今年2015年は、フラーレンことC60の発見から30年、大量合成法の発見から25年目に当たります。発見直後のようなフィーバーはおさまったものの、今も数多くの関連論文が発表されており、物質科学全体に与えた影響は甚大です。

N60
フラーレン

 フラーレン研究にもいろいろの方向がありますが、そのひとつに「炭素以外の元素でフラーレンはできるか」というものがあります。これは90年代からいろいろ理論計算が行われていて、たとえば金原子が32個集まったものが安定に存在しうるといった話がありました。C60のようなサッカーボール型ではなく、三角形から成る60面体形です。

Au32
純金?のフラーレンAu32

 その他の元素も、フラーレンのような球状のクラスターを作り得るはずです。たとえば、多くの多面体型クラスターを作るホウ素などは、非常に有力な候補と思えます。

B12
ホウ素の作るクラスターの例

 最近になり、ホウ素のみから成る「フラーレン」の合成が報告されました。ホウ素原子40個が集まって1価の陰イオンとなった構造で、「ホウ素の球体」から「ボロスフェレン」と名付けられました(論文)。合成法は、ホウ素の単体にレーザーを照射して蒸発させ、ヘリウム中で冷却するというもので、このへんは最初のフラーレン合成によく似た手法です。

Borospherene
ボロスフェレン

 ご覧の通り、3員環・6員環・7員環から成る、何でこれが安定なのと思うような構造です。結合の様式についても詳細に議論されていますが、かなり特殊なもののようで、正直筆者にはよくわかりません。

 炭素の一番近い兄弟といえる、ケイ素のクラスターも最近合成されました(論文)。こちらは、Angewandte Chemie誌のVIPに選ばれています。下のような構造で、一見すると何が何だかわかりませんが、ケイ素20個でできた正12面体骨格の表面に、トリクロロシリル基が12個、塩素が8個結合しています。さらに、内部に塩化物イオンCl-が内包されており、これが全体を安定化させるミソになっているようです。これはフラーレンと違い、単結合でできていて芳香族性を持たないので、論文のタイトルは「フラーラン」という言葉になっています。

Si32Cl45

Si32
ケイ素のフラーランSi32Cl45-。下は、見やすいよう塩素を省いたもの

 炭素の正20面体であるドデカヘドランは、合成に30段階近くを費やした難物でしたが、こちらのケイ素版はなんと1ステップで合成可能です。ヘキサクロロジシランSi2Cl6とトリブチルアミン、塩化テトラブチルアンモニウムの混合物を室温で2日間撹拌するだけで、収率27%で得られてくるのだそうです。

 このケイ素フラーランは簡単に、大量に作れますから、今後いろいろ誘導体やらが登場しそうです。このクラスターにどういう性質があるか、他の元素でもこうした球状分子ができないか、この分野の研究はさらに加速しそうです。