去年5月、脱法ドラッグの問題を取り上げました。既存の麻薬の構造をちょっと変化させることで、法の網をすり抜けたドラッグ群のことで、あちこちで社会問題を引き起こしているのはご存知の通りです。

 「合法ハーブ」と呼ばれていたことなどから誤解を受けがちですが、これらは薬草(ハーブ)に混入されているだけで、有効成分は天然のものではなく、純然たる合成品です。また、別に効果や副作用が軽いから、法律で規制されていないというわけでもありません。法律の指定している構造を回避しているというだけで、危険性などが低いわけではないのです。それどころか、これらはろくな薬理試験などもなされていないので、どんな危険があるかほとんどわかっていません。その意味では、昔から知られている麻薬よりもよほど質が悪いといえます。

 そこで、ある一定の構造を含むものを全て違反としてしまう「包括指定」が検討され、施行されようとしています。今回指定対象となるのは、合成カンナビノイドと呼ばれるジャンル(いわば人工大麻)のうち、下図のような構造を持ったものです。

kisei
規制対象となる構造

 インドールとナフタレンがカルボニルを介して結びついた、「(1H−インドール−3−イル)(ナフタレン−1−イル)メタノン」が、規制対象の基本骨格です。しかしこれが全て違反となるわけでなく、図で矢印のついた位置に、特定の置換基がついたものだけが対象になります。詳しくは、厚労省のページにあるこちらをご参照下さい(PDFファイル)。今後は、うっかりこの近辺の化合物を作ると違法になる可能性がありますので、研究者のみなさんはご注意を。

 これによって理屈の上では、典型的な合成カンナビノイドであるJWH-018を含む、700種以上の化合物が規制対象となります。これだけ聞くと、ずいぶん幅広く網をかけたように思えます。

JWH-018
JWH-018

 しかし、製薬会社で合成研究をし、他社の特許をすり抜けるべく智恵を絞っているみなさんからすれば、この規制はどう映るでしょうか?おそらく、こんなものを突破するのは、その気になれば楽勝と思うのではないでしょうか。

 実際、すでに出回っている脱法ドラッグでも、この規制に引っかからないものはいくつもあります。例えば下図のドラッグは、ナフタレン環も持っていないし、インドールではなくインダゾール(窒素がひとつ多い)構造ですから、今回の規制にはかすりもしません。このように、法の網をくぐりつつ、同様な作用を持つ化合物を作ることは不可能ではないのです。

AKB48

(ちなみに上の化合物は、俗称を「AKB48」というそうです。なんでまたこんな名がついたのでしょうか。この化合物は、昨年7月に個別に規制ずみです)。

 もちろん包括指定は今回で終わりではなく、今後もいろいろな化合物が対象になっていくと思います。しかしそれでも、あらゆる麻薬様物質を規制することは現実的に不可能です。あまりに厳しく規制しようとすれば、様々な弊害が生じることは、前回も述べた通りです。我々にできることは、その危険性を認知してしっかり告知すること、「合法ハーブ」というような名前につられ、安易に手を出さないようにすることなどを、徹底していく他はないかと思います。

 (参考)
弁護士小森榮の薬物問題ノート:薬物問題に取り組む弁護士・小森氏のブログです。
合成ドラッグ (文庫クセジュ)」 ミシェル オートフイユ , ダン ヴァレア著
〈麻薬〉のすべて (講談社現代新書)」 船山信次 著
麻薬とは何か―「禁断の果実」五千年史 (新潮選書)」 佐藤哲彦他 著