最近、「警察密着24時」みたいなドキュメント番組をよく見かけます。これでよく出てくるのが、覚せい剤などを不法所持している人を捕まえるシーンです。警官が怪しげな薬を見つけ出し、検査キットで調べると試験管内の液体が青く変化し「あ、これ覚せい剤だね」と宣告、所持者がうなだれる――という流れです。

kakuseizai
メタンフェタミン(上)、合成麻薬MDMA(下)

 しかしこの、覚せい剤と反応して青く変わる試薬の正体は何なのでしょうか。ちょっと気になったので調べてみました。「シモン試薬」と呼ばれるものなのだそうです。その中身は以下の通り。
・炭酸ナトリウム水溶液
・ニトロプルシッドナトリウム水溶液
・アセトアルデヒド-エタノール溶液

ニトロプルシッドナトリウムというのは、ペンタシアノニトロシル鉄(掘忙瀬淵肇螢Ε燹Na2[Fe(CN)5(NO)])二水和物のことだそうです。さてこれらが、覚せい剤といったいどう反応して、青色になるかわかるでしょうか?
Nitroprussid
ニトロプルシッド(アニオン部分)

 まず覚せい剤分子とアセトアルデヒドからエナミンが生成し、これがニトロプルシッドナトリウムのNO配位子と反応して、下図のような錯体を作ります。これが青色を示すという理屈だそうです。

Reaction

 (追記:すみません、最後の錯体を一炭素長く描いてしまいました。みなさまの心の中で一炭素消しておいて下さい)

 このメカニズムからお気づきの通り、これは別に覚せい剤分子に特異的に反応するわけではなく、二級アミンとなら基本的に何でも発色してしまいます。実際、抗うつ剤がこの試薬で反応してしまい、所持者が誤認逮捕されたケースがあったそうです。抗うつ剤には、プロザックなど二級アミン部位を持ったものが存在します。

prozac
抗うつ剤プロザック(フルオキセチン)

 また、アンフェタミンなどは一級アミンなのでシモン試薬には反応しませんし、大麻のたぐいは窒素を持っていないので、やはりこの検査には引っかかりません。というわけで、シモン試薬はあくまで簡易検査であり、これだけで有罪・無罪と決めつけられるものではありません。裁判の過程においては、もっと詳しい分析が必要になるのはもちろんのことです。

 それにしても、この反応がよく見つかったものと思います。日常の実験で、思わぬ試薬で思わぬ色がつくことを経験しますが、うまく活かして応用してやれば、こうして検査試薬に利用できることがあるのかもしれません。