にもしばしば現れ、たとえばガーネットの結晶はこの菱形十二面体構造です。有機分子でも、ヘキサメチレンテトラミンは見事な菱形十二面体の結晶を作ることが知られています。
GarnetCrystal
ガーネットの結晶(Wikipediaより)。
hexamine
ヘキサメチレンテトラミン。菱形十二面体に似た構造。

 実のところこの角度は、有機化学者にとっても大変に重要な角度です。いうまでもなく炭素原子の結合角が、まさにこの109°28'であるからです。下図に示す通り、メタンの水素−炭素−水素の角度は、ぴったりマラルディの角度になっています。
methane
メタンの結合角

 なぜメタンはこの形になるか?きっちり説明しようとすると量子力学計算などが出てきて大変なことになるのですが、実は原理は単純です。炭素についた4つの水素原子は互いに反発してはじき合い、できるだけお互い遠ざかろうとします。そして最も遠い位置に落ち着いたのが正4面体構造であり、マラルディの角度であるわけです。

 蜂の巣、シャボンの膜、そしてメタンの構造は、いずれもある一定の制約の中で最適な形は何か、という問題の解として現れます。マラルディの角度はいわば「自然の摂理」から導き出されるものであり、筆者のような素人にも数学の美しさを垣間見せてくれるように思えます。
memohedron
白銀長方形のメモ用紙から、簡単な折り方でメタンの原子模型(正4面体スケルトン)が作れる。

 菱形十二面体など、このあたりはいろいろ語りたいことがあるのですが、まあこの辺にしておきましょう。もし興味のある方は、前川淳氏の「本格折り紙√2」などをお勧めしておきます。知的好奇心を満たしてくれる、楽しい本です。