子供向けのアニメか何かみたいなタイトルですが、ちゃんとした化学のお話です。「フェアリーリング」というのは、下の写真のようにキノコが輪の形になって生えてくる現象を指します。西洋では、妖精が輪になって踊った跡だという伝承があり、この名で呼ばれているのでそうです。

Fairyring
オーストラリアで観察されたフェアリーリング(ウィキペディアより)

 フェアリーリングを作るキノコは一種類ではなく、今まで50種ほどがこうしたリングを作ることがわかっているそうです。直径は大きなもので600mにもなり、700年も成長している例が知られているといいます。科学的な文献に初めて登場したのは1675年で、古くから知られている現象ですが、詳しい成長のメカニズムなどは完全にわかっていないようです。

 このフェアリーリング、まず草が異常に成長し、それが枯れてからキノコが生えてくるケースもあります。これは、ゴルフ場などにとっては厄介な性質で、病気の一種とみなされることもあります。また、UFOの着陸後ではないか、新手のミステリーサークルかなどと騒がれたこともあったようです。

Green
環状に成長した草

 これは、キノコの菌糸が土中のタンパク質を分解し、窒素分を硝酸など植物に吸収されやすい形に変える――要するに窒素肥料をやる形になるため、成長が促されると、かつては考えられていました。しかし2010年、静岡大の河岸洋和 教授らはこの定説をひっくり返す発見をしました。大学内にフェアリーリングを作っていたコムラサキシメジというキノコが、成長促進物質を作っていることを突き止めたのです。

 成長促進物質を単離してみたところ、下図のような化合物(2-アザヒポキサンチン、AHX)であったことがわかりました。3連続窒素を含んだ、天然物としては珍しい構造です。

AHX
2-アザヒポキサンチン(AHX)

 さらに今回、静岡県立大学の菅敏幸教授との共同研究により、植物の体内でAHX、は代謝されて、2-アザ-8-オキシヒポキサンチン(AOH)という物質になっていることがわかりました(論文)。これも植物の成長促進作用を持ちます。そしてこれらはもともと植物の体内に存在しているものであり、成長ホルモンとしての役割を果たしているらしいことも判明しています。

AOH
2-アザ-8-オキシヒポキサンチン(AOH)

 この話がすごいのはここからで、これらの物質を与えると、稲やじゃがいも、レタスなどの収穫量が2割ほど増加するということがわかっています。また、これらを与えると高温・低温などの悪条件でも作物は育ちますから、各種作物の栽培可能地域を広げる可能性があります。塩分を含んでしまった土でもOKということですから、津波被害を受けた農地の再生なども期待できそうです。

 大学内にできていたフェアリーリングから、ここまで研究を発展させたわけで、実にお見事という他ありません。たった十数原子の小さな化合物が、被災地をよみがえらせ、世界の農業を変える――そんな夢を見させてくれる、素晴らしい研究であると思います。