カネボウ化粧品が販売していた美白化粧品が問題になっています。「ロドデノール」という化合物を含む54製品が、使用した際に肌がまだらに白くなるケースがあるとして、全てを回収すると発表しました。同社のウェブサイトによれば、これまで確認された被害者は2250人に上るということです。症例の写真など見るとかなり目立つもので、ちょっと心配になります。

 さてそのロドデノールとは何かというと、下図のような比較的シンプルな化合物で、白樺の樹皮などから得られるそうです。偶然なのかどうかはわかりませんが、やはりカネボウが「脂肪を減少させる効果がある」として10年ほど前に売り出した「ラズベリーケトン」とも非常に似通った構造です。

rodo_ras
上がロドデノール、下がラズベリーケトン

 さてロドデノールにどういう効果があるのかというと、肌の色のもとであるメラニン色素の合成を抑えてしまうというものです。メラニンの合成は、アミノ酸の一種チロシンから出発し、これが「チロシナーゼ」(モノフェノールモノオキシゲナーゼ)という酵素によってドーパ、さらに酸化を受けてドーパキノン、それが環を巻いてロイコドーパクロムになり、これが酸化などを受けて多数つながり合うというルートによります(実際のメラニン形成はもう少し複雑ですが)。

melanin
メラニン色素の合成経路

 さてロドデノールの構造を見直していただくと、ちょっとチロシンに似ていることがおわかりいただけると思います。ロドデノールは、チロシンの代わりにチロシナーゼ酵素にはまり込み、その作用をブロックしてしまうのです。これにより、美白の敵であるメラニン形成を防いでいるわけです。

 ロドデノールがなぜ一部の人にだけああした症状を引き起こしたか、理由はまだよくわかっていないようです。事前に見つけられなかったものかとも思いますが、他の化粧品と併用したときだけ起こるとか、特殊な体質の人だけといったこともありえますから、真相究明には時間がかかるかもしれません。

 被害者には十分なケアと補償があって当然であり、再発防止の努力も必要です。ただ、こうした新成分を自力で探し、商品化する力のあるメーカーがないと進歩はありません。それができる数少ない企業のひとつであるカネボウには、これにめげずぜひ今後も頑張ってほしいと思います。


 ところでメラニンができる過程を上に示しましたが、貝類の中には、これと同じような反応を利用して、岩場などにくっつくものがいます。これにヒントを得て、ナノレベルの接着剤を作るという研究がなされています。ドーパからカルボキシ基が外れてできるドーパミンを利用するもので、反応の基本原理はメラニン生成とほぼ同様です。ケムステさんや、同仁化学のウェブサイトに解説がありますので、そちらもご覧下さい。

dopamin
ドーパミン

 それにしても、脳内の「快楽物質」であるドーパミンが接着剤に使えるのも意外なら、その原理が日焼けと類似しているのも、非常に面白いところです。化学の目で見れば身近にも興味深い現象は多く、それが意外なつながり方で応用されたりするのは、この分野の醍醐味といってよいでしょう。