さてロンドンオリンピックまであと二月を切りました。で、ここに来てイギリスのWarwick大学のグループが、オリンピックを記念した(?)分子を発表しました。その名も「オリンピセン」(olympicene)です。

olympicene2
オリンピセン。強引に五色に塗り分けてみました。

 見ればなるほどというところで、5つの6員環がオリンピックのマークのように並んでいます。ただしこの分子、構造上どうやっても全て芳香環にすることはできず、ご覧の通り黄色で表した環の左下がsp3炭素になっています。このためいろいろな異性体が存在できるので、あるいはここから面白い性質が出てくるかも知れません。

 合成はわりに簡単で、市販のピレン誘導体に、基本的反応を数段階積み重ねればオリンピセンにたどり着きます。試薬名はあえて書きませんので、考えてみて下さい。これ以外のルートを考えてみるのも面白いでしょう。
olymsyn
オリンピセン合成ルート


 ところで、近年分子の直接観察が長足の進歩を遂げています。2009年にはIBMのグループによって、ペンタセン(ベンゼン環が5つ横につながった分子)の画像が報告されました。本当に分子模型のように5つの環が確認できるので、これには大いに驚嘆したものです(論文、ChemStationでの解説記事

Pentacene
ペンタセン分子の電子顕微鏡像(Wikipediaより)

 となれば、同じ5つの環を持つオリンピセン分子も、実際にその姿を拝んでみたいところです。そしてWarwick大グループは、ペンタセン画像作成に成功したIBMチームと組み、これをやってのけました。

olymphoto
オリンピセンの電子顕微鏡像。BBCニュースのサイトより

 見事、きっちり五輪マークが浮かび出ています。分子観察技術もここまで来たのだなあ、と感慨深くなる画像ですね。この成果は上記BBCニュースの他、Natureブログなど各方面で大きく取り上げられています。

(追記)当初「電子顕微鏡」と書いておりましたが、「原子間力顕微鏡」(AFM)の間違いでした。筆者はあまりよくわかっていなかったのですが、全然原理は別物なのですね。失礼いたしました)。

 ついでにいいますと、五輪分子はこれが初めてではありません。1994年に、J. F. Stoddartらによって、大きな環が5つからみ合った[5]カテナン分子「オリンピアダン」が発表されています。論文のタイトルもそのものズバリ「Olympiadane」で、単語ひとつだけのタイトルがついた論文は、筆者の記憶にある限りこれだけです。

olympiadane
オリンピアダン。環の大きさが違うので、ちょっとそれらしくないですが。

 日本でも、幾度かの落選にめげず、2020年に東京オリンピックを開催しようという動きがあるようです。もし実現した場合、日本の化学者もこれらに対抗するオリンピック分子を作るべきかと思いますが(笑)、さてあなたならどんなデザインをするでしょうか。