ドイツ・フライブルク大学のHorst Prinzbach教授が、この9月に亡くなったそうです。81歳でした(ChemistryViewsの記事)。

 Prinzbach教授は芳香族化合物の研究などで知られましたが、最も有名な業績はドデカヘドランに関するものでしょう。正12面体構造の完璧な対称性を持つこの炭化水素は長年化学者たちのあこがれであり続け、「有機化学のエベレスト山」とも称されました。

dodecahedrane
ドデカヘドラン

 この構造を追い求め続け、1982年ついにこれを陥落させたのがLeo Paquette教授でした。30段階近くを要し、一歩一歩炭素を積み上げる手法で目的に到達しています。

 この5年ほど後、工程を半分ほどに短縮して見せたのがPrinzbach教授です。下図のような炭化水素「パゴダン」をまず合成し、これを異性化させることでドデカヘドランを合成しています(論文)。なお「パゴダン」の名は、ミャンマーなどで見られる仏塔「パゴダ」に由来しています。
pagodane
pagoda
パゴダン(上)とパゴダ(下)


 その後もPrinzbach教授はドデカヘドランの研究にいそしみ、1999年にはヘリウムイオンをドデカヘドラン骨格の中に撃ち込み、He@C20H20という化合物を合成することにも成功しています(論文)。これはご本人によれば、「世界最小のヘリウム風船」なのだそうです。

He@DDH
ヘリウム内包ドデカヘドラン

 個性的な研究を発表されていた教授が世を去ったことは、本ブログとしても実に淋しい限りです。ご冥福を心よりお祈りいたします。